ついに2018年8月22日、電気自動車(EV)向けの急速充電器の規格において、日本が中国の業界団体と充電器の次世代規格を統一することで合意したと発表がありました。
EVとはElectric Vehicle(電気自動車)。近年、資源制約や環境問題への関心の高まりを背景に、電気自動車が注目が集まっていることは、みなさんもよくご存知だと思います。でもこれまでは、電気自動車なんて結局自動運転になっていく過程のものだろうから、運転の楽しさを大事にしたい私には縁遠い話だな、などと思っていたんです。
ところが今回の「EVの次世代規格の統一」のニュースをきっかけにいろいろ調べてみた結果、EV(電気自動車)ってそんなレベルの話ではない、まさに革命とも言えるほど、我々の生活そのものを変えてしまう威力をもった全く新しい産業革命であることが浮かび上がってきました。
これまでEV向けの急速充電器の次世代規格は、主に日本と欧米、中国の3陣営がそれぞれ独自の規格で主導権を争ってきたそうなんですが、日中の規格統一によって世界シェアの9割以上を日本と中国で制圧できるかもしれないということは一体何を意味するのでしょうか・・・。
今回は、8月末にBayFMの放送で紹介した内容をベースに、我々の生活を激変させるかもしれない電気自動車(EV)について改めてまとめておきたいと思います。
■そもそも電気自動車(EV)とはどんなものか・・・
EVの最大の特徴は「エンジンがない」ということ。エンジンの代わりにモーターで車輪を回転させて走行します。そんなことは当たり前だと言われると思いますが、これがこれまでの自動車産業を激変させるわけです。
エンジンはシリンダのピストン運動から車輪の回転運動に変換しているので、変換器や変速機などが必要になります。ところが、モーターだと最初から回転運動なので、変換器も変速機も必要なくなってしまいます。
いわゆる自動車教習所で一番最初に教わる、重たい車体をスタートさせるために、最初ギアをローに入れて・・・という行為がなくなる、つまり変速ギアが必要なくなるわけです。もちろんピストン運動もないので振動もなく静かそのもの。なんとゆくゆくはブレーキもなくなるらしいです。アクセルを外せばすぐに止まるからだそうです。
ちなみに我々がよく知る電気自動車というと、プリウスなどのハイブリッド車ではないでしょうか。ハイブリッド車にはモーターもありますが、エンジンがまだ搭載されているので、変速機などもまだ残っています。
つまり、完全なるEVになるということは、自動車の製造過程で必要な部品が全く変わってしまうということなんです。乗用車の部品数は一般的に約3万点といわれているそうなんですが、そのうちのエンジンやトランスミッション(変速機)に関わる動力部品が約3割を占めているそうで、その殆どが必要なくなるとすれば、大げさに言えば部品数が3分の2ほどになってしまうというわけです。
それによって製造工程も変わり、部品数に比例して製造に関わる人達の数も変わるとすれば、雇用も3分の2になってしまうかもしれないということになります。
こうしたことから電気自動車(EV)の普及が社会に与える影響が大きいということから「EV革命」などとも言われているわけです。
■EV革命に日本は何をしようとしているのか・・・
なんとEVの歴史はガソリン車より古いと言われています。ガソリン車が一般にお目見えしたのは、1885年にドイツでダイムラーとベンツが手作りしたガソリン車だそうです。でも電気自動車はそれよりも8年前にイギリスでロバートダビッドソンという人が発明していたそうです。でも電気自動車が普及する前に、ガソリン車がフォードによって量産されるようになったため1908年に、史上初のモータリゼーション自動車革命が起きたというわけです。
それから約1世紀にわたってガソリン車の時代が続きます。日本では1930年代ころからトヨタや日産などが続々自動車製造を開始。これが、CO2排出問題などに関心が集まるようになる21世紀前後から、アメリカでのEV開発の影響などをうけて、日本でも1997年に世界初の量産ハイブリッド車としてトヨタが「プリウス」を販売開始。これが世界的な大ヒットとなり、エコロジーの代名詞のようになってしまいました。
ところが世界では、エンジン製造をやめて自動車製造そのものを変えていくべきだという思いが強かったのか、ハイブリッド車への参入は少なく、日本が独占しているすきに、各国でのEV開発が行われ、今に至っています。
現在のEVの世界での販売台数を調べてみると、国際エネルギー機関(IEA)が先ごろ公表したデータによれば、2017年度でついに100万台を突破したそうです。その内訳は・・・
2017年の世界のEV販売台数
1) 中国/57万9000
2)米国/19万8350
3)フランス/11万8770
4)ノルウェー/6万2260
5)ドイツ/5万4560
6)日本/5万4100
なんと中国が全体の6割近くも占めています。日本はプリウスにおいては年間100万台突破するなどしていますが、EVとなるとまだ世界では6位。ハイブリッドカーのおかげで出遅れた状態になっているんです。
中国が独走している理由は、光化学スモッグという政治的にも重大な問題があるため。都市部の道路はどこも渋滞で、北京では時に、大気汚染が耐えられないほど深刻。そこで政府自らEVへの移行を掲げており、時期は未定ですが、ガソリン車の生産・販売禁止をちかいうちにすると言われています。
こうしたことが世界の自動車産業を大きく変えようとしているんです。そんな中で8月22日、日本が中国と手を結んで新しい電気自動車産業の道を作ろうと第1歩を踏み出したというわけです。ハイブリッドで出遅れた日本が再びEV産業でその遅れを取り戻せるのかという意味にもなっているわけなのです。
■EVを普及させるための3つの壁・・・
EVを世界に普及させていくためには3つの技術の壁があると言われています。
ひとつは電気をためておくための「バッテリー(蓄電池)」が未だ重くて高価なこと。現在世界で最も採用されているEV用のリチウムイオン電池は日本のパナソニックがアメリカのテスラモータースと共同開発したものになります。
ちなみに一般的なEVのバッテリーをみなさんがスマホでお使いのモバイルバッテリーと比較すると、約300倍の容量にになるそうです。そしてその重さも約300キロ〜500キログラムにもなります。エンジンがなくなって車体が軽くなったかと思いきや、バッテリーはまだ重いんです。軽くて安価なバッテリーの開発に壁が立ちはだかっているわけです。
もうひとつは、航行距離の問題。ガソリン満タン(40リットル)でリッター25キロくらいの小型車だと約1000キロ走れる計算になりますが、EVの場合、フル充電でいまのところ実質約300キロ(カタログ上は日産リーフで400キロ)くらいのようです。これをもっと伸ばしていかなければならないわけです。ちなみに私が運転する自家用車は60リッター入ってリッター5キロしか走らないのでフルで300キロ=今のEVと同じです笑。
そして最後の壁が、充電時間の問題。EVが300キロ走るためのフル充電する時間なんですが、空の状態からだと家庭用コンセント(100V電源)で現時点で約14時間ほどかかるということです。これをもっと高速にしようとしているのがガソリンスタンドなどに設置が始まっている「急速充電器」。これだと約20分でフル充電できるくらいまで改良されてきているということです。
今回注目したいのはこの「急速充電器」の規格のこと。20分程度でフル充電できる急速充電器の規格こそが日本のほこる「チャデモ方式」という規格。「チャデモ」の由来は「CHArge DE MOve(チャージでムーブ)」から来ているそうですが、世界ではこの「チャデモ方式」のほかに、主には欧米が採用している「コンボ方式」と中国が採用している「GB/T」という方式があるんだそうです。
ところがEVの台数が世界の約3分の1を占める中国は、当然自国で開発した「GB/T」という方式の急速充電スタンドを設置していて、なんとすでに中国国内だけでも22万台が設置されているそうなんです(日本は約2万台、欧米はまだ7千台程度)。ただ「GB/T」方式だと日本の「チャデモ方式」に比べて充電時間が3倍もかかってしまう(出力が日本150キロワット>中国50キロワット)状態だったわけです。そこで今回、日本に急速充電の方式で技術提携をしようと持ちかけてきたということのようです。
■今回の統一規格でEVの普及を加速・・・
この件についてチャデモ協議会に問い合わせさせていただいたところ、今回の合意で今後は「チャデモ方式と中国規格をベースにした新規格」を立ち上げて、これまでのどちらの規格にも対応できる出力アップ充電器の普及を目指していくとのことです。
今回の提携で、世界の急速充電器のほとんどを日本と中国の共同規格で統一できる可能性が出てきたうえに、2020年までには、現在の6倍(出力150キロワット>900キロワット)の急速充電を目指すと発表しています。ということは、バッテリーの性能とも相まって充電時間が大幅に短縮される可能性が出てきたことからEVの普及に拍車がかかるとともに、自動車部品の統一などにも大きな影響が出てくるということになります。
チャデモ協議会の吉田事務局長様よりいただいたメッセージによれば、
「充電インフラは、EV社会の実現に欠かせないものです。ですので、その規格を、時代やお客様の要求に合ったものに改善し続けるのが我々の仕事です。今回の新規格は、今までのインフラを無駄にすることなく、性能の向上と規格の統一を実現する好機です。これにより、インフラ普及が加速し、EVの使い勝手が向上し、EVの普及が進むことができると思います。」
ということです。コメントありがとうございました。
■このあと自動車産業に起きること・・・
さて、EVを普及させるための3つの壁について話してきましたが、バッテリーに関しても、航行距離に関しても、急速充電に関しても、技術においては日本は世界に引けを取らない状態であることは明らかなんです。でもそれを世界に普及させていけるかが、今後のEV産業を日本が担えるかにかかっているというわけです。
ただ、EVに関しては、これまで話してきた技術の課題以外にもたくさんの課題があります。
今日の特集でほとんど話に出てこなかったことでいえば、EVの頭脳に関わる話もたくさんありますよね。自動運転や交通システムなど、ソフトウエアの技術でEVに関わろうとしているのは、アップルやGoogle、ソニーなどがいますし、掃除機や空調家電を販売するダイソンなども全く新しいコンセプトのEVを製造すると参入を表明しています。
さらには「空飛ぶ自動車」の分野もどんどん新しいニュースが出ています。これはドローンとEVの間を埋める乗り物として、ひょっとしたら地上のEV以上に普及するかもしれないもの。
そしてそれらすべてのEV電気自動車をインターネットなどの通信でつないで制御していくという「コネクティッドカー」構想もあります。通信産業もEVとは切っても切れない関係なんです。
実は電気自動車はエコといいますが、結局充電するための電気を作るのは火力発電、すなわち化石燃料を使って電気を起こしている以上、完全なエコとは言えないことをご存知だったでしょうか。
電力がほとんど石炭による火力発電で行われている地域でEVに乗るとすれば、実はリッター15キロのガソリン車と化石燃料の消費量はかわらないという研究結果もあるようです。(発電効率の悪い地域ではそれは更に悪化します)
さらに蓄電池はコバルトやリチウムでできており、こうした天然資源の採掘はさらに必要になる。なんと世界のコバルトの採掘量の60%はコンゴ共和国で採掘されているんだそうです。そこには人種差別問題もあるんだそうです。
そんなあらゆる分野の産業に関わるEV(電気自動車)のこれからの発展は、我々の生活そのものでもあるということになります。これからの我々の生活と大きく関わって行かざるを得ないEV産業。更に興味をもって見守っていかねばなりません。
(出典)
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■CHAdeMO協議会