前回に続き、ゴールデンウイーク直前、新型コロナ感染拡大も最終章にたどりついて国内はもとより海外旅行などの制限も緩和された状況の中、我々の「お買い物環境」にも変化が起きているという話の後編をお伝えします。
コロナ禍における休業・時短要請に伴い、店舗業界ではさまざまな生き残り戦略を課せられ、その中のひとつに「OMO」という考え方が広まりつつあります。「OMO:オンラインマージオフライン=オンラインとオフラインの融合」とは、「オンライン(ショップ)」はお店に来てもらうための動機づけと考えてきたショップオーナーと、「オフライン(店舗)」が商品のリアリティを盛り上げると考えたオンラインオーナーが、スマートフォンの普及でわざわざ区別する必要がないことに気づきオンライン・オフラインの区別なく買い物を楽しむことを指すマーケティング用語。スマホ普及率1位の中国から全世界に広まりつつあります。
◆アメリカのOMO、、、
◎Amazon Go(アマゾン・ゴー)
世界のOMO戦略の象徴といえるのが「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」。2016年にアメリカで導入され、日本でも「レジに人がいない無人コンビニ」として大きな影響を受けました。スマートフォンをかざして入店し、購入したい商品をセレクトして店を出ると、自動的に決済が終わっているという、まったく新しい店舗の在り方とユーザー体験を実現しました。
◎Walmart(ウォルマート)
アメリカに本社を持つスーパーマーケットチェーン「Walmart」もOMO戦略の象徴の一つ。店舗に到着したら「ストアマップアプリ」を使うことで欲しい商品の価格と陳列場所がスマホアプリ上に表示されスマホ片手に快適なショッピングができます。これにより、イベントなどで陳列場所が変わってもスムーズに目当ての商品を見つけることが可能。オンラインショップではパーソナルショッパーという担当者が必要に応じて購入者の希望を聞き、それに応じた商品をピックアップ。ECサイトでありながら商品を手に取るような感覚で買い物ができるほか、商品の受け渡しは実店舗で行われるため、配送にかかる企業側の負担が少なくて済むというメリットもあります。
◆日本のOMO企業、、、
そしていよいよ日本にもその波が押し寄せています。
◎渋谷パルコ
日本のOMO企業の代表といえば「渋谷パルコ」。2019年11月にリニューアルオープンした際に掲げたテーマが「次世代型商業施設」で、5階にある「PARCO CUBE」がその象徴。事前にアプリ登録しておけば、パルコに来た際にチェックインするだけでてぶらでお買い物。事前登録した情報に基づいて店内各所に設置されたモニターにレコメンド商品が次々映し出されます。その場でクリックして購入することも家に届けてもらうことも可能。また「CUBE MIRROR」では鏡の前で360度試着した状態で回ると後ろ姿を自分で確認することもできるそうです。
◎BEAMS
元々別々にあった「オフィシャルサイト」と「オンラインショップ」を統合し、店舗とオンラインショップの顧客のデータを一元化。これによってオンラインショップで購入する人と店舗に通っている顧客を分け隔てなく対応することができるようになりました。ここから商品の仕入れ予測、売上予測、レコメンドなどが一気にできるようになり業務効率が格段にアップしたそうです。
◎株式会社Zoff
実店舗とECサイトの情報を連携させ、より買いやすいECサイトを展開。顧客が自分の度数等を覚えていなくても、どこの店舗でもオンラインでも「度数」「レンズの種類」「以前どの店舗で購入したか」を画像で確認することが可能。メガネは“店舗に行って買うもの”というイメージを打ち破り、オンラインでメガネを購入するという流れを生み出しています。
◎UCC上島珈琲
オンラインの画像やテキストで、コーヒーの『香り』や『味』を表現することはとても難しく、さらにコーヒー初心者にどのコーヒーにするか、どれを飲みたいか選ばせるのは大変難しい。だったらオフラインを起点に考えようということから、UCCが運営する実店舗である「COFFEE STYLE UCC」を起点に、コミュニケーションツールとしてLINEを活用してひとそれぞれのコーヒーマップ「MY COFFEE STYLE」が作成できるようにしました。(ここでは「味覚診断」「My COFFEEマップ」「My COFFEEスタイリスト(bot)」などのさまざまなサービスを受けることが可能)。LINEを通じてコーヒーに関する問い合わせから豆の購入まで自宅にいながら自分好みのコーヒーを選び楽しむことができます。これが実店舗とオンラインでシームレスにつながります。
◆課題とこれから、、、
世界では「OMO」がどんどん普及を始める中、日本ではまだまだ遅れを取っています。それは日本のマーケティングの土台がまだまだ実店舗=オフラインという考え方が根強いところにあります。なので緊急事態宣言下などでお店の営業時間が短縮されたり規制がかかったりして売上に大きなダメージを受けてしまうのは日本の大きな特徴なのかもしれません。実際コロナ禍であってもユーザーの購買意欲はそれほど低下しておらず、食料や生活必需品の需要はかえって上がっているというデータさえあります。
アメリカや中国を筆頭として世界的にアフターデジタルの概念が急速に広まり「OMO」への舵取りが始まる中で、日本はこれからどうしていけばよいのか。そこには前に紹介した「OMOに必要な4つの条件」を再確認すると見えてきます。
◎モバイルアプリ:つまりスマートフォンの普及、とくに「OMO」がもっとも必要な高齢者への普及がいまいちなのも含め主要21カ国中最低水準なんです。年齢の別け隔てなく誰でも使えるスマートフォンの普及が必須なんです。
◎モバイル決済:これもまだまだ普及が先進国の中で最低ランク。理由としては「情報漏えいや不正利用が心配」「現金を利用したい」と様々ですが、「興味がない」という理由も多くなっているそうです。サービスがいろいろあってどれを選べばいいかよくわからないというのも大きいかもしれません。世界に肩を並べるにはこれを国を上げて変えていかなければならないのかもしれません。
◎センサー技術、AI導入:これらについては日本は積極的な開発導入が始まっています。ただ問題はリアルな顧客情報とオンラインの情報をつなげる技術に乏しいこと。日本はリアルな顧客情報はかなり昔からデジタル化を始めていました。そのため古いシステム上で稼働していることが多い。これを最新のオンラインサービスとつなげようとするといきなる不具合が出てしまう。最近の銀行システムや通信障害などが起きる原因の一つでもあります。早急な対応が望まれます。
またいつもの話ですが、顧客情報の不正流出という問題もついてまわります。これについては流出しても中身が見られないよう暗号化する最新技術がどんどん進化しているので、最新技術の導入も大きな課題となります。
もはや我々の日常にもなってきている「オンライン」と「オフライン」ですが、これらの進化が我々のこれからの社会にどれほど影響を及ぼしていくかおわかりになったでしょうか。ふだんは「オンライン」と「オフライン」をなにげなく使い分けていますが、今後さらにその別け隔てはなくなっていくでしょう。そのときどんな「カタチ」がみなさんの理想の姿なのか考えてみていただければさいわいです。