■富士山が世界遺産に登録の意味・・・
IT使いのスペシャリストでラジオパーソナリティの吉田尚記氏、音のQRコード「トーンコネクト(Toneconnect)」を生み出した株式会社トーンコネクト社長CEOの加畑健志氏と共に、最近気になるネットとラジオの近未来をトークセッションする会「トンコネJAM」。
今回は、ウゴウゴルーガや週刊フジテレビ時評など、ユニークな番組を数々手がけてきたフジテレビ情報センター室長・福原伸治氏にも加わっていただいて、前回の議論で出てきた、日本の「クールジャパン」戦略に必要な「ものづき力」について、もう少し推し進めてみよう思います。
ちまたでは、富士山が世界遺産に登録されたり、さいたまの大宮盆栽村が世界盆栽大会の誘致に乗り出す(2017年開催)など、日本文化のグローバル化に乗り出す活動がかなり目立ってきています。
音楽の世界も、AKB48やEXILEがメディアを席巻する傍ら、TIF(TOKYO IDOL FESTIVAL)やエグジットチューンズ(EXIT TUNES)などの「ものづき力」が、文化の裾野を確かに広げている実感が出てきています。
そんな中、テレビメディアの目線はどんなところにあるんでしょう? フジテレビの福原さんにその真意を聞いてみました。
今回の面々(手前左から吉田氏、福原氏、加畑氏)
■テレビの影響力はまだまだ手堅い・・・
(福原)テレビ局にいると、社会に与えるテレビの影響力がまだまだ強いことを実感するんです。
個人的にはもっと他メディアの影響力が強くなって欲しいと常に思ってますよ。しかしながらインターネットが普及してきたとは言っても、実感としては、社会に影響力を与えるもの全体を10とすると、テレビが8割、ネットはまだ2割程度と感じざるを得ない。
ビッグダディーの本が売れたこと、あれだってテレビの影響力じゃないですか。世間を揺さぶる話題、特に短期間で揺さぶるには、まだまだテレビが手堅いと思っています。
そこにラジオパーソナリティの吉田さんがツッコミを入れます。
(吉田)でも、あるテレビ関係者から聞いたのですが、今テレビに出たいと思ったら(取り上げてもらいたいと思ったら)ネットの「SEO」を強化すればいいとおっしゃってました。「SEO」(Search Engine Optimization)とはインターネットでの検索エンジンの最適化のことです。つまりテレビの話題は、ネットから拾ってくることが多いというわけです。社会への影響力が強いテレビの話題のネタ元は、結局「インターネット」だったというのも悲しいような気がします。
(福原)あくまでインターネットにころがっている話題は一般的にはマイノリティ(少数派)のもの。その中から社会全体で楽しめそうなものをピックアップする役割をテレビが担っているということだと思います。そして世の中に振りまいて(ブーストして)メジャー化していく。それでいいんじゃないでしょうか。
テレビはエンタメの話題のブースターで良いと開き直られると言いたくなります。社会で起きている様々な問題を取り上げて問題提起する機能、すなわちジャーナリズムの魂はどこに行ったのか・・・。マスコミに入社したときに味わったジャーナリストの一員になったという誇り高き気持ち。メディアの力で世の中を変えてやるという意気込みはもはやないのでしょうか・・・。
(福原)正直、ジャーナリズムとしてのテレビ(特に民放テレビ)の役割は終わっていると思ってます。
この一言は心に染み入ります。結局なぜそうなってきているかは、この場でも語られてきた「文化の成熟」がテレビをそういう立場にさせているように感じました。
これまでは文化が未成熟だったからこそテレビやラジオが様々な問題提起をする意味があった。しかし世の中が「成熟」し、特に日本は、社会を変えていくような活動に参加しなくても大多数は生活できてしまう。そうなってしまうと、ジャーナリズム(問題提起)は、かえって煩わしく感じるものになってしまっているのかもしれません。
しかし少数派に目を向けなければいけないのは社会人としての責任。このままで良いはずはありません。この問題は、また別の機会に議論したいと思います。
■「ものづきジャパン」そのものを世界に広める・・・
話題が錯綜してしまいましたが、福原さんの生の声を聞いて、気付かされました。それは、世の中のエンターテインメントを発信し、社会に楽しさや喜びを与える力は、まだまだテレビが持っているということ。世の中すべてがネットで回り始めてると思ってたので、良かったです。
とすると、なおさらテレビに日本のクールジャパン戦略を支えて欲しいと思うわけです。外国帰りの加畑さんが話を続けます。
(加畑)「ものづき力」を英語で伝えるとすれば「curiosity」ですかね。クールジャパンというより「キュリオジャパン」のほうが良いかも知れません。まさに「ものづき日本」「ものづきジャパン」、ものづきな人がいっぱいいいる感じ。
(吉田)AKB48やまどか☆マギカみたいな存在を生むことが出来る「状況」「土壌」そのものが「世界に持って行ったら何かが起きそうなニッポン」=「ものづきジャパン」なんじゃないかと思うのです。
(吉田)アイドルやサブカルだけじゃなくて、ニッポンの食べ物もクール=ものづきなものがいっぱいありますよね。特に海外のものなのに日本で独自の発展を遂げたものありますよね。例えば「ラーメン」。それからバームクーヘンなんかは、発祥の地ドイツでは単に地方の物産程度の存在だって聞いたことがあります。日本では日常的なおやつ、どこのコンビニでも売ってる。これぞクールジャパン=キュリオジャパンじゃないかと思うんです。(このくだりは吉田さんのBlogもご参考ください)
■景気回復と「ものづき力」の関係は・・・
久々にフジテレビの福原さんとお会いして、バブル時代のマスコミのことを思い出しました。1980年代から90年代は、まさに「面白くなければテレビじゃない(メディアじゃない)」時代。我こそは「面白いもの」を重箱の隅から探し出し、世の中にブーストしていました。
バブルの時代は自然に文化も多様になっていました。つまりバブルの時代に「ものづきジャパン」「キュリオジャパン」が形成された・・・。
しかし21世紀になり、経済の中心が日本から他国に移り始め、不景気の時代になると「ものづき」は影を潜めるようになります。それと共に「ものづき力」はインターネットでしか活動が見られなくなってきたのです。
景気と「ものづき力」の関係、既存メディアとインターネットの関係をもっと探る必要がありそうです。景気が回復してきたから再び「クールジャパン」に着手始めたのか、「キュリオジャパン」を推進すると景気が回復するのか、それらを推進するのは既存メディアなのか、それともネットなのか。でもインターネットは、景気が良い時は、社会に与える影響力は弱まるような気がしてきました。
引き続きメディアの力や社会を「ものづき力」、「キュリオジャパン」の観点から深彫りしていく必要がありそうです。
(参考資料)
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Toneconnect
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吉田尚記・ミュ~コミ+プラス
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吉田尚記Blog