前回の記事『ソーシャルアプリのヒットメーカーは現時点で7社?! 〜自社ヒット率から見るヒットメーカーの真実〜』では多数の反響を頂きありがとうございました。調査方法に関するご指摘もありましたが、概ね好評だったので安心しました。
今回は日本の3大SNSの決済方法についてまとめました。元々は業務に必要だったのでまとめたのですが、いろいろわかって面白かったので皆さんにも共有させて頂きます。
ARPUが高い日本のSNS
この記事を読んでいるソーシャルアプリ関係者の皆様はよくご存知のことと思いますが、日本のソーシャルプラットフォーム(以後、『SPF』と呼称)はARPUが高いことで有名です。
この原因は日本のSPFがモバイルメインで使用されているからだといわれています。ご存知のとおり日本のモバイルマーケットはユーザーの決済に対する抵抗が少ないことで有名です。これはドコモをはじめとする日本の携帯キャリアが、簡易なパスワード入力でコンテンツ利用料を徴収するシステムを創り上げてくれたおかげです。日本の3大SPFである、mixi,モバゲー,GREEもこれらの決済代行システムを使用しているおかげで、上記のようなARPUの高さを維持できてるのだと思われます。
が、、それは私の思い込みで、実はこの点について私自身ちゃんと理解していないことに気づきました。人から、「日本の3大SPFの決済は何を使っているの?」と聞かれ、恥ずかしながら明確に答えることが出来ませんでした。そこで今回はこの質問の答えについて、少々掘り下げて調べてみました。
3大SPFの決済方法を調べてみる
日本の3大SPF(mixi,モバゲー,GREE)の決済方法をキャリア毎にまとめたのが以下の表1です。(クリックで拡大)
上記の表は各SPFのサイトに行けば調べることができます。
数回確認したので間違いないと思いますが、もし事実と異なる点がある場合は@hisyamadaまでご連絡頂ければ幸いです。
この表からはいくつかの特徴が読み取れます。
- ・モバゲーのみ勝手サイト
- ・PF決済上限は [ GREE > モバゲー > mixi ]
- ・ポイント有効期限は [ モバゲー > GREE > mixi ]
- ・mixiは月額、都度共に決済軸が少ない
- ・mixiはkddiの決済軸のみやや高額
- ・モバゲーは勝手サイトなので月額決済がない
- ・モバゲーのみ、WebMoneyやクレジット決済に対応している(⇒マネタイズ方法が他よりも豊富)
- ・モバゲーのみ決済上限と同じ額の決済軸が存在する(⇒何度も購入操作をしなくてよい)
- ・モバゲーのみ100円決済軸が存在(⇒気軽に購入可能)
- ・モバゲーは勝手サイトなのに何故か「まとめてau支払い」に対応している
- ・モバゲーでかつdocomoのユーザーは [ SPF決済上限 >キャリア決済上限 ] となり、PFの上限値まで通貨を購入できない
- ・モバゲーはキャリアの決済上限いっぱいまで購入を許している(他のキャリアは低めに設定)
- ・GREEでかつdocomoのユーザーのみWebMoneyが使える
- ・GREEは決済上限が年齢によって異なる
- ・GREEは決済上限が段違いに高い
- ・GREEでかつkddi or softbankのユーザーは [ SPF決済上限 >キャリア決済上限 ] となり、PFの上限値まで通貨を購入できない
太字の箇所は私が "際立った特徴" だと思っている箇所です。まず1点目ですが、モバゲーは勝手サイトにもかかわらず、「まとめてau支払い」に対応しています。これはDeNAさんの他の公式サイトとの絡みでそのようになっているのか、定かなところはわかりませんがとにかく際立った特徴です。
また特定の条件下で、SPFの定めた決済上限を上回ってPF通貨を購入できるケースがあることも着目すべき特徴だと思います。これについてもう少し詳しく見てみましょう。
キャリアの決済上限についてチェックしてみる
通常携帯キャリアでは不正決済や、ユーザーの誤った操作による過度な決済を防ぐために、その当月の決済上限が定められています。 この決済上限に着目し、表2を作成してみました。(クリックで拡大)
携帯CPさんならよくご存知のとおり、日本の3大キャリア(docomo,kddi,softbank)の公式サイトにおいては、いずれもキャリアの決済代行が完備されています。では勝手サイトは? というと、これも意外(といっては失礼ですが)ときちんと用意されています。ただし、いずれのキャリアでも、[ 公式サイトの決済上限 > 勝手サイト決済上限 ] となっているのが特徴です。
またSoftbankの「S!まとめて支払い」は2007年7月31日以降勝手サイト用のサービスを終了しており、(その日以前に「S!まとめて支払い」を使用していたサイトを覗いて)同サービスを新規に利用することは原則できないようです。
こちらに関しても、より正確な情報をお持ちの方は@hisyamadaまでご連絡頂ければ幸いです。
表2を元に各SPFの決済上限を確認したところ、
- ○モバゲーでかつdocomoのユーザー
- ○GREEでかつkddi or softbankのユーザー
のいずれかのケースで [ SPF決済上限 >キャリア決済上限 ] を行うことができるようです。
決済上限がもたらすSPFの優位性
なぜ私が決済上限にこだわっているかというと、決済上限のリミッターがSPFへの収益に少なからず関わっている可能性があるからです。どんなPFにもヘビーユーザーという人は存在します。ヘビーユーザーをどう定義するかは様々ですが、有名な2:8の法則を適用した場合、2割のヘビーユーザーがそのPFの売上の多くをまかなっていることになります。そしてそのような状況下においては、PFに決済上限(=キャップ)が存在するかどうかは重要なポイントです。何故ならヘビーユーザーの決済額がこのキャップに張り付いている場合、そのキャップを開放することでユーザーの更なる課金が期待できるからです。
日本の3大SPFの場合、GREEが最も高く10万円ですが、データ上ではモバゲーのARPUが最も高くなっています。これを見ると、「モバゲーが公式サイトになって、課金上限が10万円になったらどんだけ売上伸びるんだろう・・」と思わずにはいられません。
決済手段の豊富さがもたらすSPFの優位性
決済手段の豊富さもSPFのARPU伸ばす手段の一つでしょう。現在のところモバゲーが最も多くの決済手段に対応していますが、それはもしかしたら、上述した「勝手サイトならでは決済上限キャップの低さ」を解消するための手段の一つなのかも知れません。
よくわからないのはGREEで、docomoのみWebMoneyに対応しています。「どうせなら3キャリア全部でやればいいのに・・」と思いますが事情があって1キャリアだけなのでしょうか。
日本のSPFのARPUが高い理由が、携帯キャリアの決済代行を使用できるからだとしたら、ユーザーにとってより支払いの抵抗感が少ない決済手段を作用することは、更なる収益化を行うための有効な戦略となります。日本でも2010年中に資金決済法が施行され、更に柔軟な決済代行システムが出現し、今後普及して行く可能性があります。また既存の(一般的に普及している)ポイントサービスのポイントを各SPFへの通貨と交換できるようになれば、ユーザーの行動に変化が出るかも知れません。このあたりはそれぞれのSPFで未来に向けた戦略が練られていることでしょう。
まとめ
SPFの決済方法について、表1,2の内容と上記で述べてきたことを私なりに総括してみました。
- ○ユーザーにとってより支払いの抵抗感が少ない決済手段を作用することが、SPFの収益増における重要な要素になると思われる。
- ○決済手段は多い方がよりユーザーの決済行為をより推進すると思われる。
- ○(当月の)決済上限が高い決済手段を採用した方がユーザーARPUが高くなると思われる。
- ○公式サイトでキャリア決済代行を利用する方がユーザーの支払いに対する抵抗感が少なく、かつ(当月の)決済上限が高いため現時点でプラットフォーマーにとって良い選択肢かもしれない。(GREE)
- ○ただ、公式サイト化した場合いろいろな縛りがあるので、勝手サイトで支払い抵抗感が少ない決済手段を多く採用する方が将来的にいろんな展開がしやすいかも知れない。(モバゲー)
蛇足ですが、以下もまとめに加えさせて頂きます。
- ○フリーミアムモデルにおける月額課金の有効性は不明(もしかしたら合わないかも)。
- ○ポイント有効期限が収益に与えるインパクトは不明。
- ○課金軸は少額(数10円レベル)〜高額(課金上限いっぱい)まで用意し
ておいた方が、ユーザーの決済行為をより推進しそう。
今回の話は一般的なSAPさんにはあまり関係のある話ではありませんでしたが、個人的には興味深く注視しています。何故なら今後 "黒船" と呼ばれるFacebookが日本のSNSの市場に本格参入してきた場合、このあたりが勝敗を分けるポイントの一つつなるとかと考えているからです。
もちろん決済方法だけがそのSPFへの成否を左右するわけではありません。最終的にはユーザーにとって魅力のあるコンテンツを用意することが最も重要なことであることは間違いありません。しかしその中で収益を最大化しようとした場合、「決済方法をどのように整備するか」は日本のSNS市場で成功する1つの重要なファクターとなることは間違いないと思われます。
今回の調査を見て、「へー、そうなんだ」と思って頂ければ幸いです。
参考サイト: