この画像や動画が何で描かれているかを知ったとき、驚きを隠せる方がいるでしょうか。
イタリアのローマにある「ラ・サピエンツァ大学(Sapienza – Università di Roma)」の研究者が、大腸菌を使って、モナリザやアルバート・アインシュタイン、チャールズ・ダーウィンなどの肖像画を完璧に「描く」ことに成功しました。
これは「ラ・サピエンツァ大学」で行われている研究に「大腸菌の光に反応する運動の研究=光合成大腸菌の動的密度成形(Dynamic density shaping of photokinetic E. coli)」というのがあるそうなんです。
つまり大腸菌が光にどう反応して運動をするかを研究しているそうなんですが、大腸菌は生存や成長のためより良い環境に移動しようと明るい環境を求める傾向があることがわかっているそうで、その特性をわかりやすく表現するために、研究者は、光で制御可能なスムーズに泳ぐ何百万という細菌を遺伝的に作り出し、デジタルライトプロジェクタを用いてそれらを複雑かつほぼ完全な画像に配置させることに成功したそうなんです。
■バクテリアの動く速度をコントロール・・・
研究者は語ります。「それは都市交通の車のように泳ぐバクテリアで、速度が遅くなる場所に蓄積する性質があるんです。」そこで研究者らは、プロテオロドプシンという光に反応する酵素を使って細菌の遊泳速度をコントロールすることで、投射した異なるパターンの光に対して細菌の局所密度を操作できるようにしたんだそうです。
こうして彼らは、そのデジタルライトプロジェクタでなんと、大腸菌の入ったシャーレにモナリザの肖像画を光で当てたんです。すると大腸菌がその黒い部分から明るい部分に移動していき、見事に最後には「モナリザ」の絵が浮かび上がったというわけです。
同様にアルバート・アインシュタインやチャールズ・ダーウィンの肖像画については、アインシュタインの肖像を投射したあとダーウィンの肖像画を投影することで、アインシュタインの画像からだんだんとダーウィンの顔に変化していく様子を描くことにも成功したんです。光を当てて陰影をつけることで暗い部分から明るい部分にバクテリアが移動する性質をうまく使った実験なんですね。
■バクテリアアートというジャンルが・・・
実はバクテリアを使ってさまざまなアート作品を創作する「バクテリアアート」という分野もあるようです。きっかけはサンフランシスコを拠点とするアーティスト クラリ・レイス (Klari Reis) さんという方が2013年ころから毎日アップしている「A DAILY DISH」というブログ(ツイッターでもアップされている)。
シャーレに色鮮やかなバクテリアを放ってさまざまな模様を描いています。
■単に見せるだけのアートではない・・・
こうしたバクテリアの性質と光の調整方法で絵を描くのですが、「ラ・サピエンツァ大学」の研究者の方々はさすがにアーティストの方とは違ってただ単に楽しみでやっているわけではないそうなんです。
このように光でバクテリアを完璧に操れるようになることで、まず大規模な細菌集団の動きをこれまで以上に正確に制御することができるようになり、生きた菌を自力で容器に移動させるなど、新たな研究方法が編み出されるかもしれないということだそうです。さらには次世代の顕微鏡装置を構築する上で非常に有益でもあるようです。また、機械部品や薬剤キャリアなどのより大きな物体を取り囲むように細菌を作製し、物品を輸送するための動力源として使用することもできるということです。
ただ単に大腸菌でモナリザが描きたかっただけではないというところに研究者の真骨頂を垣間見ることができますね。
(出典)
-
■(記事)光合成大腸菌の動的密度成形(Dynamic density shaping of photokinetic E. coli)
-
■(図)光合成大腸菌の動的密度成形(Dynamic density shaping of photokinetic E. coli)
-
■美しい…!思わず見入ってしまうバクテリアアート!「A DAILY DISH」
-
■クラリ・レイス (Klari Reis) さんツイッター