ロシアがウクライナに侵攻して2ヶ月。ご存知のように今回の戦いはこれまでのような陸海空における物理的な戦いに加えて、デジタル情報通信技術(ICT)を活用した人類史上初の「デジタル戦争」にもなっています。それもそのはず、戦争とはいかに自国軍の環境や状況を即時把握し的確な指示を与えられるか、それに加えて敵軍の環境や状況を即時把握し最善の対策を練ることにあります。
第二次大戦の時代でも敵の通信を傍受して先回りするなどの作戦が幾度となく行われてきましたが、これが現在ではデジタル情報戦となり、偽りのフェイク情報をSNSに流したり、敵軍の機器や戦闘機のコントロール網に直接入り込んで操縦不能にさせるなど、これまでには考えられないデジタル技術戦略が必要となっています。
そんな中ウクライナでは、2年前に創設されたデジタル改革省のトップが若干31歳のミハイロ・フェドロフ大臣が務めています。彼はウクライナの副大臣でもありIT起業家としても大活躍の人物。これを打ち砕こうとしているロシアにはデジタルの専門家は脆弱そのもの。陸地からの戦車攻撃とミサイル攻撃でしか戦えない。だから大都市を爆弾でぶち壊すほかに戦略がなにもないのはないでしょうか。
この2ヶ月に流されたウクライナ侵攻に関するDXの話題をピックアップしておきます。
◆ウクライナがロシアによる侵攻のタイムラインをNFT化、、、
そんなウクライナのデジタル改革省は、資金調達の一環としてなんと「ロシアのウクライナ侵攻」に関する様々な記録をNFT化して「Meta History: Museum of War」ギャラリーとして一般公開中です。
「Meta History: Museum of War」では、2月24日にロシアがウクライナ・ドンバス地方での特別軍事作戦による侵攻が始まってからの動きを画像と共に掲載。これらをNFTとして販売し得られた資金はウクライナの軍や国民の支援に使うのだそうです。
「Meta History: Museum of War」ギャラリーを創設するに当たって、ウクライナのミハイル・フェドロフデジタル改革大臣は「ロシアが戦車を使ってウクライナを破壊する一方で、われわれは革命的なブロックチェーン技術を活用します。」「そして(ここは)戦争の記憶を保存する場所になり、ウクライナ人のアイデンティティと自由を記念する場所として永遠に保存されるでしょう。」と自身のTwitterでコメントしています。戦争情報が大リーグやNBAなどのスポーツ情報と同じレベルで価値を持つとはなんとも皮肉な感じもします。
◆英BBCがウクライナとロシアに向けて短波ラジオをスタート、、、
twitterを買収してさらなる時の人となっているイーロン・マスク氏ですが、彼がウクライナに提供しているスペースXの衛星インターネットサービス「スターリンク」の接続アプリのダウンロード数が3月20日の日曜日だけで2万1000回、そして過去2週間では9万8000回ダウンロードと連日1位になったそうです。そんな中、イギリスは国営放送のBBCを「短波放送」を通じてロシアやウクライナに戦況に関する「正しい情報」を届けることをはじめました。これはロシア通信規制当局が国内でのフェイスブックなどのSNS閲覧停止や海外メディアの締め出し、情報規制をかけていることで、このままだとロシア国内の住民に真実が伝わらなくなってしまうことを避けるのが狙い。
「短波放送」は短波帯と呼ばれる3,000~30,000kHzで発信することで我々が通常受信しているAM放送やFM放送にくらべてずっと広範囲に届く電波です。みなさんの中にも「短波放送」で世界各国の放送を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか? 受信できたときに「ここで聞きました」と手紙を書くと「受信証明書(ベリーカード)」を送ってくれて、これをコレクションするのが大流行した時代がありました。
現在イギリスのBBCは、ウクライナ時間14時~16時に15735kHzで、22時~24時に5875kHzで、合計1日4時間放送しているそうです。情報規制されることでインターネットが使えなくなってもアナログな「短波放送」ラジオだったら縦横無尽に世界に情報が届けられるなんてある意味素敵です。
ウクライナ侵攻の最中、ISSを平和維持すべきロシアは今、、、
国際宇宙ステーションISSが大変なことになっているのをご存知でしようか。ISS国際宇宙ステーションの運営はアメリカやロシア、日本、イギリスなど全15カ国がそれぞれ役割分担しあっていて、例えばアメリカは電力の大部分をまかなう太陽光発電パネルの運用を担当しているのに対して、ロシアは「高度を維持するためのスラスターと燃料」を担当しているんです。つまりロシアが宇宙ステーションの役割を怠るとステーションの高度が維持できなくなる=落ちてしまう恐れがあるというんです。
アメリカはウクライナ侵攻を受けてロシアに対して経済制裁を開始しました。これを受けてロシア宇宙機関のドミトリー・ロゴジン総裁は「ISSの落下を誰が防ぐのか」と警告。実際はさすがに国際契約を無視してISSを落下させることはないものの、今後は担当をロシアではなくウクライナにしてもらいたいなどと言う意見まででているということです。
ちなみにこの続報として、NASAのビル・ネルソン長官は5月3日「プーチンがウクライナでいかに悲惨な結果をともなう戦争をしていても、(宇宙開発の)プロフェッショナルな関係を邪魔するものはない」との談話を発表しています。ロシアやウクライナはこうしたロケットエンジンに高いいシェアを誇っていて、これまでもSpaceX社のファルコン9が登場するまではほとんどがロシアやウクライナが開発したロケットエンジンだったそうです。ウクライナ侵攻はこんなところにも影響を及ぼしているんです。
(出典)
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■Meta History: Museum of War