お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

ブックメーカーが日本に上陸してきた

2007/10/01 13:38
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

佐々木俊尚

現役ジャーナリストが、長年培ってきた取材経験などを通して、IT業界のビジネス動向から事件まで、その真相をえぐり出します。
ブログ管理

最近のエントリー

小学館『サブラ』で連載を再スタート

 小学館の雑誌『Sabra(サブラ)』が月2回刊から月刊に変更されたのにともなって、連載していた『Generation Z〜ネクストヒルズな起業家たちの素顔』が完結した。ペーパーボーイの家入さんやチームラボの猪子さんといった新しいタイプの起業家たちががどのようにしてビジネスモデルを考え、仲間を募り、カネを集めて会社を興したのかというのを、ノンフィクション小説風に描いた連載だった。連載は1年半以上も続き、取り上げた人は20人近くにもなった。ちなみにこの連載の一部は11月末、小学館から単行本として出る予定になっている。

 ところで今回書こうと思っているのは、『Generation Z』の話ではない。『Sabra』月刊化で『WEB NOW』というネットの事件・できごとを追う新連載をスタートしたのだが、その第1回で日本に上陸してきたヨーロッパのブックメーカーの話を書いた。この号は現在発売中だ。サブラのこの記事をもとにしつつ、ブックメーカーの話を紹介したいと思う。

 ここ最近、海外のブックメーカーが日本に上陸してくる動きが始まっている。ブックメーカーというのは、日本語に訳せば「賭け屋」「胴元」。サッカーや野球といったスポーツのほか、選挙の勝敗や政党支持率、映画の興行ランキング、テレビの視聴率、明日の天気まで数字になるものなら何でも賭けの対象にしてしまう業者のことだ。海外、特にヨーロッパでこのビジネスは非常に盛んで、一部の業者はサイトを日本語化して日本向けにサービスを提供している。だがその多くは賭けの対象がヨーロッパやアメリカのスポーツや娯楽だった。

 ところがここ最近、日本国内で行われている相撲やプロ野球、Jリーグなどに賭けられるサービスを日本語で提供するブックメーカーが現れてきた。たとえば8月6日には、マン島に本拠地を置くブックメーカーBFIM社が運営する『Betluck(ベットラック)』が日本語サイトを開設している。このベットラックは、プロ野球やJリーグ、大相撲、さらには公営宝くじのナンバーズ4など、日本国内のさまざまなありとあらゆるイベントに対して賭けを行えるようになっている。サイトも日本語化されている。さらにはNeteller(ネッテラ)という電子マネーを使うことで、日本円での引き出しも可能になっている。

 これは賭博ではないのだろうか?

『マニング社事件』とは?

 実のところ、過去には同種のサービスに対して日本の警察当局が捜査に乗り出すケースが起きている。最も有名なのは、1992年の『マニング社事件』だ。ロンドンに本拠を置くブックメーカー・マニング社はこの年、日本企業と代理店契約を結んで国内で会員集めを始めた。入会金1万円と年会費1万5000円を払い、さらに指定の賭け金をナショナル・ウェストミンスター銀行東京支店の口座に振り込むという手続きで、この会費や賭け金はいったんイギリスに送金され、イギリス政府の賭け税10%を払った後に配当が計算され、日本に逆送金する仕組みだった。最初の賭け対象となったのは日本の大相撲で、この件が報道されると、代理店には電話での申し込みが殺到したという。

 この当時、マニング社と日本の代理店は、「日本総代理店は募集の代行と情報提供を行うだけで金銭の取り扱いにはいっさい関わっていないので従来のやり方と実質的には変わらず、(日本国内で)違法性を問われることはないはず」(日本経済新聞1992年1月11日朝刊)と説明していた。しかし日本の警察庁は「理論的には違法行為に当たる」と判断し、警視庁などが「とばく罪が成立する疑いが強い」として捜査に乗り出した。この警察の動きに驚いたナショナル・ウェストミンスター銀行が、日本国内でマニング社との取引に応じないことを表明。この結果、マニングのブックメーカービジネスは成り立たなくなり、最終的に同社は警視庁に対し、「日本では刑法違反に当たる可能性が強いことがわかった」と事業の取りやめを告げる結果となった。すでに会費を振り込んでいた約100人の日本人顧客には返金された。

 以降、ブックメーカーの日本での目立った動きはなかった。これはインターネット時代に入ってからも、あまり変わっていない。

ブックメーカー側の事情

 なぜここに来て、日本に積極的に触手が伸びてきているのだろうか? 理由は2つある。

 まず第1に、ブックメーカー側の事情。ブックメーカーの多くはイギリスなどヨーロッパに本拠を置いているが、オンラインギャンブルの市場としてはこれまでアメリカが世界一だった。何しろラスベガスを抱え、ギャンブルの好きな人が非常に多い国である。オンラインカジノの世界市場の約半分をアメリカが占めているという概算もあったほどだ。

 ところが昨年秋に、事態が変わった。オンラインギャンブルの規制を強化する法案が上院で可決され、この結果、ヨーロッパのブックメーカー各社はアメリカで商売ができなくなってしまった。そこで彼らはアジアに目を付け、日本や韓国、中国などギャンブル好きが多い東アジア諸国に進出しようと狙っているらしいのである。

 第2の理由は、電子マネーが普及してきたことだ。先ほどのマニング社が参入しようとした1992年にはまだ電子マネーが存在せず、日本国内に物理的な支店を持つ銀行を決済に使うしかなかった。これがボトルネックとなった。警察当局の恫喝によって銀行は震え上がり、取引を停止してしまったのだった。

 ところがインターネットは国境の存在を希薄にしてしまう。ベットラックはウェブサイトで客を集め、しかもそのウェブサーバは日本警察の力が及ばないマン島にある。電子マネーのNetellerもロンドン株式市場に上場しているイギリス企業であり、これを経由した金の流通を防ぐ方法はない。つまりはサービスやマネーがインターネットによってオープンになってきたことが、ブックメーカーの日本進出を支えているということになる。

 これはグローバリーぜーションによる流動化のひとつのケーススタディといえる。

ブックメーカー関係者への直撃取材

 さて私は、このベットラックの日本側関係者のひとりに話を聞くことができた。この人物は私が以前から知っている男性だが、名前は書けない。なお念のために書いておくが、私とベットラック社、ならびにこの関係者との間には、何の利害関係も存在していない。

 ベットラックはまだ、日本国内での本格キャンペーンを行っていないという。利用者もまだ少数に留まっているらしい。「なぜキャンペーンを本格化させないんですか?」と私が聞くと、この関係者は苦笑いしながらこう言った。

 「広告代理店やPRエージェンシーに話を持って行っても、みんな腰が引いちゃうんですよね。やってくれないんです」

――これは賭博ではないんでしょうか?
関係者「明らかに賭博であり、法違反だという指摘はあるのは事実です。しかし事前に弁護士など専門家に聞いてみると、専門家によって見解はバラバラというのが実情でした。どう解釈するべきなのかは難しいのですが、胴元と賭け手の両方が存在して賭博という犯罪になるのだとしたら、ベットラックは賭博には当たらない。なぜなら胴元は日本にはいないから」

――あなたのように日本国内でベットラック事業に関わっている人が、賭博罪に問われるのでは?
関係者「日本国内ではいくつかの企業と個人がベットラックに関わっていますが、主な業務はウェブサイトの日本語化と国内でのマーケティングとプロモーションのみです。運営には日本国内の人間はいっさい携わっていないので、われわれは胴元とは関係ありません」

――でもサポートは日本語でやってるんでしょう? 日本語サポートの内容次第では、賭博に問われる可能性があるのでは。
関係者「日本の会員から送られてきたメールは、いったんマン島のオフィスに送られて、そこから日本国内の関係者に転送されてくるんです。日本国内でそれを翻訳して、マン島に送る。マン島で返事を英語で書いて、再び日本の関係者に送ってくる。それを再び日本語訳して、マン島に送る。マン島はその日本語メールを、日本の会員に送る。つまり胴元と会員のメールのやりとりには、直接的には日本の関係者はいっさいタッチしていないということになります」

――かなり徹底的ですね。
関係者「データもサーバーも、さらには現金の決済システムもすべてマン島にあります。だから日本人会員はあくまでもマン島のサイトにアクセスし、そこで賭け行為を行っているだけということになるんです。つまりは海外旅行中にラスベガスで賭けをしているのと同じで、日本国内の法律には問われないと思う」

――日本に進出してきた理由は?
関係者「中国、韓国、日本と東アジア諸国はみんなギャンブルが好きで、市場としての可能性はかなり高い。そこでまず日本で市場を開拓し、ここでうまくったら中韓に進出しようというのがベットラックの戦略のようです」

 果たして日本の警察当局は、ベットラックに対してどのような対応に出るのだろうか。今後の成り行きを見守りたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー