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村上春樹が売れてる割になんだか良くわからないものは少ない:第10回トンコネJAM

2013/04/27 10:00
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土屋夏彦

radikoが有料で全国が聴けるようになり、いよいよ聴き逃しサービス「タイムフリー」も始まるかと思いきや、2016年になってしまいましたが、AMが在京3局も含め順次ワイドFM化を始め、TOKYOFMグループのi-dioもいよいよこの3月から始まるようで、今年の地殻変動はかなり大きいかも!
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■村上春樹にハマってます・・・

IT使いのスペシャリストでラジオパーソナリティの吉田尚記氏、音のQRコード「トーンコネクト(Toneconnect)」を生み出した株式会社トーンコネクト社長CEOの加畑健志氏と共に、最近気になるネットとラジオの近未来をトークセッションする会「トンコネJAM」。今回(04/09収録)でついに10回目。

これまでも様々な話題でネットとラジオの近未来を議論してきましたが、前回はついに「アニソンは軍歌、DJは救世主」などという結論に達し、みなさんには「なんだかよくわからない」話題になっているのかもしれません。

が、今回はまさにその「何が何だかよくわからない」ということがテーマ。まさにネットとラジオをやってる吉田さんと加畑さんだからこそ見えてきている話題ということで今回もお付き合い下さい。


トンコネJAMの面々(左から加畑氏、吉田氏)

直近の話題として4月12日(金)に3年ぶりの村上春樹の長編小説「色彩を持たない多崎(たざき)つくると、彼の巡礼の年」が発売になりました。今回のトークセッションよりもあとの発売でしたが、今回の話はまさに村上春樹の世界を象徴するような展開になりました。勝手に村上春樹にハマってます。

村上春樹の小説にはさまざまな「比喩:メタファー」が登場しますよね。徹底的にリアルな情景描写が続く中で、その主人公が羊だったり鼠だったりカエルだった・・・。それがある意味、小説を難解にしているわけですが、その比喩を紐解くことが「謎解き」でもあり、読み進める楽しみになっていくわけです。

ある意味「難解小説」の代表とも言える村上春樹がこんなに世の中で売れてるわけです。しかしその一方、レコード会社など音楽ビジネス、音楽文化を司る人々は、そういった難解な(なんだかよくわからない)ことをやめてしまった・・・。そんな話からセッションが始まりました。

■「萌えイズデッド」の意味すること・・・

(吉田)桃井はるこが「萌えはロックだ」と言っています。初めて「Tシャツやジーンズ」で人前に出ても「ふざけるな!」と言われなくなったのがロック。桃井はそれと同じなのが「萌え」だと定義したんです。

初めて人前でも「アニメの中の主人公への熱い想い」を語れるようになったのが「萌え文化」。しかし桃井は、もはや「萌えイズデッド」とも言っています。

吉田氏は最近、桃井はるこという極めてユニークなアーティストにぞっこん。ウィキペディアによれば、1977年12月14日生まれ、日本の女性シンガーソングライター、作詞家、作曲家、声優、ラジオパーソナリティ、と多才。そこから培われた彼女のユニークさは、ニコ動などの番組の中で叫んだ様々な言動にあるようです。

(吉田)「萌えイズデッド」すなわち、萌えが成熟してきてしまっているということを彼女は言ってるわけです。ちなみにボーカロイドミュージックもフジテレビで特番をするような時代に入った(笑)ということで、「初音ミクイズデッド」なのでは・・・。(吉田氏自身が出演した素晴らしい番組でした・・・)

文化が成熟して(こなれて)きてしまうと文化のパワーが弱まってきてしまうという現象です。なぜそういうことが起こるのかと考えたとき、さらに桃井はこうも言ってます、「レコード会社でどれをリリースするかの検閲(会議)が音楽をダメにしている」とも言っています。彼女はメジャーレーベルが売れなくなってきた原因をまさにこの「検閲」を指摘したのです。

そんなメジャーレーベルの「検閲」の反動で広まったのが、まさしくボカロミュージック。製作過程で誰にも文句を言われずニコ動やyoutubeなどでの公開までこぎつけられる。敏感なリスナーはこれに反応するわけです。

最近の注目は「UNISON SQUARE GARDEN(ユニゾン・スクエア・ガーデン)」、「リニアブルーを聴きながら」など歌詞がとても良いです。また「家の裏でマンボウが死んでるP」というボカロミュージシャンの「消火器がダンディーで気が利く場合」。これはまさに現代のさだまさしだと思いました。こういった活動が出来るアーティストはもはやJ-POPには見かけません。その理由は、レコード会社の検閲が「何でもわかりやすくしよう」という力が働いてしまっているからだと思うのです。

そう言われると、70年代にフォークソングやニューミュージックが日本の文化を牽引していた時代と今と、起きている現象はあまり変わらないのかもしれません。ただ、いわゆる今の時代のフォークやニューミュージックは「体制」の文化であり、そこには「検閲」が介入し、よりわかりやすいものとして「こなれた」音楽を作り上げてしまう。

それは「音楽文化が成熟した」一方、音楽に文化を牽引できるほどのパワーがなくなってきたと言うわけです。

■よくわからないものの正体・・・

そこに加畑氏が今回のテーマの真髄とも言える言葉が発せられました。

(加畑)売るためには誰もが理解しやすくすべきと社会が決めて「なんだかよくわからないもの」をどんどん排除してきてしまった。「よくわからないもの」が世の中に少なくなると、また別の現象が起き始めるんです。

吉田氏がさらにそんな「よくわからないもの」の例としてアニメ『惡の華』(あくのはな)をあげる・・・。

(吉田)『惡の華』(あくのはな)という押見修造原作(別冊少年マガジン)のアニメがアニマックスや地上波局で始まりました。これは「絶望」をテーマに、思春期特有の精神的彷徨と自我の行方を描いた青春漫画。作品名はボードレールの同名詩集によるもの。

監督は数々の人気作品を手がける長濱博史氏。そのままのアニメ化では原作の本質と違うと思った監督の発想で、日本のテレビアニメでは史上初の全編ロトスコープを用いた作品となった。これが賛否両論となりました。ロトスコープとは実写映像をデジタル技術でトレースするアニメ手法のひとつ。

メジャーなメディアから離れれば、まだまだ「よくわからないもの」は殺されていません。『惡の華』はアニマックスや東京MXテレビなどで放映中のユニークなアニメ。

監督の長濱博史氏はあえて『惡の華』を「わかりにくく」したのだと思うんです。ちなみに私は、第4話で役柄をもらってアフレコに参加したんです。その現場の緊張感とパワーがすごかった。出演者とスタッフが一丸となって本気で作ってました。ここまで本気で一部の人にはわかりにくいものを作ることが「素晴らしい」と思うし、これがいまの日本のモノづくりに最も必要なことなんじゃないかと感じたんです。

ほかに「直球表題ロボットアニメ」(2013年2月5日 - 4月23日:東京MXテレビほか)という、全編を3DCGソフトウェア『MikuMikuDance(MMD)』を使って製作された実験アニメも注目されました。これも相当シュールでした。

どちらからも感じるのは、あえて一見「わかりにくい」「意図がよくわからない」、けど「その意図がわかってくるとのめり込んでいくだけの奥深さを秘めている」。これって言うなれば「子供心の発展形」ではないでしょうか。子供は大人にわかってもらおうとしない。何で僕らのことをわかってくれないのかとすら言いますよね。

大人にわかってもらおうと、わかりやすく子供が説明を始めたら気味悪いでしょうね。つまり「◎◎イズデッド」にしないためには、

「子供心を忘れず、そこにプロの技術を惜しまなく注ぐ」

ということだと思うのです。

■「ものづき力」が地球を救う・・・

ここで、加畑氏から「よくわからないもの」が世の中に少なくなると起きる別の現象の話題。

(加畑)言いたいことがなくなると人と話(コミュニケーション)をしなくなりませんか?

(吉田)つまり、言いたいことがあるということは「何らかの欲求」があるということ。あれがしたいこれがしたい、という欲求があるから、人とのコミュニケーションが生まれます。

これまでの話のように、「よくわからないもの」が世の中からなくなって、文化的な成熟期を迎えると、ものごとに対する欲求が弱まり、コミュニケーションが途絶えてしまう。つまり「よくわからないもの」がなくなること=社会のパワーが弱まる、ということなのではないでしょうか。

今回のトークセッションは、10回目にふさわしく相当濃い内容になったのではないかと思います。

人間はコミュニケーションの手段の一つとしてSEXがあると言われています。実は交配がコミュニケーション手段の一つになっているのは人類以外の生物ではあり得ないそうなんです。何故ならコミュニケーションがヘタだと子孫が絶えてしまうなんていう生物はすでに絶滅しているというわけです。

人間にとって、コミュニケーションを絶えないようにするには、欲求が絶えないこと。そして欲求が常に起きる社会であるためには、文化を成熟させてしまってはならない。言い換えれば、不自由さを適度に感じる社会を保つ、これって即ち「子供心を忘れない」ことにほかなりません。

それはまるで村上春樹の最新作の主人公「多崎(たざき)つくる」が象徴している世界。彼が子供心を忘れられないがゆえに、悩み、コミュニケーションを続け、その結果、過去を修復し、生きる力を取り戻していく・・・。

社会に迎合し、摩擦を起こさぬように「空気を読む」おとなの社会と、子供心に感じた欲求や不満を誰とでも言い合える社会。人類の発展や文化のパワーアップには、「なんだか良くわからないもの」に本気で取り組む「子供心」。あんなことに本気で取り組んでるなんて、あいつは相当な「ものづき」としか言いようがない・・・。

音楽や文化の発展にはどうやら「ものづくり力」だけではなく、『ものづき力』が大事であるということのようです。


(参考資料)

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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