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ウィキスキャナーで暴露された「情報操作」を考える

2007/09/15 14:28
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佐々木俊尚

現役ジャーナリストが、長年培ってきた取材経験などを通して、IT業界のビジネス動向から事件まで、その真相をえぐり出します。
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ウィキペディアへの情報操作は何が問題なのか

 ウィキペディアでの「情報操作」ととられかねない編集行為がウィキスキャナーによって暴露され、問題になっている。朝日新聞や産経新聞などに取り上げられ、特に注目を集めているのは政府官公庁内部から編集が行われていた問題だが、しかし大企業やマスメディアが自社に関係するテーマについて項目を書き換えていたケースも多数報告されており、まとめサイトも登場してきている。

 省庁職員が情報操作まがいの編集行為を行っていたことに対する批判は、次の三つのポイントに大別される。

(1)ウィキペディアの編集に当事者である官僚が参加すると、ウィキペディアの公平性が損ねられるのではないか。
(2)官僚が自分の属する省庁に有利なことを書くことは倫理的に許されない。
(3)官僚が自分の職務時間にウィキペディアの編集に参加しているのは職務怠慢ではないか。

 第一の公平性の問題。ウィキペディア日本語版のガイドラインには、自分自身の記事をつくらないという項目があり、次のように書かれている。

 あなたが個人的に関わっていることがらについて記事を書くときには、あなたは、いつも以上に注意を払い、あるいはそれを控えなければなりません。このルールは、あなた自身、あなたの業績、あなたの会社、あなたの出版物、あなたのウェブサイト、あなたの親戚、その他もろもろのあなたが利害関係を有することがらについての記事について適用されます。

 (中略)

 ウィキペディアの中立性を保ち、かたよった観点を押し付けないようにするためには、自分が関わっていることがらについての記事の編集をするときには特に注意する必要がありますし、時にはそれを我慢することも、とても大切なことなのです。

利害関係者は編集に参加してはいけないのか

 ここで目を留めなければならないのは、「あなた自身、あなたの業績、あなたの会社、あなたの出版物、あなたのウェブサイト、あなたの親戚、その他もろもろのあなたが利害関係を有することがらについての記事」という部分だ。つまりはその対象に対して利害関係があるかどうかが問題とされている。しかし実のところ、世の中で起きるほとんどのものごとを省ごと、部局ごとに切り分けて管轄化し、世間の大半のできごとにコミットしている官僚は、「利害関係の有する」のではない項目というのは案外少ない。そして一方で、官僚は多くのできごとに関して相当な知識を有する専門家だったりする。

 たとえば「電子投票」というウィキペディアの項目を例にとってみる。「問題点」としてもともと次のような書き込みが行われていた。

*レンタル費用、導入コストなどが紙の投票に比べ高額
*機器の安定性、信頼性に不安がある
*投票通りの動作がされているかの確認方法がない(ブラックボックスである)
*日本では条例を定めた地方選挙に限定されている 
*多数の候補者がいる場合、一画面に表示できず、有利、不利が生じる。
*不正プログラム等の検証、防止策が確立されていない 

 これに対して総務省内部から、2005年3月4日に次のように書き足されている。

*レンタル費用、導入コストなどが紙の投票に比べ高額である(人員削減によるコストダウンよりも、機器導入にかかるコストが高い)
*機器の安定性、信頼性に不安がある(我が国では、3回の選挙で異議の申し立てがなされている)
*投票通りの動作がされているかの確認方法がない(ブラックボックスである)
*日本では条例を定めた地方選挙に限定されている(国政選挙は紙で行うため、地方選挙のみではコストダウンにつながらない)
*多数の候補者がいる場合、一画面に表示できず、有利、不利が生じる(たとえばページ分割方式では、最初の画面の候補者が有利であり、アイウエオ順の場合は、アの候補者が有利ではないかと言われている)
*不正プログラム等の検証、防止策が確立されていない(我が国の法律では、不正アクセスを防ぐため、電気通信回線への接続を禁止している)>

 電子投票について詳しくなければ、このような編集は行えない。その意味で、電子投票の問題点を的確に説明した上記の編集は、きわめて真っ当なものである。そして電子投票のようなマニアックな項目に関していえば、この問題に詳しいのは総務省職員か地方の選挙管理委員会事務局の職員、そして電子投票システムを役所に納入している富士通や東芝、ムサシなどの企業関係者に限られる。ほとんどが利害関係者だ。もちろん電子投票を研究している大学の先生などもいないわけではないが、数は圧倒的に少ない。私も過去に電子投票システムを集中的に取材した時期があるので少しは理解できるが、電子投票というのはあまり多くの人々の注目を集める分野ではないのだ。となると、これら利害関係者抜きにして、電子投票についての明確かつ詳細な知見をウィキペディア上に掲載することはかなり難しいということになる。

結局は倫理の問題なのか

 もし利害関係者を徹底的に排除しようとするのなら、ウィキペディアは利害関係者の存在しない過去のできごとや科学的真実−−歴史や芸術、自然科学などに絞るしかないということになるのだろうか? いや、そんなことはないだろう。第三者的な学者やジャーナリストだけでなく、現場を知る専門家はもっとどんどん参加していくべきであって、官僚や大企業の社員といった専門家が参加していかなければ、集合知はより良いものになっていかない。

 実際、先に紹介したウィキペディアのガイドラインも、自分自身について書くことを禁止しているのではなく、「いつも以上に注意を払い、あるいはそれを控えなければなりません」と控えめに忠告するのみに留まっている。

 そうなると問題は、先に挙げた3つのポイントの2番目ーー情報操作という行為の倫理の分野に移ってくることになる。言い換えれば、編集という行為の「意図」と「内容」を切り分けられるかどうかという問題だ。

 ちなみにウィキペディアのガイドライン自身は、「それは切り分けるのは難しい」というスタンスに立っているように思われる。自分自身について書くべきではない理由として、ガイドラインは「中立的な観点に関する問題」「検証可能性に関する問題」「独自研究に関する問題」という3つの問題点を挙げているからだ。それらはわかりやすく言い換えれば、次のようなことだ。

(1)自分自身について書くと、中立的な観点に立ちにくい。
(2)情報源が自分自身となってしまうと、他の人間がその情報を検証できない。
(3)自分自身について書いたことは「独自研究」(オリジナル・リサーチ。未発表の事実や理論、主張によってまとめられた研究。信頼できる媒体にまだ発表されていないもの全般を指すウィキペディア用語)になってしまう可能性がある。

 しかしながらこの「中立的な観点」が成り立っているかどうかというのは、きわめて微妙な判断になる。たとえば先の電子投票の問題点に関する編集は、情報としては正確で客観的だと私は認識しているが、書いた人が中立だったかどうかは知りようもない。たとえば電子投票を推進している部署と対立している部署の人間が、相手の部署の幹部を貶めるために書いた可能性だって、あり得ない話ではない。

 総務省に関して言えば、「総務省」という項目の中の「行政評価局」という部分。もともとは「各省庁の事務について、行政監察を行ったり国民からの苦情を行政相談で受け付けたりして、必要な勧告を行う。各省庁の政策や独立行政法人の事務については、各省庁又は各省庁に設置された評価委員会が自ら評価を行うため、行政評価局に評価権限はない」と書かれていたのだが、2006年6月19日に次のような編集が同省内部から行われた。

政策評価、行政評価・監視、独立行政法人評価、行政相談の4つが業務の主要な柱。
これらのうち、政策評価に関しては、制度を所管する制度官庁として政策評価制度全体の企画立案を行うほか、自らも政府横断的な評価機関として各府省の政策について政策の統一性・総合性を確保するための評価を行ったり、各府省が実施した自己評価の客観性を担保するためのチェックを行ったりしている。また、行政評価・監視に関しては、各府省の業務の実施状況を調査・分析した上で改善すべき点を洗い出し、具体的な改善方策を勧告しており、勧告を受けた機関では、行政評価局の指摘に沿った形で業務運営の改善がなされている。
行政評価局は各都道府県に出先機関(管区行政評価局、行政評価事務所など)を持っており、この調査網を駆使して全国津々浦々の政策実施や行政運営に関するデータを収集・分析し、評価活動を行っている。

 読みようによっては、行政評価局の職員が「評価権限はない」と書かれたことに腹を立て、「いや、評価権限はあるんだ」と書き換えたようにもとれる。となるとこの記事には、中立的な観点はあるのかどうか。このあたりの判断は難しいし、あまりにも微妙だ。つまるところ、嫌らしいほど明確に書き換えられているような事例(興味のある方は、たとえば北海道道庁からの高橋はるみ道知事についての編集をごらんになれば、その典型的事例がわかる。リンクはここから)を除けば、情報操作か客観編集かというのは、きわめて曖昧な境界の問題なのだということができる。

 ではこうした問題について、どう考えていけばいいのだろうか。私自身がどう考えているのかにについては、次回で述べてみたい。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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