前回の記事では「公式CPがスマートフォン市場に参入できない理由」について考えてみました。その結果、ケータイCPは本来の意味での「Contents Provider」ではなく、「コンテンツ調達屋さん」になってしまったことが問題であるとまとめました。
今回はケータイCPがスマーフォン市場に打って出る、有効な手段について考えたいと思います。
ケータイCPのビジネスモデル考える
ここでもう一度ケータイCPが手掛けるサービスのビジネスモデルをもう一度振り返りましょう。
- 1. アプリを提供する
- 2. サービス(情報含む)を提供する
- 3. コンテンツを提供する
大体この3つに分類されると思います。
1.はゲームなどに代表される、それ単体で販売可能なものです。2.は携帯を使って、情報/サービスを販売するモデルであり、占いや乗換案内がこれに該当します。3.はきせかえや着うたなど、ダウンロード物それ自体に価値があるものです。これらの派生や複合はあるものの、公式CPのビジネスモデルはこの3つを提供し、その対価として料金を頂くモデルであることがわかります。 そして成功を収めた多くのCPは3.のモデルで成長した、というのは前回の記事どおりです。
ケータイCPが取るべき、「サービス提供型」という道
私はケータイCPがスマートフォン市場で成功するには、1.と2.特に2.に活路を見出すべきと考えています。そしてそれを実現する具体的な方法は勝手サイトに学ぶことができます。以下その根拠について順を追って説明します。
スマートフォンの場合、ほとんどが1.で収益上げるタイプですが、ケータイCPはこのモデルで収益を上げることに慣れていません。それは過去〜現在において、(ビジネス上の美味しさから)多くの公式サイトで月額課金制が採用されたため、結果としてケータイCPから落とし切りのアプリでビジネスを構築するセンスが失われたからです。よって現時点でケータイCPが1.の手法を採用するのは得策とはいえません。
また3.ですが、前回の記事に書いたように、このモデル自体がスマートフォンにおいて成り立ちにくいため、ケータイCPが持つナレッジを活かす余地は無いと考えられます。
残る2.ですが、実はこのモデルこそが、ケータイCPがこれまでの経験を活かしてスマートフォン市場に喰い込むのに相応しいモデルなのです。何故ならば、Evernote、foresquare、食べログなど、iPhoneにおいて優良といわれているサービス/アプリの多くは 2.のモデルを採用しており、かつ現在成功を収めている勝手サイトの多くも、同様に2.のモデルで成り立っているからです。つまりスマートフォンの優良サービス/アプリと、現存する優良な勝手サイトは2.のモデルを使用しているという点において共通しています。
これらの事実を整理すると、ケータイCPがスマートフォン市場に打って出るには、「2.のモデルを持つ優良な勝手サイトを分析しスマートフォン向けに展開する」という戦略が見えてきます。
勝手サイトのビジネスモデル
では勝手サイトのビジネスモデルはどうなっているのでしょうか。まずこれについて整理してみましょう。
勝手サイトとは、公式サイト以外のモバイルサイトのことです。「勝手サイト」に関しては詳しくはWikipediaをご覧ください。
勝手サイトの多くは広告モデルで成り立っていますが、中にはそうでないものもあります。ここで前述の公式CPのビジネスモデルに習って、勝手サイトのビジネスモデルについてもまとめてみました。
- 1. 広告モデル
- 2. 企業とのタイアップモデル(≒ある意味広告)
- 3. 課金モデル
大体この3つに集約されると思います。
勝手サイトはキャリアの課金代行システムを使用できないので、3.のモデルを持つサイトは実現難易度が高く、あまり一般的ではありません。勝手サイトの多くは 1.で成り立っていますが、前述したように、スマートフォン市場への参入を検討する場合に分析対象とすべきは、2.もしくは 1. 2. の複合モデルを持った勝手サイトです。
2010年7月4日追記
最近日本のキャリアがスマートフォンの決済インフラを整備しつつあります。これが整えば3.のハードルが一気に低くなるので、「情報提供による月額課金」などの手法も現実味を帯びてきそうです。
以降、成功している幾つかの勝手サイトを例にそのビジネスモデルを分析し、どのようにスマートフォンに展開できるかを見ていきましょう。
勝手サイトの成功例とスマートフォンでの展開可能性
まずは論点を明確にするためにも、「成功している勝手サイト」を定義しましょう。本記事では成功している勝手サイトを以下と定義します。
- ・明確なビジネスモデルが存在している。
- ・そのビジネスモデルでの課金・集金に成功している。
- ・一定の利用ユーザー数(50万人以上)を保持している。
- ・ガラケー独自のダウンロードメディアをメインコンテンツとしていない。
成功例1:コロプラ
コロプラは位置情報を利用した育成ゲームです。 会員数は(2010年4月2日時点)で100万人を突破しており、現在最も勢いのあるケータイサービスの1つとなっています。コロプラに関する詳細な情報は、こちらの記事をご覧ください。
【コロプラ by COLOPL Inc.】
コロプラの主な収益は以下の2つです。
- (1) 「投げ銭」と呼ばれるユーザーからの寄付金。
- (2) リアル店舗で購入した商品に応じて貰える「コロカ」を使用した広告収入。
特にユニークなのが(2)で、これは広告のようにコロプラが店舗から先にお金を取るのではなく、コロカの配布枚数から実際に売れた分を把握し、その金額の15〜20%を店舗から得るという仕組みです。
これについては「有田焼の老舗を救った携帯ゲーム」に詳しく解説してあります。
このモデルは前述した、1.と2.と複合です。コロプラは元々勝手サイトでしたが、2010年3月31日にiPhone(Safari)対応され、マルチプラットフォームで展開されています。iPhone版ではそのタッチスクリーンを活用した、よりユーザビリティの高いゲームになっています。
これはガラケーのCPがスマートフォン市場に参入した好例であり、これほど [ ガラケー → スマートフォン ] で綺麗に展開できた例はあまり見たことがありません。
成功例2:シェフモ
シェフモは主婦向けの情報提供サイトで、目玉は日々のスーパーのチラシを携帯サイトで閲覧できるサービスです。お気に入りのスーパーを20件まで登録可能で、サイトには主婦層に合わせたコミュニティ機能も備わっています。会員数は(2010年5月24日時点)70万人を突破しており、現在も口コミでその数を伸ばしつつあります。シェフモに関する詳細な情報は、こちらをご覧ください。
【シェフモ by NIFTY】
シェフモの収益モデルは提携店からの広告収入と思われます。現在はiモード公式メニューにも採用されており、会員数の伸びからも、もはや1つの広告媒体とすらいえます。ではこのサービスをスマートフォンに展開する場合はどのようになるでしょうか?
シェフモの目玉であるスーパーの検索/登録/閲覧、そしてその店舗のチラシ配送(メール)。これらは全てスマートフォンでも問題なく提供可能なものばかりです。しかもスマートフォンに対応すれば、(コロプラと同じく)UIのリッチ化は確実に実現され、よりユーザーに利用され続けるサービスとなる可能性は十分にあります。しかもこれは必ずしもアプリである必要はなく、ブラウザ(Safari)対応でも十分であるため展開も(アプリ化より)容易です。
ただしスマートフォンの保有層とシェフモの利用層がアンマッチであるため、そのままスマートフォン対応してもサービスの増強に繋がるとは思えません。しかしシェフモのコンセプトのみをそっくり頂き、スマートフォンの保有層にマッチするサービスに変えて展開すれば成功する可能性は十分にあります。
成功例3:uchico
uchicoは中高生を対象に、 「遊びながら勉強する」 ことをコンセプトとした無料の携帯受験コミュニティです。モバイル業界最大の賞である「モバイルプロジェクトアワード 2009」を受賞しており、会員数も(2010年2月9日時点)60万人を突破しています。uchicoに関する詳細な情報は、こちらをご覧ください。
【uchico by Sammy NetWorks】
uchicoの収益モデルは企業とのタイアップ広告や学校情報などのBtoBによる広告です。コロプラやシェフモと異なり、サービス提供者が積極的に受験に関するコンテンツを投入し続けていることが特徴です。
運用の内部まではわかりませんが、コンテンツの制作/投入を継続し続けなければならない、という点で他のサイトよりは収益的にきついかも知れません。
ではこのサービスのスマートフォン展開を考えてみましょう。
uchicoのコンテンツは、動画、FLASHマンガ/ゲーム、選択式の受験問題などですが、すぐに思いつくスマートフォン対応方法としては、アプリを使ってこれらのコンテンツのビューアーを実装することです。アプリのリッチなUIを活用すれば、より効果的な受験用コンテンツを提供することも可能になるでしょう。しかも動画/音声コンテンツにおいては、ガラケーと異なり1つのファイルフォーマットで済むメリットもあります。これらを統合的に考えると、スマートフォンでのuchicoビューアーの提供は、(やり方次第で)ユーザビリティを向上させつつ、コンテンツの投入コストを削減できる可能性があります。そういう意味ではuchicoのサービス形体はスマートフォンで展開するのに相応しいといえるのかも知れません。
ポイントは「アプリはなくサービスを作る」こと
ケータイCPが持つ最大の強みとはなんでしょうか?
それはおそらく、
- ・モバイル端末の利用され方
- ・モバイル端末が有効なシュチュエーション
- ・モバイルユーザがお金を払う動機やきっかけ
を熟知していることだと思います。上記に関する知識はモバイル業界にいる人にとってはごく自然に身についていますが、その外の人は意外に知らないものです。つまりこれからのケータイCPは、これらの強みを生かし、サービスを構築した上でスマートフォン市場に参入するのが最も効率的なのではないでしょうか。
そして実はこのビジネス手法は、本質的にはスマートフォンに全く捕らわれません。スマートフォンはあくまで表現力の高い端末の1つであり、ガラケーだろうがスマートフォンだろうが、(場合によっては)PCだろうが、マルチプラットフォームで展開することが可能です。ただ、その利用シチュエーションがモバイルと相性が良く、集客とマネタイズの観点でモバイルで展開する方が都合が良いというだけの事なのです。
ただし、スマートフォンが表現力の豊かさと携帯性の良さを合わせ持つ有用なデバイスであることは最大限活用すべきです。
まとめと補足
今回の主張は、「ケータイCPはサービスをもってスマートフォン市場に食い込むべき」というものですが、単純にアプリビジネスとしてマーケットに食い込んでも構わないでしょう。優良なゲームアプリを有するCPであればその展開であっても十分に戦えると思います。
ただしスマートフォンのならではの機能(タッチスクリーン等)を活用するような修正を加える必要はあります。
今回私が推奨しているのは、「ケータイCPがこれまで培った経験と強みを最大限に利用した上でのスマートフォン市場への展開」です。現状で有力な勝手サイトを有しているCPは、そのサービスとスマートフォンの保有層がマッチするかを考え、有効と判断した場合は参入を検討してもいいと思います。
また有力な勝手サイトを保有していないCPであっても、ケータイCPがスマートフォン市場に食い込みたい場合は、
- (1)勝手サイトサービスを考える要領で、スマートフォンのサービス及びビジネスモデルを検討する。
- (2)平行して、そのサービス上でのスマートフォンの生かし方を考える。
というのが思考法としてスムーズではないかと思います。
今回の記事がスマートフォン市場に参入するCPの方々の一助となれば幸いです。