■イスラム国とのコミュニケーションは果たして・・・
この記事がアップされている頃には何らかの結論が出ているかもしれませんが、ここ数週間我々の頭から離れることのない「イスラム国とされる過激派組織による日本人拉致事件」は、改めて見えない相手との国の交渉力について考えさせられる結果となっています。
日常においては、ソーシャルネットワークの普及もあって、人と対面したコミュニケーションの場面が少なくなり、コミュニケーションがなくても生活に困らない時代となった結果、いざというときにコミュニケーション障害:コミュ障を自覚する場面も増えています。
IT使いのスペシャリストでラジオパーソナリティの吉田尚記氏、音のQRコード「トーンコネクト(Toneconnect)」を生み出した株式会社トーンコネクト社長CEOの加畑健志氏、そしてスーパー大学生のTehuさんをメンバーに、最近気になるネットとラジオの近未来をトークセッションする月例会「トーンコネクト・トークジャム(略してトンコネ・ジャム)」。
今回はTehuさんの後輩でもあり「情報セキュリティスペシャリスト試験」に史上最年少で合格したことでも話題笑の、矢倉大夢(やくらひろむ)さんもゲストに来てくださいました。
新年一回目のテーマは、現在コミュニケーションのエキスパートにも関わらず、以前はコミュ障だったとカミングアウトもしている吉田尚記氏が、これまでの数々の経験からコミュニケーションっていったい何なんだろうと疑問を持ち続けてきた成果をまとめ、コミュ障たちのために書き下ろした最新本『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版刊)の発売(1月31日予定)を前に、本のテーマでもある「コミュニケーションはゲーム」について議論してみました。
これが意外な方向に発展し、前回までにも取り上げてきた「ゆるいつながり」と結びつきます。その意外な結末をとくと御覧ください。
■コミュニケーションは「気まずさ」を撃沈させるゲーム・・・
>「コミュニケーションはゲームだ」と言い切ってるわけですが・・・。
(吉田)まず、人間は過去も今もそしてこれからも、コミュニケーションによって生きる生き物であると思うわけです。言い方を変えれば「人間は群れ生物である」ということで、ここからいきなり群れを離れる(コミュニケーションを絶つ)ことはあり得ないことがわかるわけです。
群れ生物である以上コミュニケーションは生きるために必須の手段、がしかし、今コミュニケーションの目的を誰もが見誤っていると感じるわけです。
コミュニケーションの目的は、例えば「儲けのため」とか「偉くなるため」「友達を増やすため」など思い浮かぶと思うんですが、「それは何故なんですか」と尋ねると、誰も答えられなくなりました。そこで気が付きました。コミュニケーションの目的は「コミュニケーション」なんだと・・・。
つまり「コミュニケーション」可能な人がこの世の中に増えるから「偉くなる」という意味なんじゃないかと思うようになったわけです。
>先にコミュニケーションという目的があって、それが果たせた結果「偉くなれた」ということなんですね。
(吉田)本にも書きましたが、有名な「釣り人の寓話」というのがあります。
ある投資家が釣り人に話しかける。「そんなに釣りが好きなら、魚を売ってお金に変えて、それで大きな船買ってさらにいっぱい魚を釣ってお金を増やせばいいのに」。釣り人は投資家に質問する。「儲かったお金で何をするの?」。投資家は「好きなことをすればいい」。釣り人は「だったら今好きな釣りをしてるのと変わりない・・・」。
コミュニケーションがうまくなって何をするのかと言えば「コミュニケーション」をするんだというのが今回の本の主旨なんです。でも意外と誰もがこのことを見失っている。
>つまりコミュニケーションで金儲けしても所詮コミュニケーションに戻るということですね。だからコミュニケーションを楽しまなければ何も残らないと・・・。
(吉田)そうなんです。コミュニケーションが目的なんだから「ウケることに一所懸命になる(楽しむ)」と考えれば良い。これがなぜかみんなそうしない。偉そうに見せなければ、優位に立たなければ、そんなことばかり考えている、それらすべてナンセンスなんです。
コミュニケーションは「ウケたモノ勝ち」なんです。これを前提に考えると、まさに「コミュニケーションはゲームである」ということに行き着くわけです。
考えてみれば、この手を打ったらこの手で返すというコミュニケーションの定石があります。この定石を組み合わせるだけで日常をうまく回すことが出来る。これを本にまとめよう。でもそれだけだと誰もが同じになってしまうので、少しゲーム性を採り入れてみるとさらにおもしろくなりますよ・・・という本に仕上げました笑。
あと大前提として「コミュ障のための本」としました、つまり自分でコミュニケーションが苦手だと思っているひとのための本。
左からTehuさん、吉田さん、矢倉さん、加畑さん
ところで「コミュ障」と言いますが、これが誤解を生む言葉なんです。通常「あたりまえに誰でも出来ること」なのに出来ないとき「障害」と言っています。だから「水泳障害」とか「自転車障害」とかは、誰でもできるわけじゃないから言いません。コミュニケーションも誰でも出来るわけではないので「コミュ障」とは言えないはずなんです。ここからして誤解があると思うんです。
コミュニケーションは技術ですから、トレーニングしなけりゃできるようにはならない。にも拘らず「障害」という言葉をはめてしまった、誰でもできることだと定義してしまった。これが間違ったとらえ方なんです。
本では誰もがコミュニケーションができるところまで持っていくために精神論は一切排除し、全部ステップバイステップの技術論に落とし込んであります。
>コミュニケーションは技術ということですが、ゲームということなので、何かルールやゴールもある?
(吉田)ルールもあるし、技術もあります。ゴールは「ウケる」ことですね。会話をしたあとで「元気が出る」とか「テンションが下がる」とか、会話のあと元気が出ればコミュニケーションは成功(ゴール)と考えます。
ほとんどの場面で(キャバクラみたいな場所でない限り笑)、コミュニケーションする相手とは「win win」「loose loose」の関係なんです。コミュニケーションで「自分だけ勝って相手が負ける」という関係はない。それではあとが続かない・・・。
どちらかが勝つゲームを「対戦型ゲーム」だとすれば、コミュニケーションは「協力型ゲーム」と言えます。で協力してなにを倒すのか、倒すべき敵が何かと言うとそれは「気まずさ」なんです。「気まずさ」に向かってお互い協力プレイをするのが「会話」であり「コミュニケーション」なんです。
例えば「気まずさ」は、この人と2時間一緒にいなければならないとかそんな場面で出現します。そのために必要なのは会話になるんですが、自分が一方的にしゃべるのでは何も面白く無い。
>会話を弾ませて「気まずさ」という敵を撃沈させるわけですね。
(吉田)ここから戦略、戦術の話になります。まずは「相手に質問をすること」、すなわち「相手に質問する技術」をマスターすることです。
>これが難しいんですよね。
(吉田)難しいようで意外と簡単。それは本にも書きましたが、質問が的確でなければならないという誤解があるから難しいと思うわけです。人間というのは実は誤解を解きたい生き物なので、質問するならむしろ誤解をぶつければいい。例えば男に向かって「女の子じゃないよね」と切り出してみるとか笑・・・。
(矢倉)そこから話を広げていくってことですね。
■会話は「パス」と「トラップ」と「ドリブル」でできている・・・
>誤解をぶつけることがさらに誤解を生むことにもなるのでは・・・。
(吉田)誤解を解きたいのが人間なんです。コミュニケーションの目的はあくまで「コミュニケーションの成立」=「コミュニケーションで気分が良くなること」なんです。
>自分がコミュニケーションで気分が良くなったかどうかはわかっても、相手が気分良くなったかどうかがわからないからコミュニケーションにみんな悩んでるのでは・・・。
(吉田)所詮相手の気持ちはわからないですから、それでいいと思うんです。解りようがないですから。
>相手が不快な顔をしたときはどうする・・・。
(吉田)だと自分も気分が悪い・・・。
>そうじゃない人もいますよね・・・。
(吉田)そういう人はこの本は読まないと思います笑。コミュニケーションが気になってない人ですから。
僕はこの本では「コミュニケーションを通して元気が出るようにしたい(元気さえ出ればいい)」他には何も求めない、自分の考えを相手にわかってもらう必要もないし、相手の考えを自分が分かる必要もない、と説きました。ただ必要はないけど、相手の考えがわかったり、自分の考えが伝われば「気持ちいい」にはつながっていきます。
つまり延々話がすれ違ってても一向にかまわない。でもそのままだと気持ちは良くないからそのままではダメなんです。(コミュニケーションが成立していない)。
>なるほどそれが「技術」なんですね。「コミュニケーションは元気になってこそコミュニケーション」というのは納得です。まさにスポーツみたいなことですね。だからゲームなんだ・・。
(吉田)完全にスポーツです。そう考えてこれを分解していけば「技術」が見えてくるので、これをサッカーになぞらえてみました。
例えば会話がどのようになっているかといえば、「パス」と「トラップ」と「ドリブル」でできている。一番美しいのはダイレクトパス。ゴールは笑いが起きること。新しいアイデアが生まれるのもゴール。特に気持ちが良いことがゴール。
ただしゴールは目指さなくていい。ゴールが生まれるような状況さえあればそれでいい。ダイレクトパスがポンポンつながっていればそれでいいと考えるんです。
パスは相手に対して自分から質問すること。相手がやったことをちゃんと受け止めて、つぶさに自分の気持ちの中に入れることが「トラップ」。「トラップ」がうまくいけば、次の「パス」もうまく出せる。
たまたま「パス」コースが見つからないときは、自分の話=「ドリブル」でつなぐ。ここで相手に技術があればボールを奪いにくる(来てくれる)。そうなればお互い「気まずく」成りようがない。
これを繰り返していくうちに見えてくるものがある。それが敵と味方を見分ける機能。気持ちのいいコミュニケーションが出来る相手は「味方」であることがわかってくるんです。
>なるほどほとんど納得なんですが、現実は、いくらコミュニケーションしても、相手が味方か敵かわからない、すなわち「気分が良くならないことに悩んでいる」のでは・・・。
(吉田)そのために(この本で)技術を身につけておけば、いろんなところで運用可能になる。技術がないと、みんな日常での偶然出会った人間関係で苦しんしまうわけです。
>技術が大切なんですね。本にいろいろ載ってるんでしょうが、例えばどんな技術・・・。
(吉田)そんな難しいことは書いてません。相手の話をちゃんと聞くとか、質問をする、そんなことだけです。
>それがうまく出来なくて悩んでいる・・・。
(吉田)それは技術だから練習しなければうまく出来るようにならなりません、練習は必要なんです。ところがその「練習しましょう」というポイントがこれまでのはズレているんです。例えば「相手のことを考える」練習だったり・・・。
相手の気持など分かるはずがない。そうではなくて「相手の言葉を全部聞く」練習だったらいつでもできると思いませんか?
相手の話を聞いている中で「小さな違和感」が見つかる、これをコミュニケーションの種にして何でこうなんですかと質問してみればいい。そして相手が「え?」と言えば成功(コミュニケーションの成立)。相手は必ずしゃべりだす・・・。このコミュニケーション技術のポイントは、相手にしゃべりつつけさせること。自分は楽ちん、気分爽快、あっという間に時間終了。
■「髪切った?」・・・
>それまさにタモリさんじゃないの、「髪切った?」ってこと?
(吉田)技術演習の章があるんですが、まさにそこで「髪切った?」は神の一手だと説明しています。
このフレーズが神の一手である理由は、まず「他愛がない」ということ。そして髪を切ったことは誰でも絶対忘れていない。「いつ髪切った」と聞いて「忘れた」という人は髪のない人以外はいない笑。Tehuさん髪切ったでしょ?
(Tehu)えっ分かりました笑、ぼくは髪切って写真をアップしたらそれでブログが炎上しましたけど笑。(なぜなのかはご想像にお任せします)
>面白いですね、それって前回も話題になった「ゆるいコミュニケーション」だってことですよね。
(吉田)はい、ゆるいつながりこそがコミュニケーションに一番大切なことなんです。
>というところで前半終了。「コミュニケーションはゲームだ」についてはまだまだ話は尽きないので、続きは後半で紹介したいと思います。
(参考リンク)
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■Tehu
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■Toneconnect
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■吉田尚記・ミュ~コミ+プラス
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■吉田尚記Blog
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■吉田さんの新刊本