■今回の総裁選での前原氏の発言・・・
民主党の総裁選で野田佳彦財務相(54)氏が代表に選ばれ、30日に行われた首相指名選によって、第95代、62人目の首相に就任した。野田氏に託されたのは、自民公明等との強い協力関係の構築と、東日本大震災復興支援に関する法案の早期成立、そしてさらなる透明性の高い政治運営。自らをどじょうと称し、どじょうはどじょうらしく、泥臭く国民のために汗をかきたいと提言した。
それはさておき、今回の代表演説で印象に残ったのは、国民からの人気が高かったものの、残念ながら代表に選ばれなかった前原誠司前外相が演説で「自分自身が古い皮を脱ぎ捨てる必要がある」と語ったこと。もちろん政治に対する姿勢や行動を悔い改めるという幅広い意味が込められているのだが、彼自身も深く反省をされている偽メール問題は、政治家を一人自殺に追い込むほどの大惨事を引きおこした。
インターネット社会に変わって、生活のあらゆる面で便利になった反面、情報収集のプロセスについて、劇的な変化が起きている。そのこと自体を深く理解し、悔い改めねばならないと、改めて痛感するのである。
■情報環境の劇的な変化を自覚する
偽メール問題と同じレベルで語るわけには行かないのかもしれないが、8月初旬に起きた、嵐の櫻井翔(29)さんが宿泊したとされる、北海道内のホテルの従業員が、ツイッターに「櫻井の使用した部屋」として当時の様子などを書き込んでしまった事件(2011年8月10日)に代表される、有名人のプライベート暴露情報。
方や、チュニジアでの民衆革命(ジャスミン革命)やロンドンで起こった暴動事件など、社会を揺るがすネットでの呼びかけによる社会蜂起も日に日に増え続けている。
我々の身の回りで何が起きているのか。ツイッターやfacebookに日々流れる興味ある情報は、果たして信頼できるのだろうか、はたまた、ネットを使って、自分の見聞きしたことや意見を自由に発言して良いものなのか・・・。
■あなたがメディア・・・
朝日新聞出版より7月末に発売された、米国のメディアジャーナリストのダン・ギルモア氏著「あなたがメディア!ソーシャル時代の情報術」を参考にさせていただくと、「メディアと私たちの関係に劇的な変化が起こっている」、そして「このことを深く理解して、正しい利用法を学ばねばならない」と言う。
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著者のダン・ギルモア氏は、アメリカでは超有名なブロガーであり、長年シリコンバレーの「サンノゼマーキュリーニュース」というニュースサイトでIT系のコラムを担当。ここから数々の特ダネを報道し、2005年にには「ブログ 世界を変える個人メディア」を出版し、世界中で話題になった人物。今回の「あなたがメディア!ソーシャル時代の情報術」では、「情報の激流を舵取りして、見るもの聞くものをきちんと整理できるようになること」を目的とし、誰もが賢くITメディアを使いこなせる「メディアクティブ」にならねばならない、と説いている。
■誤報の拡散も収集も利用者に懸かっている・・・
この本で、彼が最初に持ち出した話題は、3月11日の東日本大震災で、福島県南相馬市の市長・桜井勝延(さくらい かつのぶ)氏が、震災当時の模様を収録した「南相馬市長からのSOS」と題したビデオを、政府やNHKなどの既存メディアに送らず「ユーチューブ」に3月24日にアップしたこと。(彼は、この記事を書き足すために、わざわざ、一度書き終えてから0章として最初に書き加え、出版を遅らせた)桜井市長の行動で、福島の被災状況が全世界に伝わり、ニューヨークタイムズにまで取り上げられることになったと語っている。(本書ではほかにもビンラディン容疑者の射殺報道なども紹介している)
震災の情報においては、被災地で起きた様々な状況が、ツイッターやフェイスブックなどで大量に発信され続けられたおかげで、2005年のスマトラ沖地震での大津波の時とは比べ物にならないほど、専門家も、有益な情報を得られ、細かい分析もできたと言う。
その一方、3月16日の枝野官房長官の会見で「東電の作業員を安全な区域に一時撤退させた」と発言したことも、これまで以上に大手メディアを始めとするネットメディアから大量に発信され、これが海外メディアは誤解し、「東電の作業員が原子炉から撤退・・」と誤報。大パニックを引きおこしそうになったが、結果的には、一般のブロガーなどが撤退の意味や規模を正しく伝えなおして、パニックを食い止めたという。
つまり、ギルモア氏曰く、正しい情報の拡散も、誤報の拡散も日常的に起こりうるのがネットメディアであり、それらを正してゆくのも利用者なのだと・・・。こんな情報メディアはこれまでには考えられなかったというわけだ。つまり我々を取り巻く情報メディアに劇的な変化が起きていること自体を、まずは深く理解するべきだと言う。
■ネットメディアの接し方
ギルモア氏は情報メディアの劇的な変化が起きていることを理解したうえで上手な利用者「メディアクティブ」になるために、5つのルールを紹介している。
(1)まずは、書かれていることを「疑ってみる」
(2)そして信用していいかどうか「自分で判断する」
(3)さらに信用する前に「視野を広げる」
(4)そしてネット以外の場所で「質問をし続ける」
(5)こうして「メディアの手法を学ぶ」・・・そしてようやく信用をする
そして情報を発信する側になったときにも同様に、読者から「いかにして信頼を得るのか」と言う観点から5つのルールを提言している
(1)書くなら「徹底的に」
(2)そして「正確に」
(3)内容は「公平に」
(4)かつ、客観的な立場から「独立して考える」
(5)書いたものについては「透明性を保つ」 すなわち自身で責任を持つ・・
※「」の外は私の補足
■守るべきは「思いやりと尊重」
詳しくは本を読んでいただくとして、誰もが賢くITメディアを使いこなせるようになるためには、結局、我々自身が社会常識や倫理観を高めてゆくことなのだと感じる。インターネットによって急速に普及した情報メディアは、とても便利であると同時に、とても危険なもの。政治家だろうが、既存メディア従事者だろうが、一般ユーザーだろうが、「自ら古い皮を脱ぎ捨て」今まで以上に「社会常識」を身につけてゆく必要があるのではないか。しかしこの「社会常識」とは一体何なのか、法律や規則になくても、誰もが守るべき常識・・・。それは共に社会生活をしている人への「思いやりと尊重」・・・、ITの雰囲気とは真逆の、まさに「泥臭さ」が要求されるのではないか。
リンク
あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術/ダン・ギルモア (著)/朝日新聞出版
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=12838
『あなたがメディア!』第0章と解説、全文公開
http://publications.asahi.com/mediactive/