■あと10年で世界的な食糧危機が訪れるかも・・・
21世紀になり、これまで発展途上国だった国々もどんどん経済発展を始めていることはとても良いことではありますが、食生活から考えると、米や小麦などの炭水化物中心だった人々が肉食に変わり、なんとこのまま進むと2030年には世界の肉の供給量が追いつかなくなると、FAO(国際連合食糧農業機関)が2013年に発表しました。発表によれば2050年には世界人口が90億人を突破し、世界食糧危機に陥るそうなんです。そこでその対策として提案されたのが「栄養価が高い昆虫類の活用」なんです。
当時の発表によれば、小麦1kg生産するのに必要な水は2トン、大豆1kgを生産するのに必要な水は2.5トン、牛肉1kgの仮想水は20.6トンも必要。対するコオロギの飼育に必要な水は牛肉の数十分の1程度。そのうえ畜産で生み出される温室効果ガスも縮小可能。牛で何ヶ月もかかってできあがるタンパク質やカルシウムが、例えばコオロギだとなんと35日でできてしまうそうなんです。
■イエバエは地球を救えるのか・・・
そんな中、福岡市のバイオベンチャー「ムスカ(MUSCA)」は、イエバエを使って残飯や家畜の排泄物を1週間で分解して肥料にして同時にタンパク質豊富な食料まで作れてしまう夢の「昆虫技術(Insect Technology)システム」を開発したと発表しました。
「ムスカ(MUSCA)」のウエブサイトにはこんな見出しが書かれています。
「もしも、明日から食べ物が手に入らなくなったら、あなたはどうしますか?」
国連によれば、現在約8億1500万人=なんと世界の9人に1人が飢餓状態にあり、さらにアフリカに限れば4人に1人が栄養不良に陥っているそうです。
毎年のように世界各地で起こる異常気象の影響で、農作物の不作や漁獲高の減少が深刻な問題となっている一方で、 2050年には世界の人口が90億人に達すると推定されており、人口増加と食糧の減少によって引き起こされる食糧危機は、もはや避けられないとの声も挙がっている中、そんな現状を打破すべく、ある革新的なシステムの実用化によって、世界の食糧危機の解消に挑むことになりました。それが「ムスカ(MUSCA)」なんだそうです。
その「革新的なシステム」は、イエバエ(英語名: ムスカ・ドメスティカ(Musca domestica))の幼虫を使った究極の循環システムということで「ムスカ・システム」と命名されています。
実は、このムスカ・システム、元々は旧ソビエト連邦の時代に宇宙船内での食糧供給システムとして研究されてきたもので、宇宙での排泄物処理と食料への転換を目指したロシアの研究技術を、宮崎を拠点に活動していた株式会社フィールドが輸入。これに福岡市のバイオベンチャー「ムスカ(MUSCA)」が注目し、本格的な「昆虫技術システム」の開発に乗り出したというわけです。
■聞けば聞くほど食欲が失せるけど・・・
ムスカ・システムでは、今まで堆肥となっていた家畜糞や加工残渣(溶解や濾過などのあとに残った不溶物)から、高品質の有機肥料と飼料を100%リサイクルすることに成功。またイエバエは、旧ソビエト連邦での研究時代も含め、半世紀もの間、1100世代に渡って品種改良され続け、普通のイエバエよりも成長速度が速く、高密度で飼っても死ににくく、また一度に大量の卵を産卵する、いわばイエバエ界のサラブレットに生まれ変わったそうです。
ムスカ・システムのウエブサイトのよれば、従来は、家畜糞を堆肥化するのに2〜3ヵ月を要していたものが、この特殊なイエバエの登場によって、1週間という短期間での堆肥化に成功したとあります。トイレの家畜糞にイエバエの卵を植えつければ、3日後にはしっとりとした顆粒状になり、5日後には乾燥してサラサラの状態になるそうです。
これによって、家畜糞は良質な有機肥料に変換、幼虫の出す消化酵素には殺菌効果があり、汚臭の原因菌を殺菌する効果もあるそうです。そして幼虫や成長したサナギは、最終的には良質なタンパク質として魚や鳥のエサになるということで、世界の食糧危機の解消に大きな役割を果たすことになります。
ちなみにこの昆虫技術を世に送り出す「ムスカ」の代表・流郷綾乃(りゅうごうあやの)さんは、弱冠27歳の女性で2児の母だそうです。ロボットのかっこをした携帯電話の「ロボホン」が大好きなメカ女子だそうで、さまざまな企業のコンサルタントをしていた中で「昆虫技術」に出会ったんだそうです。
■コオロギせんべいはえびせんの味・・・
FAO(国際連合食糧農業機関)の発表から6年、いまや世界中で昆虫食は注目され続け、日本でも「ムスカ」を始めベンチャー企業も多数参入を始めている中、ついに無印良品でおなじみの「良品計画」がその名も「コオロギせんべい」を2020年春ころから発売すると発表しました。「コオロギせんべい」は、昆虫食の研究の第一人者である徳島大学と良品計画が共同で開発を重ね、食用コオロギをパウダー状にしてせんべいに練り込んだ逸品。ちなみに食べた方のレポートによれば、味はえびせんのようで美味しいそうです。
世界ではすでに約20億人の人たちが約2000種類の昆虫を食用にしているそうなので、我々もそろそろゲテモノ扱いせず、前向きに受け入れていく必要がありそうなんですが、ネーミングなんとかなりませんかね。せめて「クリケット(Cricket)せんべい」とかならまだイケるかも!?
(出典)
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■MUSCA
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■ムスカイエバエとムスカシステムの解説アニメーション
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■良品計画「コオロギせんべい」