3度目の緊急事態宣言(東京)は5月いっぱいまで延長されるも、さらに6月20日まで2度めの延長するかどうか議論されている状況。飲食飲酒業やそれに関連する業態はもはや風前の灯の中、65歳以上や医療従事者への集団ワクチン接種が始まりましたが架空の番号で登録できちゃったり注射器が使い回されていたり1日に2回摂取する人まで現れるなど大混乱。そしていよいよ7月21日(開会式は7月23日)からは東京オリンピック・パラリンピックなのにどんな対応になるか国民にはまだ何も知らされない。さらにアメリカではアジア系住民に対する「ヘイトクライム」対策法が成立するも、日本の議会では「人類は“種の保存”という本能を持っている」などの一面的な発言でLGBT法案の了承が見送られています。これでも日本はなかなか良くやっていると言ってあげて良いのでしょうか。
さてここcnetニュースウェブでは前回お送りした「ヒト2.0:コロナ禍でヒトをどう進化させるのか」の後編をお送りします(前編を見逃した方はぜひご確認ください:)。デジタルトランスフォーメーション(DX)が様々な分野で起きている今日、ヒトそのものもデジタルで進化していく兆しが見えてきています。日本ではようやく平井卓也デジタル改革担当相を中心に10月10日、11日のデジタルの日創設に向けて動き出しています。「良くやっている」と言える日本になるために生命の進化とデジタルがどんな人類のバージョンアップをもたらすのか。そんなところをまとめてみました。
■クローン技術によるバージョンアップ・・・
今から約25年前の1996年7月、世界初の哺乳類の体細胞クローンである羊の「ドリー」がスコットランドのロスリン研究所で誕生し(世界への発表は97年2月)、世界中で大きな話題となりました。ドリーは6歳の雌羊(メス)の乳腺細胞からのクローニングによって誕生。ドリーの成功後、ウマやウシといった大型哺乳動物のクローンも多く誕生しました。ただ危険も伴う技術でもあり、倫理的な問題も含んでいたため、現在人間のクローンを作るということにおいては、日本では「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」が2000年に可決され、基本的に罰則をもって禁止されています。
クローン技術が安全に行うことができるようになれば、生産能力の高い乳牛を増やしたり、優秀な競走馬を増やすことが可能になったり、病気に強い動物を多く育てたりもできるようになります。またヒトや動物そのものだけではなく臓器の再生などにも応用され、iPS細胞技術などと連動して、心臓や肝臓などの移植を待っている人のための再生医療にも役立つと言われています。その一方で、例えば病気に強い動物だけが存在する世界で自然環境は保たれるのかどうかという議論も絶えません。
■バイオテクノロジーによるクローン技術・・・
それでも中国ではすでに希少動物やペットのクローン再生企業が多数誕生しています。新興バイオテクノロジー企業の「希曼基因(キマンキイン)」では、すでに十数頭のペット犬をクローン技術でよみがえらせ、ペットのクローン作成専門の子会社を設立し、ペット専門病院600箇所と業務提携して、クローン作製や細胞の保存、遺伝子検査などを始めており、すでに計1000万元(約1億6000万円)以上を売り上げているそうです。
■デジタルによるアイドルクローン・・・
バイオテクノロジーによる技術革新の一方、デジタルによるクローン技術というのも始まっています。中国のアイドルグループ「SNH48(上海48)」は世界で初めてデジタルクローン技術を使ってミュージックビデオを作成したと発表しました。制作したのはアメリカカリフォルニアのスタートアップ企業「オーベン(ObEN)」社です。「SNH48」主要メンバー6名の特徴や見た目、声などをAI学習させ、独自の「パーソナル人工知能(PAI)」技術で3Dアバター化しました。本物のメンバーとミュージックビデオの中で共演を果たしたりファンとの会話などができるそうです。
さらに「オーベン(ObEN)」社は日本の吉本興業と昨年12月に合弁会社「Yoshimoto ObEN AI Agency」を設立し、今後よしもとに所属する6000人のタレントをデジタルクローン化し、忙しいタレントの代わりにファンイベントに動画で出席してファンの質問や要望に応えることを目指しているそうです。こういったヒトのバージョンアップも進んでいます。
■全人類ひとり1デジタルクローン・・・
そんな「デジタルクローン」を一歩先に進めている企業があります。日本の「オルツ(alt)」という会社です。「オルツ(alt)」も「オーベン(ObEN)のように「パーソナル人工知能(PAI)」の研究開発をする会社ですが、ほかと違うのが「全人類ひとり1デジタルクローン」というコンセプトで研究開発を進めていることです。
それはどういうことかというと、全人類それぞれが自分と同じ行動や判断力を持つ「デジタルクローン」を持つ時代が必ず来るはずだ、それによって人類は飛躍的なバージョンアップができるというのです。ちなみに他社では「パーソナルAI」の作成に膨大なその人の会話データや思考、記憶などを学習させるのに対し「オルツ(alt)」は、一般的な男性や女性の平均的な会話や思考や記憶データを作成し、デジタルクローンを作る個人の特徴あるデータと比較することで、少ないデータでもその人らしさのチューニングを可能にしました。さらにはひとりひとりのデジタルクローンを作成する時間も格段に短くなったということです。
さらに「オルツ(alt)」のデジタルクローンは、その人らしい喋り方やしぐさなどを再現させるだけではなく、その人特有の「意思決定=決断」ができるようになるまでチューニングしているそうなんです。人間は1日に約4万回の決断(意思決定)をしているそうなんですが、実はその8割は同じようなことへの決断なんだそうです。「オルツ(alt)」が考える「デジタルクローン」はその8割の同じような「決断」を任せることに特化させ、我々人間のパフォーマンスを大幅に向上させる=バージョンアップさせたわけです。
■デジタルクローンでバージョンアップされるヒト社会・・・
日常的であってそれほど責任重大でない「意思決定」を自分のデジタルクローンに任せるという生活を考えてみたいと思います。まずみなさんがいつもやっている「朝」のメール確認。これはほとんどデジタルクローンに任せられます。「このメールは返事の必要はない」「このメールにはこういう返事をすればいい」。どう返事したかなどが気になればすべて記録で確認し、もし違った決断をしていればあとで訂正すればい良いだけです。でもいつもの自分が再現されているクローンなので、訂正することはまずないのではないかということです。デジタルクローンがいれば「朝」のメール確認の時間は完全にほかの仕事に使うことができるようになります。同様に日常的な電話の応対やチャットのやりとりなどもすべて「デジタルクローン」の仕事になるでしょう。
「オルツ(alt)」のデモではさらに「デジタルクローン」同士で問題解決をするシーンも出てきます。つまり一人で決断できないような課題を複数の「デジタルクローン」同士が会話して意思決定することも可能になるというのです。そうなると、最初に問題提起した日本の諸問題もまずはデジタルクローンに議論させてみたらどうでしょう。生身の人間はもっとクリエイティブなことに時間を使うことで、今よりももっとさまざまな選択肢が広がった社会に変わっていくというわけです。
現在はもちろん研究段階ではありますが、この「全人類1デジタルクローン社会」はまさに、今回のテーマでもある「テクノロジーによるヒトのバージョンアップ」の集大成だと感じました。そしてその実現もそう遠くない未来ではないかと思います。(前編読んでない方はぜひ前編も)
(出典)
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■希曼基因(キマンキイン)
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■オーベン(ObEN)
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■オルツ
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■ヒト2.0:コロナ禍でヒトをどう進化させるのか(前編)
https://japan.cnet.com/blog/natsuhiko_tsuchiya/2021/05/09/entry_30023051/