最近ソーシャルアプリに関するPOSTが多かったので、たまには別の事について書きたいと思います。
今世間で盛り上がっているサービスといえば、「位置情報」と「グルーポン系」のサービスです。 私はモバイルビジネス・エキスパートを自称していますが、位置情報サービスはモバイルと切っても切れない関係です。ということで今日は位置情報サービスについて考えてみたいと思います。
日本と米国での位置情報サービスの盛り上がり
ここ最近、国内で次々と位置情報サービスがリリースされています。以下はiPhoneをメインとして展開している主な位置情報サービスです。
ごく最近ではmixiチェックが登場しました。そしてこのサービスの出現を機に、国内の位置情報サービスは新たな局面に突入する可能性があります。
mixiチェックについてご存じない方はこちらをご覧ください。
mixiチェックは位置情報に限定されたサービスではありませんが、モバイル機器と併用することで自分の興味のある場所をmixiの友人に共有することができます。これはつまり「ソーシャルグラフに位置情報をアタッチできるようになった」ということを意味します。
そもそもこの流れは米国を発端としており、本場米国では数年前から同様のムーブメントが起こっていました。それはfoursquareを代表とする位置情報サービスの台頭とfacebookの位置情報市場への参入(facebook places)です。そして最近ではtwitterやgoogleも同市場への参入を表明し、位置情報サービス市場の勢力争いはますます激化しています。
facebookがもたらしつつある変化
先に私は「mixiチェックの登場で、国内の位置情報サービスは新たな局面に突入する可能性がある」と書きました。これはいったいどういう事なのでしょうか? その答えはfacebookの同市場への参入に見ることができます。
【 facebook places 】
現在facebookは「位置情報サービスのプラットフォームになろうとしている」と云われています。これについてはTechWaveの湯川さんが以下の記事でわかりやすく説明してくれています。
facebookは自身の持つソーシャルグラフを使って位置情報の世界をも牛耳ろうとしています。この事は既にネット世界の住人であれば誰しもが知るニュースですが、このfacebookの行動の真意についてハッキリと理解している人は少ないかも知れません。
ここでちょっと話がそれますが、そもそも位置情報サービスには2つの潮流があることをご存知でしょうか? その潮流とは以下の2つです。
?自分の友達に自分の興味のある場所を共有する
これは既存のソーシャルグラフに "場所" という概念を持ち込み、ソーシャルグラフを強化する行為です。これはmixiチェックやtwitter placesで実現されています。
?自分のいる場所の近くにある、人、モノ、情報を介して人と繋がる
これは場所を起点としたサービスが採用している考え方で、foursquareに代表されるチェックイン系の位置情報サービスのスタイルがこれにあたります。
それぞれのサービスはお互いの影響を受けながらも独自に進化してきました。しかしここに来てこの2つの潮流は融合しようとしています。そしてそれを牽引しているのがfacebook placesです。
最近公開されたfacebook places APIが提供する主な機能は以下の三つです。
- a. The Places to 『News Feeds』
- b. People Here Now
- c. Tag friends with you
詳しくはこちらをご覧ください。
ここで注目すべきはaとbです。
aはなんらかの情報に場所情報をアタッチし、それを友達に共有するための機能です。これは従来のfacebookで提供されて来たサービスの延長であり、?を実現します。bは今いる場所にチェックインしているユーザーのリストを取得する機能です。そしてこれは?を実現します。
単純に考えればfacebookが位置情報サービスに参入するだけであれば、facebook places APIの機能はaとcで良かったはずです。しかしfacebookはbの機能も提供するという決断をしました。そしてこの決断こそがfacebookを位置情報プラットフォームに押し上げるための秘策だと私は考えています。
「People Here Now」がfacebookにもたらすもの
1ヶ月ほど前、foursquareとGowallaはfacebook places APIを使用し、facebookをプラットフォームとした位置情報サービスのサードパーティーとして参加することを表明しました。
詳細は以下のURLをご覧ください。
これはいったいどういう事なのでしょう?foursquareやGowallaは自らの力で位置情報のプラットフォームになる可能性もあったはずです。なのに何故彼らはfacebookにあっさりとその座を譲り渡し、自身はサードパーティーとなる道を選んだのでしょうか?
そしてfacebookは何故こうも簡単にfoursquareやGowallaを出し抜き、プラットフォームの座を手に入れることができたのでしょう?
その答えはfacebook places APIの機能bにあると考えられます。facebook places APIの機能がa,cだけであれば、facebookはおそらくプラットフォームになれなかったでしょう。しかしbの機能を提供することによって、一気にプラットフォームの座へと躍り出るチャンスを得たのです。
その理由を理解するために、我々もfacebookとfoursquareやGowallaのCEOの気持ちになって考えてみましょう。
サードパーティーから見るとfacebookのユーザー数とソーシャルグラフは非常に魅力的です。これまで自力で集めようとしていたユーザーはfacebookをプラットフォームにするだけでもうそこに存在します。またこれまでfoursquareやGowallaが血の滲むような努力によって構築してきた、?のサービスはfacebook places APIのbによっていとも簡単に構築することができるようになり、新規参入組の台頭を許すリスクが発生しました。この流れを不可避と考えた既存の位置情報サービス提供者達は即座にfacebookのサードパーティーとなり、「先行者利益を得る方が得策」と考えたのです。
ではfacebookにとって位置情報サービスのプラットフォームになることはどんな意味があるのでしょうか?
実はfacebookはfacebook places APIのbの機能の提供によって、自身のソーシャルグラフを拡大する可能性を手に入れています。そう、bの機能により実現される?のサービスは、新たなソーシャルグラフを形成するきっかけとなるのです。
あなたはfoursqareやGowalla(もしくはロケタッチやはてなココなど)で自分がよくチェックインする場所にいつも同じ人がチェックインしており、その人に対しフォロー/友達申請したことはありませんか? 実はこの行為はソーシャルグラフの拡大に他なりません。"位置" という存在を介し、新たなソーシャルグラフが形成されています。
考えてみれば位置を起点としたソーシャルグラフの拡大は現実世界でも見られます。
- ・朝、いつも同じ電車に乗る人と挨拶した
- ・よく行く店でいつも会う人が話しかけて来た
これらはまさしく関係性の拡大であり、それらをソーシャルグラフとしてネットワーク上にも具現化しようとする発想は非常に自然です。facebookはプラットフォームとしてサードパーティーにbを提供すれば、新たにソーシャルグラフを拡大するチャンスが得られる事に気づいたのだと思われます。
上述したfacebookとサードパーティ、それそれのメリットをまとめると以下になります。
- - サードパーティー:facebookのユーザーとソーシャルグラフを即座に手に入れることができる
- - facebook:サードパーティーへのbの提供によって、ソーシャルグラフを新たに拡大できる機会を得ることができる
うまくWIN-WINの関係ができていますね。サードパーティーにとってもこの申し出を断る理由は無いでしょう。facebookが位置情報プラットフォームになろうとしているのは、単に美味しそうな広告費が欲しいからだけではありません。そこには「ソーシャルグラフの拡大」というもう一つ狙いがあるのです。
日本の位置情報サービスのプラットフォームは誰だ?
現在の日本には位置情報サービスが乱立しています。私はこれらが綺麗に整理されるにはプラットフォームの存在が不可欠であると考えています。そして上述したように、そのムーブメントはプラットフォームとサードパーティー、両方の欲求を満たすのです。もしかしたら近い未来、あるSNSがソーシャルグラフの拡大を目的とし、facebook places APIのbに相当する機能をサードパーティーに提供し、国内の位置情報サービスを米国と同様の構図へと導くかも知れません。そしてそれは現在の位置情報サービスの勢力図を激変させることでしょう。
ただしそれを実現するにはSNS側がプライバシーの問題をクリアする必要があります。日本のユーザーは海外のユーザーよりも「自身の情報がどのように使われるか」について敏感です。位置情報サービスが単体で使用される場合と比べた場合、SNSと位置情報の融合は、非常に神経質な反応をもってユーザーに迎えられるでしょう。これは時間の経過と共に低くなっていくと思われるものの、プラットフォームにとって頭の痛い問題の一つです。
しかし私は日本のSNSは、その問題を背負ってでも国内の位置情報プラットフォームに名乗りを上げるべきだと思います。少なくともfacebookにこの領域を駆逐される前に何か手を打つ必要があると思えてなりません。
参考情報: