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CNET Japan ブログ

個人による情報発信の可能性とネット時代の文章スタイル

2003/07/16 10:05
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プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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ネット時代の文章のスタイルについて、いつも明示的に考えている。

今日の英文紹介はお休み。雑談を少し。

たとえば、昨日の朝、僕はいつものように早起きをしてネットに向かったが、まず飛び込んできたのが、Yahoo!によるOverture買収のニュースであった。

「じゃあ今日はその話にしようか」と決めて、昔読んで面白かった関連記事を引っ張り出してきて、さっさと原稿を書いた。書いたのは西海岸の朝9時頃(日本時間の午前1時)である。もちろんBlogなのだから書いた瞬間にアップしてもよいのだが、CNET Japanという商業媒体上での連載なので、毎朝10時に、編集部の手によってタイトルや小見出しが付けられて掲載されるのが決まりになっている。よって9時間後にアップされた。

この連載では、テーマとなる英語の原文を参照して、大切だと考える部分を引用して、それを部分的に訳しながら、感想も書く、というスタイルを取っている。このスタイルが、もともと何をお手本にしたのかについては、後述する。

この連載と新聞の海外報道の違い

さて、思考実験として、僕がシリコンバレーに駐在している新聞記者だったら、どんな記事がこれについて書けただろうか、と考えてみる。

新聞記事は取材が原則であるが、こういうニュースが飛び込んできてから取材するなんてことは、時間的制約があってできっこない。中途半端な取材をあわててするくらいなら、手当たり次第に、公開情報を読み漁ったほうが効率がよく、そうやって締め切りまでに記事を書くことだろう。

いろいろな英文分析記事や報道内容をブレンドして、それを上手で簡潔な日本語で表現して、パッケージするわけだ。それで、それが朝刊に間に合えば朝刊に掲載。でもたぶん夕刊掲載になる。だから時間遅れは、僕の9時間後よりも、もっと遅くなる。

結局、情報処理についてやっていることは僕と同じで、文章のスタイルが違うだけなのである。

「Blog対大メディア」などというような大仰な枠組みを導入せずとも、もし、僕が今やっているようなことを、もっともっとたくさんの人が自発的にリアルタイムでやりだしたら何が起こるか、と考えてみたらいい。あっという間に、新聞記事の競争力は落ちてしまうだろう。1人の力ではどうにもならなくても、多くの人が自然に何かを発信し始め、高度な検索エンジンがそれらを集約する時代になれば、Vertical integrationの新聞記事は、ぜんぜん太刀打ちできなくなる。新聞社は組織として膨大な記者を持つという特徴を生かした「他の誰にも作れないコンテンツ」を作っていかざるを得なくなる。そういう競争によって、新聞社の数が減ったり、新聞の発行部数は減ったりするかもしれないが、最終的には全体のコンテンツの質を高めていくのである。

僕が本欄でやっていることなど、英語で言う「Not a rocket science」という表現がぴったりの、やりたいという意志を持って少しの努力をすれば誰にでもできることだ。僕はIT産業のことについて書いているが、米国経済について、欧州政治について等々、それぞれ専門家が同じようなスタイルで情報を発信し始めたら、ものすごく大きな変化になる。僕はそんな可能性を具体的に見せたいと思ってこの連載を始めた。

ネットのよさはリンク

さて、文章のスタイルについてである。

ネット時代の文章のスタイルを考える上で、何よりも重要なのは、リンクである。紙媒体を意識してモノを書く場合と、ネットを意識してモノを書く場合の最大の違いはリンクだ。リンクを活用した文章というのは、他者の知識や知恵を正しく参照して、その内容をレバレッジするという思想を持つ。そこがネット向けのリンク付き文章の魅力だ。

僕はこれまで、雑誌や新聞に文章をずいぶんたくさん書いてきたが、自分1人で何から何まで考えましたよ、という感じにどうしてもなってしまう紙媒体向けの文章にやや飽きてきていた。

そのとき、いつも面白いなぁ、このスタイルはいいなぁ、と思って読んでいたのが、新潮社・フォーサイト誌に連載中の田中明彦(東大教授)氏の「国際論壇レビュー」であった。

フォーサイトという月刊誌には、96年9月から僕も「シリコンバレーからの手紙」を連載中だが、硬派のいい雑誌なので、ぜひ何らかの形で手に取っていただくことをお薦めしたいが、この雑誌が届いて僕がまず読むのが、この「国際論壇レビュー」なのである(残念ながらネット上には公開されていない)。

世界中の論壇で、どういう議論が行なわれているのかを、出典を明らかにしながら、それぞれの議論の主旨を簡潔な日本語で要約しつつ、田中氏の考えももちろん織り交ぜる、というスタイルの文章になっている。ちなみに、最新号(2003年7月号)は、「ブッシュとブレアは「嘘」をついたのか」というテーマ。ニューヨーク・タイムズ、エコノミスト、フィナンシャル・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルなどの社説や署名記事を引用したり要約したりしながら、さまざまな角度から国際政治・国際経済の今を総括している。ものすごく面白くて、勉強になる。

この国際論壇レビューの過去の連載が収録された「ワード・ポリティクス」という本は、2年前に「第二回読売・吉野作造賞」を受賞した。この本を読んでも、その文章の雰囲気がつかめることだろう。

ただ、この「国際論壇レビュー」の唯一の欠点は、原文へのリンクが張られていないことである。

もしネット上で同じようなスタイルの文章を追求するのであれば、田中氏のスタイルを取りつつ、原文へのリンクも張ることができる。

毎日更新とすれば、数日だけ公開されている新聞記事へのリンクも張ることができる。むろん1カ月かけて発酵させて書く文章の良さはなくなって、反射神経的なやや軽い文章になるが、質より量のよさもかえって出るだろう。それに加えて、読者からのトラックバックやコメントも得られ、完全ではないけれど、少しはインタラクティブな試みもできる。(そして、今のところは、できるだけ長くネット上に残っている記事を題材に選ぶようにしているが、これからはもう少し、公開期間限定の一流紙の記事や論考も取り上げてみようと思っている)

田中氏の文章に憧れ、Blogの可能性をそんなふうにとらえて、僕はこの連載を始めてみたのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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