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噂の国産タブレット「enchantMOON」に見るものづくり哲学2.0

2013/02/10 09:30
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土屋夏彦

radikoが有料で全国が聴けるようになり、いよいよ聴き逃しサービス「タイムフリー」も始まるかと思いきや、2016年になってしまいましたが、AMが在京3局も含め順次ワイドFM化を始め、TOKYOFMグループのi-dioもいよいよこの3月から始まるようで、今年の地殻変動はかなり大きいかも!
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■「enchantMOON」を知ってますか?

1月8日よりアメリカ・ラスベガスで開催された「International CES」でもかなりの注目だったと噂の、UEI(株式会社ユビキタスエンターテインメント)がこの春発売する、噂の国産タブレット「enchantMOON」を見たいと、湯島のUEI本社に伺った。

ご存知の通り、UEIの清水亮社長は、天才プログラマーの異名を持ち(情報処理推進機構より天才プログラマーの称号をもらっている)、数々の伝説を残す業界の有名人。私も仕事で何度かお世話になったことがあるが、物の見方、思考・発想が群を抜いている。

iモード創世の時代に、大ヒットを記録し、iモードを携帯サービスのデファクトスタンダードにするきっかけを作ったともいえる、iモード初の釣りゲーム「釣りバカ気分」を一晩で作り上げたという逸話は、コミックにもなっている。(実際は右腕のプログラマーを一晩中突付いていただけだそうです笑)

「enchantMOON」は、2月25日から28日にスペイン・バルセロナのフィラ・グランヴィア(Fira de Barcelona Gran Via)会場を中心に開催される世界最大級の携帯通信見本市「Mobile World Congress 2013」でも、出展が決まっている。

「enchantMOON」の詳細は、いくつか取材記事があがってるので、そちらを参照いただくとして、今回は、なぜ天才プログラマー清水亮が、今この時代に、「enchantMOON」という名前の「風変わりなタブレット」を制作し、世に送り出さねばならなかったのかをまとめたいと思う。


清水亮氏

■ものづくり日本を救うには・・・

まず彼が「enchantMOON」制作に至った動機は何だったのか。それは「ものづくり日本」への危機感からだという。

清水氏によれば、ものづくりには「右回り・左回りの法則」というものがあるのだそうだ。ものを作る発想や思想(の普及)は「東から西」(右回り)に伝播していくのだという。例えば「計算尺」は中国で生まれ、これがシルクロードを伝わってヨーロッパ、そしてアメリカのシリコンバレーでコンピュータという形に変わった。

それに対して作られたもの(の普及)は「西から東」(左回り)に回るのだという。日本で生まれた「SONY」は米国に渡ったことで、広くヨーロッパ、アジアにまで広がった。今では、韓国「SAMSUNG サムソン」や中国「Huawei ファーウェイ」が左に回り始めている。

今や思想はシリコンバレーから右回り、物資は中国から左回りしており、日本は完全に置いてきぼりを食っている。再び「ものづくり日本」を主張できるようになるためには、「発想・思想」から生み出さなければだめ。

次々と発売されるタブレットなどのモバイル機器。しかしその機械に託された発想や思想はシリコンバレーで考案されたものを引き継いでいるに過ぎない。だからこれまでにはない発想から、清水式タブレットを考え出すことにした。これが「enchantMOON」制作に至った動機なのだという。

<実際の「enchantMOON」を触って・・・・>


enchantMOON(試作機)片手で持ちやすいようにハンドルが付いてる


例えば地図画面を出し、地図の一部を自由な形で切り取る(ピンぼけですみません)


と、それがそのまま切り取られた「シール」となり、ページの好きなところへ貼り付けられるようになる。


切り取った画像(シール)には、タグとしてその情報のURLが埋め込まれている。タップしてリンク先に飛ばすことも出来る。こういったことが文房具を扱うようにできてしまう。


「一見なんのUIもない「紙」に見えるものが、相互に繋がった情報の「束」になる、というのが、「enchantMOON」の思想」なのだそうだ。

■全財産をつぎ込む覚悟でいざ!・・・

かくして、清水氏は「enchantMOON」プロジェクトにこれまで彼が稼いだ全財産を投げ打つ覚悟で臨んだ。(実際は外部支援団体からの資金提供もあったからこそ実現したとご本人からのフォローがありました。)

ではその「enchantMOON」タブレットのユニークな発想とは? 一言で言えば「使い道を考えたくなるタブレットを作ろう」と考えたのだそうだ。

今世の中にあるタブレットを想像してみよう。こう使ってください、こういうときに便利です、とシリコンバレーがユーザーに使い道を押し付けた製品に仕上がっている。彼は、自身のこれまでの経験の中で、使い方を考えたくなる製品に何があったか思い返したという。

すぐに思いついたのは、マッキントッシュの初期に搭載されていた「ハイパーカード(HyperCard)」。これは複数の文書(テキスト)を関連付けて相互リンクを貼ったいわゆる「ハイパーテキスト」を具現化した最初のソフトとして君臨した。住所録に使ったり、ゲームを作ったり・・・。何に使うかは使う人のアイデア次第。そこで発想したのが、タブレット自体をハイパーカードにしてみたらどうかということ。

例えば「紙の束」を渡されたら、ある人はメモ帳にするけど、ある人は折り紙にしたり、本のしおりにしたり。また、メモした紙を関連別に分けて壁に貼り付けたりする人もいる。何に使うかは使う人のアイデア次第。タブレットをそんな紙の束と同じアーキテクチャ(構造)にすれば、まさに「使い道を考えたくなるタブレット」になると考えられないだろうか。

そのとき、同席したトーンコネクト社の加畑健志氏が相槌を打った。「それって実身/仮身モデルってことですね」

「実身/仮身モデル」とは、国産OSで有名な「TRON」の生みの親・坂村健氏の考え出したコンピュータシステムの代表的な設計思想。「BTRON」というデスクトップ向けOSに採用されている。


実身/仮身モデルを説明する清水氏

いわゆるフォルダアイコン(仮身)をクリックすると中にあるファイル(実身)が現れる。これまでは「フォルダ」と「ファイル」はシステム上では別のデータ構造をしていたが、坂村氏は同じものにしてしまった。ファイルもある意味(仮身)であり、ファイルの中にデータ(テキスト)という(実身)が入っているわけで、それはどこまで行っても実身/仮身の関係は続くからだ。

加畑氏が言った意味は、「ハイパーカード」も「BTRON」も「実身/仮身モデル」という思想に基づいて設計されているということ。清水氏はまさに、この発想に着目し、タブレットを動かすシステムそのものをハイパーカードにしてしまおうと考えた。(「enchantMOON」では、そのコア部分を「MOON Phase」と呼んでいる)

清水氏曰く

パソコンという使い方次第の箱があったとして、大多数はマウスを使い、キーボードを駆使して、メモリーに載った既成のソフトを起動させるところでおしまい。創造性を伴う行為はせいぜいメールを読み書きするくらい。わずかな人がプログラミングの道を目指し、スクリプトやプログラミング言語を学んで、様々な使い道を創造できるようになる。ここまで使いこなせるようになるためには大きな谷を越えなければならないわけです。その谷を、例えばAppleはハイパーカードやオートメーター(Mac OS X v10.4から搭載された自動処理プログラム作成ソフト)で埋めてくれていた。僕も、どうせ作るならこの谷を埋められるタブレットにしたいと考えました。


使いこなす谷を埋める何かが必要だと説明する清水氏

レゴとプラモデルを比べてみて下さい。一瞬レゴのほうが作れるものが広範囲に及ぶため、創造性に富んでいるように思われますが、実はレゴで作ったものは、どこまで行ってもレゴでしかない。しかしプラモデルは、形こそ戦車とか戦闘機とか決まってしまっているが、色を塗ったり、プラスチックを削ったり組み合わせたりすれば、想像を絶する芸術品にまで極めることが可能。「enchantMOON」はレゴ的な自由度よりもプラモデルに近い自由度で発想しました。

清水氏の話を聞いていてさらにイメージが湧いてきた。これまでのタブレットは、情報を見るための「虫眼鏡」みたいなもの、使い道が限定された商品。それに対して「enchantMOON」は情報を拡大して見るだけでなく、情報と情報をハイパーリンクさせたり、お気に入りの壁紙を貼ったりできる「ハイパープラモデル」なのだと・・・。

■使い方を見つけるタブレット

最後にこの製品名について聞いた。

「enchant」は清水ブランド(彼が提供中のゲームアプリ制作支援用のjavascriptモジュールの名称でもある)の象徴。英語の意味として「魔法をかける」「人を喜ばせる」「人の心を奪う」「魅惑の」などの意味合いもあり納得できるのだが、なぜ「月」なのか。

彼はこれまでも、彼が主催しているプログラミングコンテスト「9leap」の第1回目(2011年7月)のテーマは「宇宙」で、豪華賞品としてJAXA職員による解説付き筑波宇宙センター見学ツアーにご招待など、宇宙へのあこがれやこだわりがあったようだが・・・。


使い方を見つけるタブレット

20世紀最大の挑戦が「月への到達」だったこと。科学者としての「月」、文学者としての「月」、などさまな場面で人々を捕えて離さないこと。つまり「月」は、人類の究極のロマンの象徴だと思うんです。そして今回のタブレットで言えば、月は「太陽」(実身)が反射した(仮身)、すなわちハイパーリンクの象徴でもあると思い、名付けることにしました。

清水氏自身は「月」に行きたいとは思わないそうだ。何故なら、訓練を一杯受けなきゃならないから大変だからだそう・・・。でもロケットを飛ばすことには興味がある。とにかくやんちゃな天才なのだ。

発売は今春を予定。タブレットで「書く」から「つなぐ」へ。クリエイターではなかった人も「enchantMOON」を使えばクリエイターになれる!!。

肝心の価格は、なんとか10万円以下で出したいと言っておられた。販売方法もまだ未定。予約販売か、五反田の新型イベントスペース「genron cafe」での店頭販売なども検討中とのこと。詳しくは「enchantMOON」のホームページをご確認ください。今なら鬼才樋口真嗣氏制作指揮による「enchantMOON」の世界観を映像にしたというプロモーションビデオが閲覧できる。完結作となる第4話がいよいよ公開か!?


(参考資料)

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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