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IBMのサービスサイエンスとMOT

2005/08/29 11:30
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 今回は今年5月に米IBM社が、米国のMOTコースを持つ有力大学にカリキュラムを提供すると発表を行った、「サービス・サイエンス」とMOTについてです。

 「サービス・サイエンス」の話をする前に、IBM社が「サービス・サイエンス」という学問領域への取り組みを発表した背景として米国の経済構造の変化について説明をします。

経済構造の変化

 「産業構造」という言葉を聞くことがあります。産業構造とは、経済全体に対する個別産業の組合せの状態を表していて、経済構造は各産業の生産額、就業人口数、所得、資本量、需要条件、技術水準などによって決定されます。産業構造は国の経済発展とともに、

 第1次産業:人間が自然界から必要な物質を手に入れる。農業など
 第2次産業:手に入れた物質を加工する。小麦をパンにする等の製造業
 第3次産業:加工した物質を配分するなど第1次・第2次以外全部の産業

の順番に発展するといわれています。

 下図を見てわかるように、アメリカの産業構造も1960年に約60%だった第3次産業が1993年には80%弱にまで増加しているのがわかります。日本もアメリカと約20年の間隔を空けて同様の変化をしてきています。

アメリカの名目GDP構成比

GDP_US_s.gif

日本の名目GDP構成比

GDP_JP_s.gif

GDP_Dif.GIF

財務省資料より作成

 大学等での学術分野も、産業の変化に合わせて、もしくは一足先に変化を続けています。

 第1次産業が中心だった時代は、農業経済学など農業に関連した学術分野が活発でした。その後、第2次産業を中心とした産業構造になると生産工学(伝統的MOTの分野)や電子工学が活発になり、その後コンピュータ・サイエンスの研究が活発になりました。しかし、明らかに現在の米国経済は1960年と比べると、第3次産業の占める割合が大きくなっているのですが、この第3次産業について、特にサービスに関する学問というのはまだ体系化されていないのが現状です。この産業構造の変化が、今回IBM社が「サービス・サイエンス」への取り組みを発表した背景の1つになっています。

サービス・サイエンス

 IBMが今回発表した「サービス・サイエンス」とはどういう学術分野なのでしょうか。まず「サービス」という言葉ですが、非常に広い意味を持っていて、レストランやホテルから医者や弁護士まで様々な業種が含まれます。ITビジネスも同様、「サービスビジネス」という言葉が以前に流行りましたが、定義が不明確な部分もありました。

 IBMは「サービス」を下記のように定義しています。

 A service is a provider/client interaction that creates and captures value.
 サービスとは顧客と供給者との間で、価値を作り出し得るための相互作用である。

 さらに他の言葉を引用して

 Intangible and perishable… created and used simultaneously. (Sasser et al, 1978)
 無形かつ滅びやすく、作られると同時に使われる。

 All economic activity whose output is not physical product or construction (Brian et al, 1987)
 物理的な製品もしくは構造物を除いたすべての経済活動

 医者と患者の関係がサービスの例としてあげられます。医者は医療というサービス(無形)を患者に提供し病気などから回復をさせ、それに対して患者は診察料を支払うのです。「サービス・サイエンス」とは、この無形であるサービスを体系化した学術分野です。

 「サービス・サイエンス」には、コンピュータ・サイエンス、オペレーションズ・リサーチ、インダストリアル・エンジニアリング、ビジネスストラテジー、経営工学、社会科学、および法律学の各分野で現在行われている研究が取り入れられることになります。余談ですが、米国のNational Academic Reportによると、IBM社は1950年代に学問の一分野としてコンピュータ・サイエンスを作りだす上で、重要な役割を果たしたと言っています。

 特にIBM社は大きなチャンスを秘めているサービス分野として、ITとコンサルティング分野をあげています。インターネット等のIT技術の利用により急速に進んだビジネスの変化を、体系的に研究することにより、さらなる進歩が期待できると考えていると考えられます。

 IBM社は今回、ビジネス・人・ITに関する包括的なサービスに関する知識を持った人材が現在の産業構造で重要なのですが、その人材が不足しているとして、MOTコースなどを持つ有力大学に対して、「サービス・サイエンス」学科の設立支援に乗り出したのです。現在MITスローン経済学大学院やUCバークレー ハースビジネススクールのMOTコースなどが参加をしています。

MOTとの関係

 以前にも説明をしたように、MOTは技術と経営をブリッジします。現代の経営において顧客を中心としたビジネス形態というのは重要かつ当然のものになってきています。このとき企業と顧客の間は一方的な関係ではなく相互関係でなければなりません。

 顧客を中心とした相互関係という考えは、マーケティングにおいても近年言われていることです。よくマーケティング用語の4P(Product, Price, Promotion, Place)を聞かれるかと思いますが、これも最近では4C(Customer Value, Customer Cost, Communication, Convenience)と供給者と顧客との相互作用で、両者の価値を生み出すという考え方に変化しています。MOTに関しても同様の考えからできた分野で、技術を元に製品を作り販売するのではなく、技術とユーザの相互作用でお互い価値を得るということを体系化する学術分野なのです。

 MOTに関して、私の所属しているゼミの寺本教授も著書で、「ものづくりから、ことづくりへ」と書かれています。「サービス・サイエンス」もこの言葉を志向していると考えられます。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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