3Dプリンタ業界が騒がしくなっています。そもそも3Dプリンターについて検索してみると「コンピュータであらかじめ作った立体データを三次元のモノとして造り出す装置」となっています。きっかけは今から約35年前にチャック・ヒルという人が「立体リトグラフ」の特許を取得したのがその始まりだとされ、チャック・ヒル氏はその年(1986年)に3Dシステムズという3Dプリンタの会社を創業。現在でもこの会社が世界のリーディングカンパニーとなっているんです。
その後21世紀に入って廉価版の3Dプリンターが続々と発売され我々にも身近になってきましたが、あくまでおもちゃのレベルだったものが、最近急激な進化を始めています。特にアメリカ株式市場では2021年年明けの値上がり率ベスト株を見たところ
- 2位)スリーディー・システムズ
- 11位)ストラタシス(イスラエルの3Dプリンタ会社)
- 18位)ボクセルジェット(ドイツの3Dプリンタ会社)
- 36位)エクスワン
とベスト40に4社も3Dプリンタ会社がランクインしていました。そこでここ半年の3Dプリンタに関する話題をピックアップしてみました。
■「低カロリーでも満腹」な3Dプリンタ食品、、、
大阪大学、米マサチューセッツ工科大学などの共同研究チームは、3Dプリンタの使い方としては異例の、食品を3Dプリントすることで「カロリーと満腹感のバランスを制御する研究=FoodFab」を発表して話題になっています。
2020年5月の実験では、同じカロリー数で中の密度が異なるクッキーを3Dプリンタで作成。これらを食べ比べて満腹感の変化を調査。被験者30人に食べてもらい、咀嚼(そしゃく)時間と満腹感を計測したところ、咀嚼時間が長いと満腹感が上がるなどの結果がわかり、密度が濃くするだけで少ないカロリー数でも満足感が得られる食品の作成が3Dプリンタでできることを証明したそうです。
研究チームはこれらのデータをもとに、必要な1日のカロリー消費量を入力するだけで、その人にあった満足度の高い食品を自動で作成できるシステムの開発に成功。利用者はこの食べ物を食べ続けることで、食べた満足感は維持した上で過度なカロリー摂取を抑止できるということです。健康管理に3Dプリンタが応用できるとは想像がつきませんね。
■ついに3Dプリンタでステーキ肉、、、
イスラエルのフードテックベンチャー会社の「アレフ・ファームズ(Aleph Farms)」は、イスラエル工科大学と共同で、3Dバイオプリンティング技術を用いた「培養リブアイステーキ肉」を世界で初めて開発することに成功しこの2月に専門誌に発表しました。
「3Dバイオプリンター」とは単なる3Dプリンタの枠を超えて、材料にインクやプラスチックではなく、細胞を使うことができるプリンタです。これで人の臓器や血管などを作成して医療現場でも使われ始めているそうなんですが、今回はこれを応用して、牛の生きた細胞を使って3Dプリントで牛肉の原型を作り、これを血管のようなシステムで成長させ、正真正銘の「培養リブアイステーキ肉」を完成させてしまったということです。生産するのに牛の培養細胞は必要ですが、牛を育てて畜産する必要がないのでCO2も出ません。もちろん遺伝子組み換えもしてないということで、正真正銘な純粋な牛肉ができあがるというわけです。
現在はこの培養肉の安全性を確認中で、安全性が確認され各国の認可が下りれば、大規模なバイオファームを全世界に展開させていきたいということです。まさに映画スタートレックに出てくる「レプリケーター」のように3Dプリンタがなってきました。
■こちらも世界初!「3Dプリンタ」で末梢神経を再生、、、
京都大医学部付属病院の松田秀一教授らの研究グループは2020年11月、バイオ3Dプリンタを使って末梢神経を再生する技術を世界で初めて開発したと発表しました。
末梢神経が損傷した患者に対しては、これまで患者自身の足から採取した健全な神経を移植する治療などが行われてきましたが、しびれや麻痺などの後遺症が半数以上の人に見られることが課題となっていました。今回の研究では神経が損傷して歩くのが困難になったラットにバイオ3Dプリンタで作った神経導管を移植したところ、神経が再生して歩けるようになり、後遺症も確認されなかったということです。
この結果を受けて人への治験として、手の神経を損傷した患者に対し神経の再生を促す組織を移植することも発表。具体的には患者の皮膚から採取した細胞を2ヶ月かけて培養し、バイオ3Dプリンターで直径約2ミリ、長さ2.4ミリのチューブを作製、神経損傷部に移植。その後に48週間(約1年)かけて経過観察し、現在安全性や有効性を確認しているということです。ここまでくると3Dプリンタは神様の手のような気がしてきます。
そんな中、ロサンジェルスが本社のRelativity Space(レラティヴィティ・スペース)は、3Dプリンターと人工知能(AI)を組み合わせて、ロケットの大量生産をしようとしています。これはかつてヘンリー・フォードが自動車の量産を実現したときのように、これからのロケット時代における大量生産の幕開けだと共同創業者兼最高責任者(CEO)のティム・エリス氏は語っています。現在制作中の「Terran-1(テランワン)」という小型ロケットは、通常だとロケットエンジンの部品だけでも数千個もあったものが、3Dプリンタを使うと組み合わせてつなげる部品は1つにまとめて出力できてしまうためなんと100個で済んでしまったそうです。時間や人件費の超節約ができるということで現在宇宙空間での出力テストを始めているそうです。3Dプリンタに目が離せません。
(出典)
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■フードファブ(FoodFab)
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■アレフ・ファームズ(Aleph Farms)
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■京都大学:バイオ3Dプリンタを用いた末梢神経損傷に対する三次元神経導管の医師主導治験の開始
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■Relativity Space(レラティヴィティ・スペース)