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ユーザー・エクスペリエンスとパーベイシブ・アプリケーションの世界

2006/03/31 11:06
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中島聡

Microsoftでチーフアーキテクトを務めた経験を持つUIEvolution CEOの中島聡氏が、「Web 2.0」と呼ばれる新しいネット時代のサービスのあり方や、ライフスタイルの変化について考察します。
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 では、「さまざまなデバイスをネットワークを通じて有機的に結合させ、トータルで見たときのユーザー・エクスペリエンスを向上させる」とは具体的にどんなことなのだろうか?

 ヒントは私達のまわりにたくさんある。「必要は発明の母」とは良く言ったもので、私たちがさまざまなデジタル機器を使う上で、ちょっとでも不便だな、と思うものをメモしておくだけで良いのだ。

・子供を連れてディズニーランドに来た夫婦。デジカメを持った父親が子供の楽しんでいる姿を撮影する。家に帰ってから撮影した写真をパソコンに移す。夫の実家にはパソコンがあるので、メールで送れば良いのだが、妻の実家にはパソコンがないので、プリントしたものを次の週末に持って行くことにする。

・Beatlesが大好きな音楽ファン。Beatlesの曲ならば何でも持っており、全ての曲は彼のiPodに入っている。その彼が週末に友人の車でスキー旅行に行くことになる。ドライブ中に彼のBeatlesコレクションを聞かせてあげたい彼は、友人の車にiPodを繋げたいのだがうまく行かない。しかたがないので、iPodではなくCDを20枚ほどカバンに持って行くことにする。

・ハードディスク付きのDVDレコーダに色々な番組を録画しているのだが、なかなか見る時間がないのでどうしてもたまってしまう。先週末も、どうしても見たい野球の試合を録画しようとしたときにディスクが一杯になっていることに気が付き、しかたが無いのでまだ見ていない連続ドラマを消してスペースを空けた。そういうドラマに限って後で見たくなってレンタルすることになるんだよな、と思いつつ。

 注意して観察すると、この手の「ちょっとした不便なこと」、「パソコンに詳しい人に手伝ってもらえばなんとかなること」が私達のまわりにはたくさんあることが分かる。別の言い方をすれば、「技術的には十分可能になっているが、ユーザー・エクスペリエンスが悪い」のである。

 「ユーザーエクスペリエンスが悪い」状態とは、多くの人にとって「技術の恩恵を受けられない」状態であり、それが使いこなせる人と使いこなせない人の間の大きなギャップを生み出す。それを「使いこなせない人が悪い」「使いこなせない人を教育しよう」と考えるのは大きな間違いで、結局の所ユーザー・エクスペリエンスを向上して誰でも使える様にするのは作る側の責任である。

 しかし、残念なことに今までのような「縦の進化」、「縦割りのもの作り」では、それぞれのデバイスが個別にちゃんと動く様にするだけで精一杯で、横のつながりやトータルで見たユーザー・エクスペリエンスの向上を図る余裕などはないのが現状である(開発費が高すぎる、開発期間が長くなりすぎる)。アップルは例外的に、iTunes+iPod+iTunes Music Storeという組み合わせですばらしいユーザー・エクスペリエンスを提供することに成功したが、他のハードメーカーがなかなか追いつけないのも、経営陣が「ユーザー・エクスペリエンスの重要性」を理解していなかったり、それを向上させるのに十分な開発費や開発期間が与えられなかったりするからである。

 私が「横の進化」―すなわち「今まで特定のデバイスからしかアクセスできなかったアプリケーションやサービスをどんなデバイスからでもアクセス可能にする」こと―を強く推し進めたいのは、このトータルでのユーザー・エクスペリエンスを向上させたいからである。

 今まで個別のデバイスごとに何千万、何億円という開発費をかけて作っていた組み込み型のアプリケーションを、デバイスに依存しないインタラクティブなウェブ・アプリケーションとして作ることにより、複数のデバイスからさまざまなアプリケーションやコンテンツにアクセスが可能になる。そうすれば、単に開発費を抑えられるだけではなく、結果的にトータルのユーザー・エクスペリエンスを向上させることができる。それが私の目指している、パーベイシブ・アプリケーションの世界である。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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