「ベトナムが面白い、街中が無料のWi-Fiで張り巡らされている」と言って、最近相次いでアーリィアダプターな友人がベトナムに行くので、一体何がベトナムに起きているのかととても気になっていた。本当に街中がWi-Fiで張り巡らされているのか。携帯の普及率が本当に100%を超えているのか。311以降不安な風潮が続く日本に対して、いままさに暑いパワーがみなぎる国がそばにあるのかもしれない・・そんなパワーをもらわねば・・という思いからベトナム出張を決意した。その感触をお伝えする。
■国交正常化してわずか15年
ベトナムは、15年以上に渡るベトナム戦争(1960年~1975年)の後、カンボジア侵略がつい1990年初頭まで続き、1995年に米国との国交正常化になったばかりの国。にもかかわらず、人口は約8900万人。その約70%は30歳以下(平均年齢25歳)というから、ほとんどがベトナム戦争後に生まれた人。それくらいベトナム戦争は悲劇的な戦いだった、でも今は日本に劣らない人材が蠢いているパワフルな国。
だからこそ、国交正常化後わずか15年で信じられない速度で復興したのだ。専門家の話によれば、GDP成長が年率7~8%、教育水準が高く、識字率90%以上、大学および専門学校の卒業生が年間22万人、特にIT技術関連大学の卒業生年間4万人に上り、IT産業の中核を担う国としても注目され始めている。
■ベトナムマーケットは日本に匹敵・・・
国の総面積が33万平方キロメートルというから、日本(36万)の四国が欠けたくらい、8900万人(2010年度)の人口も、2020年には1億人を超えると言われているので、マーケット的に見ても日本と遜色はない。しかしその中で、名目GDP(国民総生産)はおそよ1040億ドル、一人当たりに換算すると年間1174ドル(世界138位、アジア17位)と日本(4万2820ドル)のおよそ40分の1、年間1人あたりおよそ10万円くらしか稼げていない。これは、注目されるASEAN各国の中でも突出して人口が多いことからこうなるのだが、逆に、その多い人口の約70%が30歳以下(若い)という好条件から、注目されている理由になっている。
その証に、ここ数年で、IBM、Intel、富士通、キャノンなど名立たる企業等によるハイテク製品投資額も100億ドルを超え、日本ではサイバーエージェントなどIT企業もベトナムIT系会社に盛んに投資を続けている。
長いこと日本の経済成長を支えてきた中国、台湾、韓国などの人件費が高騰している中、ほかのアジアに注目したとき、インド、タイ、シンガポールなどに比べて、未だ低賃金で委託が可能な、若くてパワフルな技術力に長ける国。それがベトナムなのだということなのだろう。
■スクーターはファッションステータス
ハノイの若者バイクファッション
私はベトナムでも、経済の中心である、首都ハノイに行くことにした。観光地としてはホーチミン(以前の南ベトナム)が賑わっていて、日本での観光ガイドもほとんどはホーチミンを取り扱ったものなのだが、ハノイは、昔のベトナムの雰囲気を未だ持ち続けているということでこちらを優先した。
バイク族たち
1日じゅう市内を駆け巡るけたたましい量のスクーターやバイク。車も増えてきているとは言うが、まだまだ圧倒的なバイク・スクーターの数。それも「ホンダ」が一番人気。ベトナム製バイクはまだ普及していない。日本ではどう見てもひとり乗りしか考えられないスクーターに2人乗りはあたりまえ。多いときは家族らしき4人全員で乗っている。ガソリンスタンドも1日中混んでいる。だからといってガソリン代もばかにならない(リッター1.6万~2万ドン:80円~100円)。一般のサラリーマンの月収が6~800万ドン(3~4万円)なのにガソリン代は日本とそう大して変わらない。それでもみんなバイクに乗る。それが今の流行であり、ステータスなのだと言う。
信号のある交差点はほとんどない。(ハノイの後、ホーチミン市にも寄ったが、ホーチミンでは信号機が相当数機能している)交通事故も多いと聞くが、私の出張中には、接触事故すら見かけなかった。その理由は、速度は控えめ、お互いの譲り合いの精神がまだ残っているから。歩行者も、ちょっとしたすきを狙って道路を渡るのだが、最悪、バイクが来てしまっても、うまくよけてくれる(当たり前の話だが)。
■携帯電話が生活必需品
露天カフェ
目抜き通りは、復興しているとはいえ、昔ながらの露天が並ぶ。日本や欧米スタイルのコンビニやファーストフードショップなども進出を始めてはいるがハノイでは皆無である。それもそのはず、ベトナムフォーを食べさせる露天や、昔ながらの乾物屋のほうが、断然安い。観光用のTシャツやおみやげを売る店に並んで、携帯電話ショップの多さも目立つ。もちろん日用品としてのバイクグッズやバイクに乗るときにかけるサングラスショップの多さにも驚くが、iPhoneやアップルの看板を掲げる携帯ショップが至る所にある。
市内のiPhoneショップ
露天商のおばさんやおじさんが、店の前で、ipadやPCでゲームをする姿も多く見かける。どこでもWi-Fiは噂通りだったのか・・・。現地の事情に詳しい人に聞いたところによれば、現在のインターネット事情は、有線ではADSLが中心。契機となったのは1997年。この年、ダイヤルアップ接続が登場し、IT時代が幕開けた。その6年後には電話回線の空き帯域を活用するADSLが登場。さらに3年後にはいわゆる「光回線」、光ファイバー有線通信網も登場している。携帯電話も2Gが中心。3G回線サービスも始まっているが、まだ普及はしていないそうだ。さてWi-Fiは街中にあるのか・・・。
ハノイの典型的なコンビニ
■Wi-Fiはカフェが普及させている
それは次の話題にヒントが隠されている。戦時中、海外に脱出していた越僑や財閥たちがベトナムに戻り、様々な形で復興を加速させている。中でも成功者の代名詞は、高級なブランドショップが集まる総合ファッションビル「VINCOM CENTER(ヴィンコムセンター)」。(【追記】ベトナムの不動産王と言えば、VINCOM会社の会長であるPham Nhat VuongさんとHoang Anh Gia Lai社の会長Doan Nguyen Ducさん:最後に参考リンク)NYのロックフェラーセンターのように、ベトナム人のステイタスを向上させる場所になっている。ベトナム復興の影には海外からの出戻り投資が鍵を握っているのだ。
ハノイのヴィンコムセンター
ヴィンコムセンターの中
「ハイランドコーヒー」もそんな中のひとつ。日本で言えば「スターバックス」のような高級コーヒーショップ。世界第2位(1位はブラジル)のコーヒー消費大国であるベトナムでは、スタバが入り込む前に自前でこしらえてしまった。一般のサラリーマンの月収が6~800万ドン(3~4万円)、露天でのコーヒー1杯が約5千ドンに対して、ハイランドコーヒーは1杯4万ドン(約200円)。これに見栄っ張りの富裕層が飛びついた。店内に無料のWi-Fiを設置したのもハイランドコーヒーが積極的に行ったそうで、これが客引きのアイデアとして、ほかのカフェでも利用され、街中でWi-Fiサービスが利用出来る環境を加速させているらしい。そうなのだ、Wi-Fiは街中のカフェやホテル、レストランなどが自力で普及させたものなのだ。
ハイランドコーヒー
■親戚の金までかき集めてステータスアップ
現在、ベトナムの若者の3種の神器は「バイク、PC、携帯電話」と言われる。携帯電話もスマホも含め、持ってない若者を探すことは難しい。これらのためだったら出費は惜しまない。自前で調達できない場合は、親戚中からお金をかき集めてなんとするのだそうだ。そして教育。郊外には幼稚園や学校が多数。国民の平均年齢が25歳、人口の約70%が30歳以下ということからして、何としても這い上がりたい若者たちは勉学にも熱心だ。それが識字率90%以上、大学および専門学校の卒業生が年間22万人という数字を裏付けている。
日本で東工大卒業後、サイバーエージェントに勤務の後、ハノイに日本留学の仲間とVTMグループを設立した、Doan Duc Tien(ドン・ダック・ティエン)ジェネラルディレクターに話を伺った。彼の会社は、日本に向けて、主に不動産投資のサポートを行っているが、関連するレストラン開発事業や、お店のホームページ制作からIT系のコマースソリューションの提供、アプリ開発、最近では、中国のレアアースの発掘投資にも着手しているそうだ。彼いわく、マクロ経済的に見て、ベトナムは世界中で最も成長率の高い国になっていると言う。
■IT系産業は買いか?
IT系の会社では、IT系で最も目覚しい発展を遂げているVNGグループの子会社のVinaGame社が、ベトナム初のコマースシステムを開発し、オンラインゲームなどで携帯決済が始まっている。登録者数3500万人(ベトナム人口の半数)。VNGグループにはほかにもZing meなどのSNSも運営している。
また、FPTグループは日本で言うソフトバンクのような会社。プロバイダからネットワークサービスまであらゆるIT分野に進出。最近ではFacebookと業務提携するなど、小会社12社を傘下に、IT、遠隔通信、銀行金融、不動産、教育など幅広い活動をしている。
だが、IT系が急成長するにはまだ時間がかかると言う。今はまだ不動産や輸入産業で直近の収益を拡大するフェーズなのだそうだ。実際不動産バブルはもう始まっている。高級な複合ビルやマンションが次々と建設されている。彼らは、その間に技術を整備し、投資を促進させ、自力の技術産業を定着させるつもりなのだろう。面白いのは、戦後の日本が車や家電などの工業で復興させたのに対し、この様子から推察するに、ベトナムを復興する技術産業は、工業製品ではなく、紛れもなく、IT技術産業だと確信する。世界での競争を考えれば、これから工業製品を作るよりも、IT産業を推進するほうが懸命である。
■情報産業が文化復興を牽引する
中国やインドと比べて40%以下のコストパフォーマンスを誇るベトナム。日本からすれば、様々な業務委託をお願いするには絶好のチャンスになる国。しかし、訪問する前に思っていたほど、すぐにリターンが見込めるほどIT産業はこなれてはいなかった。だが、成長が目覚しいのは確か。
ここで、日本の戦後産業復興の歴史を思い出したい。もちろん、産業が復興を牽引してゆくのは間違いないが、1960年代の日本の3種の神器が「テレビ、洗濯機、冷蔵庫」で、中でも真っ先に普及したのは「テレビ」だった。即ち、文化復興には「情報産業」が先頭なのだ。
■ベトナムのメディアの地殻変動からパワーを授かる・・
すでに携帯電話やiPadなどのタブレットPCは普及を始めている。また衛星チャンネルも、多チャンネル化は浸透し、米中韓など海外の番組やニュースも十分流されている。しかし今の時代、ベトナムの大多数が若者だということを考慮すれば、それはテレビではなく、インターネットであることは間違いない。
実は社会主義共和制を取っているベトナムでは、中国ほどではないものの、インターネットは、まだ情報規制されている。市内のWi-Fiではfacebookなどの一部など閲覧できないものもある。しかしながら、IT技術会社への委託投資もさることながら、リアルな場面で不動産バブルだと言うなら、バーチャルでの不動産、即ち、ネットメディア上の場所取りもアリなのではないか・・・。エンターテインメントコンテンツが社会復興を促進させる。ネットテレビやネットラジオ、私の注目はここにあると確信した。こうなったら、日本で放送と通信の地殻変動をレポートしてる場合でもなく、ベトナムで情報産業の地殻変動を体験するべきなのかもしれない・・・。
(参考)
日本とベトナムのGDP
※GDP:http://ecodb.net/ranking/imf_ngdpd.html
日本
:面積:約36万平方キロメートル
:人口:約1億2700万人
:GDP:5兆4590億ドル(2010年)
:一人当たりGDP:4万2820ドル(世界16位:アジア2位)
:PC普及率:85.9%
:携帯普及率:90.37%
ベトナム
:面積:約33万平方キロメートル
:人口:約8900万人
:GDP:1040億ドル(2009年:924億ドル)
:一人当たりGDP:1174ドル(世界138位:アジア17位:日本の約33分の1)
:PC普及率:10.18%
:携帯普及率:100.56%
VTMグループ
http://vtmgroup.com.vn/?lang=japan
VNGグループ
http://www.vng.com.vn/
ZingMe
http://login.me.zing.vn/
FPTグループ
http://www.bcc-jp.com/member/column/20090505-1242.html
ハイランズカフェ
http://vietnam-coffee1.com/
【追記】
VINCOM会社の会長:Pham Nhat Vuongさん
※Pham Nhat Vuongさんはロシアに留学と資本を集め、10年前からベトナムで不動産開発を専門としてやって来ました。
http://vincom.com.vn/
Hoang Anh Gia Lai社の会長Doan Nguyen Ducさん
※Doan Nguyen Ducさんは最初に家具などの事業で大成功した後、早い段階で不動産に投資し、不動産開発の事業も大成功しています。
http://hagl.com.vn/