北京オリンピックが無事開催できてやれやれと思ってた矢先に、ロシアがウクライナ侵攻。信じられないプーチン大統領の言動に世界が混沌となっています。北京パラリンピックにはロシアもベラルーシも国としてはもとより選手の出場が拒否されました。政治の関与なしに平和の象徴でもあるオリンピックが開催できないとは一体どうなっているのか。パンデミックに追い打ちをかける非常事態、これまでの常識や価値観が通用しない世の中に我々はどう取り組んでいくのか。今回と次回に渡りこうした「ゲームチェンジ」を強いられている「自動車業界」にスポットを当てて議論してみたいとおもいます。
◆2022年は「ゲームチェンジ」が必要な年
全世界で同時に起きた「新型コロナ感染拡大」によって、我々の生活は大きく変わってしまいました。それとともに世界経済のおいてもさまざまな変化が起きています。例えば都市のロックダウンにおいてレストランなどの飲食業が次々閉店する一方、アマゾンなどのネット通販やUBER EATSなどのデリバリーが急成長しました。地球温暖化を防ぐためのさまざまな変化も起きています。また地球温暖化やコロナに関係ないところでも、家電製品の良さがハードでなくソフトウエア重視になってきたり、これまでの考え方や価値観だけでは進められないことがどんどん起きています。
こうした動きを経済の視点からは「ゲームチェンジ」が迫られていると言うそうです。つまりこれまでとは異なる発想で企業のあり方や製品の作り方、そして暮らし方を変えて「ゲームチェンジ」していく必要があるというわけです。中でも「ゲームチェンジ」が強いられている業界が「自動車業界」。特に今年2022年はEV(電気自動車)」が我々の生活にどんどん入りこんで来るでしょう。でもだからどうなんだ、まだ自分にとって「EV(電気自動車)」は未知のもの。興味はあるけど買い換えるまでには至らない。そんな方が多いのも事実。でも世界からはそんな悠長なことは言ってられないプレッシャーが迫ってきています。
◆ゲームチェンジ(1)カーボンニュートラルとゼロエミッションは同義語か!?
改めていまの「自動車産業」に迫られているゲームチェンジ=「EV(電気自動車)」について考えてみたいと思います。地球温暖化が叫ばれるようになり、各国政府による脱炭素社会の実現に向けた積極的な発言が出る中、2021年10月31日からイギリス・スコットランドのグラスゴーで「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」略称「COP26」が開催されました。2030年までに各国がどこまで「脱炭素社会」に対応できるかを宣言した2015年のパリ協定以来初めての首脳級会合となりました。
ここで日本政府は政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。「排出を全体としてゼロ」にするというのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。これは世界の平均気温がわずか2百年前の産業革命から約1℃上昇しているという事実から、このまま進めば今世紀中に平均で2.7℃上昇すると国連が発表、すでに1℃上昇しただけで異常気象や洪水、山火事などが次々起きてしまうと待ったなしの措置。「SDGs(持続可能な開発目標)」への理解もそんなことから昨年大いに広まりました。
「カーボンニュートラル」には当然のことながらガソリン車を減らし、CO2を排出しないいわゆる「電気自動車」=「EV(Electric Vehicle)」に置き換える活動も含まれています。COP26ではここでいう電気自動車のことを「ゼロエミッション車=ZEV(Zero Emission Vehicle)」と位置づけ、2035年までに主要市場で、2040年までに全世界において、バンを含むすべての新車をゼロエミッション(テールパイプで温室効果ガスの排出がゼロ)として販売することに、大多数の国やベンツやGMなどのメーカーが著名しました。
我が国はどうだったのか、、、なんと国はもとより都道府県、市町村、自動車メーカーなど誰も著名しませんでした。理由は「達成できると思っていないからサインしなかった。」ということだそうです。またもう一つの理由として「敵は炭素であり、内燃機関ではない」すなわちCO2を排出するしくみ(エンジン)に問題があるのではなく、CO2が出たらそれをカバーできるだけの回収機能があれば良い、つまり完全にCO2排出車をカットしなくても、ハイブリッドなどで対応してCO2を減らしつつ森林などを増やしながらカーボンニュートラルにしていく方法のほうが現実的だというのです。
果たしてそうなんでしょうか?現時点ではまだどちらが正しいかだれもわかっていません。ここでわかったのは「カーボンニュートラル」と「ゼロエミッション」では全く意味が違うということです。何らかの「ゲームチェンジ」=発想の転換をしていかなければ「共通の話題」になっていかないというわけです。
◆ゲームチェンジ(2)エンジンなのかモーターなのか、、、
ちなみにEV(Electric Vehicle)と言ってましたが最近は「BEV(battery Electric Vehicle)」=バッテリーで動くEVというようになりました。これはガソリンを燃やして電気を起こす「ハイブリッド車(HV)」や、水素で電気を起こして動かす「燃料電池車(FCV)」など電気自動車にもいろいろ出てきたためです。
ここで電気自動車の主な種類を改めて確認しておきましょう。「HV=ハイブリッド車」の代名詞ともなったのはトヨタの「プリウス」ですね。HVはガソリンでエンジンを動かして電気を起こす車ですね。プリウスに限らずいまでは日産「ノート」スズキ「ハスラー」やホンダ「ヴェゼル」そして「ベンツ」や「フォルクスワーゲンゴルフ」なども出しています。
これに100ボルトなどの電源をつないで充電ができるのが「PHV=プラグインハイブリッド」といいます。プリウスにもPHVありますしトヨタ「RAV4」や三菱「エクリプス クロス」海外では「BMW」や「ボルボ」「アウディ」「ベンツ」もだしてます。ほかにエンジン(内燃機関)があるEVの仲間では、水素でエンジンを駆動させる「水素エンジン車」がありますが、これはまだ市販されていません。
続いて「内燃機関」がエンジンではなくて「モーター」のものになります。まずは「BEV=バッテリー駆動EV」ですね。テスラを始めいわゆるハイブリッドではない電気自動車のほとんどが「BEV」です。そして水素を使って電力を生み出す「燃料電池車=FCV(Fuel Cell Vehicle)」これはバッテリーなどに電気をためておく必要がありません。燃料電池内に酸素と水素を取り込み、その化学反応からの電気エネルギーでモーターを直接回します。いまのガソリン車がガソリンを入れてエンジンを動かすのとほぼ同じ仕組みで水素がモーターを回すわけです。現在市販車ではトヨタの「ミライ」ホンダ「クラリティ」ヒュンダイ「ネッソ」だけです。HV、PHV、BEV、FCVの違い理解できましたでしょうか。
さてBEVの最大の特徴は「エンジンがない」ということ。エンジンの代わりにモーターで車輪を回転させて走行します。モーターだと最初から回転運動なのでギアがありません。アクセルを踏めば早くなるしやめれば止まるのでブレーキもいらなくなるでしょう。
つまりBEVになるということは、自動車の製造過程で必要な部品が全く変わってしまうということ。乗用車の部品数は一般的に約3万点といわれていますが、そのうちのエンジンやトランスミッション(変速機)に関わる動力部品が約3割を占めていてその殆どが必要なくなるとすれば、部品数が3分の2(約2万点)になってしまうというわけです。
それによって製造工程も変わるので、部品数に比例して製造に関わる人達の数も変わるとすれば、部品製造に関わる人達も3分の2になってしまうかもしれないということになります。こうした雇用問題を大きく抱えているのがBEV普及を阻む大きな課題となっています。
◆ゲームチェンジ(3)充電ステーションの普及が先か、EV普及が先か?
さらにいま注目の充電ステーション。ガソリンスタンドのようにどこにでもあるような状況にはなっていないので、EVを購入するのはまだ先だと考えている方も多いのではないでしょうか?その考え「ゲームチェンジ」です。
充電は基本的に自宅でやります。自宅のフル充電でだいたい300キロくらいは走行できます。東京都心から伊豆往復、宇都宮往復くらいなら充電無しで問題なく走行できます。つまり充電ステーションは100キロ間隔くらいの観光地など車が集まる場所にあればいいと言われ、すでにかなりカバーされつつあります。BEVの普及には、充電ステーションが近所にあることが不可欠なのか、ある程度充電ステーションがあれば、BEVに乗り換えてCO2削減に協力するようになるのか。今言えることは、近い将来必ず「ゲームチェンジ」して誰もがBEVに乗り換える日が来るということです。
◆ゲームチェンジ(4)自然エネルギー対策が先か、EV普及が先か?
3年半前にEVを普及させるために重要な3要素は、バッテリー(蓄電池)が、(1)軽くて、(2)急速充電できて、(3)長距離走行できる、、、でした。ただ自宅も含め充電スタンドをどんどん普及させれば発電力も増やしていかねばならなくなります。実は重要な課題はバッテリーを充電するための電源はいまのところ火力発電だということ。日本における発電の割合は、2019年度で化石燃料による火力発電が75.7%を占めています(エネルギー白書2021)。いまの日本で発電を増やすということは火力発電を増やすということになってしまうんです。
これを早急に自然エネルギーに変えていかなければ何の意味もない。政府が自然エネルギーに転換することをもっと積極的にやってくれないと一気にEV化は到底できない。日本でガソリン車が一気にEVに変わったら日本の年間総発電量の約1割の電力が必要になると言われている。つまり発電能力を現在の10~15%増強しなければならない。これは原子力発電で10基、火力発電なら20基に相当するそうです。EV開発に消極的なメーカーがあるのはそんなところにも原因があるようです。
ただ現在の乗用車総保有台数約6200万台が全部EVに置き換わるのには約15年くらいかかると言われています。いまからみんなで買い換えるぞと言っても電気量を自然エネルギーで10%増やす準備期間は十分あります。そういう思考の転換「ゲームチェンジ」が必要なのかもしれません。さて次回後半では世界のEV産業の実態についてどんな「ゲームチェンジ」が始まっているのかレポートしたいと思います。
(出典)
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■国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)(21/11/16)