GREEのOPENから2ヶ月弱が経過し、業界の勢力図にも変化が出てきています。「えっ! この会社が」という会社がヒットを収めているかと思えば、「おっ、とうとう出てきたか」と思ったり、はたまた「ここ知らないなぁ」などソーシャルのプレーヤーさん達に対する感想は実に様々です。
そんなある日、職場の仲間に「どんなSAP(Social Application Provider)さんがソーシャルの世界で成功しやすいと思う?」と質問してみました。その時は何気なく聞いただけだったのですが、意外に議論が盛り上がり時間が足りなくなったので、後に別途MTGを設定して徹底的に議論するまでに発展しました。
今回から2回に渡ってその議論の内容を紹介したいと思います。今回の前編ではソーシャルアプリ市場の主要プレーヤーの分析、及びソーシャルアプリ市場のトレンドについて説明したいと思います。そして次回の後編では前編の内容を踏まえた上で、ソーシャルアプリ市場で成功しやすいSAPの素養について見ていきたいと思います。
尚、本記事で書かれている内容は、(議論の内容を元にした)全て私の私見であり、特に明確な根拠があっての発言ではないことをお断りしておきます。
ソーシャルアプリ市場に登場する主要プレーヤー
現時点で日本の主要SNSにアプリを提供しているSAPさんを観察していると、SAPさんもいくつかのカテゴリに分類できることに気づきます。本論に入る前に、まずは登場するSAPさんを(私見で)ざっくりカテゴライズしてみたいと思います。
SAPさんにとっては勝手にカテゴライズされて迷惑かも知れませんがご容赦ください。
1.携帯CP
日本のSNSはモバイルが主戦場なので、SAPさんには携帯サイト作成・運用のノウハウを持った携帯CPさんが多く見受けられます。今のところ携帯CPで成功を収めている会社はそう多くはありませんが、既にソーシャルアプリをリリースしている、もしくはリリースをする意志があるという意味でそれなりの数の会社が存在します。
2.ゲーム会社
最近ではGREE Platformに代表されるように(規模の大小にかかわらず)ゲーム会社さんのソーシャルアプリ市場への参入が目立っています。昨今は携帯ゲーム機(ニンテンドーDS等)のタイトルのダウングレード版をモバイル(いわゆるケータイ)に横展開することも多く、ゲーム会社さんがモバイルでの実績を積まれているケースも多いのです。そしてその延長線上でソーシャルアプリ市場に参入されることも少なくありません。
3.プラットフォーマー
日本のSNSはプラットフォーマー(以後『PFM』と呼称)がゲームを提供するケースも多く、SAPとしてのPFMも見逃すことができません。ただし特異な存在であるためSAPという意味で競合と認知されるケースは少ないですが、意識しておく必要はあると思います。
4.コンテンツホルダー
ライツを持っているコンテンツホルダー(以後『CH』と呼称)さんが開発会社さんと組んでソーシャルアプリを提供してくるケースも見逃せません。ソーシャルゲームはコンテンツという面では未だ認知力が低いため、いわゆる「キャラ物」を全面に押し出してアプリ化してくるケースがちらほら見られます。ただしこの手のSAPさんはモバイル及びソーシャルのノウハウが不足しているせいか、あまり成功した事例を聞いたことがありません。
5.海外SAP
Facebookや中国の大手SNSで実績のあるSAPが日本国内のSNSにソーシャルアプリを提供してくるケースです。多くの場合、日本法人を立ち上げその上で参入してきますが(買収もこのケース)、日本でのパートナーを探し出し、その会社経由でアプリを提供してくることもあります。しかしながら、SNSはオープンプラットフォームとはいってもPFMとの調整を一定行なう必要があり足場作りに時間が掛かるため、現時点ではそこまで頻繁に参入事例を目にすることはありません。
6.ソーシャル専業会社
このグループは大体2つのケースに分けられます。
- - 小規模な会社がベンチャーキャピタルの出資を取り付けた上で参入してくるケース
- - 日本のネット系の会社がソーシャルアプリ専門の子会社を立ち上げて参入してくるケース
会社立ち上げの経緯は上記のいずれかであることが多いのですが、どちらのケースもメインとなる事業が「ソーシャルアプリの開発・運営」なので "専業会社" といえます。立ち上がったばかりなので実績は乏しいですが、ソーシャルアプリに対する分析・研究に熱心な会社が多く、(個人として)優秀な方をよく見かけるグループです。
7.その他WEBベンチャー
WEB系のベンチャー企業が事業ポートフォリオ強化の一環としてソーシャルアプリ市場に参入してくるケースです。畑違いなこともあって、最初は様子見でサービスをしていることが多いのですが、軌道に乗り始めると6.のように専業化することもあるようです。このグループに属する会社は技術力が高く際立ったサービスを提供されていることが多く、これらの会社の参入のニュースを見ると、「やっぱり来たか!」という印象を持ちます。
業界勢力図
上記のプレーヤーで勢力マップを描いてみました。尚、この図も特に根拠があるわけでなく全くの私見です。
縦軸に[コンテンツ力]、横軸に[ソーシャルに対する理解]を取り、それぞれのグループの位置関係を表しています。ちなみに円の大きさはそのグループの(ソーシャルアプリマーケットでの)ポテンシャルを表しています。縦軸、横軸を上述の軸で取り、円の大きさに違いをつけたのはそれなりに意味があります。これについては後ほど説明します。
ソーシャルアプリ市場における現在のトレンド
図1に赤い矢印で「より成功しやすいポジション」と書いていますが、これは最近のトレンドを私なりに分析した結果です。ご存知の方も多いと思いますが、最近のソーシャルアプリ(特にゲームに限った話なので、ここからは『ソーシャルゲーム』と『ソーシャルアプリ』を区別せずに使用します)はコンシュマーのメジャータイトルの横展開が顕著です。中にはメジャータイトルの名称をつけただけで、そのゲームのエッセンスが全く反映されていないものもありますが、「メジャータイトルの横展開」は1つの潮流だと思われます。そしてソーシャルゲームのもう一つの大きな潮流は、「認知度の拡大路線」です。最近ソーシャルゲームのTVCMをよく目にします。これまでもPFMが自社のSNSをCMしたり、自社のソーシャルゲームをCMすることはありましたが、とううとうサードパーティーのゲームまでCMするようになっています。
この2つの潮流からいえることは、「知名度を持ったタイトルが勝ちやすくなっている」ということです。
より正確にいうと、「知名度を持ったタイトルが勝ちやすいとSAPさん及びPFMさんが認識している」 でしょうか。
でもこれは人間の特性から考えると自然なことだといえます。例えば音楽でも同じ傾向が見られますが、ほとんどの人は一度でも聞いたことがある音楽でないと、「CD買ってみようかな」、「DLしてみようかな」とは思わないものです。これはゲームでも同じで、ヘビーユーザーでも無い限り、「今回リリースされたこのゲーム全然知らないけど期待できそうだからやってみよう」とは思わないでしょう。ましてやソーシャルゲームのターゲットユーザーは、これまではゲームにさほど興味のなかった人たちです。少しでも見たり聞いたりしたことのあるタイトルを優先して「ちょっとやってみようかな・・」と思うのは自然な発想だと思います。
そしてそのようなユーザー層に対する戦略は以下のいずれかです。
- 1.CMを打ったり、広告を出したりなどの露出を多くしてより多くのユーザーに認知してもらいコンテンツ力を高める
- 2.メジャータイトルやメジャーコンテンツを引っ張り出してきてソーシャルゲーム化、認知度が形成された土俵で戦う
いずれも資金を必要としますが、手っ取り早くユーザーを獲得できる有効な戦略といえるでしょう。
まとめると、
日本のSAPの多くは、「知名度を持ったタイトルが勝ちやすい」と判断し、上記1,2の戦略の下、シェアの拡大を狙っている。
ということでしょうか。
プレーヤーと業界勢力図の再分析
上述の図1はそういった現在のソーシャルアプリ市場のトレンドを踏まえて縦横の軸を取り、円の大きさを決めました。
まず私が着目したかったのは『ソーシャルに対する理解度』です。「メジャータトルを持っている会社だからSAPとして成功するか?」というともちろんそうではなく、ソーシャルゲーム特有のユーザーを惹きつけるテクニックやマネタイズするためのノウハウを蓄積することは成功の必須条件といえます。ゲーム会社さんなど後発でソーシャル市場に参入してきた人たちはこの部分で苦戦することも少なくないようです。
そして次に着目したかったのが『コンテンツ力』です。上述したように一般的なユーザーは「なんらかの形で認知しているタイトル」に優先して接触する傾向があります。つまり
「より多くの成功機会が与えられている会社」=「何らかの形で認知されることに成功している会社」
という式が成り立ちます。 これを実現するには上述したように、
- 1.広告などの露出を多くする
- 2.過去資産を活かす
のいずれかが有効です。 ソーシャルアプリの世界では既に1.は鉄板の戦略として十分に認知されていますが、2.はまだ "鉄板" と呼ぶには実績が不十分です。しかし、iモードを代表する携帯マーケットにも見られたように、コンテンツホルダーやゲーム会社が有力なコンテンツ(やタイトル)を引っさげて市場に参入してくるのは時間の問題です。そしてそれが一定の成功を納めることも歴史が証明しています。そういう意味で私が定義した縦軸である『コンテンツ力』が重要視さるのも自然な流れかと思います。
最後に円の大きさで『グループのポテンシャル』を表してみました。これは完全に私の印象値です。
私自身一番怖いと考えているのはやはりゲーム会社でしょうか。ソーシャルやWEBゲームに対する造詣が浅いのはコンシュマーゲームの会社さんであり、インストール型のネットゲームの会社さんは高アクセスへの対処法やフリーミアムモデルのマネタイズの勘所など、ソーシャルゲームのヒットに必要なノウハウの多くを持っています。またコンシュマーゲームの会社さんであってもWEBに強い開発会社さんと組めばそれらの懸念が解消できることもあるでしょう。3200億円のコンシュマーゲーム市場、1200億円のオンラインゲーム市場は、ソーシャルゲーム市場338億円と比較して驚異と言わざるを得ません。
携帯CPも日本のSNSの主戦場がモバイルでという前提条件の下、
- - 携帯の使われ方を熟知している
- - 携帯でのマネタイズに慣れている
という面では驚異ですが、いわゆる「落とし物系」といわれているサイトを多く手がけてきたCPさんなど、モバイルゲームの実績が無いところは苦戦を余儀なくされているようです。ただし業態上モバイルサイト開発・運用経験が多く、ソーシャルアプリにも共通する「地道な改善活動によってユーザー数及び売上を伸ばす」ということに長けているので侮れない存在でもあります。
海外SAPは海外のSNS上では既にメジャーなタイトルを有していますが国内での認知度はまだまだであり、そういう意味ではこれからコンテンツ力を貯える必要があります。また海外SAPが注意すべきは、日本のユーザーはゲーム自体というより、ゲームのキャラクターや世界観を好む傾向があるため、その辺りのユーザ−心理を理解する必要があるということでしょうか。単純な海外ヒットタイトルの横展開では足元を救われる可能性もあります。
ただしソーシャルゲームにおいてはこの限りではない可能性もあります。なにしろライトユーザーがメインですから。
私の中でのダークホースがソーシャルアプリ専業会社です。上述したようにこのグループの人には優秀なゲームデザイナーや起業家が多く、しかも同市場で一旗あげる野心に溢れています。メジャータイトルやコンテンツ力に頼らずともソーシャルゲームに対する研究と研鑽を重ね、激戦を勝ち抜いていく可能性を秘めているというのが私の印象です。
この手の会社がゲーム会社やCHと組んだ時は驚異になること間違いなしです。
まとめと次回予告
今回はソーシャルアプリ市場の主要プレーヤーを(ざっくりと)カテゴライズし、現在のソーシャルアプリ事業戦略のトレンドからそれぞれのポジションを確認してみました。次回は今回の主要プレーヤーの存在を踏まえた上で、「ソーシャルアプリ市場で成功しやすいSAP」について書いてみたいと思います。