■デジタル時代に世界を席巻する・・・
留まることを知らない新型コロナウイルス感染症に対しついに政府から「緊急事態宣言」も発令されることが決まったようですが、ここは腹を据えてStay Homeしながらこんなことを考えてみてはいかがでしょう。デジタルトランスフォーメーション(DX)と言う言葉をご存知でしょうか。ITとかICTとかならよく聞きますが、DXはどう見てもデラックスくらいしか思い浮かびません。でもいまや国家レベルで推進している取り組みのひとつなんです。僕も調べるまでほとんど言葉すら気にもとめませんでした。
いまや生まれたときからスマートフォンやインターネットが生活に密着している「デジタルネイティブ」が活躍する社会になり、世界中で彼らが主役になれる産業や働き方がどんどん生み出されています。一言で言えばこれを促進するのが「デジタルトランスフォーメーション=DX」なんです。
経済産業省は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン=通称「DXレポート」)を取りまとめ、すでに2018年9月に公表しています。いまからかれこれ2年前です。にもかかわらずあまり状況は変わっていません。この「デジタルトランスフォーメーション」において日本はいまいち乗り切れていないように思えます。それはなぜなんでしょうか。そんなところを調べてみました。
■ジャパンアズナンバーワンだった・・・
20世紀後半、世界では自動車産業や家電産業が生活のインフラとなり、その一手を日本が握る状況が続いていたと思います。それが21世紀に入ってインターネットが世界のインフラに取って代わるようになり、あっという間にそれを握るのはアメリカや中国になってしまいました。生まれたときからインターネットやスマートフォン、SNSが生活インフラになっているみなさんにとってそれらの産業を生み出しているのが日本ではなくアメリカや海外であることは、当たり前に思いますよね。でも僕らのような1960年ー70年(いわゆる昭和)を生き抜いて来た世代には考えられないことでした。Sony創業者の盛田昭夫さんの名著「メイドインジャパン」(1987)や社会学者のエズラ F.ヴォーゲル著「ジャパンアズナンバーワン」(1979)が世界的なベストセラーになったことも誇らしく思っていたんです。
特にそれを実感したのが、海外旅行したときでした。以前ならどこの国に行っても高級な家電製品はすべて日本製、どこに行っても日本車が走っている、買い物をすると日本語で話しかけてくる。いまでもその名残は残っている思いますが、先日タイ・バンコクに旅行に行ってそれは完全に地に落ちました。どのお店でも「ニーハオ」中国語で挨拶されるのです。もちろんインターネットはGoogleやFacebook、インスタグラム、ツイッターでのコミュニケーションがあたりまえです。最近ではyoutubeで一攫千金を夢見る子供があとを絶たないと言われ、それらから得られる利益はもはや自動車産業や家電産業を超えているのです。
■ものづくりに価値を注いだ日本の産業の弱点・・・
日本は戦後の経済政策によってめまぐるしい発展をすることができました。その秘密は「ものづくりの手法」にあったと言われています。あらゆる製品は、生産規模が大きくなるほど1個あたりの費用が安くなります。手作りで少しづつ作るより機械で大量生産したほうが安く作れます。ただしこれもある限界を越えるとあまり安くならなくなることが知られています。そこで日本は巨大な工場で大量生産させるのではなく、「製品1個あたりの平均費用を最小にできる適度な生産規模」の工場をたくさん作ることを考えたんです。
何でも大きいほうが良いという海外に対して、適度な大きさの工場をたくさんつくってきた日本は、見事に産業を拡大させ世界の産業を握れるくらいまで成長していったわけです。
ところがこの手法は、もののクオリティが需要に影響する時代、より良いものを手に入れたい時代には効果を発揮してきたのですが、21世紀に入って、誰でもある程度のクオリティは実現できるようになっていったことで、残すは安いかどうかだけに集約されていきました。日本の出すクオリティを誰でも出せるようになってしまったことで、単なる価格競争となり、日本はものづくり産業の王者から脱落していったというわけです。
■ものの価値とは一体・・・
一方、ものづくりにこだわりのない海外の産業、とくにアメリカでは何が起きたか。クオリティに一定以上が保証される時代になると、モノ自体の占有欲からモノを得るまで、得たあとのサービスに目をつけるようになりました。例えばこの洋服は誰々が着ているとか、アフターサービスが充実しているだとか、簡単に言えば「口コミによる付加価値」。フェイスブックのザッカーバーグ氏は、ハーバード大学在学中に同級生の女子に付加価値をつけたいと考えて「フェイスブック」を考えだしたと言われています。
「口コミの付加価値」をつけるにはインターネットは絶好のツールになります。ものの良さに高低があった時代はいくらこれが良いとかの口コミがある程度行き渡っても結局「ものそのもの」の良さで勝負することができた。これがモノの良さに変わりがなくなり、一気にインターネットが広がることで、ものの価値に対するものさしが変わったわけです。
ここにデジタルが最もフィットした。それに気づいた若者が次々とサービスを始めた。日本はそれでも「モノの本質はクオリティ」だという自負があった。口コミがこれほどモノの価値に影響を及ぼすかまでは想像がつかなかった。
つまり「デジタルトランスフォーメーション」の本質とは、新たな「モノの価値」の創造なんです。これからの経済発展にもっとも重要なのは、デジタルによってどれだけ「新たな価値」を見出していくか。我々の身の回りにあるあらゆるもの、あらゆることをデジタルでどれだけ新たな価値を付加できるか。日本はこれにとても弱いんです。でもそうは言ってられません。DXを強化するための主要な手立てを探りたいと思います。
■データサイエンス・・・
まず現在の仕事現場そのものを「デジタルトランスフォーメーション」=「デジタル促進」させるための最初のキーワードは「データサイエンス」です。
「データサイエンス」とは、そこにかかわるさまざまなデータ要素を分析して、科学的に新たな価値を見出すこと。データサイエンティストと呼ばれる職業は、いま最も給料が高い職業のひとつです。それくらい企業にとって重要な役割を果たすものになっています。
ちなみに世界のデータサイエンティストが集う「Kaggle」(カグル)というコミュニティでは、誰でも参加可能なコンペティションが随時行われ、コンペでゴールドメダルを5回獲ると「グランドマスター」という称号が与えられます。
コンペでは例えば、食料品をネット注文すると配達してくれる架空のECサイトのデータを元にユーザーがどのアイテムをいつ購入するかを予測することで競い合います。例えば、毎朝ヨーグルトを買っている人は、次の日の朝もヨーグルト買うかどうかをいかに正確に予測できるモデルを作った参加者にゴールドメダルが与えられるということです。日本の大手IT企業にも、この「カグルグランドマスター」がぞくぞく所属し始めているそうです。
こうしたさまざまな角度からデータを収集して分析する「データサイエンス」こそが新たな商品価値を生み出す「デジタルトランスフォーメーション」のひとつになっています。日本はまだまだ世界に比べてここが弱いんです。データサイエンスが広がることでデジタルネイティブの働き場所も拡大しますし、もちろんこのデータサイエンスの先にはAI(人工知能)によるディープラーニングが待ち構えています。ここにもっと注意を向けるべきなんです。
■サブスクリプション
つづいて新たな価値を見出す手法に「サブスクリプション」への移行があります。ものやサービスのクオリティが保証されるいま、所有することなく必要なときだけ利用すれば十分になってきたと考えるユーザーが増えてきています。つまりさまざまなサービスを「サブスクリプション」型で考え直す必要が出てきているわけです。
アニメや映画をネットで見るには、最初のころは1回300円とかでしたが、いまや月額980円で見放題に変わりました。携帯電話だって、出始めのころは何時間使ったらいくらとかだったのを覚えている人はもういないでしょう。
レンタカーが1回いくらの時代から月額いくら払っておけば何度でも自由に車に乗れるサービスに変わってきていますし、ワイシャツや高級時計を1ヶ月いくらで着放題、つけ放題というサービスまで登場しています。
「フォトショップ」や「イラストレーター」などのソフトウエアの販売で知られる「アドビ(Adobe)」社は、2012年からパッケージ型からクラウド型の販売に切り替えたことで、年々約20%の成長率をあげられるようになったそうです。それはパッケージ時代には値段が高くて購入できなかった中小企業が使い試すことができるようになったからだといいます。
日本でもATOK(日本語変換ソフト)」が2017年からサブスク(ATOK Passport)始めていますが遅いです。あなたの仕事場におけるサービスやしくみでサブスクリプションに変更することで新たな価値を生み出せるものがかならずあるはずです。それを探し出すのがあなた=デジタルネイティブの役割です。
■IoT&クラウド
そしてもうひとつ新たな価値を見出す方法として「ネットにつなげる」というものがあります。いわゆるIoT(インターネットオブシングス=もののインターネット)と呼ばれる手法です。ネット上の保存場所となるクラウドもIoTと連動することで付加価値を生みだします。
例えば自動車をネットにつなげていくことで、付近のお店情報や天気情報をリアルタイムで受信できるようにしようと考えましたが、これが今ではナビゲーションが簡単になる、さらに交通をコントロールしていける、ひいては自動運転になっていく。始まりはネットにつながるだけだったことが、全く新しい産業を生み出し始めています。
Googleも始まりはインターネットにアップされたさまざまなデータを検索できるようにしたいということだったのが、いまやネットに上がったデータを再利用することで莫大な価値を生み出すようになりました。個人個人のデータをネットに繋げただけのことです。
またアマゾンは「アマゾン・エコー(Echo Dotなど)」という声でさまざまなIoT機器を操作できるガジェットを世に送り出し、アマゾンが保有する膨大なデータを活用して、さまざまな生活インフラをネットで結びつけるスタンダードなプラットフォームにあっという間に君臨してしまいました。
つまり始まりは家の暖房をネットに繋げることで、帰宅前にあたためておこうくらいで考えていたことが、光熱費の効率化につながっていったり、国全体の熱効率をアップさせることにつながっていくかもしれないというわけです。この分野も日本はまだまだ遅れていますよね。「繋げなくてもいい」とか言ってる場合じゃないんです。
どうでしょうか「デジタルトランスフォーメーション」がいかにこれからの我々の社会に重要であるかを理解できましたでしょうか。
■スマホネイティブが明日の日本を見いだせるか・・・
今回は「デジタルトランスフォーメーション」というものが我々の生活にどうかかわってくるのか、そして現代の20代〜30代前半の「デジタルネイティブ」が牽引していくこれからの社会でどんな新たな価値を見出していくかについていろいろ調べてみました。
AI(人工知能)や自動運転によって失われる仕事や職業があると言われる一方、「デジタルトランスフォーメーション」によって新たな価値ある職業やサービスがどんどん生まれ変わっていく必要があります。
デジタルによって新たなモノの価値を作っていくこと。日本は世界に比べてまだまだ「デジタルトランスフォーメーション」において出遅れています。それは長い間「モノの価値」を「品質」で評価してきたからにほかなりません。デジタルになって「品質」はどれも変わらなくなってしまったものが多くあります。テレビなどの電気機器や自動車、ファッション、ひいては食品やコミュニケーションサービスなどすべての衣食住について、どこよりも速く新たな価値を見出すことがこれからの日本を支えていくのです。これを機にみなさんひとりひとりが身の回りでデジタルにすることで生まれ変わらせることができるものを見つけだして行くことでジャパン・アズ・ナンバーワンを取り戻したいと思います。