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ストリートビューは新デジタルデバイドを生む

2008/08/31 13:36
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佐々木俊尚

現役ジャーナリストが、長年培ってきた取材経験などを通して、IT業界のビジネス動向から事件まで、その真相をえぐり出します。
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デジタルデバイドとは何か

 2000年ごろ、デジタルデバイドという言葉がさかんに言われたことがあった。直訳すれば「情報格差」という感じだろうか。パソコンやインターネットを使いこなしている人とそうでない人の間で、経済的格差が生じてくる可能性があるという問題だ。パソコンやインターネットを使いこなせない人というのは、中高年でパソコンに慣れていない人だけでなく、離島や山奥などに住んでいるためにネットにつなぐことができない人や、収入が少なくてパソコンが購入できない人も含んでいる。

 そうしてインターネットを使えないと、たとえば就職活動の情報収集がうまく行えないなど、情報が少ないために経済的な不利益を被ってしまう可能性がある。つまりは情報格差が経済的格差につながってしまうわけだ。

 だがこのデジタルデバイドは2000年代半ばにはいるころから、あまり問題視されなくなった。政府のe-Japan戦略が功を奏し、全国に安価なブロードバンドが普及したことや、パソコンを持っていない低所得者層や中高年、ティーンエージャーでもケータイ電話を使ってインターネットに接続できるようになったこと、さらにはネットカフェが普及してきたことなどが背景にある。つまりインターネットというインフラが、電気やガス、水道などのインフラと同じようにユニバーサルサービス(国民生活に不可欠なサービスを、誰でも利用できるようにすること)化したわけだ。

Web2.0デバイドもある

 そうやってネットは誰でも使えるようになったけれども、しかし2006年ごろから新たなデジタルデバイドが生まれてきている。それはどのような格差かと言えば、Web2.0デバイドというべきものだ。

 たとえばSNSやソーシャルブックマーク、RSSリーダー、ミニブログのようなWeb2.0のサービスは、使っていない人にはまったく理解できない。特にTwitterのようなミニブログサービスにそれは顕著で、とくだん情報収集が楽になるとか、そういう目に見えるメリットが存在しないし、言葉で説明しただけではまったく伝わらない。「ひとりごとのような短いコメントを投げて、それをみんなが読めるんです」と説明しても、ほとんどの人は「?」というような反応を返してくるだけだ。

 私は中高年の人に出席いただくような講演を年間30回ぐらいはこなしているが、ネットに親しんでいない中高年が理解できるのは検索エンジンぐらいが精いっぱいで、SNSともなるとほとんど全滅だ。前に平均年齢60歳ぐらいの企業経営者が集まる会合で講演したことがあるが、出席していただいた100人ぐらいのうちミクシィを実際にさわったことのある人はわずか3人だった。そうした人たちにミクシィの日記交換システムを紹介しても、何がおもしろいのかほとんど理解してもらえない。

 一方で、そうしたWeb2.0デバイドの向こう側にいる人たちにも、セカンドライフのような目に見えるビジュアルが存在するサービスは、簡単に理解してもらえる。セカンドライフが昨年、実態のないままあれほどまでのブームを巻き起こしたのも、そうしたビジュアルのわかりやすさがあったからだ。企業の経営層を担っている60歳前後の人たちには、セカンドライフの画面キャプチャを見せただけで、「おもしろい! それをすぐやれ!」みたいな反応を引き出すことができたのである。

中高年の未来のイメージはいまだに大阪万博

 中高年の人たちの未来世界のイメージは、1970年に大阪万博が提示したビジョン、あるいは昔のディズニー映画『トロン』のころから一歩も進んでいない。「仮想空間の中を歩き回れる」「新聞が自宅のいながらにして伝送管からポトンと落ちてくる」という以上のものはなにもない。そうした彼らの未来ビジョンの中に、テキスト中心のソーシャルメディアなんていうものはかけらも存在していない。だからWeb2.0は皮膚感覚として理解できていない。

 そこにはデバイドがある。Web2.0のサービスを使いこなしているかどうかで、情報収集能力や他人とのつながり能力には格段の差が出てくる。それははてブやRSSリーダーを使いこなしている人にとっては今更いうまでもない自明の理だ。

 とはいえ、そこで生まれてくるデバイドは、しょせんは情報収集能力の差や他人とのつながり能力の差でしかない。もちろん長い目で見ればそれは経済力や社会の中におけるポジションの差につながっていくのだろうけれども、だからといってWeb2.0を使っていない大多数の日本人がすぐに不利益を生じるかと言えば、まったくそんなことはない。しょせんはWeb2.0の世界にどっぷりと浸っている方が、現時点では少数派でしかないからだ。

 つまりはWeb2.0にはデバイドが存在するとはいっても、「Web2.0のメディアを使ってない人間には何ら影響を与えない」という大前提があって、特に問題もなく看過されてきたのである。

ストビューが生み出す新たなデバイド

 さて、そんな状況の中にグーグルのストリートビューがやってきた。こうしたGIS(地理情報サービス)は、今後もどんどん進化し、普及していく可能性がある。そして前回のエントリーでも書いたように、こうしたGISはバーチャルな空間から一歩踏み出して、リアルの物理空間をITの世界の中に取り込もうとしている。

 こうしたGISのようなリアル空間を浸食するサービスを、Web2.0にならってReal2.0と試みに呼んでみよう。

 Real2.0は、Web2.0とは決定的に異なっているところがひとつある。Web2.0は、情報の送り手と受け手が等しい母集団で、いずれも同じウェブ空間の中のユーザーである。ここでは情報の「送り手」という言葉を使ったけれども、必ずしも能動的に情報を発信する人とは限らない。自分が何かの行動を取ったり、発言した結果、知らず知らずのうちにその発言がフィードされているような場合も含まれる。

 これに対して、Rea2.0は情報の送り手は、ネットの世界の中の人だけではない。リアル世界のすべてが情報の送り手となっている。しかし情報の受け手の側に目を転じてみると、それらの情報を利用できる人はネットの世界の人に限られている。

 もう少しわかりやすく言うと、こういうことだ。たとえばRSSフィードの世界では、情報の送り手はブロガーやウェブ管理者であり、情報の受け手はRSSリーダーを使っている人。SNSでは送り手も受け手も、SNSの会員同士。はてなブックマークも情報の送り手はブログやウェブで、受け手ははてブの利用者たち。送り手と受け手に若干の層の違いはあっても、どちらにしろネットのコアなユーザーたちであることは間違いない。

 いやもうすこし正確に言えば――はてブの場合、それがブックマークされることを想定していないリテラシーの低い書き手の記事までもがブクマされ、批判の対象になってしまうというケースもある。だから結局、はてなはそうした書き手の不満を考慮し、はてブコメントが表示されないようにするオプションを先日加えたのだった。このオプションの是非についてはまた別途考えていきたいと思うけれども、このように「あちら側」のネットの世界であっても、情報の送り手のデバイドを考慮しようという考え方が、いまや生まれてきているということなのだ。

 

Real2.0は、情報の送り手のデバイドを生む

 いわんやReal2.0において、である。Real2.0において情報の送り手となっているのは、突き詰めれば、ストリートビューで撮影されている人物であり、車の所有者であり、住宅に住んでいる人たちである。そして受け手は、ストリートビューを見ているネットのユーザーたちだ。

 おそらく現時点で、ストリートビューというサービスの存在を知っていて、それを実際に使った経験のある日本人は、せいぜい人口の1割ぐらいしかいないのではないか。残りの推定9割の人たちは、自分がストリートビューにおける情報の発信者になっていることにまったく気づかず、普通に暮らしているのである。

 そのような状況の中では、デジタルデバイドという言葉は、まったく新しい意味を持つようになる。かつてのデジタルデバイドや私が造語したWeb2.0デバイドの世界では、そのデバイドは「ネットを使いこなしている人とそうでない人のデバイド」でしかなかった。先の情報の送り手受け手の文脈で言えば、「情報の受け手としてのデバイド」だったのである。

 ところがReal2.0の世界で生じるのは、「情報の送り手としてのデバイド」だけではない。そこには「情報の送り手としてのデバイド」も生じてくるのだ。つまり自分の住んでいる建物や自分の写真、自家用車がネットの世界に送信されていることを知っている人と、知らない人の間のデバイドだ。

 これは旧来の受け手側のデバイドとはまったく異質のデバイドとなる。

 このデバイドが、今後どのような実害を生み出す可能性があるのか。さらには将来的には経済格差を生み出すこともあり得るのか。現時点ではわたしはそこまでの論考を深められていないが、もう少しこのデバイド問題を考えていく必要があるように思っている。

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※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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