■中国で普及し始めた顔パスとは・・・
世界中で2020年ころから普及が始まるとされている高速で大容量の第5世代移動通信システム「5G」の運用実験がさまざまなところで行われる中、中国では、地下鉄会社の「深セン地下鉄(深圳地鉄)」が5Gを使った「顔パスシステム=いわゆる顔認証」の実証実験が始まり話題になっています。
■5Gが牽引する顔パスシステム・・・
5Gは、超高速、大規模接続、および超低遅延の3つの「超」特性を活かし、地下鉄システムに高効率、高品質および低コストのネットワーク接続を提供することができるとされています。
「深セン地下鉄(深圳地鉄)」の発表によれば、深セン地下鉄における1日平均旅客数は448.5万人。年間では16億3700万人(2018年度)の乗降客となるそうです。これは、モバイルインターネットの莫大なトラフィック需要以上により強力な技術サポートを必要とすることを意味し、ちなみに、現在の4G技術では、1日あたり500万人以上の乗客の需要を満たすことは困難とされているそうです。そこで登場するのが第5世代移動通信システム「5G」ということになります。
「5G」を使うことで、これだけの利用者に向けて、改札ゲートにタブレットサイズのスキャン画面を設置し、乗降客を「顔認証」だけで入出場できるようになります。利用者は「顔認証」されれば、事前に登録した口座から自動的に運賃が引き落とされるようになります。つまり定期券もICカードも何も持たなくても、電車の乗り降りが「顔パス」だけでできるようになるといううわけです。
■日本でも顔パスシステムが拡大中・・・
また「深セン地下鉄(深圳地鉄)」では、Huaweiとの共同で、「5G + AI」を駆使して地下鉄のデジタル変革を促進するための共同イノベーション研究所を設立。第1弾として福田(フーティエン ヂャン)駅をモデルステーションとしてタブレットによる「顔パス認証」を始め、顔認証をする「ドローン体験」や顔認証で警備する「巡回ロボット体験」などが始まっています。
今後は顔認証システムなどを含めた「5G + AI」サービスを中国全土で導入しようという動きの中、上海虹橋国際空港でも昨年(2018年)10月より顔認証技術を利用して、乗客がチェックインや荷物の預け入れ、セキュリティチェック、搭乗をセルフサービスで行えるようになっているそうです。
「顔認証」普及の波は日本でも2019年4月より成田国際空港の第3ターミナルの税関で、顔認証技術を用いた電子申告が始まるそうですが、その一方で「顔認証」を規制する動きも出てきています。また人気のラーメン店「ラーメン凪 田町店」ではフリーパスでラーメンを食べられる「顔パスシステム」を導入。ラーメン店の常連客へのおもてなしの一つとして「顔パス」を具現化した見事な例といえます。
■アメリカは一足先に現実的な方向へ・・・
そんな中、アメリカでは3月14日、Brian Schatz上院議員(民主党)とRoy Blunt上院議員(共和党)が顔認識技術の商用利用に関する「商用顔認識プライバシー法(Commercial Facial Recognition Privacy Act)」なる法案を議会に提出しました。これは企業が顧客に知らせずに顔認識データを収集したり、顧客の同意なしにそうしたデータを使用してはならないという法案です。
なぜこうした法案が提出されたのかというと、アメリカでは「顔認識」が人々のプライバシーを完全に奪ってしまう可能性があると、特にIT系の企業各社から声があがっているからなんです。「顔認証」に「位置情報」や「購買記録」などを組み合わせるだけで、どの人がどんなことをどれだけ行ったかなどを長期に渡って追跡できるようになり、それはある意味「一億総監視システム」になりかねないと警鐘を鳴らしているわけです。
「顔認証」は何も持たずにさまざまなサービスを受けられるようになる便利な反面、個人のプライバシーを完全にデータ化することができる諸刃の刃でもあるわけです。今後どういった方向になっていくか「顔認証」サービスに注目です。
(出典)