「ケータイビジネス・エキスパート」を自称する私が最近気になっていることがあります。それはドコモマーケット(iモード)です。このサービスはもしかすると日本の全キャリアに影響を与え、ガラケーをもう一度復権させる起爆剤になるかも知れません。
今回はそんなポテンシャルを秘めた、ドコモマーケット(iモード)について少々掘り下げてみたいと思います。
■ドコモマーケット(iモード)とは?
ドモコマーケット(iモード)とは簡単にいうと、appleのAppStoreのiアプリ版です。ドコモがiアプリの復権を掛けて2010年11月(推定)から開始するサービで、主として iアプリのオープン化 をうたったサービスです。
10/21にドコモから、iモードマーケットのサービス開始時期が2010年12月上旬という発表がありました。
出典:「【DRAFT】ドコモマーケット(iモード)サービスガイドライン(0.8版)」
以下にドコモマーケット(iモード)の特徴をまとめます。
サービス面での特徴
1.アプリの単体販売が可能
- - (公式アプリなのに)サイト登録せずにiアプリをDL販売できるようになった
- - (以前からできたが)Starプロファイルを使用すればアプリからの課金も可能
2.個人によるアプリ提供が可能
- - 法人(=携帯CP)だけでなく個人でのアプリ販売/サービス提供が可能になった
- - これに伴い、ドコモによるiアプリの審査が簡素化された
- - (ドコモの取り分である)手数料が 30%→20% になった
3.iアプリのための新たな集客経路を構築
- - iMenuにドコモマーケット(iモード)専用のページを用意し本格的な集客を開始
- - 同ページにレコメンドやレビュー機能を実装しアプリを見つけやすいように配慮
- - (オススメアプリ等)PCサイトからの集客も行う予定
4.柔軟な課金体系を用意
- - 決済手段は「iモード情報料」ではなく「ドコモケータイ払い」を使用
- - ドコモポイントによる決済が可能に
5.アプリ内広告を解禁
- - アプリ内での広告表示が可能に
- - これに伴いアプリ内アドネットワーク構築も解禁
技術面での特徴
- 6.専用のiアプリダウンロードサーバーをドコモで用意
- 7.トラステッドAPIを開放(一部制限あり)
- 8.商業用APIへの接続を許可
上記の特徴は「オープン化」というキーワードに即しており、ドコモがiアプリのオープン化を高らかに宣言するのも頷けます。しかし所感としてはやはりAppStoreの二番煎じであり、それほどの目新しさは無いと云わざるを得ません。率直な感想としては「ドコモもようやく腰を上げたか」というところでしょうか。
しかし逆に考えると、成功したAppStoreのモデルを(素直に)取り入れているというこの事実は、同サービスに賭けるドコモの並々ならぬ決意を漂わせています。
■特筆すべき特徴
様々な特徴を持つドコモマーケット(iモード)ですが、中でも私が「際立った特徴」と考えるものを以下に紹介します。
3.新たな集客経路を構築
私の周りの(モバイルビジネスに造詣が深い)人間に、「iアプリがiPhoneアプリのようにヒットしなかった理由って何だと思う?」と聞いたところ、何人かから「到達導線が長いことだ」という答えが返ってきました。なるほどこの回答には説得力があります。
実は到達導線には2つの意味があります。それは「探索導線」と「起動導線」です。
探索導線は文字どおりそのアプリを探す導線のことで、従来のiアプリではこれが未整備であったと云わざるを得ません。そもそもこれまでiアプリは単体で存在する性質のものではなく、どちらかというと「サイトのおまけ」という立ち位置でサービスが行われてきました。そのせいかiアプリ専用の探索経路は整備されること無く今日に至っています。
今回iMenuに新たに専用ページが用意され、レコメンドやレビュー(もしかしたらランキングも?)なども整備されれば、ユーザーがやりたいことを実現してくれるアプリや、その存在自体が面白いアプリに到達する導線は確実に短くなり、iアプリを利用するユーザーも増加するでしょう。
もう一つの需要な「起動導線」に関しては後述します。
4.柔軟な課金体系を用意
課金体系で最も興味深いのはドコモポイントによる支払いが可能になったことです。この仕組の導入はユーザーとドコモ、両者にとってWIN-WINとなる可能性を秘めています。
これまでドコモポイントの使い道といえば端末を購入した場合の補填費用として使われることが一般的だったと思います。ところが2007年行われた販売奨励金制度の見直しによって端末の購入料金が高くなってしまい、ユーザーの端末買い替え頻度は激減、それに伴ってユーザーがドコモポイントを消費する機会もめっきり少なくなってしまいました。その結果、現在大量のドコモポイントは未使用のまま市場に放置されています。
日本の会計慣習に習うと、企業が発行したポイントのうち未使用ものはポイント引当金として期末に計上され、発行企業の負債となります。現在、ユーザーの買い替え需要の伸び悩みによって市場に放置されたポイントはドコモの会計を圧迫しつつあります。もともとドコモのポイント引当金の負債総額の高さは有名でしたが、ことここに至ってはこの負債が経営に重くのしかかって来ているようです。昨年度のドコモのポイント関連費の負債総額は1,595億円で連結営業利益を6%押し下げる要因になっています。
- 参考情報:声に出して英語で読みたい国際会計基準
- 参考情報:監査であそぼ。
ドコモマーケット(iモード)でのドコモポイント支払いは、ポイントの使い道に悩むユーザーとポイント引当金の増加に悩むドコモの両方にとってメリットがあります。これが上手く回り出せば、(単純計算で)1,000億円以上のポイント利用市場が誕生する可能性があるのです。
まあそんな単純ではないと思いますが・・
7.トラステッドAPIを開放(一部制限あり)
元エンジニアの私としてはこの点も気になります。ドコモマーケット(iモード)ではこれまで面倒な申請が必要で使う気にもなれなかったトラステッドAPIの一部が開放されており、より自由度の高いアプリが作れるようになっています。詳細は別資料に譲りますが、中でも、
- - 電話帳、発着信履歴、メールデータ、トルカデータの参照
- - 位置情報APIの利用
- - Blutooth APIの利用
はかなりの英断であり、iアプリ市場を活性化させる起爆剤となるかも知れません。
個人的な希望をいうと、FeliCa関連APIとクラスローダー利用も開放してくれると、より面白いサービスを展開出来る可能性があると思っていますが、セキュリティ上の理由により見送ったのでしょう。
■しかし放置されたままの課題も…
実績のあるAppStoreの手法に学び、磐石の体制で望むかに見えるドコモマーケット(iモード)ですが、いくつかの大きな課題が残されていることも見逃せません。
短縮/共通化されていない起動導線
ドコモマーケット(iモード)でアプリの探索導線が劇的に改善されている点については既に言及しました。しかしながらもうひとつの起動導線についてはなんら改善されていないことが気になります。そしてこの起動導線が短いことが、iPhoneアプリにあってiアプリに無いものであると私は考えています。
iPhoneはOSとアプリの関係は非常に明瞭であり、ユーザーはアプリだけ意識すれば良いように作られています。そしてそのアプリは画面上に常に表示されており、アプリを起動するまでの導線は(フォルダを除けば)1ステップに過ぎません。しかし翻って、iアプリを見てみるとアプリを起動するまでに数ステップを用することに気づきます。しかもiアプリは、電話帳、カメラ、WEBなどの携帯電話の各種機能と並列な概念ではなく、機種によってはユーザーが撮影した写真や画像データ等と同じく、ユーザーデータの一部として扱われ、データフォルダの奥深くにiアプリが存在するケースさえあります。
端末がこのように作られている場合、ユーザーがアプリを起動するステップはどうしても多く、そして複雑になってしまうのです。更にいうとその起動導線が(機種間で)共通化されていないことも非常に問題です。つまり、「このような環境下ではユーザーのiアプリを起動するモチベーションは育ちにくい」というのが私の考えです。
iアプリがiPhoneアプリ並に支持されるには、この起動導線の短縮と共通化を実現する必要があると私は考えています。しかしここまで独自に進化を遂げてしまった日本の端末に今更それを求めるのは無理でしょう。そういう意味ではこの問題点は未来に渡って解消されることはないと私は見ています。
「機種依存との戦い」からの脱却策が無い
起動導線の問題と同じぐらい厄介なのがこの機種依存問題です。これは主に作り手のから見た問題ですが、優良なアプリを広く提供するためには明らかに弊害となります。現在のiアプリは私が現役でiアプリを製造していてた5,6年前と比べてだいぶ機種依存性は減っています。しかし相いも変わらず作り手が頭を悩ませなければならないのは、機種毎の液晶画面サイズの違いから来る描画領域の機種依存問題です。
液晶サイズの違いはいい意味でのハードの差別化の代償として必ず発生する問題ですが、OSベンダや携帯キャリアはそのような問題が想定される場合、OSレベルでその依存を(一定)吸収してくれる仕組みを用意するべきだと考えます。現在、上述したiアプリの機種依存問題はアプリの提供者側の個別の努力によって吸収されている状況です。この事実はアプリ提供コストの高騰など、アプリ提供者のサービス向上/継続意欲を著しく削ぐため、ミドルウェアの提供など何らかの方法で解消して欲しいものです。
マジョリティーが持つiアプリのマイナスイメージ
iモードが提供されて10年経ちますが、その間にユーザーには「iアプリは使いにくいもの」、サービス提供者には「iアプリは儲からないもの」というイメージが蔓延しています。私はiアプリがもう一度復権するには、一定の費用を投下してこのイメージからの脱却を図る必要があると考えます。
私の周りのiPheone未保有の女性陣にiPhoneアプリの印象を聞くと、「なんとなく面白そう」という印象を持っている人が多いです。私自身多くのiPhoneアプリを利用してきましたが、その中には「ただ先進的なだけの面白アプリ」も多数ありました。そしてそれらのアプリはappleの洗練されたCMとあいまって、人々に上記の印象を植えつけているようです。そして(これが重要なのですが)この印象はiアプリには無いものです。
iPhoneを始めとするスマートフォンの現時点の出荷台数は234万台で国内で普及しているモバイル端末の7%程度といわれています。つまりまだ先進好きのアリーアダプターのみが使用している状態です。しかし2010年6月時点のiモード契約者数は4,906万であり、その数はまさに桁違いです。そしてこれが最も重要な点ですが、ドコモ端末の保有者はレイトマジョリティーにまで及んでいます。一般的にアリーアダプタはイノベーターからの情報を元に、自分の願望を叶えてくれるサービス及び技術を欲しますが、マジョリティーは先行事例と製品イメージによって購入を決定するといわれています。そのようなマジョリティー群にiアプリが受け入れられるためには、
- - iアプリならではのメリットを教えてくれる優良かつ多数の先行事例
- - 上記を加速させるためのブランドイメージの構築
等が重要になってくるのではないかと考えています。
ただし「キャズム」でいわれているとおり、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間には深く大きな溝が口を開けています。既にマジョリティーにまで広まっている(端末という)プラットフォーム使って、ドコモがどうやってこのキャズムを超えるのか非常に興味があります。
参考情報:ウエブ戦略.com 「キャズムとは?」
おわりに
以上、ドコモマーケット(iモード)についていろいろと批判めいたことも書きましたが実は私自身はこのサービスがヒットし、他の国内携帯キャリアも同様のサービスを真似してくれることを望んでいます。世界的に見ても今後はスマートフォンの台頭は避けられないでしょう。しかしそうなる前にもう一度だけ大きなスケールで「ガラケーの復権」が起こるのも市場的に面白いのではないかと思っています。
今回はそのような私個人の希望もあって、あえてドコモマーケット(iモード)を題材に記事を書いてみました。本記事が日本の携帯CPのビジネス機会の一つとなれば幸いです。
参考情報:
- http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20100712/350179/?ST=iappli-dev
- http://labs.techfirm.co.jp/iappli/530
- http://ke-tai.org/blog/2010/08/31/docomo_market_tool/
- http://www.nttdocomo.co.jp/service/imode/make/content/spec/iappli/index.html