■アップル・ウォッチ使ってますか?
「アップル・ウォッチ」が発売されて約1ヶ月が過ぎましたが、みなさまは手に取られているんでしょうか。私は予約日に公式ページを見ると、あっという間に入荷が6月末となっていたので、高価でもあるし、初期参加は難しいかなと一度は諦めたんです。ところが、たまたま量販店で閲覧してた際、なんと4月中に入手可能と店員さんに言われ、思わずスポーツバージョンを購入してしまいました。
この1ヶ月、日常に溶け込ませて「アップル・ウォッチ」利用させて頂いてますが、正直、スマートウォッチの必要性は、いまのところ見いだせていません。それがわかっただけでも購入した価値はあると思いますが・・・。
ただ、一つだけ感動的な機能を見出しました。時計の画面を見た時だけ画面の電気がつく、通常は消えている、これが妙に気に入ってます。たまに見ても点灯してくれないこともあったりして、「ちょっと起きてくれ!」なんて時計に向かって言ってしまいます。これまでの時計ともスマートウォッチとも違う「バディ(仲間)」なところが良いんです。
今回ご紹介する会社の社長さんは、こういった「新しもの」を誰よりも早く入手して分解しちゃうような人、株式会社プラチナエッグ・代表取締役社長、竹村也哉さんです。マイ・バディでもあります。
彼は天下の東京大学大学院で脳のメカニズムを研究していたにもかかわらず、ドロップアウトしてゲームの世界に入ってしまった変わりモノ。特にこれまで大ヒットを生み出したこともなく、会社も倒産寸前にまで追い込まれたりもしていますが、その紆余曲折の会社経営や人生がとってもチャーミングなんです。
今回はこうすればヒットするとかじゃなくて、信念さえしっかりしていれば、楽しい人生は歩める!というお手本です。
■研究者は25歳までに芽が出ないとだめなんです・・・
>プラチナエッグを始めたきっかけあたりからお話いただけますか?
(竹村)そもそもは、1998年(平成10年)ころに、ネバーランドカンパニー(2013年11月に事業停止)という家庭用ゲーム機のソフト製作会社があって、その中のモバイル系や電子玩具(たまごっちのようなもの)を制作しているチームが独立して出来たのがプラチナエッグです。
>その当時は携帯のアプリみたいな時代ではなかったですよね・・・
(竹村)携帯のアプリもすでにありましたね。ドコモの503とか502とかの時代・・・。携帯アプリはそうとう昔からやってましたね。
当時はコンシューマーがゲーム業界のメインストリームで、ドリームキャストとかXBoxの初期モデルなどのソフト制作なんかもあったんですが、我々は携帯ゲームやってて、かなりメインからは外れてましたね。
>そもそもネバーランドカンパニーに竹村さんが入社したいきさつは・・・
(竹村)当時、東大の大学院で勉学に励んでいて、修士1年まで行って、生物の専攻だったんですが、なんか面白く無いなと思い始めて、中退しちゃったんです。
>そのときにネバーランドカンパニーとどうやって出会ったんでしょう?
(竹村)学校やめるなら、好きなコトやろうと思って、だったらゲームだと思い、以前から知り合いだった方(株式会社ピラミッドの柏木准一副社長)から紹介されたのがネバーランドカンパニーだったわけです。
知り合いからはゲームやるならまずは「丁稚(でっち)」からだよと言われ笑・・。無給でいいので勉強させてもらうような形で入り込んじゃいました。
現在開発中のゲーム画面(1)
>その時点で竹村さんにはこんなゲーム作りたいというイメージがあったんでしょうか・・・。
(竹村)大学院での専攻は生物で、生物の研究者になろうとしていたんです。研究者もほとんどの人生を研究に捧げる仕事だと思うんですが、なにをやるにも、自分のすべての時間をそこに注ぎ込んで、あとで後悔しないものをやろうと思ったとき、それはゲーム制作だと思ったんです。こういうゲームが作りたいという具体的なものはなかったですが・・・。
>最初に竹村さんと会ったとき(今から10年くらい前)はゲームというよりアルゴリズムみたいなものを作ってましたよね・・・。
(竹村)あれ、まだ出来てないです笑、またやりたいですね。
>生物が専攻だったということは、iPS細胞とか、そういうところにも行く可能性があったということですか?
(竹村)あり得るといえば可能性はあったと思いますが、研究職の世界って、25歳くらいで芽が出ないとそのあと相当しんどいと言われているんです。そのとき僕はマスター1年でもう24歳くらいになっていた・・。あと、1,2年で何らかの発見ができる感じがしなかったわけです・・・。
>ちなみにどんなことを研究されていたんですか?
(竹村)ヒトの脳細胞の発達段階でどんな遺伝子発現がでるのか・・・みたいなことをやってましたね。脳細胞って、赤ちゃんの時はとても柔らかいんですが、その赤ちゃんの脳がどうやって出来上がってきたのかを研究すると、頭が良くなる薬とか万能薬とかそういったものが作れるようになるわけです。脳の発達段階でどんな遺伝子が発現するのかを調べるとそういったことが分かるかもしれないわけです。
でもその研究に限界を感じてしまい、だったらそれ以上に好きなゲームにのめり込もうと・・・。
>ということでゲーム業界に入って、そこからプラチナエッグの社長になるまでは、どんなことをされたんでしょう?
(竹村)いまウェブサイトで、自分がこれまで廃人になる寸前までゲームやってきたことを公開していて、同じような体験をしている人とつながろうとしているんですが、そのくらいゲーム作りに関してはいろいろやってきましたね。
>入社してから作ったゲームで印象に残っているものありますか?
(竹村)セガサターン用の「カオスシード」というゲームがあるんですが、これはマニア評価が非常に高かったゲームですね。ビジネス的には失敗しましたが・・・。これは私がプログラマとして最初に作った「傑作」ですね笑。
竹村也哉さん
>竹村さんはプログラミングする側だったんですね。
(竹村)そうです。本当は企画もやりたかったんですが、最初はプログラムがわかっていたほうがいいだろうと、独学で勉強しました。紹介してくれた知人からもプログラマのほうが適正が高いと言われてましたし・・・。
>以前お聞きしたとき、料理研究家もやられていたとか言ってませんでした?
(竹村)あれは、親が編集プロダクションをやってまして、趣味でやってた僕の料理を見て、料理本の企画をぶちあげちゃったんです。その企画が確か、オレンジページかどこかの目に止まって、あれよという間に出版することになっちゃったんです。(「まあ食え! ― 一人暮らしのもてなし料理」同文書院:1996年)
大学時代も先輩や後輩たちに料理作ったりしてたんですよね。でも本に書いたレシピはご飯に醤油かけて食うとか、かなりいい加減なものでしたね笑。
>すごい多才ですよね。そちらの方面はいまはどうなんでしょう。
(竹村)いまは食べる方ばかりですね。妻が料理教室やってたり、両親も料理屋やってましたけど笑。
■ゲームはやっぱりオリジナルを作らなきゃ・・・
>やっぱ料理一家なんですね笑。さて話を戻すと、カオスシードなどのマニア受けするゲームを得意としながら脈々と実力をつけていき、その後どうなったんでしょう。
(竹村)まず、ネバーランドカンパニーは、中堅のゲーム開発会社で、個性あるゲームを制作し、固定ファンもついていたんですが、あまり冒険はしない会社だったわけです。携帯電話のゲームにもすぐに進出しなかったので、僕はもっと新し目のことをやりたいと思っていたんです。
iモードの初期のゲーム時代などは、ブラウザで動くやつとか、白黒だけどめちゃくちゃ凄いとか、いろいろあったんですよ。そういうのをやりたいなと思って、会社に相談したら、別会社を作ろうということになったんです。そのとき新しいことで10年食えるという意味ではロボットなんかも作りたいなんて思ってましたね。結局未だに出来ていませんが・・・。
>ロボットやって欲しいですね・・・。そこからプラチナエッグが立ち上がったわけですね。
(竹村)それが2002年(平成14年)の12月ですね。最初の半年はネバーランドからも仕事をもらっていたんですが、そのあといろいろあって・・・。
>そのころ社員は何人くらいだったんですか。
(竹村)10人くらいですね、しばらくは「Nintendo DS」や携帯電話のゲーム制作をやっていました。そのあと、PlayStation Portable(PSP:プレイステーション・ポータブル)など新しいゲームデバイスが出るたびにそれに向けたゲームにどんどん挑戦していったんです。
新しいデバイス用のゲームを作っていると、そんなデバイス用のものなんか他では作ってないから、意外にいろいろなところから問合せが来るんです。ウチのも作ってくれないかとか・・・。それでメーカーからの受託がどんどん広がっていきました。
そのほか、ハドソンさんとiPhoneアプリを、相当早い時期に作りましたね。いまパズドラを作っている開発会社さんとも2008年にすでにiPhoneでパズルRPGを完成させていました。iPhoneがアメリカで発売したのが2007年、そして日本で3Gとして発売されたのが2008年ですから、全く初期の頃からiPhoneアプリやってましたね。
現在開発中のゲーム画面(2)
>やはり受託中心のゲーム制作会社だった・・・。
(竹村)最初はゲーム開発大手の「トーセ」のような会社にしたいと思っていました。受託専門で、開発力があって、安定した経営ができる会社。これまでなかなか安定もなかったですから・・・。夢は見ない。
でも2年くらい続けてきたところで、ゲーム会社って、オリジナルを作らなければ会社としての発展は望めないと思い始め、それから受託だけではなくて自社のオリジナルも手がけるようになったんです。
でもなかなかオリジナルを作る資金がたまらず、どうしようと思ってたところにGMOインターネットが「アプリやろうぜ!」を立ち上げてくれたんです。
>それ、僕が事務局長やらせていただいたソーシャルゲームアプリ開発支援プロジェクトですね。
(竹村)本当にオリジナルを作るという意味では、あのプロジェクトで後押しされましたね。
>「アプリやろうぜ!」は、GMOインターネットグループが、ニッポンのクリエイター&エンジニアを対象に総額3億円の支援をするという、2010年3月からスタートしたプロジェクトですね。当時はガラケー用のソーシャルアプリ。ミクシィがプラットフォームのオープン化をしたのが2009年10月で、その後2010年初旬にはグリーやDeNA(モバゲー)もオープン化され、当時大流行していた「怪盗ロワイヤル」だったり「サンシャイン牧場」に追いつけ追い越せと、ゲーム開発の強者達が頭角を現し始めた時代ですね。
(竹村)結局「アプリやろうぜ!」では「パラダイス★リゾート by GMO」と「エンジェルΨギルド by GMO」の2つを作らせてもらいましたが、ヒットするほどにはなりませんでした。
でもこうした新しいことを続けてやっていたおかげで、その後、iPhoneアプリを前々からやってたことから、スマートフォンアプリの開発が増えてきまして、だったらiPhoneアプリに集中してみようとなったんです。
>この時、世間はまだガラケーのソーシャルゲーム全盛期ですよね、そんな中で徐々にiPhoneやAndroidのアプリも増え始めていましたが、全く収益の上げ方がわからない時期でしたよね。
(竹村)このあと、サイバードさんからの依頼で「なげモンクエスト」(2013年)というアングリーバードとパズドラ合わせたみたいなゲームアプリを制作しました。けっこうガッツ入れて作って、企画からやりましたので、自分としては良い出来だったと思うんですが、売上があまり芳しくなかったため、あっけなく終了。売上シェアだったため、これでプラチナエッグから完全にお金がなくなっちゃいました。
その後、私も含め社員は知り合いの会社に出稼ぎに出て、なんとか元手を作って、昨年9月から会社を再開することができました。
■新しいものさえ追い続ければ必ず注目してくれる・・・
>けっこう波瀾万丈な人生ですね・・・。
(竹村)実は「なげモンクエスト」作ってた頃から、会社は200人くらいの規模にして、そのうち30人くらいが常時オリジナル制作ができる環境にしておかなければならないと思っていたんです。これで安定もしつつオリジナルも手がけられる・・・。
そこで今回立ち上げ直したと同時に社員も一気に増やして、受託をやりつつオリジナルも作る体制を作り上げてしまいました。
>凄いと思うのは、200人集めたらその人達が食えるだけの受託の仕事を取って来られるということですよね。それは営業力があるからですか?
(竹村)自分で言うのもなんですが、プラチナエッグは開発力では業界標準以上のチカラがあると思っていますし、みなさんもそう思ってくださっている。その反面、グラフィックや営業力はちょっと弱い。そこで、今回はグラフィックと営業力のある会社(Next Ninja)とジョイントして「Ninja Egg」という新会社で勝負に出ようということになりました。
>ちゃんと開発力さえあれば、仕事は天下の周りものってことですね。そして「Ninja Egg」になったおかげで、先ほどの200人体制で約1割の30人くらいがオリジナルゲーム開発という体制も整うようになった・・・。
(竹村)まだ立ち上がったばかりですが、かなり良い感じですね。現在「Xbox One」のオリジナルゲーム制作をやっています。これは元々この2月にiOS/Android用にリリースした「Kyub Crazy Colors(キューブクレイジーカラー)」というパズルゲームの「Xbox One」バージョンです。
現在開発中のゲーム画面(3)
それと最新デバイス用ということで、アップルウォッチ用の電子ペット系アプリも手がけています。
どちらも秋までにリリースする予定です。
>楽しみですね。今日はどうもありがとうございました。
今回は、いろいろ山あり谷ありの会社経営を通じて、大変興味深く話を聞かせていただきました。結論は、常に新しいデバイスのものを開発する姿勢と開発力が竹村さんを支えて来られたようですね。この人は絶対なにかやらかせてくれる人だと確信しています。
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(参考リンク)
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■株式会社プラチナエッグ
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■株式会社Ninja Egg
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■アプリやろうぜ!