2020年(昨年)5月イーロン・マスク氏率いるスペースX社は、NASAの宇宙開発事業の一環として民間初の宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功。その後11月には日本の野口聡一さんらを国際宇宙ステーション(ISS)に送り届け、さらに4月には再び星出彰彦さんらをISSに送り届けるとともにその宇宙船で野口さんが帰還するという偉業を成し遂げました。それは単なる民間宇宙事業の始まりでしかなく、先日7月11日にはヴァージングループ総帥であるリチャード・ブランソンさんらが自らの船に乗って宇宙空間への飛び立ちに成功、20日にはアマゾンの創業者・ジェフ・ベゾスさんも見事に自前のロケット・ニュー・シェパードで宇宙旅行を成功させるなど「民間宇宙開発事業のあけぼの」とでも言うべきときが来ています。
日本はいよいよ東京オリンピック・パラリンピックが幕開けしましたが、それに伴う新型コロナの感染拡大も異常な状況が続いているため、そんな宇宙旅行の話題もなんとなく素通りしそうなムードが漂っています。でも今回はコロナ撲滅のカギをも握るかもしれない「宇宙開発事業」の魅力を最近の話題から拾い集めて見たいと思います。
■ESAの重要なミッション!宇宙ゴミを取り除け!
一昨年12月欧州宇宙機関(ESA)は、世界初の地球の軌道から宇宙ゴミを取り除くミッションを開始すると発表しました。
地球の低周回軌道(高度約1200マイル)上には現在、大量のゴミ(スペースデブリ)があります。それは3000個以上の衛星の残骸とそれらが衝突を繰り返して飛び散った数千万の破片が散乱していると言われています。計算によれば、約1億2000万個の小さな破片と数万個の塊が地球を1時間あたり17500マイル(時速28000キロ)の速度で周回しているそうです。
宇宙ゴミの取り除きミッションは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校の専門チームが立ち上げたスタートアップ企業「クリアスペース(ClearSpace)」を中心とするコンソーシアムが実施するもので、2013年にESAが軌道上に残したままのベスパ(Vespa)と呼ばれるロケットの上段分離部分をターゲットに、捕獲ロボット「チェイサー」を打ち上げ、4本のアームを使って捕獲。その後一体となって大気圏に落として燃え尽きさせるというものです。
このミッションを成功させることで、我々の家に来るゴミ回収車のように、定期的な宇宙ゴミ回収作業を実現させることを目指します。実施開始は2025年の予定。そんな「宇宙ゴミ拾い」では日本も一役買っています。
今年3月には日本のアストロスケール社の「ELSA-d」という人工衛星が宇宙空間に解き放たれました。これはスペースデブリ除去の実証実験用衛星です。宇宙ごみ回収の本格的な実証はESA(欧州宇宙機関)は2025年からなので、今回の日本が世界初になりました。4月のCnetJapanにも書きましたが、宇宙ゴミ回収試験は高度550キロメートルの上空で行われ、カメラとレーダーを利用して目標に接近した後、強力な磁石で宇宙ゴミを回収。相当数の回収が終わった後は、ゴミとともに衛星が自動で大気圏に突入して自己焼却するようになっているそうです。
■衛星インターネットの時代到来、、、
イーロン・マスクさん率いるSpaceX社が小型衛星を何百基も打ち上げて、それらを使って世界規模の衛星インターネット回線を作ろうという「Starlink(スターリンク)」計画。最新情報によれば、すでに26回の打上げに成功し毎回60基程度追加してきていることを考えれば、小型通信衛星が1500基程度打ち上がっているものと思われます。
最終的には1万2千基以上を予定しているということなんですが、すでに「衛星インターネット」を最初に体験したいテストユーザーの募集が始まっています。通常こういったテスト参加の場合は、サービスの良し悪しや使ってみた感想を細かく聞く代わりに無料で参加してもらう場合が多いのですが、今回はテストに参加するには、同サービスに接続するためのルーターとフェーズドアレイ・アンテナの費用の前払いとして499ドル(約5万2000円)支払い、それ以降は月額99ドル(約1万300円)がかかるということです。
ただこの費用は既存の「Viasat(ビアサット)」や「HughesNet(ヒューズネット)」など従来の衛星インターネットサービスとほぼ同じ料金。にもかかわらず今回の「Starlink」の通信速度がこれまでのものの「約6倍」にもなるということで、我先にということで利用者が殺到しているようです。
そんな中早々とこの分野にさらなる強豪が現れています。先日の自前のロケットで宇宙旅行を成し遂げたジェフ・ベゾス氏創業のアマゾンです。アマゾンは約3200個の小型通信衛星を地上約500キロほどの低空域に打ち上げてこれらを地上と通信回線で結んで全世界を網羅するインターネット回線を2030年ころまでに完成させるという計画。衛星インターネットが日常になる時代がもうすぐそこまで来ているのではないでしょうか。
■ロス削減!日本でも再利用できるロケットを開発!?
3月のcnetJapanの記事で紹介した、ロサンジェルスが本社のRelativity Space(レラティヴィティ・スペース)が、3Dプリンターと人工知能(AI)を組み合わせて、ロケットの大量生産をしようとしているという話ですが、ロケットのコストダウンを図る技術は日本でも考案されています。
ベゾス氏の7月20日の宇宙旅行で、ロケットの第1段部分が自動で基地に戻ってきたのを見ましたか? まるでサンダーバードの操り人形のようで本物が戻ってきたとは思えない風景でした。そんなロケットの再利用については、イーロン・マスク氏率いるスペースX社もファルコン9やブランソンさんのスペースシップ・ツー(VSS Unity)でもすでに採用済み。
そんな手法を日本でも採用しようと試行錯誤してきた結果、ついに政府は、2021年から運用予定の基幹ロケット「H3」に続く次世代機について、打ち上げ後に機体の一部を海上などで回収する「再使用型」で開発する方針を固めました。
これまでの日本の主力の「H2Aロケット」は、約100億円という打ち上げ費用の高さがネックで、海外衛星の打ち上げ受注で世界に負けていましたが、次世代機は、ファルコン9同様、第1段ロケットを分離した後、その姿勢を制御して海上などに着地させ、繰り返し使用する方式を採用することでコストを大幅に下げ、国際競争力を高めるということです。早ければ2030年にも初打ち上げを目指すということです。
■宇宙を汚さないクリーンなロケット推進薬が誕生した!?
打ち上げロケットの再利用に加えて、日本は世界に先駆けて金属燃料を使用しないクリーンな排気ガスを持つ新たなロケット推進薬の開発を手掛けることについて5月11日発表がありました。手掛けるのは千葉工業大学やJAXAなどの共同研究チーム。
ロケットの重量のなんと約20%は固体燃料が占めており、そのロケット推進薬には、金属燃料を用いるため性能が向上する代わりに金属酸化物などが排気ガス中に含まれて宇宙に排出されます。それらが宇宙ゴミ(デブリ)となり、宇宙空間を汚染してしているということで、国際的にも課題となっています。まさに自動車がEVになっていく話と同じですね。
研究チームは金属燃料の代わりに高エネルギ物質の「ギャップ(GAP)」と呼ばれる高分子ポリマー素材を使ったところ、確実な着火と安定した燃焼を確認できたということで、3月25日、千葉県千葉市にある千葉工業大学千種グラウンドにおいて打ち上げ実験を実施。打ち上げ実験は2回行われ、いずれも予定通りの高度へ到達し実験は成功したということです。
今後は宇宙空間での利用実験を重ねて実用化に向けて進め、人工衛星や惑星探査機などにも搭載することで、宇宙空間のみならず他の惑星にもやさしいロケット燃料が日本から世界に普及していってほしいものです。マスクさん、ベゾスさん、ブランソンさん、ぜひ日本のクリーンエネルギでロケット発射お願いします。
(出典)
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■Space Debris - ESA
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■Starlink
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■段再使用飛行実験(CALLISTO)プロジェクト
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■世界初!宇宙を汚さないクリーンなロケット推進薬の開発に成功