4/25から始まった3度目の緊急事態宣言は5月11日の期限を待たず5月いっぱいまで延長されるなど、1年以上に渡ってさまざまな形で新型コロナウイルスと戦ってきた努力もむなしく、全く感染拡大が縮小傾向に転じてくれません。インドでは毎日40万人もの感染者が出て死者も4千人以上。それも日本の0.9%に比べれば2.4%と国民のワクチン接種も進んでいるにもかかわらずそんな状況。何はともあれワクチン接種を早急に進めるべきなのは誰でもわかることなのですが肝心のワクチンが入手できていない日本。緊急事態宣言ではなく「緊急ワクチン摂取宣言」はいつ発令されるのか。
さてここcnetニュースウェブでは今回と次回に渡って「ヒト2.0:コロナ禍でヒトをどう進化させるのか」をお送りしたいと思います。デジタルトランスフォーメーション(DX)が様々な分野で起きている今日、ヒトそのものもデジタルで進化していく兆しが見えてきています。人間をコンピュータに例えたとき、人類の進化というのはどのように例えられるのか。そんなところをまとめておきたいと思います。
■テクノロジーによるヒトのバージョンアップ
ヒトそのものをハードウエアとすると、ヒトを補って能力を向上させる道具やシステムはソフトウエアと考えることが出来ます。そのとき人類の進化というのはどのように例えられるでしょう。
生物がさまざまな進化を遂げてホモ・サピエンス=今の人類になってきたことはコンピュータで言えば「ハードウエア」が進化してきたと捉えられるでしょう。対する人類が発明してきたこと、例えば火を起こす技術や印刷する技術、メガネや望遠鏡、そして病気から救うワクチンやAI人工知能などは「ソフトウエア」の進化と捉えることができます。つまりヒトの進化は、ハードウエア=人間そのものの進化とともにテクノロジーの進化=ソフトウエアのバージョンアップがとても重要だと考えられます。
ヒト本来の能力(ハードウエア)をテクノロジー(ソフトウエア)が越える瞬間を「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼び、2045年(これから20数年以内)にはその瞬間を迎えると言われているわけですが、そんなテクノロジーによるヒトのバージョンアップはどのようにして起きていくのか、実際どんなことが起きているのかピックアップしてみました。
■ICチップを埋め込むバージョンアップ〜北欧の事例〜
まず北欧スウェーデンですでに4年前ころから始まっているヒトのソフトウエアバージョンアップ。スウェーデン鉄道は、乗客の体内に埋め込まれたマイクロチップを乗車券の代わりに利用できる検札システムを2017年5月から導入はじめました。つまりヒトの手の甲に日本でいうところのSUICAチップのようなものを直接埋め込むことで、定期券やICカードを持ち歩かなくても電車に乗れるようになりました。米粒大のICチップなので比較的簡単に埋め込むことが出来、一度埋め混んでしまえば、電車に限らず、自宅の鍵の開け締めやコンビニでのキャッシュレス払いなどにも応用できるようになります。その後「バイオハックブーム」が北欧で起き、2018年ころには数十万人が埋め込んたと言われていますが、その後は一般にも広がってきているという話題はいまのところありません。でも体に悪い影響を及ぼさないなどがわかってくれば、一番簡単な人体バージョンアップの一つとなりそうです。
■〜マイクロチップを埋め込んだ社長〜
このブームを受けて、昨年(2020年)日本でも大阪のIT会社「お多福ラボ」浜道崇(はまみちたかし)社長が自ら左手の親指と人さし指の付け根にカプセルに入ったマイクロチップ(直径約2ミリ、長さ約1センチ)を埋め込んで話題になりました。記事によれば浜道社長を含めて社員3名が埋め込んで、会社の入出時のドアの開閉やタイムカードへの勤怠記録などに使うなどされたそうです。その後費用は会社持ちでツイッターでチップ埋め込む人を募集したところ、2万人以上の応募があってそのなかから20人が選ばれ埋め込み完了、追加募集もしすでに約5千人が待機状態だそうです。埋め込みは大阪市内のクリニックと連携し、注射器で挿入したそうです。日本でもマイクロチップの埋め込みは日常的になっていくんでしょうか。
■ヒトの脳のバージョンアップ〜人間の脳の記憶をデジタル化〜
今から約40年前に大ヒットした「ブレインストーム」という映画をご存知でしょうか。ここでは人間の思考・記憶・感覚のすべてを電気信号で記録することができる「ブレインストーム」という装置が開発され、それを使えば他人の記憶や感覚をまるで自分の体験のようにすることができます。映画ではこの装置の使い方がエスカレートして、ついにある人が死んだときの記憶や感覚を記録することに成功し、そのデータを使って臨死体験しようということになる、、、というミステリアスなストーリーになっていました。
そんなSFの世界があればそれを実現させようとする人が現れます。約3年前の2018年に「ネクトーメ(Nectome)」というベンチャー会社がアメリカで起業し話題になりました。「ネクトーメ(Nectome)」は脳の冷凍保存を行い、将来的にその脳をデジタル化し、記憶や意識をクラウドにアップロードするサービスです。脳の血管に特殊な溶液を通して安定化させ冷凍保存し、脳の神経細胞から記憶データなどを取り出せる技術が発明されるまでの数十年〜数百年保存が可能というものです。一時はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)も巻き込んで出資者が募られましたが、脳の保存方法で様々な意見が出て計画は打ち切られることになります。
■脳とPCを直接つなぐニューラリンク
そんな中、ご存知電気自動車EV大手のテスラ率いる世界的実業家イーロン・マスク氏は、すでに2016年から立ち上げていた「ニューラリンク(Neuralink)」という会社で2019年(今から2年前)、マウスはもとより、豚やチンパンジーの脳とコンピュータを特殊な機械(ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI))で接続することに成功したと発表しました。そして昨年2020年8月には「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」が取り付けられた子豚の活動に対するデジタル信号による可視化のデモンストレーションまで全世界に配信されました。今年2021年には、ニューラリンクを装着したチンパンジー(マカクザル)にコントローラーを使わず直接脳の信号だけでピンポンゲームをコントロールしている動画を紹介しました。
つまり動物が脳で考えたり記憶したりするときに発する電気的な信号をデジタル化し、コンピュータとつないでゲームなどを制御できるようになったということです。さらにはそのデジタル信号をメモリに保存すれば何度でも考えたことを再現できるようになるというわけです。さらにはこれらのデジタル信号と実際の行動などを組み合わせてAI人工知能で解析することで、どんな信号がどんな行動や記憶を意味するかがわかってきます。これを応用すれば記憶障害や難聴、抑うつ、不眠、依存症、脳卒中などの神経疾患を治せる可能性が出てくるというのです。もはや人間がこの「ブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)」を活用することができるようになるのも時間の問題になってきたというわけです。テクノロジーによるヒトのバージョンアップはまだまだ続きます。(後編につづく)