■2020年から小学校でプログラミング教育が始まる・・・
いよいよ来年2020年から小学校でもいわゆる「プログラミング教育」が必修科目の一つとして導入が始まります。いろいろわかってきた分、問題点も見えてきました。生涯のライフワークとしてのプログラミング教育の現場に携わっていきたいと考えている私としては、この4年間の教育現場の経験などもご紹介しながら、具体化された小学校での「プログラミング教育」の義務教育化は何のためにあるのか、良い方向に向くのか、これはだめなのか、このタイミングで思うところをまとめておきたいと思います。今回はその後編です。
■情報技術(IT)へのふれあい最新事情
前編でもお伝えしたように、2020年からの小学校での「プログラミング教育」の義務教育化は、教科としてプログラミング授業が始まるわけではなく、また共通の教科書ができたわけでもないことがわかりました。しかし社会全体として「プログラミング教育」へのニーズはどんどん高まっています。
ちなみに、2020年の小学校への導入はこのレベルですが、2022年の学習指導要領の改定に伴う全国高校へのプログラミング教育の必修化については、はっきり「情報1」という科目が設定されます。この中でプログラミングのほか情報セキュリティやデータベースの基礎などについて2単位が必修となるんです。さらに選択科目としてもっと深く学ぶ「情報2」も設定されることから、2024年からの大学入試の共通テストには「情報」を導入することが検討されています。つまりあっというまにこれからの子どもたちは社会人になる前に「情報技術への理解度アップ」=すなわち「プログラミングや論理性のスキルアップ」が必要になることは間違いないということなんです。
こうしたIT(情報技術)系の教育のことを「STEM(ステム)教育」と呼ばれています。これは「Science(科学)」「Technology(技術)」「Engineering(工学)」「Mathematics(数学)」を重視した教育のことで、現在さまざまな現場で導入が始まっています。
では、どんなふうにITやプログラミングに触れていけばよいのか、「小学校プログラミング教育の手引(第二版)」に紹介されている教材や私の経験で興味あるものをいくつかピックアップしてみたいとおもいます。
■大人も子供も抑えておきたいプログラミング教育ツールベスト・フォー
◎Scratch(スクラッチ): https://scratch.mit.edu/
アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボという研究所が開発したビジュアルプログラミングツールで、パソコンやタブレットとインターネット環境さえあれば、誰でも無料で利用できる教育サービスです。レゴのようなブロックを画面上で組み合わせていくだけで複雑な動きをするゲームやお絵かきソフトなどを作れてしまいます。作りたいもののしくみを考えてそれに沿ってブロックを組み立てて行けるので、論理能力を高めるのに効果を発揮します。作ったゲームなどは世界に向けて公開できるので、人が作ったゲームで遊んだり、どんなプログラムになっているかもすべて見られます。中にはスーパーマリオなどの既存のゲームを再現させたスゴワザのものもあるので、大人でも十分ハマります。
◎code.org(コードオルグ) : https://code.org/
パルトヴィという兄弟がアメリカの人々に向けてプログラミングについて学ぶことを目的に作成された無料のオンラインパズルサービス。もともとはプログラミングを学ぶための動画を見られるものだったようなんですが、いまでは、マインクラフトやスターウォーズ、ディズニーなどと提携して、有名なキャラクターを操作してパズルを解くカリキュラムがいくつも用意されています。例えばロボットを道に沿ってゴールまで進めるためにはどのような経路を進めばいいかを方向ブロックを組み合わせて答え、正解すると得点がもらえます。また使うブロックが少なければ少ないほど得点がよくなります。つまりプログラムを短く書ければかけるほど高得点になります。スクラッチよりも簡単に子供の論理性を高められます。
◎MESH(メッシュ) : https://meshprj.com/jp/
「作れる、学べる、楽しめる」を合言葉に、USBメモリのようなブロックの形をしたセンサーやボタン(入出力装置)で、自分の考えたアイデアを形にするSonyが提供する「IoTアイデブロック」。IoTとはインターネットオブシング(もののインターネット)、インターネットを通じてさまざまな動きや制御ができる7つのブロックを組み合わせることで無限の使いみちを実現させます。それぞれのアイデアブロックをつないでプログラミングするのは、スマートフォンやタブレットを使います。7つのブロックには、ブロックそのものの動きを感知する「動きブロック」や人の気配を感知する「人感ブロック」、温度や湿度が変化したことを感知する「温度湿度ブロック」、明るさを感知する「明るさブロック」などがあります。例えば、一人暮らしの親の家の冷蔵庫に「動きブロック」をつけておき、動きがあったらメールが送信されるようにプログラムしておけば、親の見守りシステムが簡単に作れます。使い方はアイデア次第。世の中でどんなものがどのように動いているかを学習することに絶好の教材です。
◎レゴ® マインドストーム® EV3 : https://education.lego.com/ja-jp/product/mindstorms-ev3
教育玩具の「レゴブロック」とMIT(マサチューセッツ工科大学)が共同開発した、組み立てる楽しみとプログラミングする楽しみを同時に体験できる「レゴキット」。全541パーツからなるこのキットには、基本的なレゴブロックのほか、サーボモーター、5つのセンサー (ジャイロセンサー、超音波センサー、カラーセンサー、タッチセンサー2つ) と、充電バッテリー、接続ケーブルなどで構成されています。これらを使ってものを運ぶロボットや迷路を走る自動車などを作成することができます。プログラミングは専用のビジュアル言語で作成できるほか、スクラッチやC言語など既存のプログラミング言語でも作ってどうささえることができます。世界大会も行われているロボコンなど、本格的な場でも使用されるなど、子供のおもちゃの領域を超えたロボットプログラミングキットになっています。
今回ご紹介した、小中学生がプログラミング教育にふれるための入り口になりそうなサービスはほんの一部で、いまや東京や大阪ではそれぞれ年に1回づつ「教育ITソリューションEXPO」が行われているほど、さまざまなサービスや機器を提供する企業がたくさんあります。
こうした教材を上手に活用して、小さい頃から「プログラミング教育」を含めた「情報活用教育」や「STEM(ステム)教育」に触れていくことがいかに大切かおわかりになってきたでしょうか。
ただ、こうした取り組みを推進していくことへの課題もまだ山積しています。特に学校などの教育現場にこうした「情報活用教育」を指導・教授できる先生や人材がまだまだ足りないことです。6月28日の日経新聞には、福井県が20年春の高校の新卒採用で、初めて情報科の「専任教員」を募集することがニュースになっていました。
記事では、情報を教えられる教師は全国で相当数登録されているが、それらは専任ではなく理科や数学教師が片手間に教えていたに過ぎなかったそうで、ここにきて2024年には大学入試に「情報」が採用されるとなるととても専任外教師では務まらないと思い始めているというわけです。でも気がつくのが遅すぎると警鐘(けいしょう)も鳴らしています。
■これからのプログラミング教育のゆく道
以前は文系の人材と理系の人材を分けて採用する企業がほとんどでした。高校や大学で学ぶときも自分は文系だ、理系だと分けて考えてきたと思います。わたしは文系だからパソコンは使えないなんて言ってる場合ではないことくらいはわかっても、プログラミングはさすがにわからなくてもいいんじゃないか、とまだ思っておられる方がまだ大半を占めているのではないでしょうか。
でもいまや、企業の経営で最も重要なのは「論理的に分析、解決できる能力」。人事や経理もAIやITの導入が行われています。AIの評価ができないと人事ができません。経理もできません。もちろん営業も相手が論理的な結果を求める時代になっておりビッグデータやAIなどを活用した論理分析ができなければ太刀打ちできない状況になっています。
先日私のAIセミナーに来られた来年社会人になる女性から質問がありました。いまはさっぱりわからないけど人工知能のプログラミングを学ばねばならないことはわかっている。なら最初に何をすればいいんでしょうか。そう聞かれたんです。
その方にお答えしました。まず何でもいいのでプログラミング言語をひとつマスターしてください。自分でeラーニングで学んでもいいし、それでは理解できなければ教室に通えばいい。教室なら毎日通えるなら2週間約10日でマスターできます。お約束します。人生の中のわずか10日程度で情報技術(IT)に足を一歩進められるのです。子供だけではなく大人もぜひこの機会に「プログラミング教育」に目を向けてみてはいかがでしょうか。