前回の記事では日本のソーシャルアプリ市場を前提に、ソーシャルアプリ - ゲーム - モバイルの関係について分析し、それぞれがどのように繋がりあっているのかを確認しました。今回はちょっと趣向を変えて、海外のソーシャルアプリ市場から日本の同市場を俯瞰してみましょう。
驚異のFacebook
Facebookは言わずと知れた世界最大のSNSです。登録ユーザー数は2010年5月現在で4億人を突破しています。日本の利用ユーザー数はユニークユーザー数で139万人/月と少ないものの全世界的なユーザー数は圧倒的です。
ちなみにmixiの登録ユーザー数は2,000万人(2010年4月14日発表)、モバゲーの登録者数は1,500万人(2009年9月15日発表)です。これらと比較してもFacebookが如何に巨大なメディアであるかが伺えます。
Facebookは国別のSNSシェアで見た場合も際立っており、主要国の殆どでSNSトップシェアを誇っている上に更なる拡大戦略を打ち出しています。以下の地図の薄緑で塗られた箇所が2009年12月時点でFacebookがトップシェアを誇る国です。
出典:ループス・コミュニケーションズ(2009年12月22日)
実際、海外のソーシャル関係のイベントに行くとそこで話題に登るのはFacebookばかりで、中国や韓国などアジアのソーシャルイベントであっても日本のmixiはモバゲーが話題になることは皆無だそうです。
海外から見た日本の市場規模
我々日本人としては少々悔しい気もしますが、海外組がmixi、モバゲーへの参入に興味を示さないのは市場規模を考えれば当然の事でしょう。日本の市場はどう頑張っても1億2,000万人を超えることはありません(現実的には5,000万レベルでしょうか)。しかも少子化の昨今、この数値が減ることはあっても増えることはないでしょう。しかしかたや世界に目を向けるとそこには数億レベルの市場が存在していますし、途上国においてはこの数値は大きく上ぶれする可能性すら秘めています。
日本は「コンテンツ産業担い手」という面ではポテンシャルを秘めていますが、「市場の美味しさ」という意味では非常に参入しづらい国であるといえます。また市場としての美味しさがない理由は市場規模だけではありません。そこには次に見るような壁が立ちはだかっているのです。
ワールドワイドな展開を阻むローカライズという壁
一般的にワールドワイドで展開している商品やサービスをある地域で売ろうと思った場合、その地域毎のローカライズが欠かせません。このローカライズとは単に言語をその地域のものに翻訳するという意味ではなく、
- ・商品のテイスト
- ・マーケティング手法
- ・販売経路
- ・営業戦略
など、対象となる商品やサービスがその地域に受け入れられるように製品及び販売方法等をカスタマイズすることを指します。 コンテンツ産業でローカライズする場合、最もわかりやすいのはクリエイティブのテイスト変更でしょうか。例えば海外製のアニメはその絵柄で日本人に拒否反応を示されることがあるので日本向けに描き直してから放送することがあります。
多少極端かも知れませんが「パワーパフガールズ」と日本向けにリメイクされた「パワーパフガールズZ」はその例の一つでしょうか。
売り手側の立場で考えると、商品やサービスをローカライズせずにそのまま販売できることが理想です。しかしコンテンツビジネスの場合、そう簡単ではありません。言語のローカライズはもちろんですが文化や風習、法律などの影響でローカライズに多くのコストを費やしてしまうことも少なくないのです。
日本市場の独自性
日本市場はよくガラパゴスと揶揄されますがこれはコンテンツの世界においても顕著です。日本のアニメやゲームなどのデジタルコンテンツは独自の世界観や高い精神性を持つものが多く、世界的に見ても独自性が高いと言われています。
この事実は日本向けにデジタルコンテンツをローカライズするコストは著しく高い可能性があることを示唆しています。日本人は日本人好みのデジタルコンテンツに慣れてしまっているため、その日本市場に向けてワールドワイドな製品をローカライズする場合、かなり大掛かりなカスタマイズを行う必要があるかも知れないのです。
仮にローカライズにコストが掛かったとしてもそれを回収できるほど市場が巨大であれば良いのですが日本の市場は高くても5,000万人レベルであり、これでは高いコストを払ってローカライズをしようという気になれないのも当然です。
コンテンツによっては低いローカライズコストでコンテンツを右から左に展開できる場合もあるため一概にはいえませんが、このことは普通のデジタルコンテンツでは一般的な事実です。
日本をアジアの一国として見た場合
日本はその文化的な独立度合においても世界標準に比べて際立っています。そしてこの際立ちこそが海外組の日本市場参入を阻む最大の問題なのです。 例えば私がFacebook上でソーシャルアプリを展開する企業の取締役だとして、アジア市場に売って出ようとしている場合、
- アジア全域で必要なローカライズコストとその市場規模
を考えなければなりません。しかしアジア向けにローカライズしたアプリが日本市場に受け入れられない確率は(アプリによっては)高い可能性があります。そうなると日本市場(文化的類似性がある韓国、台湾も含む?)に向けに別途ローカライズするという選択肢も出てくるでしょう。仮にこのような判断を迫られた場合、私なら市場規模の小さい日本を避けて通る可能性も否定できません。
要はローカライズコストと市場規模のトレードオフであり、日本市場の場合以下となる可能性が高いのではないでしょうか。
- ローカライズコスト > 参入市場からの期待収益
Facebookが単純に日本展開しただけでは日本の市場を飲み込めないのも(一定)この理由によると思われます。
次回予告
次回はこのような状況を踏まえた上で以下の2テーマについて述べたいと思います。
- PCゲームやコンシュマーゲームの歴史に学び、今後ソーシャルゲームが辿るであろう道の考察。
- ソーシャルアプリにおいて日本のSAP(Social Application Provider)が海外展開する具体的な戦略の模索。