前回の「それぞれのレコメンドの特徴」では4つのパターンのレコメンド
- リスペクト型レコメンド
- 行動分析型レコメンド
- 同属性安心型レコメンド
- 多数追従型レコメンド
の特徴と実現性を説明しました。最終回の今回は、
- それぞれを成功させるコツ
- それぞれのレコメンドを組み合わせて展開する際の具体例
について説明します。ちなみに今回は3部作の最後となります。
それぞれのレコメンドパターンを成功させるコツ
採用したレコメンドを成功させるには、それぞれのレコメンドの前提条件を完備することが重要です。以下に1つずつ説明します。
1. リスペクト型レコメンド
このレコメンドは「インフルエンサー」の権威付けが最も重要です。それには権威のあるインフルエンサーに成り得る人間を外部から調達するのが一番手っ取り早いのですが、そのような人を調達できない場合はインフルエンサーを消費者主導で育成するという手法があります。
わかりやすい例で言うと、読者モデルやラーメン愛好家などでしょうか。元々は消費者側に所属しており、かつロイヤリティの高い顧客を売り手側に引込みインフルエンサーにする方法です。このようにして生まれたインフルエンサーは元々は消費者であったという理由で消費者から支持されやすくなります。
この手法を上手く展開するには、まずそのロイヤル顧客を他の一般的な顧客に認知させる必要があります。その上でロイヤル顧客をインフルエンサーに昇格させれば自然な形でインフルエンサーの影響力を高めることが可能です。
2. 行動分析型レコメンド
このレコメンドを成功させるポイントはなんと言ってもそのレコメンド・アルゴリズムの完成度です。そしてそれ以上に重要なのはレコメンド・アルゴリズムの継続的なチューニングです。たまに良質のレコメンドエンジンを導入すればそれで万事OKと勘違いしている方がいますが、むしろ導入後多くのデータを蓄積しそのデータに基づいて適切にチューンニングを重ねなければなりません。そうすることでレコメンド結果が洗練され顧客単価を向上させることが可能になります。
現在市場には多くのレコメンド・エンジンが出回っていますが、上記の理論を逆説的に考えると「どのようなレコメンド・エンジンを購入すべきか?」が見えてきます。そしてその答えは、「蓄積データを元にチューニング可能なレコメンド・エンジンが最適」となります。現在のレコメンド・エンジンはレコメンド経由の購買データが蓄積され、その結果に応じてレコメンドが(自動的に)最適化されるものが普通ですが、その上で人間が手を入れれる(=チューニング可能な)ものを選択することが重要です。
3. 同属性安心型レコメンド
このレコメンドの成功の鍵は、「同属性の抽出方針」でした。 同属性の打ち出し方こそが消費者に受け入れられるキーポイントとなるため、ここは慎重に考える必要があります。
同族性の打ち出し方で最も簡単かつ効果的な方法は、同族ターゲットの極端な絞り込みです。例えば単に「30代の女性にバカ売れ」と謳うよりも、「30代ナチュラル志向の女性にバカ売れ」などそのアイテム特性を好む層に極端に絞り込むことでレコメンド効果を上げるのです。
ただしこの手法を取る場合は、販売したいアイテムの特性を十分に理解した上で謳い文句を決定する必要があります。
そしてもう1つのポイントは同族性の可視化です。このレコメンドの最大の狙いは同属性の共有によって安心感を演出することでした。そしてこれはつまり消費者に同属性が認識されなければならないことを意味しています。同属性は売り手側は意識していても買い手側が意識することは少ないものです。先に例示した「30代〜」のキャッチは同属性の可視化例の1つですが、ECサイトで同様のことをやろうとした場合、
- その商品の購買層をレーダーチャートで表示する
- 売れ筋商品を属性毎にまとめる
などが考えられます。 他にも例は考えられますが大事なことは、自身が属するであろうグループを消費者自身にハッキリと認識させてやることです。
4. 多数追従型レコメンド
ランキング等に代表される一般的なレコメンド手法です。このレコメンドを成功させるコツは
- 具体的数値化
- レコメンド以外での数値向上
の2つです。前者はランキングの根拠を数字で示すことです。例えば一般的には販売数10万より100万の方がレコメンドされやすい傾向がありますが、それもこの数値を明確に示したからこそ成り立つ話です。「何を持って1位なのかを消費者にハッキリ示す」、これは忘れがちですが意外に重要なポイントといえます。
しかしこの「根拠となる数値の提示」以外にも重要なポイントが存在します。それは基準値の存在です。例えばCDの販売数でいうと、100万という数値は社会通念上「すごく売れている」という印象があり、5万は「たいしたことがない」という印象があります。しかしこの5万という数値を説明する際に、「通常2万売れればヒットといわれるクラシックの世界で、」とあった場合どうでしょうか? このように基準値を説明することでその数値を際立たせる重要な役割を果たします。
後者は「多重追跡型レコメンドのジレンマ」です。そもそもレコメンドはアイテムをより多く販売するために使用されるのですが、このタイプのレコメンドで追従されるアイテムはレコメンド以外の方法で、そのおすすめ根拠と成り得る数を販売しなければなりません。つまりこの多重追跡型レコメンドはレコメンド可能な商品があって初めて成り立つ手法なのです。
組み合わせレコメンド
鋭い方はもうお気付きかも知れませんが、この1〜4のレコメンドは組み合わせが可能です。以下に例を示します。
1と2
- レコメンド・エンジンのおすすめにインフルエンサーのコメントを付ける。
1と3
- 「女子高生のカリスマ、xxさんのおすすめ」
1と4
- 今週のTOP10の中からインフルエンサーが最も注目するアイテムをPickupする。
2と3
- パラメータとして属性情報を付加したレコメンド・エンジンを使用する。
2と4
- レコメンド経由の購入をランキング化する。
3と4
- 「年収1000万以上のビジネスマン500人アンケートで上位にランクイン」
更にこれらのレコメンドは3つ以上で組み合わせることも可能です。ただし注意すべきは組み合わせと効果の高さは別問題という事実です。効果の高さで見た場合、シンプルなレコメンドの方が複雑な組み合わせのレコメンドを上回ることも多いものです。
「当たり前だろ」と思われるかも知れませんが、効果の高いレコメンドを組み合わせればより高い効果を発揮するという幻想には多くの人が陥ります。
個人的にはレコメンドを組み合わせて展開する目的は、効果の高さの追求よりも、ユーザを飽きさせない販促活動の1つと捉えるべきかと思います。
まとめ
今回の記事で「レコメンド3部作」の全てを解説しました。
- 第一部:レコメンドの正体を突き止めた!
- 第二部:それぞれのレコメンドの特徴
- 第三部:レコメンド成功のコツ
これらは私のケータイサービス開発・運用経験によって導き出された1つの方法論です。この情報が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。