■ラジオDJらと頭脳嵐(brainstorming)
「第49回ギャラクシー賞」の「DJパーソナリティ賞」を受賞(6月4日)した翌日に、その興奮冷めやらぬニッポン放送の人気パーソナリティ・吉田尚記(よっぴー)氏に取材に伺ってからはや1ヶ月。あの日は彼が会社まで設立して手がけている、音のQRコードとも呼ばれる「トーンコネクト(Tone Connect)」について聞き、記事(リンク)も書いたのだが、実は彼の引き出しからは、「トーンコネクト」以外の面白い話題も出ること出ること。特に私が当ブログでテーマとする「放送と通信の地殻変動」に関係する話題も盛りだくさん。
そこで吉田氏が気を利かせてくれて、改めて場の仕切り直しを提案してくれた。題して「トンコネJAM」。集まったときの旬な話題を徹底的に議論してみよう!ということで今回はその記念すべき第1回目(7月3日)。今回は株式会社トーンコネクト共同設立者でCEOの加畑健志氏にも加わっていただき、メディアと通信の狭間で活動される彼らならではの「ものの見方」を紙面でご紹介していこうと思う。
株式会社トーンコネクト代表取締役CEO・加畑健志氏(左)とCMO・吉田尚記氏
■豆腐業界と同レベルのレコード業界・・・
今回彼らに聞いたテーマは「違法ダウンロードに罰金法案可決」の話題。ネットでも賛否両論が叫ばれているが、彼らだったらどう見るのか・・・。そんな中、加畑氏はこんな話題から口火を切った。
その昔、レコード業界は1兆円を越す売り上げ規模を誇っていたわけですが、約10年前に、レコード業界と豆腐業界が売上額約6000億円で同規模となり、今では、豆腐は変わらず、レコードは3000億まで落ち込んでいるという話です。音楽ダウンロード販売もそこそこ活発化しても、豆腐に負けている。未来が感じられない業界にレコード業界がなってしまっている・・・。
ちなみに豆腐は年間1世帯当たりの消費量が約1万円(1週間で約200円)これがここ数十年全く変わっていないという。すごいとも言えるし、人口が減る限り、将来性は見込めない。音楽業界はその豆腐の消費も見込めていないわけで・・・。
また、韓国音楽業界も数年前までは、国から助成金までもらって世界に向けて配信するなど好調だったのですが、その結果パッケージの強い日本マーケットのみが残りました。日本ではK-POPとして話題はまだありますが、世界を夢見て投資してきた韓国の国や制作会社・プロダクションとしては予想外の失態だったようです。もはや国からの支援金も打ち止めとなり、現在韓国では映像、音楽プロダクションが、ばたばた倒れ始めているんです。これひとつとっても、日本の音楽業界が稀有なものだということがわかるのではないでしょうか。
■危機的な業界に追い討ちをかける法案・・
どこに「違法ダウンロード」の話題が関係あるのかと聞くと加畑氏はこう答えた・・・
つまり、そんな終わりそうな業界のために、さらに終わらせてしまう法案を可決させてしまったというのが、今回の違法ダウンロード法案の私の見解です。
昔は自宅に優れた音響装置を設備して、自分のお気に入りの楽曲をいかに良い音で鳴らすかというのが最終目的でした。だから音響装置の一部としてレコードに投資していたと考えられます。その値段がそのまま今も残ってしまった。CD限定のバージョンを加えたり、握手券などのおまけをつけたりして、だましだまししてきたけど、もはやCDにお金を払うことは限界に来ています。
音楽業界を存続させるためには、聴くための音楽はすべて開放し、その代わりに、グッズ販売やライブコンサートなどの収益性をもっと上げる仕組みを作ることなのではないでしょうか。にもかかわらず「違法ダウンロードに罰則」というのは、それとは真逆の思考。
韓国は、元々自国ではCDビジネスが確立されなかったため、音楽そのもので稼ぐというより、コンサートやファンミーティング、グッズ販売が盛んでした。そんなところに日本でパッケージがバカ売れすると聞きつけて便乗しようとしたんですが、いくつかのアーティストは売れましたが、全体的には思ったほどの成果も出せず撤退の方向に向かっている。
何が言いたいかというと、もはや音楽そのものは、目的達成のための通過点にしか過ぎないわけです。コンサートに行くためのプロモーションツールとして楽曲があると言ってもいいでしょう。にもかかわらず、コンサートに行きたいアーティストを見つけるためにお金を払いなさい、もしお金を払わないで「違法ダウンロード」したら罰則がありますよと言われても、世の中の音楽ファンの心理構造にまったくそぐわないわけです。
だから、「違法ダウンロード」法案を守る方向に向かわせるのであれば、もうこれ以上魅力的な音楽が登場させることなく音楽業界を終焉させるシナリオにしか見えないわけです。
なるほど、加畑氏も吉田氏も口をそろえて言うのは「音楽を聴くことは限りなく無料に向かっている」ということ。ワクワクする楽曲やアーティストが出てくる限り、我れ先にその楽曲を無料で手に入れようとすることはやめさせようにもやめさせられない。これは、前回書いた無料ストリーミングラジオの「Pandra Radio」や「Spotify」などにもつながる話だ。
■音楽聴取を無料にするということ・・・
加畑氏は話を続ける・・・
香港の10年前、海外の違法コピーCDはいっぱい売られていました。しかし自国香港のスター歌手のCDは全く売られていなかった。なぜなら、香港スターの音楽は、誰でも自由に無料で聞けたから。それでも香港スター歌手は次々と生まれ、世界に旅立っていきました。無料にしても香港のアーティストは育ち、音楽ビジネスも成長した。むしろ有料である限り違法コピーが横行し、音楽のクオリティーも下がり、最後はなくなってしまうかも知れないんです。
ではミュージシャンは何で生活するのかということになるが、彼らの本来の価値は、音楽パッケージの売上ではなく、ライブコンサートの入場料だったり、ファンクラブの会費だったり、グッズの売上だったり、もっと総合的な価値で考えるべきだという。音楽はあくまでそれらのプロモーションツールなのだ。
加畑氏から質問が出された。
ちなみにみなさんは、Youtubeで1000万回見られるアーティストと、CD10万枚売れるアーティストのとどっちが才能あると思います?また、価値があると思います?
才能があるかどうか、アーティストの価値があるかどうかという観点からすると、正直言って微妙。CDが売れたからと言って才能があるわけではない。Youtubeで1000万回見られたほうが人気が集中したという意味で価値があるかもしれないが、それだけでは一銭にもなっていない。さていかがでしょう・・・。
みなさんはどう考えるだろうか。私は「どちらも才能も価値もあるが、Youtube1000万回見られて、CDも含めてアーチストグッズがいっぱい売れるのが一番価値がある」と答えた。すると加畑氏や吉田氏から拍手・・・。
だから価値あるアーティストは今や自ら、売るもののアイデアやファンを喜ばして「お布施」がいただける方法をいろいろ考えるわけです。これが一番楽しいわけですね。いまの日本のヒットアーティストで、CD売り上げよりも「サイリウム(光る棒)」の売上のほうが多い人は大勢いると思いますよ。
ちなみにスティービー・ワンダーに「音楽家ですか」と尋ねると「いいえ、旅人です」と答えたそうだ。それはさておき、もはやミュージシャンたりとも、ビジネスマンやマーケターのスキルが必要ということ。しかしそう考えてみれば、音楽を生業とする以上、プロと呼ばれる以上、ビジネススキルが必要なのは、どの職業でもあたりまえではないか。これまでの日本のミュージシャンが特別だっただけなのかもしれない。
■ソーシャルは無料、プライベートは有料
吉田氏によれば、ハイパークリエイターの高城剛氏が以前言っていた言葉に「ネットがはやると人と会うことがダイヤモンドになる」というのがあるそうだ。すなわち、普段は人と合うことが極端に少なくなるため、人と会うことがとても貴重な事(ダイヤモンド)になるという意味である。
ネットはソーシャルコミュニケーション(ネット上での交流)の価値を限りなくゼロにしていくもの。すなわち、音楽がソーシャルになればなるほど価値が薄れていく。
それに対して、プライベートコミュニケーション(実際に会う行為など)の価値はぐんぐん上がっていく。つまりライブやファンミーティングの価値は限りなくダイヤモンド化していくというわけだ。
今回の議論の中で、加畑氏や吉田氏に、何度となく「本当に音楽を聴くことに有償の価値は見出せないの?」と質問したが、最後までその答えは「NO」のままだった。メディア業界を背負って立つ彼らが言うのだから、もはや視聴(リスニング)という意味では「音楽 For FREE」になるのは時間の問題なのかもしれない。
ラジオで新曲が流れた際に、それをエアチェックしてカセットで何度も何度も聞き返したものだ。もちろんそれは無料だった。今でも同様のことはできるにはできるが、デジタルデータになってしまったことが裏目に出たのか、どうも好意的でない。
昔のようにエアチェックするためのダブルラジカセが各メーカーからいくつも販売されていたことに比べれば、今エアチェックしてmp3データ等で保存できるのは、Sonyの「ポータブルラジオレコーダーICZ-R50」くらいしかない。
またレンタルCDのリッピングは無法地帯だが、はっきりって面倒だ。いっそのことCDでなくデータで販売すればいいのに、絶対そんなことはしない。すなわちデジタルで保存することを推進していない社会。わざと不便にしている世界。だから違法ダウンロードがなくならない。音楽業界の「儲けのしくみ」を維持させたいがためだけの「必死の攻防戦」と言わざるをえない。
そろそろ音楽業界も観念して、新しいビジネスモデルを編み出すべきなのではないだろうか・・・。
加畑さん、吉田さん、わくわくドキドキの「トンコネJAM」どうもありがとうございました。次回「第2回トンコネJAM」は8月初旬を予定しています。乞うご期待。
(参考資料)
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トーンコネクト(ホームページ)
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トーンコネクト(アンドロイド版)
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.adlibjapan.android.ubiwa.dtmf
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トーンコネクト(iPhone版)
「トーンコネクト」生みの親プロフィール
▲代表取締役CEO 加畑健志
大学では人工知能の研究に携わる。アイザック(現NTTデータセキスイシステムズ)入社後、 UNIXをベースとしたシステム開発に従事。アスキーNT(現CSKソリューションズ)に転職後、プロ ダクトマネージャーとして、各種のインターネット関連製品の開発・販売を行う。アクセスメディア インターナショナル入社後、ベンチャーキャピタルのコンサルティングなどをする傍ら、各種媒体 に多数執筆。
2002年にアドリブを設立後、Webを中心としたシステム開発を行っている。 2012年に株式会社トーンコネクトを設立。また毎週月曜日に東京渋谷にて「Bar android」を運営 している。
▲代表取締役CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー?) 吉田尚記
1999年 株式会社ニッポン放送入社 編成局アナウンサー室配属。以来、レポーター、パーソナリティとして数々のラジオ 番組に出演。
2011年 講談社より『ツイッターってラジオだ!』出版 アニメ系、IT系に長けたアナウンサーとしてニッポン放送以外の番組にも多数出演。
2012年 ニッポン放送『ミュ~コミ+プラス』パーソナリティとして、第49回ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞受賞。
5月4日現在、Twitterフォロワー数 45,108人。