いよいよ今年2020年も今月12月で最後。例年なら今年はどんな新しい発見があったかとか来年はそれがどう発展するかなど夢を抱いて年を越すところですが、世界ではワクチンが出来て摂取が始まった国も出始めているようですが、日本はどうやら新型コロナウイルス感染症拡大が止まらないまま1年を越すことになりそうです。
コロナの影響でGDPはマイナスとなり、飲食業や旅行業など人が動く消費活動が大打撃を受けるなか、家でできるさまざまな消費活動では昨年を超えた収益を得ています。リモートワークが日常となりそれに並んでライブ配信も大いに活用されました。
そんな中「ライブコマース」という分野に注目が集まっています。特に中国では史上最大の売上を更新したということなんですが、なぜか日本ではまだあまり普及していません。今回はラジオ番組で放送したこの「ライブコマース」についてのまとめをご紹介したいと思います。
■ライブコマースとは何か?
「ライブコマース」って聞いたことありますか? ライブだから何かを「生」でやっていて、それの「コマース」だから何か売ったり買ったりするサービスなのかなとか・・・。それとも「youtube」などの動画サービスで「生配信」して、お金を得ている「ユーチューバー」のやっていることが「ライブコマース」と言うのかなとか・・・。なんとなく聞いたことあるけど日本ではあまり具体例がないような感じですよね。
改めて「ライブコマース」とは、youtubeを始めとする「インターネット上でのリアルタイム動画配信サービス」=いわゆる「ライブ動画配信サービス」を使ってEコマース=何かモノを販売したり情報配信してお金を儲けるサービスのことであっています。「テレビショッピング」のインターネット版といったほうがわかりやすいかもしれませんが、ただテレビと違うのは一方的に何かを紹介したり売ったりするだけではなくて、その場で視聴者からの意見やメッセージを受けてどんどん内容が変わっていったりするところが全く新しいEコマース=オンラインショッピングとなっています。
■ライブコマースに注目が集まる理由
ただ日本ではまだあまり流行っていません。あとで紹介しますがおとなり中国では大流行中。PayPayなどキャッシュレスサービスが中国から日本に入ってきて普及したようにこの「ライブコマース」がいまめちゃくちゃ注目されているというわけです。なぜ注目が集まっているのか、それは主に3つの理由があげられます。
1)そもそもライブ動画自体が盛り上がっている
ご存知のように小学生男子の将来なりたい職業に「ユーチューバー」が挙げられるほど動画配信は身近なものになってきています。「インスタグラム」や「TikTok」など動画配信するプラットフォームは増え続けています。そして相次いでスマートフォンレベルでライブ配信するための機能がどんどん簡単になっています。誰でもライブ動画がいまからでもすぐに配信できるような状態になっているんです。
2)海外ではすでに大きな市場ができつつある
おとなり中国ではすでにライブコマースが広く受け入れられています。「タオバオライブ(淘宝直播:TaobaoLive)」は2019年度(昨年)には売上2000億元(約3兆円)を超え、2020年度の売上目標を5000億元(約7兆8千億円)に設定したと発表。中国にはこのほかショート動画アプリ「クアイショウ(快手:kuaishou)」(目標2500億元)やTikTokの国内ECサイト「ドウイン(抖音:Douyin)」(目標2000億元)を含め3大ライブコマースサイトがあって市場全体では1兆元(15兆円)にもなっているそうです。
3)5Gが本格スタート
先日の5G対応版iPhone12の発売で、いよいよ日本国内でも5Gが本格普及し始めています。5G通信となることで動画配信も受信環境はこれまでの最大100倍のスピードになると言われますし、動画をアップする送信側の環境も当然これまでの何十倍も良くなることになります。ライブ配信がお金になるとなれば、これまでのユーチューバーがどんどんライブコマースに参入していくことは当然の流れとなります。
■中国のライブコマースは半端じゃない!!
新型コロナウイルス感染症拡大によって中国でも外出禁止となり自宅待機の状態が長期化したことがさらに引き金となり、数多くの大手会社の経営者が自らライブ配信を開始しています。インフルエンサーを起用することで、2時間で3億円を売り上げた事例もあるそうです。中国のライブコマースがどんな状況なのかいくつかご紹介します。
◎ドウイン(抖音:Douyin)
みなさんがよく知っている「TikTok」ありますが、これは中国で生まれて全世界に広まっているんですが、実は中国では「ドウイン(抖音:Douyin)」といいます。ちなみにTikTokのロゴが「T」ではなくて「d」なの気がついてましたか?中国だと「Douyin(抖音/ドウイン)」だからなんですね。「ドウイン(抖音:Douyin)」は、中国発のショート動画アプリで、中国の特に「Z世代(2000年代生まれ)」に人気があります。スマホで撮影した15秒ほどのショートムービーを、簡単に編集して投稿することができます。その手軽さが魅力で、大勢の人たちに支持されました。
ここまでは「TikTok」でなんとなく僕らも知ってますよね。ここからさらに中国は進化したんです。「ドウイン(抖音:Douyin)」の面白いところは、ショートムービーだけでなく、個人間チャット、グループチャット、ライブ配信、ECサイトとしても利用できるようになったことです。例えるなら、Instagram・Facebook・LINE・ネットショッピング、これらが全部同時に使える感じ。ここからライブ配信とECサイトが結びついて「ライブコマース」が始まりました。個人も企業も有名人もどんどん参入してライブで歌を歌ったりお笑いをしたりお気に入りのものを売ったりしてお金を儲けることができるようになりました。現在アプリのダウンロード数は20億回、利用者数は全世界8億人、男女比は54%:46%で男性がやや多め、と発表されています。これまでの中国の3大IT企業といえば(Baidu、Alibaba、Tencent)でしたが、これらを超えて「ドウイン(抖音:Douyin)」が稼ぎ頭になっているほどです。
◎クアイショウ(快手:kuaishou)
「ドウイン(抖音:Douyin)」の次に利用されている中国のショートムービーアプリが「クアイショウ(快手:kuaishou)」。二番手と言ってもDAU(デイリー利用者数)は3億人(「ドウイン(抖音:Douyin)」は4億人)。「ドウイン(抖音:Douyin)」より5年ほど早くスタート(2011年)し、2019年(昨年)には全世界7億人を突破。男女比は「Douyin(抖音/ドウイン)」とほぼ同じで男性52%・女性48%。「ドウイン(抖音:Douyin)」との違いは、ユーザーの多くが地方都市や田舎だと言われていること。なので「クアイショウ(快手:kuaishou)」のトップセラーの多くは、インフルエンサーや有名人ではなく、中小企業や工場のオーナーや農家のおじさんおばさんなんだそうです。そんなことからライブコマースがテレビショッピングや単なるネットショッピングと大きく違うところが見えてきます。それは「何を買うか」が目的ではなくて「誰から買うか」すなわち「誰を支援するか」が目的なんです。そんなすそのが広いライブコマースを行っていることから動画配信全体では「ドウイン(抖音:Douyin)」ユーザーが多いのですが、昨年(2019年)12月から今年5月までのライブコマースの売上では「ドウイン(抖音:Douyin)」が約119億元(3088億円)で、「クアイショウ(快手:kuaishou)」は1044億元(2兆2000億円)と、「ドウイン(抖音:Douyin)」の約10倍を記録しているそうです。
■中国のライブコマースの人気ライバーたち
youtubeで広告収入を稼いでいる人気者のことを「ユーチューバー」といいますが、ライブコマースで売りまくっている人たちのことは「ライバー」と呼ぶそうです。中国でのトップライバーをピックアップ。
◎ビヤ(薇娅:viya)
ライブコマースでモノを売るためには当然影響力の大きい人気者いわゆるインフルエンサーが必要です。中国ではそんなライブコマーストップ売上マンのことをKOL(Key Opinion Leader)と呼ぶそうです。そんなKOL中のトップライバーが「ビヤ:viya(薇娅)」さん。「淘宝(タオバオ)ライブの女王」の異名を持っています。
2003年に北京で自身のアパレル店を開き、その後10店舗以上拡大させた、女性経営者でもある「ビヤ:viya(薇娅)」さんですが、1985年生まれで一児の母。「淘宝(タオバオ)」(アリババ)でのスペシャルセールでは1日に3.3億ドル(約360億円)を売りつくしたそうです。メイクアップ用品を中心にほか食品や電化製品なども売っちゃってます。
◎シンパ(辛巴:Simba)
1990年生まれのイケメンくん。今年6月のスペシャルセールでは同じく19億元(約297億円)の実績。彼みずから会社を経営して100名の人気ライバーを育成しています。クアイショウ(快手:kuaishou)で彼らファミリー「辛巴家族(ファミリー)」が同時に登場して中小企業や工場のオーナーや農家のおじさんおばさんに大人気だとか。
◎オースティン(李佳琦:Austin)」
淘宝(タオバオ)ライブから生まれたもう一人のカリスマは、「口紅アニキ」の異名を持つ「オースティン(Austin:李佳琦)」。彼は大学を卒業後、ロレアル化粧品の美容顧問をしていた経歴があり、男性ながらに自身をモデルにして口紅や化粧品の使い方を女性たちにレクチャーする様子が人気を集め、ファン数は現在2,200万人にも上るそうです。1992年生まれの28歳。成功を夢見る若い世代にも絶大な人気を持つカリスマKOLだそうです。
■ライブコマースで中国マーケティングする企業が続出
なんと記事によればアメリカ電気自動車大手の「テスラ」が昨年10月から「クアイショウ(快手:kuaishou)」に進出。現在7000万人以上のフォロワーを獲得。ここから試乗予約や価格検索ができるだけでなく試乗した人や購入した人の体験動画なども多数紹介されていることで中国全土での「テスラ」利用状況のマーケティングが自動で出来てしまうということになっています。テスラの事例では自動車そのものの販売まではネットで行ってはいないようですが、こうした海外企業がどんどんネット動画サイトに参入してマーケティングを兼ねた販売などをどんどん始めているというわけです。
■ライブコマースで取り上げられる「D2Cブランド」とは?
そんな中ライブコマースでキーポイントになるのが「D2Cブランド」と呼ばれる商品販売形態。D2C(DtoC/Direct To Consumer)とは、商品の企画〜製造〜販売までを自分で行う商品販売形態のこと。通常は「製造は別の会社」とか「PRは代理店に依頼」するなど役割分担することが多いわけですが、ライブコマースではすべて自社で賄う「D2C」形態を取ることが必須となっているそうです。なぜなら「D2C」がSNSとの相性が抜群だからだそうです。どんなことなんでしょう。
◎ユアンジュ(youange)
日本では数少ないライブコマースを発信されているモテクリエイターとして人気の「ゆうこす」こと菅本 裕子(すがもと ゆうこ)さん。元HKT48で、いまや日本の動画配信の女王とでも言ったほうが良いかもしれません。
彼女が運営しているD2Cブランドが「ユアンジュ(youange)」。もともと韓国でファッション・メイク用品を買い付け、それをライブ配信で紹介していたところ、ファンから譲ってほしいとか買いたいという声が多くなったため、自分で作ってしまうことになったようです。
いまでも開発段階の様子をInstagramに載せるなど全てをオープンにする姿勢で商品を作成していくことで、ファンからの信頼を集めるやり方が徹底されて成功を導いているようです。つまりSNSを通じてユーザーの意見を聞きながら商品を作成していくわけです。最近ではユニークな新商品はクラウドファンディグからヒットしていくことも多くなりましたが、ある意味ライブコマースにおけるD2CブランドはクラウドファンディグとSNSを組み合わせたような商品開発になっているというわけです。すでに中国では主にアパレルや化粧品、食品ジャンルで大きな成果を上げているというわけです。
■日本でライブコマースがまだ根付かない理由
日本ではようやく広告収入で稼いで生計を建てられるユーチューバーが出るようになって職業としても認められるようになってきたばかりですが、おとなり中国ではユーチューバーを飛び越えて「ライバー」たちがとんでもない展開を始めています。なぜ日本ではまだ「ライブコマース」が始まらないのでしょうか。
その理由の一つは、ライブ配信をするための組み立てにあるといいます。ライブ配信のみであれば出演する人=自分と、それを見てくれる人=視聴者が一人でもいればいまからでもすぐに始められます。なにか自分に特技がありさえすればそれをネタにライブ配信するだけで広告収入が入るようになっていきます。
でもライブコマースとなると自分と視聴者のほかに「売るもの(モノ)」が必要になります。これがなければ売上が出ないからです。何を売ればいいか、自分のファンはなにを買いたいのか。また売り物があっても自分ではそれをどう売っていいかわからないから誰か売ってくれる人はいないのかという場合もあります。こういうものを売ったら右に出る者はいないとかいうユーチューバーはまだ日本にはほとんど育っていないからなんです。
■今後の日本のライブコマース市場の展望
今年起きた未曾有の大事件:新型コロナウイルス感染症の世界的流行。このことで人々がモノを買うという行為は劇的な変化を遂げました。リモートワークに関連した商品は日常的にネットショッピングで売れますが、ファッションやコスメなどの商品は出歩かなくなった分落ち込みました。マーケティング調査によれば、特に若い世代がネットを中心に買い物をする意識がより強くなり、コロナ以前に買い物のほとんどをリアル店舗で購入していた人もネットで購入することが当たり前になったと言われています。
しかしネットでのショッピング(コマース)は買いたいものがはっきりしているときは便利なんですが、何を買いたいかあいまいな状態のときは、店員さんに相談することもできず、ウインドウショッピングなどで良く経験する「セレンディピティ(serendipity)=予想外の発見」もないのでこのままではそれ相応の伸びしか見込めないと思います。
そこに来たのが5Gの普及。これで動画の需要も高まりさらにネット利用が高まります。ショッピング(コマース)を動画で訴求してもっとユーザーに「セレンディピティ=予想外の発見」を体験できるようにするチャンス到来なんです。
さきほどの「ゆうこす」さんを始め徐々に日本でもライブコマースの事例は増えてきています。コロナ禍の中5月にはファッションブランド「ベイクルーズ」がライブコマース「LIVE STYLING」を実施。視聴者にファッションアイテムを紹介しながらリアルタイムで質問にも回答を受けました。同時期にはシップスやビームスなどもライブコマースを雑誌などと連携しながら実施始めています。
ライブコマースの良いところは、まるで人気のテレビバラエティを見るように気軽に見て楽しんで購買欲も満たしてしまうこと。さらに視聴者は家でくつろぎながら=リモートワークの状態で参加できます。ライブコマースに商品を出すメーカー側からすれば、商品さえあれば大きな流通経費までをかけなくても商品マーケティングがすぐにできる場所にもなります。ニューノーマル時代にぴったりのビジネスモデルではないでしょうか。ラブコマース界のタカタさんが登場するのも時間の問題。日本独自のD2Cブランドが世界に広がっていくことを願っています。
(主な人気のライブコマースサイト)
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■タオバオライブ(淘宝直播:TaobaoLive)
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■ドウイン(抖音:Douyin)
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■クアイショウ(快手:kuaishou)
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■youange(ユアンジュ)※ライブ配信はLINE LIVE
https://shop.youange.com/
https://live.line.me/channels/33301