自称ケータイビジネス・エキスパートの私は、日々モバイルを使った新たなサービスを模索し続けています。そんな中、『第1回拡張現実(AR)サミット ~仮想と現実のあいだ~』に参加してきました。イベントではARでサービスを展開されているいくつかの企業さんが登壇され、実際のサービス紹介や最近のARの動向を聞くことができたのですが、これが本当に勉強になりました。今回は同イベントを通じて私が感じた(現時点の)ARサービスの問題点とその改善策についてまとめてみたいと思います。
ARサミットのプログラムの詳細はこちらのfacebookページをご覧ください。

ビジネス面で見たARサービスの現状
ARサービスは国内だけで見ても既にかなりの数(主にスマートフォンアプリ)が提供されています。同サミットでも幾つかのサービスの紹介がありました。
「何がARサービスにカテゴライズされるか?」ということは、ARの定義自体が明確ではないのでここでは議論しませんが、この記事におけるARサービスとは、「スマートフォンとそのカメラを使用したバーチャルサービス」とご理解ください。
私は現時点のARサービスを(作り手の視点から)ビジネス的な観点で大別すると以下の2つに分けられると考えています。
- 1.『ソーシャル+エンタテイメント』をサービスの中心にしたB2Cサービス
- 2.集客・販促向けのツールとして提供されるB2B2Cサービス
わかりやすくいうと1はARを絡めたゲームで、2はイベント会場など行うARを使った販促です。感覚値になりますが、1でブレイクしたサービスは未だ無く、まだマネタイズが十分ではないようです。2は企業の販促イベントなどにおいてたまに使われており、開発元はそのフィーでぼちぼち商売をされているように見えます。しかし、2のサービスがブレイクしているかといえばそうではなく、『販促キャンペーンの味付け』としての利用に留まっているのが現実のようです。
この2つのビジネス形態をつぶさに観察すると、『ARサービスの位置づけ』に明らかな違いがあることに気づきます。1はARをサービスの中心に据え、ユーザーが自発的にサービスを使用するための”動機”をサービス内部に構築しようとしています。それに比べて2ではARはサービスの中心ではありません。ARは限定的な状況下で、ある”必然性”を持って使用され、サービス全体を強化するための道具と位置づけられます。
よくARというと、「位置情報ベースかビジョンベースか」という技術的な面に論点が集まりがちですが、私はそうではなく「動機ベースか必然ベースか」を考えるべきなのではないかと考えています。以下に私の考えの詳細を説明します。
AR最大の問題点は必然性の欠如
ララコレ2を開発されているレイ・フロンティアの田村さんは発表で、「ARサービスには必然性が無い」と仰っていました。これはどういうことかというと、ARサービスを成立させる条件の一つに、『ユーザーがカメラをかざす』というものがありますが、ユーザーにこの行動を起こさせるための”必然性”を与えることにどのサービスも失敗しているということです。ララコレ2は上述の1に分類されるサービスなので、サービス中に多くの動機付けを仕込んでこのハードルをクリアさせようとします。そいう意味ではセカイユウシャやiButterflyなども同じで、エンドユーザー向けのARサービスは全てこのハードルをクリアしようと模索しています。

2は1と比較すると動機ベースではなく必然ベースでARを使用します。2においてARはサービスのメインコンポーネントではありませんが、重要なのはそこではなく、「ユーザーがARを必然的に利用するようにサービスが設計されている」というところです。2においてユーザーは『カメラをかざす』という動機を全く持っていません。しかしサービス全体が、カメラをかざさなければ成立しない、あるいはカメラをかざしても違和感がないように設計されているため、ユーザーは動機無しでARを利用しようとします。この点は1と2を分ける大きな違いといって良いでしょう。
登壇したクウジット株式会社の末吉さんは「(全体が)デザインされたサービス中に、ARを組み込んだ際のユーザー満足度は抜群に高い」と教えてくれました。ARサービスは現時点で抜群のユーザー体験を誇っています。現実には無いビジュアルがカメラの中に現れた時の驚きはユーザーに新鮮な衝撃を与えます。このユーザー体験の高さこそが現時点のARサービスが持つ有効な武器なのですが、この体験を得るためには前述した”カメラをかざす”という行為をユーザーにさせなければならないのです。
そして、現時点でARサービスは動機ベースでこの壁を超えられていません。これは乱暴に言ってしまうと、「カメラをかざす抵抗感は『面白いゲームをプレイできる』、『アイテムをコレクションできる』、『ユーザー同士で面白い交流ができる』などの人参をぶら下げた程度では越えることができない」ということです。まさにこれが動機ベースのARサービスが壁を突破できない理由なのです。
乱暴な言い方ですみません・・
しかし、必然ベースのARサービスはこの壁を超えています。これは重要なポイントだと思います。つまり「ARサービスを普及させるには一定の必然性が必要」といえるのではないでしょうか。そしてその必然性はユーザー発生の動機では作り出せないということなのです。
少くとも現時点では・・です。
必然ベースとリアルトリガーの関係性
私は「ARサービスを成功させるポイントは必然性の創造である」との仮設を立てました。では必然を創造するにはどうしたらよいのでしょうか? クウジット株式会社の末吉さんは「いろいろやってわかったが、ITソリューションだけではARサービスはうまくいかない。おそらくはリアルトリガーがないとAR使う動機がないであろう」と仰っており、私はこの言葉に感銘を受けました。これは、「ITソリューション(=バーチャルサービス)だけでARサービスを使う必然性を生み出すことはできないので、必ずリアルなサービス絡めなさい」という意味です。より具体的にいうと以下のようなことです。
- - イベント会場でゲームに参加した際にARを使わないとミッションがクリアできない
- - ショールームで記念撮影をすると、ARで自分の隣にキャラクターが表示される
- - ある商品紹介のパンフレットにカメラをかざすと、バーチャル・コンシェルジュが商品の説明をしてくれる
多くの例が以下にて紹介されています。2011年8月15日追記:クウジットの末吉さんは私と同じくCNETのブロガーでもあります。末吉さんが書かれた、『AR(拡張現実)のビジネス化について』も合わせて読まれるとよりARへの理解が深まると思います。
ARサービスを考える時、我々ITベンチャーの人間はバーチャルな世界でけで完結させることを考えがちです。しかし実際はリアルをトリガーが無いと必然性を生むのは難しいようです。1のサービス事業者がユーザーを集めるのに苦戦しているところを見ると、あながち間違いではないのではないでしょうか。
必然性を創造するには
仮にこの仮定が正しいとなると、ARサービスには『リアルをトリガーとした必然性』をデザインする必要があります。しかしリアルトリガーをサービスに埋め込むということは、サービス提供者側が前もって段取りを整えておかなければならないことを意味します。そしてそれは、限定された状況下でなければ実現させることは難しという側面があるのです。
カメラをかざす必然性を持ったシュチュエーションは日常そうあるものではありません。その上、サービス提供者はこの限られたれらシュチュエーションに前もって”仕込み”をしておかなければなりません。このことは多くのユーザーに利用されることを想定したサービスの場合、かなりの足かせになってきます。仮にサービス提供範囲(=シュチュエーション)を国内だけに限った場合でも、これに対するには相当なリソースが必要です。現存する2のタイプのARサービスはこの問題がクリアできないからこそ、限られた場所で開催される販促キャンペーンでしか使用されないだと思われます。
では、「やはりARサービスをスケールさせることはできない・・」かというと、そうでもない気がしています。私の考えをいうと、この足かせは、広くリアルサービスを展開している企業とアライアンスすることで解消できる可能性があります。例えば旅行会社やリゾート施設、テーマパークなどでしょうか。旅行やリゾート施設、テーマパークであればカメラをかざす必然性が生まれます。しかし、ARサービス提供者が全ての観光スポットやテーマパークに、予め仕込みをするのは現実的ではありません。そこを旅行代理店やイベント会社の力を借りて補完するというやり方です。この作戦で広い市場面積を確保し、サービスがティッピング・ポイントを超えたら、今度はARでコレクションしたアイテムをユーザー同士で交換するなど、サービスの2次利用ができる可能性が生まれます。
これはもちろん簡単な話ではありません。
しかし、私が今回のARサミットでお話を聞いたところ、
- 1.多くの会社さんは1のサービスで広くユーザーを取りたいと考えている。
- 2.しかし必然性の欠如によってユーザーを確保することが出来ていない。
- 3.結局まあまあ上手くいっているのは狭い範囲で必然性を展開できている2のサービスだけ。
- 4.そして、1、2のどちらもユーザー数が取れないので本当にやりたいと思っているソーシャル化をうまく展開できていない。
のような状況に陥っているように感じたのです。そしてこれを打破するため、私なりに考えた案が、
- 1) リアルサービスを広く展開している企業とアライアンスし、リアルトリガーを実現できるリソースを確保する
- 2) 必然性があるシュチュエーションにリアルトリガーを仕込み、ユーザーに高度なAR体験を提供する
- 3) この手法を広く展開しユーザーを集める
- 4) ティッピングポイントを超えられそうであれば、本来やりたかったサービスのソーシャライズを行う(ただしそのためのサービスデザインは前もってやっておくこと)
という流れです。少なくとも私にはいきなり 4) に行くよりは勝算があるように思えました。
これを実現するには(当然のごとく)リアルサービスを展開している企業側にメリットがないとダメですが。。 今回の記事ではその点までは十分に考慮できていないです。
まとめ
今回はARサービスをビジネス面から大別し、それぞれの特徴や問題点を整理しました。そしてARサービスに必然性を持たせ、その上でサービス規模をスケールさせる方法を提案しました。
当たり前ですが私の仮説が正しいかどうかはわかりません。特に「ARサービスには一定の必然性が必要」という点に関しては、「少なくとも現時点ではそう見える」というだけで、近い将来、カメラをかざすことを意に介さないほどの魅力(=動機を与えられる)を持ったサービスが生まれる可能性も否定できません。本当は私としても必然性を創出するためにわざわざ他の企業とアライアンスをするのではなく、もっと皆が気軽に動機ベースでARを利用する世の中になってほしいと願っています。
ちなみには私自身は、人前でカメラをかざすのはなんてことありません(笑)。この記事を読まれている読者の方もきっとそうなのではないでしょうか。
最後に今回のサミットを通し、多くの貴重なお話を聞く機会を作って下さったレイ・フロンティア株式会社様に感謝の意を伝えたいと思います。本当に有難うございました。そしてARに携わる全ての方に申し上げます、本記事で空気を読まず生意気ばかり申し上げてすみませんでしたm(_ _)m
外野からの一意見と捉えて頂ければ幸いです。