今年はノーベル物理学賞に日本人でアメリカ・プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎さん(90)が受賞されて大きな話題になりました。
真鍋さんが研究されてきたテーマは「地球温暖化」。このことをなんと50年以上も前の1960年代から研究し続けて来たというから驚きです。いまでは当たり前のように我々の生活の中でも活用されている「天気予報」ですが、真鍋さんが50年前に海洋学と気象学を結びつけた物理モデルを思いつかなかったら、今のような予測は全く出来なかったでしょう。また「地球温暖化」に関して世界中が注目することにもならなかったかもしれません。
こうしたことから「SDGs(持続可能な開発目標)」や「カーボンニュートラル(co2の排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにする)」などの活動が世界中に広まりつつあります。そして「SDGs」や「カーボンニュートラル」などの活動を加速させていくため「IT技術で解決していこう」という動きがあります。それが「クリーンテック」と呼ばれるものです。
今年の年末は、今回と次回の2回に分けてこの「クリーンテック」を取り上げてみたいと思います。現在の世界で注目される「クリーンテック」の状況が少しでも垣間見えれば幸いです。
■なぜ、今地球温暖化や気候変動にこれほど注目が集まっているのか、、、
ここ数年アメリカではハリケーン、ヨーロッパでは熱波、日本では土砂災害が異常に増えています。その数はこれまで100年に1度だったものが10年に1度の頻度にもなっていると言われます。その原因にひとつと言われるようになったのが「地球温暖化」です。「地球温暖化」は産業革命の1850年代から1900年に始まったと言われています。産業革命当時と比較してすでに現在の気温は1℃上昇。実は徐々に上がって来たわけではなく、級数的に上がってきているんです。これを「ホットハウス・アース」現象と呼ばれています。
まず地球温暖化によって北極の氷が溶けます。メタンガスやCO2 などの温室効果ガスも大量に発生。アマゾンの熱帯雨林も消失。CO2の行き場がなくなり連鎖的に温暖化が加速します。このことでまず起きるのは作物や牧畜がいままでのようにできなくなり「飢餓や食糧問題」が全世界で起きるというわけです。専門家によればこれが1.5℃を超えると急速に「全世界飢饉」がすすむといわれています。
「クリーンテック」は「クリーンテクノロジー」とも呼ばれ、再生不可能な資源の利用を抑制あるいはゼロにし、これまでのものに比べて「廃棄物の発生を大幅に少なくした」製品やサービス、プロセスを指します。個別の技術のことだけを指すのではなく技術(テック)に関連した「ビジネスモデル」を作り上げること全般を指す言葉にもなっています。
いくらSDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルなどの目標を掲げても、それを実行する人材とアイデアと資金がなければ何も出来ません。つまり「クリーンテック」を見出し、実行することができて初めて「SDGs(持続可能な開発目標)」が達成できるというわけです。
■「クリーンテック」の市場規模、、、
市場調査会社Allied Market Research(アライドマーケットリサーチ)のレポートによれば、2018年のクリーンテック市場規模は68億5,000万ドル(約7,331億円)だったのが、2026年には446億1,000万ドル(約4兆7,742億円=8年で7倍)に達すると予測されています。
「再生不可能な資源を利用せず」かつ「様々な廃棄物の発生を大幅に減少させる」ための技術支援「クリーンテック」の市場としては、
・太陽光発電などのクリーンエネルギー分野
・電気自動車(EV)などを使ったクリーン交通網やロジスティックス分野
・クリーンな食料資源調達分野
・リサイクル・リユースなどのクリーン環境改善分野
・それらを取り巻くクリーンシステムやサービス分野
・クリーンな基礎技術開発分野
の全6分野に分けられます。
世界で幅広くコンサルティング活動を展開するアメリカの「クリーンテックグループ(Cleantech Group)」は毎年、世界で環境問題解決に大きなインパクトを与えそうな企業のトップ100(Global Cleantech 100)を発表しているのですが、2021年版では、北米から62社、ヨーロッパ・イスラエルから33社、アジア太平洋地域からは5社が選ばれました。残念ながら日本企業は選ばれませんでした。
これら100社を分野別に投資額で分けてみると、クリーンエネルギー分野が21億ドルと一番で、次にクリーンな食料資源調達分野(農業テック支援)に関しても17億ドルとなっています。このあたりの分野を中心にユニークな取組みをしているクリーンテック企業を紹介したいと思います。
■注目の「クリーンテック企業」(海外)
◎ピボットバイオ社(Pivot Bio)(食料資源調達分野)
アメリカカリフォルニア州に本社を構える企業。農業生産の領域においてITを活用して環境保全活動を展開する勢いのある企業の一つ。
窒素は農作物の成長に必要な栄養素の1つである。窒素をまかなうため、現在は合成窒素肥料が広く使われていますが、それが土壌に残ることで窒素化合物となり、河川に流れて水質汚染の原因となります。同社は窒素を生産する微生物製品「Pivot Bio PROVEN」を植物を栽培する際に土の中に入れることで、植物の根に勝手に微生物が付着し、適度な窒素を供給するようにするバイオテクノロジーを開発。その結果、合成窒素肥料を使用することなく植物に窒素を供給し続けられるようになりました。
2018年には7,000万ドルの投資を得、2019年には市場での販売に踏み切り、販路拡大にも成功。農作物を収穫しながら環境の保全にも役立つとして注目されています。
◎ライラックソリューション社(Lilac Solutions)(環境改善分野)
アメリカカリフォルニア州に本社を構える企業。現在多くの分野で利用されているリチウムイオンバッテリーの新たな開発に着手している企業として注目されています。同社を設立したのはバッテリー技術の先駆者ともいわれているデヴィッド・シュナイダッカー(David Snydacker)氏。2016年の創設から4年、現在2000万ドル(約21億4,000万円)の投資を得て活動を展開。
通常のリチウムは抽出までに2年がかかるとされるなか、同社の技術は、リチウム抽出までの期間をなんと2時間に短縮させてしまいました。2019年にはアルゼンチンや米国ネバダ州などで実験が行われ、いずれも従来の抽出方式より短期間で高濃度リチウムが抽出できるという成果を挙げています。
リチウムの大幅なコストダウンは電気自動車の普及に大きな影響を及ぼすのはもちろん、さまざまな分野でのコストダウンにつながっていく可能性を秘めています。
◎イー・エス・エス(ESS)社(クリーンエネルギー分野)
アメリカオレゴン州に本拠を置き、持続可能なフローバッテリーを開発している企業。フローバッテリーとは、長寿命かつ発火性の材料を用いない安全性が高いバッテリーのこと。電力系統用の蓄電池などに使われています。
ESS社のフローバッテリー「エナジーウエアハウス(Energy Warehouse)」は、リサイクル可能な鉄ベースの電解質を使用し、メンテナンスをほとんど必要とせず、400kWh(概ね一般家庭の1ヶ月分の電力消費量に相当)を蓄電できるのが特長。また入手しやすい鉄を使用することでコストも下げることが可能。再生可能エネルギーを貯蔵し安定供給できるため、通常の電力が届かない遠隔地においても電力を届けることが容易となります。
低コストで環境負荷も少ないフローバッテリーが普及することで、地域の電源は地域の資源で賄う「マイクログリッド」(同一地域内にエネルギー供給源と消費施設を持つ小規模なエネルギーネットワーク)あるいは、オフグリッド(電力会社に頼らず電力を自給自足している状態)な社会を実現させることが可能となり、電力供給モデルに革命が起きると言われています。
<前編>でのご紹介はここまで。<後編:12/18ころアップデート>ではさらに「クリーンテック」を推進する世界の企業や技術をご紹介するとともに今後の課題などにも迫ってまいります。
(出典)
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■2021 Global Cleantech 100
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■Pivot Bio
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■Lilac Solutions
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■ESS