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『ネット未来地図レポート』開始しました

2008/07/31 15:49
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プロフィール

佐々木俊尚

現役ジャーナリストが、長年培ってきた取材経験などを通して、IT業界のビジネス動向から事件まで、その真相をえぐり出します。
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『ネット未来地図レポート』

 先日のエントリーでも告知したとおり、有料メールマガジンを始めることにした。毎週月曜日4000文字配信で、月額1000円、法人割引あり。タイトルは、昨年刊行して評判が良かった書籍のタイトルを流用して、『佐々木俊尚のネット未来地図レポート』とつけてみた。読者として想定しているのは、インターネットをビジネスのフィールドとして考えている方たちである。

 だからメールマガジン『ネット未来地図レポート』では、このブログ『ジャーナリストの視点』で書いているような社会的な諸問題などは、いっさい扱わない。社会とネットの接点に生じる軋みのような諸問題については、今後もこのブログで書き続けていく予定だ。

 『ネット未来地図レポート』では、ビジネスの視点から見て、今後ネットの世界がどのような方向に進んでいき、その進化・発展の方向性の中でどのようなビジネスチャンスが生まれ、あるいは問題点や課題が生じるのか。そしてそのビジネスチャンスを生かしたり、さまざまな問題点を克服していくためには、どのように考えればよいのかーーそういったポイントについて、詳細に解説する内容にしていく。

分析・予測・行動について解説

 具体的には、毎週ひとつのトピックを取り上げ、

 (1)これは何を意味するのか
 (2)これからどうなるのか
 (3)どう行動すべきなのか

 という3点について項目別に解説するという内容になる。またメールマガジンの中では、読者の方々から寄せられた質問についても随時詳しく回答していく。

 購読料金を高いと感じる人もいるかもしれないが、この価格設定にしたのは、そのような情報を必要としている特定少数の方々に、私の分析・予測した内容をきちんと届けたいと考えているからだ。

書籍ではなく、今後はメルマガで

 有料メールマガジンという古色蒼然とした配信モデルを今さらながら採用したのは、紙の書籍を刊行する代替物としてメルマガが使えないかと思ったからである。インターネットビジネスの具体的な話についてはこれまで書籍のかたちで発表してきたが、このスタイルには3つの問題点があった。

 (1)書籍は執筆から刊行まで三か月程度もかかり、執筆初期の段階で書いた内容が刊行時には古びてしまうことが少なくなかった。これはスピードの速いネットビジネスのフィールドでは致命的である。
 (2)インターネットビジネスという特異な世界の分析や予測は、書籍のようなかたちで不特定多数の人に届ける必要はない。
 (3)紙の活字媒体は、徐々に衰退していく可能性が高い。

 この3点を、有料メールマガジンというかたちで乗り越えられないだろうかと考えた。そうして今年初めから準備を徐々に進め、ようやくリリースの運びとなったというわけだ。(もちろん、これをもってして書籍を書くのを止めるというわけではないので、誤解しないでいただければと思う)

 申し込みは、佐々木俊尚公式サイトからどうぞ。第一回配信は週明け4日(月曜日)で、以降毎週月曜日に配信していく。

 以下、パイロット版も作成した。参考にしていただけると幸いだ。

パイロット版『インプリシトウェブとは何か』

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佐々木俊尚のネット未来地図レポート 2008.07.31 Vol.000
 http://www.pressa.jp/
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インプリシトウェブ(暗黙ウェブ)という新しいカスタマーリレーション
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いま何が起きているのか

 インプリシト・ウェブというアプローチが注目を集めている。日本語に直訳すれば「暗黙ウェブ」。暗黙という言葉で思い出すのは、1990年代に流行ったナレッジマネジメントだ。ナレジマネジメントの用語に、形式知と暗黙知という言葉がある。前者はドキュメントや図表、マニュアルなどで表現され、容易に他人に伝達できる明文化された知識。後者は人間の経験に基づくノウハウのようなもので、テキストで表現するのは難しい知識を指している。当然、後者の方がシステムでインデックス化しにくい。

 この二つの言葉は、英語で言えばexplicit knowledgeとimplicit knowledge。explicit/implicitは、明示と暗黙の対比語だ。そして最近、ウェブの世界でインプリシトウェブという言葉が使われるようになってきているのである。

 一見して何のことかわからない言葉だが、ニュースサイトのReadWriteWebによれば、次のような意味だという。
 「インプリシトウェブのコンセプトはシンプルだ。もしわれわれがある情報に触れたとすれば、われわれはその情報に何らかの意思表示をしたということになる。何かの記事に出会ってその記事を読むのに時間を費やす。面白い映画を観て、その映画を友人や家族に勧める。音楽に共鳴すれば、その曲を何度も何度も繰り返し聴く。われわれはこうした行為を反射的に無意識のうちに行っている。つまり暗黙のうちに行っているのだ。でもそうやって採った暗黙の行動の結果には、重要な意味がある。われわれがその音楽や映画や記事に対して注意を払ったという暗黙の行為が、『わたしはそのコンテンツを気に入った』という評価になっているからだ」("The Implicit Web: Last.fm, Amazon, Google, Attention Trust" 2007年6月12日)

 インプリシトウェブは、ユーザーのクリックという行動によって成り立っている。ユーザーが何かのリンクをクリックすれば、それは何らかの評価を下したということになる。

 そしてこのクリックという行為によって、さまざまなパーソナライゼーションやレコメンデーションが可能になる。このインプリシトウェブの最も好例としてReadWriteWebは、音楽共有サイトのLast.fmを挙げている。Last.fmはユーザーがiTunesなどで日々聴いている音楽の情報をどんどん記録していき、自分がどのようなアーティストや楽曲を好んでいるのかというランキングを集計してくれる。そしてそれらの集計結果をマイニングし、ユーザーが好みそうな楽曲を集めて自動的にユーザーのためにカスタマイズされた自分専用のネットラジオを聴くことができる(現在、日本語版では残念ながらラジオ機能は「準備中」になっており、実装されていない)。

 つまりLast.fmはユーザーが音楽を好きなように聴いているだけで、自分の視聴の傾向をどんどん蓄積してくれる。ユーザーが「この曲が好き」「このアーティストの曲を聴きたい」と明示的(explicit)にリクエストしなくても、ユーザーの無意識(implicit)を自動的に収集し、「あなたの好みはこれでしょう?」とレコメンドしてくれるというわけだ。

これからどうなるのか

 顧客がさまざまな情報を入力する手間を省くことができ、ユーザーの好みを自動判別できることから、今後のレコメンデーションシステムの主流になっていくことが予想される。

 とはいえ、この暗黙ウェブの仕組みを使ったサービスは、まだ日本国内ではほとんど存在していない。理由はただひとつ。「計算量が膨大で、たいへんなコンピューターパワーを必要とする」という問題があるからだ。

 たとえばカカクコムが提供しているクチコミレストラン情報サイト「食べログ」を例に取ってみよう。食べログはグルメのクチコミ市場ではライブドアグルメや東京レストランガイドに比べて後発だが、現在の利用者数は500万人近くに達し、クチコミも30万件以上が蓄積され、ナンバーワンサイトになっている。うまく軌道に乗せることができたのは、サイトの作り込みがきわめて良くできているからだ。

 たとえば通常のクチコミサイトであれば、店舗情報がメインになり、その店舗情報に付随してクチコミ情報を掲載するようなデザインが一般的だが、食べログはメインを店舗情報ではなく、クチコミを書くレビュアーたちのユーザーページに据えている。ユーザーページでは自分が食べ歩いた店を地図上で表示できたり、これまでに食べた店の情報を次々のアップロードできたりと、レビュアーの情報源としても使えるようになっている。それ以外にも従来の口コミサイトと異なり、料理や店内の様子などの写真をアップロードできることなどの仕掛けがいくつかあり、それらが功を奏したのだった。

 この結果、食べログには多くのカリスマレビュアーが生まれ、このカリスマレビュアーをフォローして「あのレビュアーが評価している店を順繰りに食べに行ってみよう」と考えるユーザーがたくさん現れた。それらのユーザーにとっては、自分と舌が似ているお気に入りのレビュアーを見つけることができれば、その人の評価の方がミシュランガイドよりも自分にとっては正しいというような状況を生み出すことに成功したのである。ユーザーの舌に強くマッチする舌を持っている食べログのレビュアーを見つけることができれば、その彼や彼女が高評価している店を訪れれば、決してハズレになることはないというわけだ。

 となると、この「自分に舌に強くマッチするレビュアーを見つける」というのが、ユーザーにとっては非常に重要な作業になってくることになる。この作業が自動化され、自分が好みのレストランのレビューを読んだり、あるいは特定のレビュアーをフォローしているだけで、「あなたと同じ好みを持っているカリスマレビュアーはこの人です」と教えてくれるようになれば、美味しい店を探すのはもっと楽になるだろう。そしてそれが、すなわち暗黙ウェブである。

 だが現状では食べログは、そうしたシステムは導入していない。担当者は以前、私の取材に「その部分をシステム化していくのは大きな課題だが、ユーザーの人数が多いので、その相関のデータを作って、それにお店の評価も入れていくとなると、データの量がそうとうな規模になる。そこからマッチングしているデータを抽出するという計算量はたいへんだろうなあと考えている」と話していた。その計算量に耐えるだけのコンピュータパワーを導入しようとすると、コストが嵩むことになり、なかなか難しいというわけだ。

 暗黙ウェブはユーザーにたいへんな利益をもたらすけれども、現在のような広告モデルだけで、なおかつ大規模な資本政策が採りにくい日本のベンチャーの現況では、なかなか思い切った投資はしにくく、暗黙ウェブへの進化はなかなか進まないという残念な状況だ。

 とはいえ、レコメンデーションやパーソナライゼーションは、今後のウェブの方向性として非常に重要である。それはもうずいぶん以前から言われ続けていることだが、最近になってこの方向性は「Web3.0」という言葉でも呼ばれるようになってきている。

 しかし単に「パーソナライゼーションを進めましょう」「これからはレコメンデーションです」というだけでは、利用者はついて来てくれない。パーソナライゼーションやレコメンデーションには顧客の属性や購買履歴などのデータを大量に蓄積することが必要になるからだ。そのために拙速で利用者の属性をアンケートなどで集めようとしすると、「入力が面倒くさい」「どこまで個人情報を収集する気なのか」と嫌がられてしまい、離反を招くだけになりかねない。その意味でインプリシトウェブの可能性はきわめて大きいといえるだろう。

どう行動すべきなのか

 顧客から離反されず、しかし顧客の情報をうまく収集していくのかというのは、B2Cのサービスを展開しているウェブ企業や広告企業にとっては重要な課題だ。この難題を、インプリシトウェブのアプローチは突破していける可能性がある。

 ただこの方向性には、いくつかの問題もある。まず第一に、サイトの制作に技術力が必要なこと。きちんと顧客を組織し、彼らのとったウェブ上の行動を収集し、さらにマイニング(解析)する仕組みを作るのはそう簡単ではなく、かなりのCPUパワーも必要となってくる。小規模なウェブのサービスがAmazonやLast.fmのような仕組みを構築するのは簡単ではない。具体的な解決策としては、ITベンチャーのゼロスタート・コミュニケーションズが提供しているゼロゾンのようなソリューションを活用することも考えられるだろう。

http://zero-start.jp/

 また一方で、こうしたインプリシトウェブは「隠れた監視システム」となっていることも忘れてはならない。利用者に対する十分なアカウンタビリティが不足しているとプライバシー侵害の不安が高まり、思わぬ社会的批判を招いてしまう可能性もあるため、ポリシーを的確に打ち立てることが重要だ。

(以上)


※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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