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ITベンチャー市場の復活が重要な理由

2003/07/10 10:05
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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産業構造というのは世界各国で全く違うので、不況から復活するプロセスも、それぞれ全く異なる。

ただ、ことアメリカに限っていうと、経済全体に占めるIT産業の牽引力が大きく、なおかつ、そのIT産業におけるベンチャー企業群が果たす役割が巨大である。よって、ナスダックに代表される新興株式市場、ベンチャーキャピタル産業、IPO、M&A市況といった起業家経済を支えるインフラが、どのくらい健康に戻ってきているかは、技術や消費の動向と同じくらい重要なファクターである。

ベンチャー企業を渇望する米国

ForbesのコラムニストRich Karlgaardは、その最新コラム「Why We Need Startups」で、こんなことを書いている。

「Finally! Venture Capitalists have crawled out of their bomb shelters and are funding startups again. This welcome development hasn't come a moment too soon. America needs startup companies. Oh, how we need them! They are our economy's secret sauce, the only thing that distinguishes the still-dynamic U.S. economy from those of sclerotic Europe and Japan.」

この文章の中の「America needs startup companies.」という響きが、日本やヨーロッパとは全く違う。彼はベンチャー(文中ではstartups)創造の仕組みこそが、米国経済の隠し味であり、それだけが、依然としてダイナミックな米国経済と、日本やヨーロッパとの違いだとまで言う。

7月に入り、ちょうど2003年も第2四半期が終わったので、米国の起業家経済を支えるインフラが今どんな状況にあるかを、いくつかの断片的な情報から考えてみよう。

まずIPOのウィンドウはまだ完全に開いていない。6月16日の本欄「米国の株式市場に起業家経済復活の兆し」で、FormFactor社のIPOが成功した話をご紹介したが、第2四半期は、このFormFactor以外にもうひとつだけしかIT産業のIPOはなかった。

ロイターの「Little Q2 action for venture capital-backed IPOs」によれば、バブルのピーク時の1999年第4四半期(10-12)にはIPOが82個あった。

四半期といえばビジネスデイが60日強であるから、1日ひとつ以上あったわけ。これはもちろん異常。でも、第2四半期の2個というのもさびしい。まだIPOのウィンドウは開いていない。

ただ、ここのところ、米国株式市場は底を打ち、上り基調に推移している。

株式市場と未公開ベンチャーの関係

August CapitalのVenture Blogが、「Public Markets Drive Private Investment」の中で、株式市場の動きが未公開ベンチャーへの投資とどう関係するか、という入門的な文章を書いているので、興味のある方はぜひご参照いただきたいが、(1)株式市場が安定、(2)IPOのウィンドウが開く、(3) Late stage investors (公開直前のベンチャーに成長資金を投ずる投資家)が、比較的高い企業価値で投資する、(4) Early stage investorsが、next round riskをあまり考えなくても投資できる環境が戻り、(5)エンジェルも戻ってきて、昔のように起業家に対して鷹揚な条件で投資する、(6)よって起業家にとっても創業段階である程度の株式を持つことができ、妥当なリスクとリターンの関係が再び成立する、という6つの連鎖がきちんとまわって初めて、起業家経済のインフラが元に戻る。

今はまだ、(1)が何とか見えて、(2)にようやく薄日が差してきた、という段階であろう。

ただ、(1)から(6)まで何もかも真っ暗闇という状態ではなくなったから、(1)(2)(3)が1年くらいで戻ってくることを前提に、(4)(5)(6)が水面下で少しずつ活発化してきたというのが、シリコンバレーの実状である。

だから冒頭のコラムからの引用で、

「Finally! Venture Capitalists have crawled out of their bomb shelters and are funding startups again.」

とうとう、ベンチャーキャピタリストが防空壕から這い出して、ベンチャーへの投資を再開した、とRich Karlgaardは書いているのである。

一発狙いより手堅く当てて行く

最近のベンチャーキャピタルについての考察は、Fast Company誌の「What's Wrong With Risk-Averse Venture Capitalists?」を読むといい。「リスクを嫌がる用心深いベンチャーキャピタルで何が悪い?」というタイトルからもわかるように、バブル期以前とはベンチャーキャピタル産業のあり方が変わってしまったのではないかという考察だ。

「The venture-capital paradigm has long been a "portfolio" proposition. A firm makes 10 investments. Eight of those investments fail or struggle. One is a success. And one is a home run. The home run and the success add up to a number larger than the losses on the eight stragglers.」

ベンチャーキャピタルはポートフォリオでリスクを管理するというのが定説であった。10個の投資のうち8個は失敗に終わっても、ひとつがホームラン、ひとつがそこそこの成功で、十分にやっていけると。

「"The venture-capital paradigm that prevailed for most of modern venture capital's history is broken," says Burstein. "The portfolio approach doesn't work today and, in my opinion, will not work for the next several years. On the whole, there will be far fewer home runs. And if you can't be sure of finding one giant winner, then you can't afford to pay for all the failures."」

でも、その考え方は崩壊してしまったのではないか。全体として、そんなにホームランは出ないだろうから、one giant winnerを探して、それでたくさんの投資の失敗をカバーすることはできないよ。

これはベンチャーキャピタルを共同経営している立場から見ても、皮膚感覚で同感できるコメントである。10個のうち5個は、倍率はさほど高くなくてもちゃんと少しずつでもゲインをもたらしてくれて、そこが投資リターンの基礎になり、万が一、ホームランか二塁打が出れば素晴らしい。つまり、ホームランの存在を前提とした荒っぽい投資は、もうできない時代になったというのは強く実感する。

ファンドの同僚のTim OrenがそのBlogの中で、ベンチャーキャピタリストの集まりでの発言メモをアップしているが、その中で、RedpointのTom Dyalの発言

「What's different now: There is no big wave to ride. Investing is tactical, bottoms-up, sensitive to capital efficiency - no more "change the world".」

をピックアップしている。ベンチャー投資も、大きな波に乗るというような単純な話では全くなく、戦術的に、ボトムアップで、ひとつずつきちんと選んでやっていく、という時代になったということである。

そしてそれは決して悪いことではない。実力勝負の時代に戻ることを大いに歓迎したいと思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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