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物理空間の統治者は電脳空間の統治者であるべきか 〜Nagaya1730プロジェクト管理人に聞く!〜

2008/05/04 15:04
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プロフィール

鈴木健

伝播投資貨幣PICSY、構成的社会契約論などの構想をもつ鈴木健氏が、荒川修作建築の三鷹天命反転住宅での生活を通じて、コンピュータやインターネットの登場が、人間の認知構造・身体性にどのような影響を与え、文明を変容させていくのか、多方面から分析をしていきます。
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前回のエントリーでは、電脳コイルの魅力について、ささっと説明した。

大黒市では、サーチマトン(通称サッチー)というウィルス駆除ソフトが導入されていて、古い空間を削除しようと町を徘徊している。主人公たちもサッチーに
しょっちゅう追われるのだが、神社の中にはサッチーは入ってこれない。サッチーを管轄してるのが大黒市の郵政局で、神社の管轄は文化局となっており、縦割
り行政の弊害で郵政局管轄のサッチーは神社に入ってこれないからだ。

この縦割り行政によって電脳空間が影響を受けてしまっているという話は、来るべき電脳コイル時代に私たちの認知空間の自由をめぐる戦いを示唆しているように思える。そんなことを考えながら、去年の冬コミケ用にインタビュー・フィクションを作った。

「物理空間の統治者は電脳空間の統治者であるべきか 〜Nagaya1730プロジェクト管理人に聞く!〜」

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ハイテク産業政令指定都市で進められているドメインの整備が一通り完了し、一般の都市でもドメインの整備が進められようとしている。しかし、横浜市、京都市をはじめとするいくつかの都市では勝手ドメインの構築が進んでおり、一筋縄ではいかなそうだ。今回、京都の昔の姿を復元しようというNagaya1730プロジェクトのKAZ氏にインタビューすることに成功した。

Nagaya1730プロジェクトとはどのようなプロジェクトなのでしょうか。

KAZ:電脳空間上に昔の京都の風情を完全に再現しようと、勝手ドメインでAmazonのクラウドサーバー上に構築した空間です。現在、京都市の主要道路の32%まで完成しており、来年中に72%まで、再来年に98%まで網羅する予定です。その目的としては、京都を生きた博物館として復活させることであり、子供の教育から海外からの観光客への情報提供に至るまで多岐にわたります。
電脳メガネをかけて、219.173チャンネルにアクセスすれば、どなたでも体験することが可能です。ただし、日本で発売されているメガマス社製のメガネの場合はオンロードドメインしかアクセスできないようになっているので、制限を外すのに多少のハックが必要ですが、そうした情報はネット上にありふれています。最近は、自由にチューニングができる海外メーカーを入手して利用している人も多いです。
実際に京都市街にでて、メガネをかけてみてください。コンクリートの建物は消え、京都の歴史ある風景の出現に驚くことでしょう。これらの中には、すでに火事などで焼失した建物も含まれます。舞妓さんと会釈を交わしたりするだけではなく、小道に入れば京都の伝統的な子供の遊びを体験することなどできます。

**そもそもKAZさんらがNagaya1730プロジェクトをはじめたのは、どういった理由なんですか?

KAZ:もともと、2006年にセカンドライフという仮想空間で京都の長屋を復活させようというSimに関わっていたのがそもそもの始まりです。当時のセカンドライフでは日本人は少なかったので、すぐに人気Simになりましたが、その後セカンドライフ自体のユーザののびが一時期頭打ちとなり、プロジェクトは細々と続けられました。
2020年代に電脳メガネと電脳空間が普及し始めた当初から、今回のようなオーグュメンテッドリアリティ型の博物館という構想はありました。今回のプロジェクトは、Nagayaプロジェクトのメンバー、wikimedia財団が展開してるwikiMuseumのメンバー、有力な地域郷土史家が意気投合し、3年前から準備をはじめたのがきっかけです。Nagaya1730は、現在、世界中で4万人のコントリビュータが活動している世界でも有数の地域オープンコンテンツプロジェクトであり、月間アクティブユーザは220万人です。

**今回、政府がハイテク産業政令指定都市以外でもドメインの整備を行い、公道上では空間局のオンロードドメイン以外を削除またはシャットアウトしようとしています。この動きはNagaya1730プロジェクトにとっては致命的かと思いますが、どのようにお考えですか?

KAZ:おっしゃるとおりです。われわれはこの動きが実現される前になんとかして止めねばなりません。政府が物理空間の情報アクセス権を独占する理由などどこにもないのです。政府は、道路上で他のチャンネルが適用されると、電脳ナビで制御されている車との接触事故が増えるという理由でオンロードドメインの独占化を主張していますが、そんな統計的証拠はいまのところないのです。
空間局が行おうとしている遮断手段には3つあります。そもそも公道は国や地方自治体が管理しているので、そこで散布されているRFIDやカメラも彼らの管理下にあります。別チャンネルでのアクセスがきた場合、データのアクセスを禁じるという方法です。これに対しては、プロキシーサーバーをかますことによってチャンネルを偽装することができるので、対策の打ちようがあります。もちろん、いたちごっこにならないとも限りません。
2つ目の方法は、マガマス社の電脳メガネから他チャンネルにアクセスできなくするよう、より強いハードウェア的制限を入れるという方法です。メガマス社のような半独占企業が対応すると、一時的には致命的なダメージを受けますが、海外メーカーが結局は売れるようなるでしょうね。当然空間局は海外メーカー製品の輸入制限をもくろんでいますが、余計な軋轢を嫌う外務省と経済産業省は反対の姿勢を貫いています。
以上の2つの手段には対抗策がありますが、3つ目の手段は最悪です。要するにNagaya1730のようなオンロードでの勝手ドメインを削除してもよいという法律を通過させようとしているのです。これは、ハイテク産業政令指定都市で特別に認められてきた活動を全国的に適用しようというものなのです。われわれはAmazonのクラウドサーバーを利用していますが、Amazonは国内でも大きな市場をもっていますから、政府の圧力に屈するかもしれません。万が一そうでなかったとしても、中国のようにルーターレベルではじかれるかもしれません。

**こうした政府の動きに対して、どのような運動で対抗しようとしているのでしょうか?
KAZ:wikimedia財団、Creative Commons財団、電子フロンティア財団、日本ではMIAU(Movements for Internet Active Users)と連携をとって、シンポジウムを含む様々な活動を展開しています。先日は、MIAUと共にパブリックコメント炎上作戦を展開し、一定の成果は得られたものと考えています。
Nagaya1730のスタート以降、海外から京都への観光客は10%アップしており、観光を管轄している経済産業省も我々の味方です。

**海外では電脳空間の多チャンネル化が進んでいるようですね。

KAZ:そうですね。海外では、「物理空間の統治者がそれに対応する電脳空間の統治者であるべきか」という議論が長年続けられてきました。現在、ヨーロッパ各国のうちバチカンとイギリスを除く国は多チャンネル化を認めています。アメリカでは48の州で多チャンネルが認められています。

**海外の趨勢では多チャンネル化が進んでいるのに、日本では逆行しているように見えますが、どうしてなのでしょう。

KAZ:いくつかの複合的な理由があると思います。確かなことは言えないのですが、推測も混ぜながら説明しましょう。
日本は伝統的に土地に対する所有権者の意識が強いというのがあります。その土地の所有権者は、その土地に関して何でも決めていいという考え方です。これは日本の国土が狭いからでしょうか。Commonsという発想が土地に関してはとにかく希薄なのです。逆に情報に関してのCommonsの感覚は空気のように遍在しており、連歌や2chに見るように情報の所有権の感覚はまったくありません。オーギュメンテッドリアリティは、土地と情報という2つの異なる文化を結びつけるため、ねじれた議論が起こりやすいのです。
また、江戸時代までは仮想と現実が融合した文化がありましたが、明治以降、分離してしまいました。特に、Virtualを仮想と訳したのが最大の失敗です。現実と仮想を分離する思考が根付いてしまいました。
日本でセカンドライフが流行ってしまったことも、意外かもしれませんが悪影響を与えています。セカンドライフでは、そのSimの制度設計はそのSimの管理者がしていいという風になってますよね。そのメタファーが現実空間に逆輸入されているのです。特に、電脳メガネは理解できないけど、セカンドライフなら若い頃にやったことがあるという古い世代にね。
制度の問題としては、2010年代に、行政民営化が行き過ぎて、民営行政化という逆転現象が起きてしまったことがネックですね。メガマスと政府の癒着にはひどいものがあります。これは制度設計のミスでしょう。
しかし、決定的に大きな理由は、日本では責任問題が過大に取り扱われるところにあると思います。電脳ナビとの相性で事故が起きるというのが、今回の勝手ドメイン違法化の動きの根拠になってます。確かに、2020年代にそうした事件はいくつか起きましたが、事件の数に比べて事件性が大きく取り上げられすぎるのです。国民は政府とメガマス社の責任を追求します。しかしそのことによって自分たちの電脳空間における自由を犠牲にしていることに気づいてほしいのです。
Nagaya1730プロジェクトでは、大通りなどでは危険なオブジェクトを出さないように注意しています。先ほど紹介した昔の子供の遊び体験は、車が走らないような小道でしかできないようになっています。まじめに対応していけば、事件は減らすことができるし、まじめな対応をした勝手ドメインだけが最終的に生き残っていくのです。そうした淘汰のメカニズムに任せればいいのであって、国民を甘やかしてはいけません。

**海外で多チャンネルが認められているのはどういう理論が背景にあるのでしょうか?

最も有力な説が「電脳空間妄想同一説」です。例えばぼくがある場所に行ったときに、何かを妄想したとします。どのような妄想をもとうともそれは個人の自由ですよね。電脳空間でどのようなチャンネルを開くかも同様で、チャンネルの独占化は思想・信条・良心の自由に反するという考えです。
それに対抗するのが「電脳空間物理従属説」です。例えば、自分の家を設計したときに、設計の仕方がそこの家を訪れた人の行動をいろいろと制限あるいはアフォード(誘発)しますよね。その空間の所有者は、そこに来る人の行動をどう誘発させるかを設計する権利を持っているという考え方です。そのため、電脳空間の設計も物理空間の設計の一部であって、その土地の所有者に帰属するという風になります。
日本を含むアジアの人々は、自由意志の感覚が薄いので後者のほうが親和性が高いのに対し、西欧では妄想同一説が有力ですね。

**最後にプロジェクトの長期的なビジョンを聞かせてください。

いまは1730年の京都だけを再現していますが、京都の1500年間の歴史を100年ごとに再現していきたいと考えています。これだけでも、あと数十年はかかるでしょう。
次に取り組むのは、歴史的な仮想空間の構築をオープンコンテンツとして後から作成するのではなく、仮想空間のデータログを元に、チャンネルを自動生成するシステムの開発です。同様の取り組みは世界各地で行われていますが、プライバシーの問題などで頓挫しています。これは、登場人物がまだ生きているから問題になるのであって、100年後に公開するようにすればだいたいは大丈夫でしょう。
サーバー上に莫大に蓄積しているデータログは、いまのところ多くの勝手ドメインは公開しない方針をとっていますが、これもプライバシーの問題があるからです。最近Hatenaが始めたHatena電脳Worldは、電脳空間でのあらゆる行動やおしゃべりが、ログとして後から閲覧できるようになっていますが、考え方の違いといったところでしょうかね。見守りたいところです。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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