■カメラの進化がものすごい・・・
ここ数年カメラの進化が著しいと感じたことはないでしょうか?
ピンホールカメラが発明されて以来ずっと、カメラはものごとを撮影したり記録したりするものだったと思います。ウィキペディアを開いてもまさに「映像または静止画を撮影するための装置」と書かれています。ちなみに「カメラ」の語源はラテン語で「暗い部屋」を意味する言葉だったそうです。
カメラに変化が訪れたのは「デジタルカメラ」の出現からではないかと思います。記録によれば、コダックが世界初のデジタルカメラを発明したのが1975年ということですが、我々の記憶にあるのは、1995年にカシオが発売した「QV-10」というデジカメでしょうか。外部記録装置なしで96枚撮影ができ、本体定価6万5000円だったそうです。ちょうどこの年にウインドウズ95が発売されたこともあって、カメラで日常的に撮影しパソコンに画像を取り込むことが一気に広まっていったようです。
あれから20年、いまではその何百倍もの記憶容量を持って解像度も数百倍になっていて、それがさらに日常化したスマートフォンに標準装備されているんですから、その進化の勢いを感じざるを得ません。ちなみにキャノンは2018年5月30日で約80年の歴史をほこる「フィルムカメラ」の販売を終えました。まだニコンなどはフィルムカメラを続けていますが、これも時間の問題でしょう。今回はそんなカメラの最前線をまとめてみたいと思います。
■デジタルになったカメラから何が生まれたのか・・・
カメラで撮影することが日常になったこと以外で、デジタルになったことでどんなことが起きたのでしょうか。
まず、写真の記録がとても容易になりました。これまでネガフィルムなど物理的に大きなものを保存しておく必要があったのですが、それがデジタルになったことでUSBメモリなどの小さいものに保存できるようになりました。このおかげで例えばこれまで1日分しか録画できなかった防犯カメラの映像も1ヶ月分まるまる保存できるようになりました。
またこれに通信技術などの進化も相まって、監視カメラの録画映像をクラウドで保存することができるようになったり、ドローンの映像を電波で飛ばしてスマートフォンなどで受信できるなど、一気に録画の世界が広がったのです。
小型アクションカメラの先駆者的な存在の「GoPro(ゴープロ)」も、元はカメラ本体に搭載されたメモリに保存していたのが、今ではクラウドに自動送信するのもあたりまえになっています。
こうしたことで一気に映像の世界を広げたのが「ドローン撮影」です。いまやテレビでダイナミックな空撮はあたりまえのようになっていますが、あれはドローンの技術とカメラの小型化と映像の通信技術が組み合わさって初めて実現したものなんですね。
■デジタルをAIが見たら・・・・
そしてこの1年くらいでものすごく進化した映像技術があります。それがAI(人工知能)による画像認識技術です。
AI(人工知能)がここまで話題になり実用化されるようになった一番の理由は、実は画像認識にうってつけだったからなんです。AI(人工知能)が発展した技術のひとつに「ディープラーニング(深層学習)」というのがありますが、この「ディープラーニング」は、画像を細かい画素(点)に分けて、どこからどこまでの範囲にはどんな並びの点が集まっているということを数値化するような技術になっています。
例えば32x32の大きさの部分には1024個の画素があるわけですが、黒くなっているところと白いままのところの数をそれぞれ数えるとどちらもいくら大きくても数百になりますよね。つまり千の桁の数字が1桁少ない百の数字で表せるようになります。実はこの部分の黒と白の比率がなん%とわかることで、特徴がわかりやすくなるんです。これを何度か繰り返すことで画像の特徴を少ない数値に置き換えて抽出し記録していく、これがディープラーニングの手法です。
こうしたディープラーニングの手法によって、同じような特徴のある画像を探し出すことが容易にできるようになったわけです。これを応用したのが「顔認識技術」や「指紋認証」、さらには同じような動きをしているものを探し当てる技術などになります。つまりカメラの撮影画像がデジタルになり、それをAI(人工知能)が見ることで、ついに生物の目に限りなく近い機能が機械にも備わったというわけです。
さらには例えば「こういう白黒の点の集まりの特徴があるところをカラーにしたのがこれです」とお手本を示してやる(AIを機能させるための機械学習で教師あり学習と呼ばれています)と、白黒の写真を読み込ませただけでどんなカラー画像になるのかAI(人工知能)が自分で考えられるようになり、白黒写真からカラー写真を作成することができるようになったわけです。またこれを応用することで、画素があらい画像を細密画にしたり、写真ポートレートをピカソの絵のように加工したり、コミック漫画のようにしたりと、さまざまな画像処理がアイデア次第でできるようになりました。
■スマートカメラ最前線・・・
AI(人工知能)のお得意分野が「画像認識」だということがわかったところで、こうしたデジタルカメラにAI(人工知能)がプラスされたことでどんなものが生まれているのか、最近のカメラに関係する話題からユニークなものをいくつかピックアップしてみました。
◎到れりつくせりのドライブレコーダー(※papago GoSafe 130)
http://www.papago.co.jp/Product/product_130.html
いまやドライブレコーダーといえば、自分の身を守るだけでなく、さまざまな犯罪の記録のための「まちなかの防犯カメラ」の役割も担うようになっていますよね。でもそれどころではないんですね。まずフルHDによる高画質による記録はあたりまえ。トンネルの出入り口や逆光、夜間走行などでのコントラストの激しい映像の補正機能は必須の機能。そしてLED信号機と同期できる機能もないと信号が赤なのか青なのか普通のカメラだと記録されないそうなんです。さらには、前の車が出発しているのにもたもたしていると注意喚起する機能だったり、居眠りの顔を認識して警告音がなる機能などまでついているものなんかもあるようです。
◎世界に対抗!指紋盗撮防止技術!
https://www.nii.ac.jp/news/release/2017/0317.html
これは最新カメラの技術があまりに精度が高いためにここまでやってしまったという話題。数年前からドイツでは市販のデジタルカメラで撮影した画像から国防大臣の指の指紋を復元することに成功したと話題になっていたそうで、それを受けて日本では、そうやすやすとピースした手から指紋が奪われないような技術を開発したそうです。それが国立情報学研究所の越前 功(えちぜん・いさお)教授のチームが開発した「Biometric Jammer(バイオメトリック・ジャマー)」という技術だそうです。
越前教授らは2016年に、デジタル一眼レフカメラで3mの距離から撮影した指の画像から指紋認証に必要な指紋情報の抽出が可能であることを証明した上で、通常の指紋認証にも通って、写真で撮っても指紋が復元できない「模様の入った透明フィルム」を開発したそうです。ただし、これをいつもつけていないと万が一付けていないときに写真に撮られたら指紋を盗まれてしまうそうです。
◎顔認識で万引き防止ジュンク堂書店
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201705/0010239823.shtml
中国では昨年2017年の中国山東省青島市(さんとうしょう/せいとうし)で開催された、毎年10万人以上の観光客が訪れる国際ビール祭りで18台の顔認証カメラを設置し、公安部保有のデータベースを元に「逃亡犯」や「前科のある者」を次々照合し、アラームが鳴るごとに職務質問した結果、なんとイベント開催中のたった3日間で、逃亡犯や麻薬を持ち込んでいた現行犯やスリなど49名を逮捕したそうですが、日本でもここ数年で顔認証できる監視カメラを設置するお店が増えています。
中でもジュンク堂書店では全国の支店で顔認証システムを導入しているのは有名。過去に万引をしたり、不審な動きを繰り返したりした数百人をデータベースに登録。客の顔から100カ所の特徴点を抽出、照合して類似度を導くことで万引きを未然に防止しているそうです。ちなみに万引きによる被害総額は発表によれば全国で年間、約4600億円を超えるそうです。
■町のどこからも見られている監視社会へ・・・
いまや家の外に出たとたん、幹線道路では監視カメラ、細い道ではドライブレコーダーが、そしてコンビニやスーパー、デパートでは顔認証カメラが我々の様子を記録しています。
これを「身の危険から守ってくれる社会になってきている」と考えるのか、それとも「プライバシーが侵されている社会になってきている」と考えるのか、まだ結論を出すには早いかもしれませんが、監視の目はどんどん厳しくなっていきます。このままいけば間違いなく、数年後にはいまの何十倍もの精度で顔や指紋などを認証できる監視社会が誕生していることは間違いありません。
2002年に公開されたトムクルーズ主演の映画「マイノリティ・リポート」では、プリコグと呼ばれる預言者が犯罪を犯すであろう人を言い当てて、殺人を犯す前に逮捕してしまうという社会を描きました。日本でもつい最近「絶対零度〜未然犯罪潜入捜査〜」という沢村一樹さん主演のドラマでは、AIが統計学的にこれから起こる主に“殺人”を犯す可能性の高い危険人物を割り出す“未然犯罪捜査システム=ミハンシステム”を扱ったものでした。もはやこういったことは、監視カメラやAI画像認証などの技術の発達で、ドラマの中の世界にとどまらず、実際に犯罪を未然に防げる社会がやってくるのでしょうか。
一方、今年の5月25日、EEAと呼ばれるヨーロッパ31カ国の地域において、あらゆる個人情報扱い方を規制する法律「GDPR(General Data Protection Regulation)」が施行されました。扱い方を誤ると何億円とも言われる厳しい罰金が課せられることになります。これはあくまでメールアドレスや身体情報などで画像情報ではありませんが、こうした個人情報がいかに価値の高いものなのかを社会が認めだしたということなんです。
これからは、画像情報もAI(人工知能)の目を通すことで、メールアドレス以上に価値のある個人情報になるに違いありません。これらを活かすも殺すも我々に懸かっているのではないでしょうか。