■相次いで始まった音楽ストリーミングサービス・・・
いよいよクソ暑い夏が通り過ぎ、学生さんは夏休みも終わり、季節が変わる中、ちょっと音楽のことについて物思いにふけってみました。
私も長年関わってきた音楽業界。いまさらながらですが、ついに劇的な変化を遂げようとしています。この5月から6月にかけて次々とサービスが始まった「音楽ストリーミングサービス」です。
5月20日には、エイベックスとサイバーエージェントが組んで「AWA(アワ)」がスタート。エイベックスの音源はもとより、SonyMusic、ワーナーミュージック、日本コロンビア、ポニーキャニオンなど、邦楽の音源も充実させています。
さらには6月11日にLINEがスタートさせたのが「LINE MUSIC」。これにもソニー、エイベックス、ユニバーサルミュージックなどが参加。
「AWA」や「LINE MUSIC」は月額1080円で聞きたい放題。どちらも年内に500万曲の楽曲数に増やし、来年度は数千万曲にまで増やすと宣言しています。
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それに輪をかけて話題を振りまいているのがご存知「Apple Music」。6月30日に全世界で同時スタートし、邦楽はまだ少ないですが、すでに約3000万曲を取り揃え(日本国内は数百万曲)月額980円。ここには24時間ライブ配信されている「Beats 1」というネットラジオ(英語のみ)も含まれています。
みなさんのご記憶からすればこれまでにも音楽業界にはいくつもの変化はあったと言われるでしょう。塩化ビニール製のレコード盤がポリカーボネート製のCDに変わったり、カセットで持ち出せるようになったり、果てはデジタルプレイヤー、スマートフォンでの聴取などなど。
でも今回の変化はこれまでの変わり様とはレベルが違います。音楽関係者でどっぷりこのあたりに浸かっていない限り、ある程度の変化は理解していても、それほどまでに変わってきているかご存じない方はまだまだ多いと思うのです。
■あなたは何で音楽を聴いていますか・・・
改めてあなたは今、どうやって音楽を聴くことが多いでしょうか。
かつての一番のスタンダードは「居間にあるステレオコンポにお気に入りのCD(レコード)をプレイヤーで聴く」でしょうか。しかしもはやこの行為は、核家族化が進んだことや、ステレオという趣味が高度成長のシンボルではなくなってきたことから、ほとんど見られない光景になりつつあります。
この双璧を成すものにかつては「ステレオコンポで音楽ラジオ番組をエアチェックする」というのもありました。これも今や皆無。ではみなさんは一体どうやって音楽を聴いていますか?先日私がお手伝いしているラジオ番組で一般の方にアンケートを取ったところ、面白い結果が出たのでご紹介しましょう。
まずは、多数の方々の回答としては、レンタルショップやレコードショップでCDを入手して、家のCDプレイヤーやパソコンで聴く、iPodなどの携帯音楽プレイヤーに入れて持ちだして聴く、でした。
次に多かったのが、youtubeなどの無料音楽ネットサービスをパソコンや手持ちのスマートフォンで聴く方。ここまでは想像出来る範囲の回答。
意外にも3番目に多かったのが、ラジオの音楽番組やポッドキャスティングで聴くという方。別にラジオ番組のスタッフが聞いたからというわけでもないのに、音楽を聞きたい人はまだラジオから情報を得ようとしていました。それは大変ありがたいことです。ラジオは未だに残る音楽ファンをもっと大事にしなければいけないと改めて思いました。
と言いつつも、もはや音楽は家の中に固定されて聴くものではなく、完全に持ちだして聴くものに変化していることがわかりました。
■2つの音楽の聴き方・・・
もうひとつ、音楽の聴き方として、大きく分けると2つあるということをお話したいと思います。
ひとつは、CDなど音源を入手して、それを手元のプレイヤーで再生して聴く方法、もうひとつは、ライブコンサートに行って聴いたり、ラジオなどから流れてくるものを聴く方法。
2つの違いは何か、それは手元にその音源があるかないか、残ってるか残ってないかということです。
これまでの音楽ビジネスは、みなさんの手元に音楽を渡してその対価をもらう売り切りビジネス。これを「パッケージビジネス」と言いますよね。CDを購入する代わりにiTunesストアから音源をダウンロードするのも同じ聴き方です。
もうひとつの聴き方、ラジオやライブ・コンサート、すなわち手元に残さないで聴く方法は、インターネットを通じて、手元のスマートフォンなどで、どこからでも聴けるようになりました。これが「ストリーミング」という聴き方。実はこれが音楽業界での劇的な変化の根源だと言いたいんです。
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■音楽ストリーミングサービス戦国時代・・・
このストリーミングという技術は、元々は動画などダウンロードするには容量が大きいものを少しづつ取り出して再生するのに活用されていた手法のひとつ。音楽はそれほど容量が大きくないため、ネットが高速になった今では、ダウンロードが主流。また音楽著作権の使用料金もダウンロードに比べてストリーミングは1件あたりの使用料がとても安い設定になっていたことも、業界としてストリーミングに移行することに積極的ではありませんでした。
ところがその状況を阻む動きが出ました。それが御存知の「youtube」。元々「youtube」は動画をアップしてみんなで共有するサービスですが、音楽は違法も含めたくさんアップされています。
この音源を使ってジャンル別だったりアーティスト別だったりを続けて聞けるアプリが1昨年くらいから次々と現れ始め、それが大人気になりました。このままでは著作者保護に反するばかりか、音楽業界を完全に衰退させてしまう・・・。
そこで、業を煮やしたyoutubeは、自身でもYouTubeの定額制音楽配信「YouTube Music Key」を近日中に始めると発表しました(2014年11月に発表、実は現在:2015年8月でもまだ正式なサービスは立ち上がっていません)。
youtubeは典型的なストリーミングサービス、手元に音源は残らない。これが音楽ファンに受け入れられるとしたら、もう世の中の音楽ファンは手元にレコードジャケットや音源が残らなくてもいいのかもしれない、そういう雰囲気が世の中に流れました。
ちなみにyoutubeはGoogleのグループ企業、ある意味Goolgeがこれからの音楽はストリーミングだ!と方向を定めたわけですから、そういう考えが一気にネット業界に広まり、音楽ストリーミングサービスの強化に改めて各社が乗り出し始めたんです。
アメリカではすでにPandoraやSpotifyなどのソーシャルストリーミング音楽サービスも数千万人規模で利用者を拡大させ始めています。これにさらに6月23日には、Googleが同じく定額制音楽配信サービス「グーグルプレイ・ミュージック」を、それも広告収入型の無料配信でスタートさせたというニュースが発表されました。
Googleは、Youtubeミュージックキーを始める前に無料のストリーミングサービスをスタートさせてしまったということで、全く理解不能の動き。それほど世界の音楽業界は劇的な変化をしていると感じざるを得ません。
ちなみに日本では数年前からすでに音楽ストリーミングサービスの戦国時代は始まっていました。モバゲーのDeNAは「Groovy」を2013年に立ち上げますが、翌年には業績不振で終了。ソニーも「Music Unlimited」という世界最大級の1500万曲を取り揃えて聴き放題のサービスを2012年からしていましたが、これも今年3月末に閉じています。
意外に日本では定着してこなかった音楽ストリーミングサービスですが、果たして今回の変化は続くんでしょうか。
■ラジオが普及してレコードが売れなくなった時代に何が起きたのか・・・
改めて今回の音楽業界における「劇的な変化」について説明したいと思います。それは「パッケージビジネスの終焉」なのかどうか、ということです。
エジソンによってレコード(蓄音機)が発明され、蓄音機とともにレコードビジネスが一気に盛り上がったところで、ラジオ放送が始まり、一時はレコードが全く売れなくなったと言います。
現在のストリーミングサービスの始まりは、この時代と全く同じ状況を生み出しています。つまりこのままだと、これまでのパッケージ型音楽サービスは終焉を迎えるわけです。これまでもパッケージはそろそろ終わる終わるとか言ってきましたが、今回はまさに究極の時。これで「劇的な変化を生むのかどうか」ということです。
みなさんはどう思われますか。ここまで読んできてなんだ!結論がないのか!とお怒りの方もいらっしゃるかもしれませんが、正直、日本でこれから音楽パッケージがほとんどなくなってしまうかどうかはすぐには結論が出せないと思っています。
ただおとなりの韓国では、パッケージが普及する前にネットが普及した結果、パッケージはほとんど流通していません。音楽ダウンロードも違法が横行したおかげで無料が大半を占め、結果、音楽業界は会員制のコミュニティサービスになっています。アメリカでもその傾向はかなりあって、音楽アーティストも無料でストリーミングラジオで流してもらってイベントやクラウドファンディングで収入を得るスタイルに変わりつあります。
エジソンの時代に、ラジオが普及してパッケージが売れなくなったその後どうなったか皆さんご存じですか? もちろんそこで再びレコードビジネスが復活したからこそビートルズやローリング・ストーンズが登場するわけですから、何らかの復活を遂げた・・・。さてその決め手は何だったのでしょう?
なんとそれは、ラジオ局がレコード会社を買収して、その後ラジオ局の売上げアップのために再びラジオで宣伝して新たなレコードを売りまくったという歴史的な流れがあります。RCAというと日本ではレコード会社というイメージがありますが、「Radio Corporation of America」、元々ラジオ局なんですね。
つまり今回の「劇的な変化」でどうなるかと言えば、AppleやGoogleがレコード会社(レーベル)を傘下に置いて、新たなビジネスの種にするのではないかということです。エイベックスもレコード会社からネット配信会社に変化しつつありますね。
そんな動きはすでに出版業界でも起きていますよ。まさに角川書店はドワンゴと合体してネット配信会社に変貌してしまいました。
音楽業界の劇的な変化。それは確実に進んでいるんです。
(参考リンク)
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■AWA
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■LINE MUSIC
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■Apple Music
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■Spotify
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■Youtube Music Key