今月は私の専門でもあり、このblogのテーマでもある「放送と通信の地殻変動」について、ラジオの視点からメディアの未来をレポートしています。今回はその後編。
前半では、ラジオ(音声メディア)が20年〜30年ごとに進化を繰り返し、現在は2010年のRadiko誕生、2014年のワイドFMなどの進化が起きた第4世代(Ver4.0)の状態であると伝えました。このままいくとあと8年後の2030年ころまでに第5世代の進化が起きるのではないか。そしてそのときの進化はインターネットの進化を見るとわかる。インターネットに衝撃的な普及を促した原因は「検索エンジン」だった。このことからラジオ(音声メディア)が次に進化するとすれば「検索できる音声メディア」なのではないか。後編ではその続き、その兆候について詳しくレポートしていきたいと思います。
◆音声アシスタントの出現、、、
インターネットでは、ジャンルごとに分かれた情報をユーザーが選択していたものが、「検索エンジン」の登場で、利用者はフリーワードで必要な情報を選択できるようになり、また情報をジャンルなどに分けておく必要もなくなりました。このような進化が音声メディアでも最近の音声解析技術の進歩で同じような変化が起きています。
スマートフォンの「Siri」や「OK Google」などのスマートスピーカーをイメージしてみましょう。いわゆる「音声アシスタント」と呼ばれるサービスですね。これなら言葉=音声で呼びかけるだけで検索した結果を音声や文字で教えてくれます。これって内部では音声を読み取ったら瞬時に文字情報に一度翻訳して、その文字情報からどんな情報が必要なのかをAIが見つけてくれて、得られた文字情報を再び音声に変換して発信してくれているというわけです。そんが技術が知らぬ間に出来上がっていたというわけです。
AIと音声解析技術の進歩でスマートフォンで日本語から英語などに翻訳して外国人と実用レベルで会話できるようにもなりましたよね。つまり音声メディアもこれまでの文字情報とほぼ同じように検索したりすることができるようになってきているというわけです。
◆注目の音声メディアを支えるサービス、、、
さらに音声情報の価値を高めるさまざまな日本の「音声技術=ヴォイステック」にも注目です。
◎オトナル(音声広告会社)
2013年創業の音声メディアに特化した広告会社。Spotifyやradiko、ポッドキャスト、YouTubeなど100媒体以上のデジタル音声広告の配信技術を持っています。2021年(昨年)には海外のポッドキャストへの広告配信や世界の「ポッドキャストランキング」の集計も行っています。
◎UDトーク(音声文字化)
日本のシャムロックレコーズ社が開発した、Googleなどの音声認識技術を使って、しゃべった音声を文字情報にリアルタイムに起こすことができるソフトウエア。TBSテレビのドラマ「ファイトソング」でも、病気で耳が聞こえなくなった清原果耶さん扮する「木皿花枝」とのやりとりにも使われてましたが、今では自治体から企業、大学に至るまで、様々な場所で導入が始まっています。
◎コエステ(人らしい音声合成)
タレントや声優などの有名人から、さまざまな人の声を収集・蓄積し、安全に便利に利用できる「コエステーション」を開発。2020年3月時点で5万人以上の「コエ(声)」が登録。従来は収録した生の音声が必要だった場面でもコエステーションが代わりに音声を発信することが可能。声優さんなど有名人はすでにコエステに登録済みなかたもいらっしゃるので、そういう方でしたら、同じ日の収録とか問題なくこなせるというわけです。
◆クラブハウス、ラジオトーク、、、
そんな中、音声が貴重なものになることにいち早く気づいた世界中の人たちが一気に音声メディアを盛り上げ始めました。それが音声SNSと呼ばれる「クラブハウス(Club House)」ブームです。2020年4月ころからサービスは始まっていましたが、新型コロナの感染拡大もあいまって、顔を見せなくても気軽に外出禁止のストレスを発散できることなどから、2020年の秋ころから一気に普及しました。それを見ていたさまざまな投資家が「クラブハウス(Club House)」に投資しました。これは一見、昔のパソコン通信の復活か!?懐かしい!などレトロファッション的なブームかと思われましたが、実は音声によるさまざまな濃い情報が集まる場所は、今後宝の山になるかもしれない=お金になるという予兆からなのではないでしょうか。
日本でも、誰もがラジオDJになれる「ラジオトーク(RadioTalk)」や「ラインライブ(LINE LIVE)」「レック (REC.)」などでさまざまなジャンルの雑談が集まりまくっています。ほかにも音声配信アプリでは、プロのパーソナリティのおしゃべりで人気の「ボイシー(VOICY)」や韓国発のラジオアプリ「スプーン(Spoon)」、中国発の「ヒマラヤ (himalaya)」、台湾発の「イチナナ(17Live)」なども普及が始まっています。
◆ポッドキャストやスポティファイ、、、
クラブハウス(Club House)同様に注目されている音声メディアが「ポッドキャスト(PodCast)」です。アップルの「アイポッド(iPod)」と放送という意味の「ブロードキャスト」による造語で、2005年にitunesで聴取できるようになってから普及が始まっていましたが、いまいち普及に時間がかかっていたものの、この1年で一気に普及して、いまでは直近1ヶ月にポッドキャストを聞いたことあるアメリカ人(12歳以上)は全人口の37%=約1億400万人にのぼっているそうです。
これに猛追しているのが音楽ストリーミングサービスの「スポティファイ(Spotify)」。今から14年前の2008年にスウェーデンから始まり、こちらもいまでは世界92カ国、3億6千万人の月間アクティブユーザー数を獲得しています。残念ながら日本では「ポッドキャスト(PodCast)」も「スポティファイ(Spotify)」もアメリカほどは普及していませんが、なぜアメリカでは音声メディアが普及するんでしょうか?
まずアメリカは多民族国家であることが日本とはかなり違うところかもしれません。英語が共通言語なので英語が苦手な多くの人たちは日常的に「ポッドキャスト」や「スポッティファイ」を英語の勉強代わりに使います。文字や映像よりも圧倒的に「ながら」勉強ができるからです。また車社会というところでも目を使わないで情報を得ることができる音声メディアが重要なんです。
日本は圧倒的に単一民族のため日本語を勉強のために音声で聞く人はごく少数です。それに時間を持て余したらスマートフォンでいろいろ検索するのが日常になってしまっていて、これを音声に置き換えるのはいまのところまだ難しそうです。
◆音声検索の可能性、、、
これら音声メディア(ラジオ)がどんな宝の山になっていくのか、と問うならば、ラジオ第5世代(5.0)は「音声検索」がポイントになるのは間違いありません。例えば知りたい情報やおすすめ情報が音声で聞けたら意外に便利だと思いませんか?例えば「自分の贔屓にしているタレントの好きな食べ物は何だったっけ?」と検索したとき、文字情報で「◎月◎日のラジオ番組で焼肉が好きだと話していた」と紹介されるより、そのときの本人の音声で「わたしは焼肉が好きなんです、、、」と聞けたほうがリアルではないでしょうか。慣れれば文字を読むより音声のほうが気軽ですーっと頭に入ってくるんじゃないでしょうか。音声アシスタントやAIの登場で一気に音声情報が扱いやすくなったいま、利用者の一声で一気に変わる可能性があります。
人間の行動心理学では「人はできるだけ楽に情報を得て生活を豊かにしていこうとする」そうです。そもそも文字情報や動画情報などより音声情報はとても身近で「ながら利用」が可能。つまり文字や映像などよりもずっと音声情報が日常に浸透する可能性があるってことなんです。
◆NFTによる音声マーケットの拡大、そしてラジオメディアの課題、、、
さらにデジタルデータの価値を高める「NFT(ノンファンジブルトークン)」技術も音声メディアをぐんとお仕上げてくれそうです。たとえばスティーブ・ジョブズの名言「ハングリーであれ。愚か者であれ。」の音声などがNFT化されていくことで、こうした歴史的な音声を所有するタレント事務所が現れるのも時間の問題。音声が売買されるようになれば「株」や「不動産」的な価値も出てくるかもしれません。
現在放送などの著作権が関わっている音声データは法律で公開できる期間が制限されています(基本6ヶ月)。これは使用料を取る方法がなかったからなので、音声NFTになれば使用料も問題なく取れるのでずっと公開できるようになるかもしれません。
そんな中でラジオメディアはどうしていくか。ラジオ番組のデータをNFT化してネット上で検索できるようにしていったらどうなるか。あの人がいいこと言ってたなとか思って検索したら、そのときのラジオ番組が聞けたら、あなたはそのサービスを使ってみたくなるのか。パーソナリティの名前や音楽ジャンルだけではなくて、好きなファッションブランドや食べ物などで検索したら、そのことについて話しているラジオ番組を見つけることができるようになったら、もっとラジオを聞きたくなるのでは?「音声メディア(ラジオ)の未来」は、それぞれの音声事業者がいま何をすれば便利になるのか、そして価値を高められるのかに懸かっているのではないでしょうか。