■ネットの近未来をトークセッションする・・・
今年の6月より、月1回のペースで最近気になるネットの近未来をトークセッションする会「トンコネJAM」も9月3日に第3回目を迎え、今回も熱い想いがぶつかった。その模様をダイジェストでお伝えする。
メンバーは、音のQRコード「トーンコネクト(Tone Connect)」の考案者であり、ニッポン放送パーソナリティの吉田尚記氏、そして株式会社トーンコネクトCEOの加畑健志氏と私。
吉田尚記氏(右)、加畑健志氏(左)
今回のテーマは「放送と通信のベストマッチングは何か」。常々感じている、放送と通信の融合についての疑問、それは、ツイッターやフェイスブックなどソーシャルメディアが、テレビやラジオなど既存メディアと本当にうまく合体できているのかということ。
ラジオでは、これまで、ハガキや電話でリスナーの声を寄せてもらっていたのが、ここ数年はメールからツイッターに取って代わっており、それがもはや、リスナーとのコミュニケーション手段のデフォルト。
テレビでもNHKの毎日深夜0時に生放送している「ニュースWEB24」などを筆頭に、ツイッターで視聴者の声を番組内や画面で紹介することがあたりまえになってきている。
しかし「放送と通信の地殻変動」が専門の私にとって、どうしても、現状の組み合わせ、現状の使い方がベストだとは思えないでいる。
そこで、今回、放送の第一線で活躍し、ツイッター使いとしても第一人者である吉田氏らに真正面から聞いてみることにした。
■ツイッターはその脈略のなさが面白い、それを既存メディアでどう生かすのか?
私がどうしても今のツイッターなどの放送での使い方に納得がいかない理由は簡単だ。メールと何が違うの?という疑問。つまり、放送で何らかの意見を求める場面となり、ツイッターでハッシュタグを付けて意見をつぶやいてください、というあれだ。
メールでは、他人の意見は放送上でしか確認できないので、その点については、ツイッターは、放送で取り上げられるまでの過程を「見える化」していると言える。
しかしツイッターの楽しい点は、人それぞれの雑多な意見や様子が羅列されていて、それを自分が自由にピックアップし、自由にコミュニケーションを交わせるところにある。
しかし今の放送での利用の仕方では、その良さは全く効果を発揮せず、単に意見集計マシンとしてしか機能されていないと感じるのだ。そんなところから吉田氏に意見を求めた。
最初はお題などはなかったんです。ラジオの生放送が始まって、雑談してる中からリスナーも勝手にいろんな話題をつぶやいてくれて、そんなところから出てくる話題が一番おもしろいと思っていました。
例えば、食べられるラー油がどこにも売ってなくなったときあったじゃないですか。そのときそんな話題をラジオでしゃべったら、銀座の◎◎店で売ってると言う情報をつぶやいたリスナーがいたんです。そこで、すぐにスタッフがそのお店に直行して、生放送中に食べるラー油を発見することができたんです。
別にリスナーがみんなそこに行くわけでもないけど、妙にみんなの気持ちがときめくんですよね。たぶん、みんなの力を合わせて何かを成し遂げたということなんじゃないのかな・・・。
さらに吉田氏は続ける。
ツイッターをラジオで使うときは、相互作用が重要だと思っています。パーソナリティからの一方的なものじゃなくて、リスナーからも発信されてそれが、またほかのリスナーにも飛び火して、そこからまたパーソナリティーに返ってくるとかね・・・。
発信する側と受け取る側がお互いに反応しあう関係が実現できて初めてツイッターの良さが放送で実現できたと言えるんじゃないかな。
ニコニコ動画で配信するときも、僕は出来る限りタイムラインを読むようにしています。なのでツイッターやニコ動での生放送だったら、今から24時間続けてみろと言われても、全然できると思います。話すネタはリスナー(視聴者)が作ってくれるもんだと思うんです。
■リスナーが番組をどんどん変えていく・・・
しかし実際にやることになったら、途中で話が途切れてしまうかもしれないと心配になって、なにか準備もしてしまうかもしれないとも言う。これがテレビだったら、カメラさんの準備など、段取りや動きを決めておくため、確実に準備が必要になる。それが、ツイッターに身を任せられない結果を巻き起こしてしまう・・・。そんな物理的な理由も相まっているのかもしれない。
吉田氏と加畑氏は言う。
でも本来は、ツイッターなどと連動するならば、リスナーがどんどん放送を変えていけるようにするのが重要だと思います。
しかし、まだまだリスナーはそこまでできるほど成熟してないとも思うんです。例えばリスナー自体がなにかお題を出してくれないかと身構えている場合もあるんです。もしくはパーソナリティが好きそうなことを考えるリスナーも多いんです。
せっかく書くなら、パーソナリティが取り上げてくれるかどうかが一番で、自分が一番いいたいということは2番目になってしまうのかもしれません。
少数派の意見を取り上げるのか、多数の意見を取り上げるのか・・・。放送側の顔色を伺いながらリスナーも関わっているのかもしれませんね。
なるほど・・。本来つぶやこうと思う行為とリツイートされるかどうかは関係ないが、やはりせっかくつぶやくなら誰かに反応してもらいたいと意識してしまうのと同じなのかもしれない。
でもそれが意外にやっかいなんです。番組タイムラインに集まるユーザーが反応しやすいものをお互いに意識して書くようになるってことは、すなわち内輪ネタにどんどんハマっていくってことなんです。その結果、外のリスナーはもう入れなくなっていく。ラジオリスナーの常連さんだけの番組になってしまうわけです。
■ネットは「拡散:spread」、既存メディアは「集約:condence」
吉田尚記氏、加畑健志氏
これまでのことをまとめると、ネットはそういった相互作用の結果、ある話題を「拡散(spread)」させる作用に効果を発揮していることがわかる。
それに対して、いわゆるテレビやラジオなど既存メディアは、パーソナリティの目線で情報を「集約(凝縮)(condence)」することが求められている。
つまりお題を与えてつぶやいてもらうということは、本来どんどん「拡散」していくことが面白いはずのネットであえて集約させてしまうという全く面白くない行為だと言える。だからなんか面白くない気がしていたのだ。
吉田氏は語る。
ツイッターに書かれたリスナーの情報は、本来「拡散」しているんです。それを我々パーソナリティが紹介するとき、「集約」という行為を起こすんです。その際にリスナーは自分の出した情報がピックアップされるかどうかが「スリリング」なわけです。
これがそもそものラジオとツイッターの理想的な関係じゃないでしょうか。
遂に出ました!放送と通信のベストマッチングのひとつの形。こうして考えてみると、お題を出してつぶやいてもらうことが、予定調和になる可能性が高まるわけで、即ち内輪受けの番組になりやすいことがわかる。
あくまで、リスナーは勝手に今日あったことや、気になっていることなどを雑多につぶやき、パーソナリティは、気まぐれにそこからチョイスすることで、ワクワク感が高まることになる。
■ラジオは世の中を凝縮してくれる「コンデンサー」
ラジオパーソナリティはつぶやきのキュレーター(集める人)であり、タダ集めるだけじゃなくて、ぎゅっと凝縮して、ラジオという機械からなにかのコンテキスト(新たな脈略)がアウトプットされてリスナーに伝わっていく・・・。
そう、ラジオそのものは「コンデンサー(凝縮装置)」と言えるんじゃないか。
「キュレーションの時代」とか言われているが、放送と通信の融合にはギュギュッと凝縮して溜め込んで発信する「コンデンサー」と言うキーワードが必要なのではないでしょうか。
ラジオでアイドルが家に押しかける企画があったんです。たまたま行ったとき、リスナーが飲み過ぎて寝てしまっていた。電話に出なかったため、アイドルが訪問できなかった。アイドルはそのリスナーの家の前で踊って終わってしまった。かなりダメージがあった。
それをリスナーはどう反応したかというと、リスナーはそのリスナーを批判するかとおもいきや、意外にも、擁護する発言が多かったんです。
つまりネットを使いこなせていない人が多い中、ラジオリスナーは、かなりネットリテラシーにおいて成熟しているのではないか思うんです。
ラジオはもっとツイッターで拡散された世界をやみくもに使っても、リスナーはどんどん着いてきてくれる、だからもっと実験的であるべきだと思うんです。
まさに同感である。その実験的なマインドを持って、世の中のコンデンサーとなって欲しいものだ。
(参考資料)
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トーンコネクト(ホームページ)
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トーンコネクト(アンドロイド版)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.adlibjapan.android.ubiwa.dtmf
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トーンコネクト(iPhone版)
「トーンコネクト」生みの親プロフィール
▲代表取締役CEO 加畑健志
大学では人工知能の研究に携わる。アイザック(現NTTデータセキスイシステムズ)入社後、 UNIXをベースとしたシステム開発に従事。アスキーNT(現CSKソリューションズ)に転職後、プロ ダクトマネージャーとして、各種のインターネット関連製品の開発・販売を行う。アクセスメディア インターナショナル入社後、ベンチャーキャピタルのコンサルティングなどをする傍ら、各種媒体 に多数執筆。
2002年にアドリブを設立後、Webを中心としたシステム開発を行っている。 2012年に株式会社トーンコネクトを設立。また毎週月曜日に東京渋谷にて「Bar android」を運営 している。
▲代表取締役CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー?) 吉田尚記
1999年 株式会社ニッポン放送入社 編成局アナウンサー室配属。以来、レポーター、パーソナリティとして数々のラジオ 番組に出演。
2011年 講談社より『ツイッターってラジオだ!』出版 アニメ系、IT系に長けたアナウンサーとしてニッポン放送以外の番組にも多数出演。
2012年 ニッポン放送『ミュ~コミ+プラス』パーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞受賞。
5月4日現在、Twitterフォロワー数 45,108人。