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危機感のない出版業界

2006/08/03 15:48
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佐々木俊尚

現役ジャーナリストが、長年培ってきた取材経験などを通して、IT業界のビジネス動向から事件まで、その真相をえぐり出します。
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 マスマーケティングからナノマーケティング、パーソナルマーケティングへと広告手法が激動の時期を迎えている中で、どのようにしてメディア産業が生き残っていくのか。新聞社や出版社、テレビ局、ラジオ局などはさまざまに試行錯誤を重ねている。私もここ数年、メディア業界の人々と会い、彼らがどのように将来ビジョンを考えているのかを折りに触れて取材してきた。

 新聞社とラジオ局の危機感は、共通している部分がある。新聞社は、新聞の宅配制度という収益の柱が消滅することをきわめて恐れていて、「宅配がなくなったら新聞社は生きていけない」と思い詰めている。ラジオ局も同様で、音声というコンテンツを最大活用するためにポッドキャスティングを試み、あるいはコンテンツから派生するサブコンテンツを商売の道具にしようとしている。

 一方で、あまり危機感がないのがテレビ局と出版社だ。テレビ局は通信と放送の融合というキーワードがここ数年、盛んに語られ、また竹中平蔵総務相の私的懇談会では具体的な通信放送融合モデルについてさまざまに検討され、徐々に放送の世界にインターネット的なモデルが取り入れられようとしている。

 しかしそうは言っても、あいかわらずテレビ局の幹部や上級職員はそうした動きにはかなり無頓着である。彼らにとっては現在の最大の課題は、二〇一一年に地上派アナログが終了し、地上波デジタル(地デジ)に全面移行するこの巨大な変動をどうしのぐかであって、実のところ通信放送融合はまだ先のテーマでしかない。おそらく彼らがそう認識する背景には、痩せても枯れても年間二兆円といわれるテレビCM市場が厳として存在し、そう簡単には崩壊しないだろうという楽観的推測があるからだろう。いずれにせよ、それが楽観的観測かどうかはこれからの推移を見守らなければならない。

 では出版社はどうだろうか。

 雑誌に関して言えば、かなり危機的状況にあるということは断定できる。 電通は毎年、「日本の広告費」という統計調査を発表している。各媒体の広告費がどの程度のオーダーに達しているのかを知る材料としては、国内では最も権威のある数字だ。それによれば、二〇〇四年の広告費は五兆八五七一億円で、前年比一〇三パーセント増。内訳はテレビが二兆四三六億円、雑誌が三九七〇億円、そしてインターネット一八一四億円、ラジオ一七九五億円で、この年初めてインターネットの広告がラジオを上回った。

 ネットの広告の増加は著しく、二〇〇六年二月に発表された二〇〇五年版日本の広告費(総額五兆九六二五億円)では二八〇八億円に達し、雑誌の三九四五億円を完全に射程内にとらえた。このままの勢いが維持されれば、二〇〇六年はネットが雑誌を超えるのはほぼ間違いない。

 そうなると、何が起きるか。これまで雑誌の広告はマス広告が主体で、効果測定はほとんど行われてこなかった。つまり「たぶん雑誌に広告を出せばブランディングに効果があり、商品も売れるだろう」という期待値だけで維持されてきたのである。ところが広告費でネットが雑誌を抜くという事実が目の前に突きつけられると、広告主の意識は間違いなく変わってくる。雑誌広告に対する幻想が崩壊し、いよいよ広告は雑誌からネットになし崩し的に移行していくのではないかと思われるのである。

 その意味で、二〇〇六年は雑誌広告にとっては崩壊の序曲の年であり、ネット広告にとっては新たな躍進の年になる可能性が高い。

 本来、雑誌広告はテレビや新聞に比べれば、セグメント分けしたナノマーケティングに適した媒体のはずだ。だからテレビや新聞に比べてネット時代においても生き残る可能性は決して小さくないはずなのである。

 ところが、出版社の取り組みは遅々として進まない。危機感いっぱいの新聞業界とくらべると、その差は歴然としている。

 おそらくその差は、企業規模の大きさの違いもあるだろう。出版社は大手であっても企業規模がきわめて小さく、売上規模はあまり大きくない。実のところ書籍部門でミリオンセラーを一発出せば、社員の給料は十分に払うことができ、会社としてしばらくは生き延びることができてしまう。宅配制度によって安定はしているけれども、逆に収益が急増する当てがない新聞業界に比べると、圧倒的に「水商売」なのだ。

 そして水商売だからこそ、出版業界はわりあいに気楽な商売であるということは言えると思うのである。この話、もう少し続く。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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