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CNET Japan ブログ

ブログの「浸透と拡散」

2007/11/25 11:50
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佐々木俊尚

現役ジャーナリストが、長年培ってきた取材経験などを通して、IT業界のビジネス動向から事件まで、その真相をえぐり出します。
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 11月23日、「ブログ限界論」をテーマにしたRTCカンファレンスに出席した。このテーマについてはご存じの通り、上原仁さんの事前アジェンダ設定がかなりの波紋を巻き起こし、さまざまなブログでさまざまな意見が書かれた。議論がどう広がっていったのかについては、徳力基彦さんのブログに詳しく書かれている。

 当日、会場で話したことや話し足りなかったことなどを、この場で補足しておきたい。

 昨年ごろから、ブログの世界に地殻変動が少しずつ起きてきているように思う。その地殻変動をシンボリックに体現しているのが、今年のアルファブロガー・アワードだ。アルファブロガーたちが選んだノミネートブログのリストを見ると、これまでのようなIT系や経済社会論壇系から外れて、より幅の広い分野に広がってきていることがわかる。たとえば、このノミネートリストの中でかなりの票を集めているらしい『会社法で遊ぼ。』。診療所勤務の医師の方が書かれている『新小児科医のつぶやき』など、従来なら「アルファ」と呼ばれなかったであろう専門性の高いブログが数多く候補に挙がっている。言ってみればこれは、ジェネラルなブログから、エキスパートなブログへの普及・拡散が起きていることの証明でもある。

 ほんの二年ほど前までは、ブログの世界はおそらくとても小さかった。書いている側も、読んでいる側も、それぞれインターネットの先端的ユーザーで、ネットの世界の空気感を共有していた。つまりは同じ価値観という基盤の中で生きていて、他のブロガーたちに仲間意識を感じ、だからこそブロゴスフィアから派生したリアルの人間関係を培うこともてきたのだった。

 ところがいまや、ブログの普及と拡散とともに、その共通の価値観は失われつつある。いや、失われてはいないのだが、その価値観を共有するコミュニティの規模をはるかに超える速度で、ブロゴスフィアは広がりつつある。

 この状況は、1970年代にSF小説の世界が迎えた「浸透と拡散」フェーズと酷似している。もともと日本のSFはごく少数の書き手たち−−星新一や筒井康隆、小松左京、福島正美といった先駆的な作家たちによって切りひらかれ、しかし1960年代までは世間にはほとんど認知されていなかった。文壇のメインストリームからも無視され、SFというのはごく一部の人たちだけが楽しむ小さなコミュニティ内文学だったのだ。

 ところが1970年代にはいると、状況が変わる。1973年に小松左京の『日本沈没』がベストセラーとなり、1977年には『スターウォーズ』第一作が公開された。『宇宙戦艦ヤマト』も登場し、少し遅れて『機動戦士ガンダム』もやってきた。この結果、SF的なものは世間に受け入れられるようになり、市民権を得た。これまでSFを無視していた純文学、大衆文学の作家たちも、SF小説的な設定を取り入れるようになった。

 この状況はSF業界にとっては喜ばしいことではあったのだが、しかし一方で、こうしてSFが普及していくことを「SFが拡散してしまおうとしている」と嘆く人も少なくなかった。1960年代まで日本SFの世界が持っていた先端性が薄れ、毒が消え、大衆文化に堕していく。スピリット・オブ・ワンダーが失われていく。そういう「SF的精神」が徐々に消失していくと考えられたのだ。さらに加えて、それまでの日本SF業界が持っていた小コミュニティ的な気持ちよさが失われ、一般化してしまうことに対する寂しさもあったのだろう。

 そしてこの状況を指して、SF業界の人たちは「SFの浸透と拡散」という言葉で呼んだのだった。

 当時私は地方の高校生で、早川書房の『SFマガジン』を愛読していたから、このような論争が中央で起きていたことは何となく理解していたけれども、しかしそういう古いSFの変質なんかよりもずっと、新しいSFの世界の強い興奮を抱いていた。つまりは『日本沈没』や『スターウォーズ』、『宇宙戦艦ヤマト』に対するときめきの方が、古いSF世界への郷愁に勝っていたのである。古いものよりも新しいものにときめきを感じるのは、高校生なのだから当然といえば当然だった。

 いまのブロゴスフィアをめぐる状況は、1970年代のSFとまったく同じように思える。ブログは普及し、浸透し、拡散しつつある。いまやかつてのあたたかいブログ共同体は、現在のブログ圏域とイコールではなくなっている。失われた共同体を懐かしんでもしかたないし、日々面白いブログは日本のあちこちで生まれてきているし、それを一生懸命発掘して必死で読まなければならない。

 たぶん私がいま高校生だったら、「へー、ブログの限界とか議論している人たちがいるんだ」と感心しながら、しかし新しいブログを読んだり、モバゲータウンで誰かと会ったり、魔法のiらんどでケータイ小説を読んだりするのにときめきを感じているかもしれない。時代は後戻りしないのだ。

 次のエントリーも、この話を少し続ける予定です。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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