新型コロナウイルスの感染拡大もようやく7月末をピークに少しづつ落ち着いて来ていると専門家の方々が言い始めています。だからといって気を抜いたらふたたび感染者が増大してしまうのではないかと毎日ヒヤヒヤしてもいます。こんな日々のことを「ニューノーマル」というのでしょうか。「ウィズコロナ」とはどんな日常になるんでしょう。「アフターコロナ」は来るんでしょうか。今回は「ニューノーマル」について改めて見つめ直してみたいと思います。
■ここまでの新型コロナの動き・・・
改めて新型コロナウイルスの感染拡大がどのように起きたのか、これまでのことを簡単にまとめておきます。
最初の兆しは昨年(2019年)11月に中国武漢で「原因不明のウイルス性肺炎」を確認したことから始まります。年明け2020年1月30日にはWHO(国際保健機関)から「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」が発表されました。
その後日本では、1月20日から横浜から香港を周回して再び2月に戻る予定の豪華客船ダイヤモンドプリセス号の男性乗客が1月25日に香港で下船したところ、その後体調を崩し新型コロナに感染していることが発覚。乗組員の感染が心配されるということで行程を早めて2月3日に横浜に寄港。一部の体調を崩した乗客の再検疫(273名)を行った中から10名に新型コロナウイルスの陽性反応を確認。その後乗客3700人は14日間船内待機となり、結果のべ706名が感染、死者4名を出すことになりました。ここから日本全土に「新型コロナウイルス感染症」の話題が広がっていくことになります。
その後世界各国での外出自粛やロックダウンが始まる中、日本では感染者が1万人に迫る4月7日に、東京を始め7都府県に「緊急事態宣言」が発令され、外出自粛や飲食店等への3密対策などを要請。4月16日には「緊急事態宣言」が全国に拡大され、人と人の接触を極力避けながらの「経済活動維持」を余儀なくされることとなりました。
5月21日には世界全体で感染者が500万人を超え、アメリカでは死者が10万人に迫る中、日本では外出自粛の効果が現れ、1日の感染者が1桁まで落ち、5月末に「緊急事態宣言」が全面解除となりました。6月2日からは東京では「東京アラート」が発令されましたが、このあたりから徐々にお店などの経済活動も復活し始め、6月19日に「東京アラート」の全面解除があると一気に街がにぎやかになり始め現在に至る、というわけです。
ところが7月に入って1日の感染者が首都圏だけで100名を超え始め、特に東京からや東京への流出流入による感染拡大が心配な状況になってきました。世界では6月28日に感染者1000万人を超え死者も50万人を超えた。そして日本全体では7月下旬まで一気に感染者が増え続けたのち7月31日の1579人、8月7日の1605人をピークにだんだんと落ち着き始めているところ。ただし世界の感染者数は2300万人を超え依然増え続けています。
■ニューノーマル=新生活
というわけで、こうした新型コロナウイルスによる外出自粛の社会環境が世界中の定番となり、これはワクチンが完成して全人類に普及するまでは続くといわれています(ワクチンは出来ないとも言われている)。この新たな社会環境を「ニューノーマル=新しい日常」と呼び、我々はこれに慣れて行かなければならないというわけです。
慣れざるを得ない「新生活環境=ニューノーマル」とはいったいどういったものなのか。噂や情報はいろいろ流れて来てはいるけれど、どれを信じて行けばよいのか。今回はこの「ニューノーマル」について「IT(テクノロジー)」の観点から我々が向かうべき方向について考えてみます。
元々「ニューノーマル」という用語は、2007年から2008年にかけての世界金融危機(リーマン・ショック)の頃に流行した言葉だそうで「これまでの日常には戻れないが新しい日常が待っている」といった意味で使われ始めたようです。
いまやマスクを日常ですることがあたりまえになりました。これは以前の日常では考えられなかったことです。パソコンやスマートフォンで関係者を結んで会話をし、課題を解決するしくみとして「リモートワーク/テレワーク」ももはや誰もが経験をするような状況になってきています。「私の仕事は会社に行かなければできないので」と言っていた方々も、これだけ自粛せざるを得なくなってくれば、会社が許可するなら「テレワーク」のほうが効率的だと積極的に使い始めているのではないでしょうか。
スーパーのレジ待ちやラーメン店への入店でも「(ソーシャルディスタンス)」を保つことは常識ですよね。店内に飛沫防止用の仕切板や透明パネルがある(衛生管理)のも常識。無いと不安になります。外出時にさまざまなものに触ったあとは手をアルコール消毒することも常識。なるべく直接ドアやエレベータのボタンなどを触らない(タッチレス)ように専用のフックを持ち歩く方も増えましたよね。
この(衛生管理)(ソーシャルディスタンス)(タッチレス)を日常としていくために、世の中のデジタル化がどんどん進化を始めているんです。
■(衛生管理)
まず(衛生管理)の面からデジタルを考えてみましょう。いまは毎日外出中や帰宅時には手洗いやアルコール消毒、マスク着用は必須だと考えますよね。でもそれはなんのためにしているかと言えば、感染者に接触していたり、ウイルスが付着したところを触ったりするかもしれないからしているんです。だったらデジタルで感染者には絶対出会わないようにすることはできないのかと考えるわけです。そのひとつが政府が配布を始めた「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」です。
このアプリではまだ完全とは言えませんが、感染者が特定できていてその人がどこにいるかがわかれば、直接感染は防げますよね。そうなれば(極端に言えば)手洗いやアルコール消毒、マスク着用もそれほど気にしなくて良くなりますよね。
このアプリの元になっているのは、米グーグルとアップルが連名で発表した「ウイルス感染リスクを把握するためにスマートフォン(スマホ)の持ち主が誰と接触したかを自動的に追跡できる技術」なんですね。
ちなみにアプリのダウンロード数が現在約1400万件(8/20)全日本人口の約12%。ポケモンGOだって400万ユーザー、ドラクエウォークは200万ユーザーというのですから1400万ダウンロードは1アプリとしてはなかなかのものにはなっていますが、全員が使うようになって初めて効果がマックスになるものなのでまだの人は絶対インストールしてください。
ちなみにこうしたアプリは中国や韓国ではすでに普及していて、氏名・電話番号・行動履歴などまで管理できるようになっています。ある意味人が外出時に身分や健康を保証する「ID」にまでなってきているというわけです。
衛生管理という意味では、最近話題なのは「丸洗いIT機器」。丸洗いできるパソコンのワイヤレスキーボードや、マウス、そして抗菌効果もあるガラスコーティングでスマホも丸洗いできるようにするのが流行っているそうです。
そんな中総合警備会社のALSOKは体温やマスクの有無を自動検知し、非接触による入室制限を可能にしたAI体温測定顔認証端末「FACE FOUR」を6月より販売を始めています。オフィスの入口を始めイベント会場、ライブハウス、スーパー、ショッピングモール、医療機関などでの活用が始まっています。
また全国各地に高級リゾートを展開する「星野リゾート」では、大浴場の混雑状況を顧客がスマホで確認できるサービスを始めています。大浴場の入り口にセンサーを設置して、利用者をカウントして情報を登録者のスマートフォンに送る仕組み。混雑状況を3段階で表示して、利用客の集中を避けるようにしているわけです。
また、宿泊施設の「ホステルbnb+虎ノ門店」では、シャープが開発したモバイル型ロボット「RoBoHon(ロボホン)」をフロントに設置。ロボホンのカメラがお客さんを感知すると、あらかじめ設定してあるおもてなしメッセージが流れ、ホテルのスタッフは離れた場所からお客さんの映像や音声を確認することができます。
スタッフがお客さんに確認、質問があるときや、お客さんからの質問に対する回答をする場合は、スマホやタブレット端末に文字入力すると、それをロボホンが声に変換してお客さんに話すように伝えてくれるそうです。
■(ソーシャルディスタンス)
ニューノーマルな生活環境における第2のキーワードは(ソーシャルディスタンス)です。これをデジタルで考えてみると、これはかなり活用が始まっていますね。人に近づくと音が鳴るアプリなどが続々と登場しています。また「リモートワーク/テレワーク」を活用すれば、人との間隔も気にする必要はなくなるわけです。
日本の企業でいち早くテレワークを全社員に採用したのは「おなまえドットコム」でおなじみのGMOインターネットでした。熊谷会長兼社長の発言記事によれば、週1~3日を在宅にして、オフィスもフリーアドレス制という自分の席を固定しないで出社したときに自由に決められるようにしたところ、なんとオフィスの面積の縮小化に成功し家賃が40%も削減できたそうです。その削減分の一部を社員に還元することまでしたそうです。コロナの感染を逆手に取れば、会社や社員が得をするというわけです。
ゲーム開発大手のドワンゴでもここ数ヶ月の状況を今後も恒久化していこうと、在宅勤務制度を本格導入することになりました。これまでのオフィスでの通信手当や交通費などが廃止される代わりに在宅勤務手当2万円が支給されるそうです。こちらもオフィスの専有面積が縮小でき、社員のソーシャルディスタンスも守れるということです。
なんとAppleはソーシャルディスタンスを保ったまま集団で自撮りができる「グループセルフィー機能」で特許を取得したそうです。友達同士バラバラに撮影しても一緒に肩を組んで撮影したように自動で合成してくれる機能のようです。現時点ではリリースはされていませんが、そうそうにサービスが公開されるかもしれませんね。
またエンタメの分野でもソーシャルディスタンスを保ったままライブ・コンサートを成功させた事例も起きています。6月25日に横浜アリーナで行われたサザンオールスターズの25周年記念「無観客配信ライブ」です。通常横浜アリーナに入場できる観客数は最大で1万7千人。にもかかわらずこの日はなんと18万人がチケットを購入してオンラインでライブ映像を鑑賞。イベント収入も十分得られ、チケット購入者と自宅などで一緒に見た人の数まで入れれば50万人以上の動員があったということで大成功となりました。今後もこうした無観客ライブ・コンサートが普及していくことは間違いありません。
さらにヤマハ株式会社はサッカーの清水エスパルスと共同でサッカー場に行かなくても家のTVモニターで試合を見ながら会場に応援の声を届けることができる『Remote Cheerer powered by SoundUD(リモートチアラー パワード バイ サウンドユーディー)』を開発し、6月の試合から活用を始めています。SoundUDは、これまでブルートゥースやwifiなどの通信技術で近くにあるデバイス同士をつなぐのと同様の効果を、特殊なトリガー音(おと)で実現したもので、例えばコンビニのスピーカーであるトリガー音を出すだけで、コンビニに居合わせた来客全員のスマホに10%割引のクーポンを送ることができます。これを応用することで、家で試合を見ながらアプリを叩くと、それに応じて会場で拍手や歓声が流すことができるというわけです。実際に技術検証したところ、清水エスパルスの岡崎選手によれば、まるで会場に観客がいるかのように声量が出ていて気分が非常に高まったと話しています。この機能もこれからのニューノーマルのエンタメ施設には欠かせない技術となりそうです。
■(タッチレス)
ニューノーマルな生活環境における第3のキーワードは(タッチレス)です。非接触=タッチレスをできる限り実現させるものとしては、NECが開発した「顔認証システム」を活用したレジなし店舗の「NEC SMART STORE」が話題になっています。これは今年2月には三田の本社ビル内にオープンし、NECの社員は誰でも「顔認証」だけで食べ物や飲み物をキャッシュレスかつ無人で購入できるそうです。今夜のニュースウェブで紹介した「顔認証自販機」もこれらの仲間のサービスの一つですね。
今後はセブンイレブンやローソンなどのコンビニでも無人キャッシュレスコンビニが全国にオープンしていく予定。
タッチレスという意味では「スマートスピーカー」もある意味何も触らないで部屋の明かりをつけたり消したりするデバイスとしてニューノーマルの生活にぴったりはまりそうです。なんとアマゾンではスマートスピーカーの「Echo Dot」などのエコーシリーズを今後の在宅ワークの「秘書」がわりに使ってくださいと推奨しているそうです。
例えば、いつも家に閉じこもっているので今日が何日かわからなくなったとき「Alexa,今日は何日だっけ」と声をかけるだけで答えてくれますし、最新ニュースが知りたければ「Alexa,最新ニュース」と頼むだけでOK。何か調べ物に行き詰まったときも「Alexa,次に打ち上がるロケットはどこの国のだっけ?」と聞くし、仕事中に急に気がついて「Alexa、洗剤がなくなってたので買っておいて」と頼むこともできるというわけです。未来のオフィスで夢見ていたことが今回の「ニューノーマル」の社会で次々と実現していくというわけです。
■コロナ禍後の新しい日常に向けて
コロナ後の「ニューノーマル」な社会生活に変化をきたすデジタルについて(衛生管理)(ソーシャルディスタンス)(タッチレス)の面からいろいろご紹介してきましたが、「新しい日常」に気持ちよく移行するために、我々はどんな心構えが必要なんでしょうか。
こうした状況はデジタルが本来の力を発揮できることだと思うんですね。最初に紹介した「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」が本格的に活用されていけば十分解消できる可能性があると思うんです。つまり我々の個人情報が十分に活用されたアプリが活用されるようになるだけで「ニューノーマル」な社会生活も窮屈な状況を解消できると思うんです。
個人情報を守ることも大切ですが、一番守らなければならないことは、我々の社会生活における「安全や安心」ではないでしょうか。これまでは国民の安全や安心を守るために警察が組織されて来たかもしれません。それはあくまで我々の個人情報を警察がある程度把握できているということが前提となってきました。でもいまや警察だけでは守れないインターネットなどのデジタルに我々の生活はつねに脅かされています。
つまりデジタル社会で安心安全を担保する方法は、デジタルで「個人情報の共有」をすることだと思うのです。これは以前紹介した「スマートシティ」へ向けた方向と一致しています。デジタルで情報共有していくことで、それぞれの人にあった安全策や安心を国や企業が提供できるようになる社会。これが「ニューノーマル」の行き着く場所だと思います。