■LTE対応タブレットが発売
9月8日、国内初のLTE対応タブレット端末がドコモより発表のニュース。LTEと言ったり「Xi(クロッシィ)」と言ったり、Super3Gとも3.9Gとも呼ぶらしい。その上昨年12月に4Gと呼称することを国際電気通信連合が認可した。一般人にはわけがわからないが、LTEとは「Long Term Evolution(長期的進化)」、下り100Mbps以上/上り50Mbps以上の高速通信の実現を目指した高速データ通信仕様。ドコモやソフトバンクが採用しているのだが、ドコモのサービスブランド名が「Xi(クロッシィ)」。とにかく今の3Gの次を行く通信仕様を搭載したタブレットがドコモからこの10月には発売されるというのだ。
放送と通信の地殻変動をテーマにする私にとって、今回の発表で、何といっても興味をそそったのは、動画配信サイト「HuLu(フールー)」視聴を売りにしていること。「HuLu」と言えば、「Netflix(ネットフリックス)」と共に、米国地上波放送を過去のものに追いやった次世代ネットテレビ(動画配信サービス)の代名詞。日本でもいよいよ、地上波放送を脅かす本命の輩が登場するのか・・。
などと盛り上げるだけ盛り上げてしまったが、今回紹介したいのは、その影に少々隠れぎみではあるが、良くぞドコモさん標準搭載してくれましたと言わんばかりの、地味ではあるが、シニアの好奇心を直撃してくれるアプリ「今昔散歩」である。
■次世代モバイル端末に搭載された「今昔散歩」とは・・・
今回も、たまたま機会があって「今昔散歩」を開発された株式会社ビーマップにお伺いすることができた。ビーマップのある白山という場所は、何かと歴史的な建造物や神社仏閣が多い場所。実際、取材に伺う際にも、地図片手にウォーキングをしているシニアのカップルを何組か見かけたほどだ。
「今昔散歩」とは名前の通り、今と昔の地図を見比べながら街を散歩するための地図アプリだ。最近の古地図ブームやウォーキングブームも相まって、様々な業界からも注目されている。取材の対応をしてくだったのは、創業者で現在取締役会長を務める杉野文則氏、そして今昔散歩の担当のプロダクトソリューション部三鴨千早部長。
(写真:杉野会長(左)と三鴨部長)
■今昔散歩は10万ダウンロードを超えたそうですが、手ごたえはいかがでしょう?
「今昔散歩」は今年の6月に発売した、東京を中心とした江戸時代・明治時代の地図を、現在の地図と比較して見ることができるiPhoneアプリ(現在無料配信中)ですが、現在16万ダウンロード程度、予測どおりの結果だと思います。
(写真:今昔散歩画面:江戸時代)
当初テレビや雑誌など多数からの取材申し込みがあり、古地図への興味の強さを改めて確認しました。これをすべて受けて利用者が増えると、現状の我々のシステムでは対応できない(笑)と思い、実はほとんどの取材はお断りしたんです。それでもリリース直後に、アップストアのおすすめに紹介されたことで10万ダウンロード超えが出来たのだと思っています。
(写真:今昔散歩画面:明治時代)
古地図に興味を持ったのは、会社の屋台骨でもある「ナビゲーションシステム」の延長として、江戸時代や明治時代の地図で町をナビできたら、さぞかし夢膨らむのではと思ったことからです。
(写真:今昔散歩画面:名所説明)
私どもは、1998年創業以来、JRトラベルナビなどのナビゲーション事業、Yahooテレビガイドなどのクロスメディア事業、ファミレスや居酒屋チェーンなどの店内監視システムを提供するモニタリング事業を、事業の3本柱としています。その中のナビゲーションシステムの延長線上に、この古地図で散歩するということが浮かんだんです。
またこのオフィス周辺(白山から水道橋にかけて)は小石川界隈で、大河ドラマでもおなじみの、徳川家康の菩提寺「傳通院」や千姫の墓があるなど、歴史的にも興味をそそられる場所。日中は、どこもかしこも古地図を持ってあるく老夫婦がウォーキング。だったら古地図でナビができればさらにウォーキングが楽しめると考えました。
■どんなところに工夫を凝らされましたか?
今昔散歩は、東京23区をほぼ完全に古地図で再現させることを目指しました。
どの時代の古地図を使うかについては、大変神経を尖らせました。古地図の専門家の方々と付き合うようになって、彼らの古地図へのこだわりようは半端ではなかったです(笑)。さまざまな議論の末、江戸時代は幕末の「萬延元年(1860年)」のものを採用。現代との位置関係については、明治時代の古地図として採用した、明治40年~42年(1907年~1909年)の頃に作成された、陸軍陸地測量部の実測地図を参考に、ジグソーパズルのようにはめなおしました。これは気の遠くなるような作業でした。でもやればやるほど夢が膨らみ、誰も文句も言わず完成することが出来ました。
(写真:Xiタブレット用江戸地図画面)
(写真:Xiタブレット用明治地図画面)
特に江戸時代の地図については、江戸城周辺の古地図は多々あれど、東京23区すべてを古地図で再現させるのには大変苦労しました。古地図は膨大に残されているのですが、現存する古地図が、それぞれの地区によって年代が違うため、それを並べると例えば同じ大名屋敷があっちこっちに出来てしまうのです。当時、同じ人間が旅をしながら測量して完成させたものでしょうから、測量してゆくうちにそれぞれの地区地図の年代が変わってしまったのでしょう。それを、専門家の方と想像を膨らませて完璧に仕上げました。東京23区を江戸時代の古地図で再現したものとしては、今存在するものの中では、これ以上正しいものはないと自信を持っています。
■思わぬ展開もあったとか・・・
今回の作業は、ある意味、古地図をつなぎ合わせるノウハウの習得にもなっています。古地図に関するうんちくを傾ける方々の多いことも発見でしたし、ここまで興味をそそられる方たちが多いのなら、皆さんにも使っていただけると確信した次第です。
驚いたのは、不動産屋さんに興味を持たれたこと。歴史上の有名人が住んでいた場所などがわかれば、物件に箔を付けられるからでしょう。専用アプリの発注までお願いされたこともあります。
また、昔この場所はお墓だったとか戦場だった、川だったなどの土地の風評についても、今昔散歩の地図を駆使すると、かなり正確に調べられるとあって、専門家からの問い合わせも少なくないです。
■今昔散歩の今後の展開は?
アンドロイド版とiPad版、そしてこれまでのガラケー版など、どれも年内にはリリースできるように鋭意準備中です。(取材後、LTE対応の最新タブレット向け(アンドロイド版)の発表があり10月リリース予定。ipad版、ガラケー版は有料を検討中。)
今回作成するに当たって、せっかくなので古地図データはGIS(地理情報システム(GIS:Geographic Information System))形式で電子化しました。これはカーナビなどで採用されている非常に精度の高いデータ形式です。なので我々だけでは宝の持ち腐れとなる恐れもあったので、API形式で提供が可能になっています。ぜひみなさんの知恵でさらなる歴史探検の幕を開いていただければと思います。
私は私で、夢を持っています。グーグルアースでは、古代ローマの再現を立体画像で実現させていますよね。(リンクを参照)今回のGISデータを使えば、江戸時代を立体で再現できることができます。これはお金と時間がかかる話なので、どなたか協力いただける方いらっしゃいませんか(笑)?また、エリアについても、東京23区を拡張させるとともに、次は京都の古地図の電子化にも着手したいですね。
GISデータで電子化してあるため、地図上の文字や敷地の大きさなども検索できるので、アプリケーションさえ作れば、気になる名前を入力すると、その人物が江戸時代のどこに住んでいたかを検索することができます。また、土地の敷地面積をリスト化して、あるエリアの土地持ちベストテンを表示したりもできます。さらにお墓のデータベース化などもできるので、みなさんの祖先のお墓を検索するなんてこともできるようになりますよ・・・。
さらには、わが社が開発した「スマートプッシュ」機能を使えば、ウォーキングしているだけで、周辺の名所旧跡の情報やデータが携帯端末に取り出せるサービスなども考えられる。もちろんオンラインコミュニティとの連携もできる。サービスの拡張は無限です。ぜひみなさんの知恵と力をお待ちしています。
>今日はお時間をいただきありがとうございました。
■データ収集と世界メディア化が鍵・・・
杉野会長の次から次に出てくるアイデアの多彩さには本当に感心した。彼には、以前勤めていた会社の社内グループウエアを、まだ世の中にノーツやサイボウズのような汎用のものがない時に、自力で仕様を作って制作したという、伝説的な話がある。
とにかくデータ好きなのだ。地図を見れば経路データの収集、テレビを見ればタレントが身に着けてる物データの収集、社内に目を向ければ社内データの収集。まるで「一人グーグル」とでも言いたくなるような人物。googleやfacebookに押され続けるニッポンにも、まだまだ世界に負けない技術やアイデアがある。前回紹介した「セカイカメラ」と同様、「今昔散歩」は地図を媒介にしたソーシャルコミュニティーであることは間違いない。これをどう世界メディア化してゆくか。それは日本のIT業界全体で考える課題なのかもしれない。
(リンク)
■国内初のLTE対応タブレット「GALAXY Tab 10.1」--10月上旬発売
http://japan.cnet.com/mobile/35007160/
■Xiタブレット
http://www.nttdocomo.co.jp/product/2011_xi_tablet/index.html?icid=CRP_PRO_rec1_2011_xi_tablet
■Xiタブレット搭載コンテンツリスト
http://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/2011/09/08_00-1.pdf
■HuLu
http://www.hulu.jp/
■ビーマップ
http://www.bemap.co.jp/
■今昔散歩(アプリ)
http://itunes.apple.com/jp/app/id432292393
■今昔散歩(会社サイト)
http://www.bemap.co.jp/service/konjaku.html
■グーグルアースの古代ローマ再現
http://earth.google.co.jp/rome/index.html