「ムーアの法則」によるハードウェアの進化のもたらすものを、(WindowsやOfficeのように)「より多くの機能を詰め込む」という方向に活用する方向性を「縦の進化」と呼ぶとすると、私の目指している「アプリケーションやサービスをより多くのデバイスを通してユーザーに届ける」という進化の方向性は「横の進化」と呼ぶことができる。
「縦の進化」の目指すところは「より豊富な機能」や「より高度な機能」であり、そこに要求される技術力は、「ハードウェアの能力を極限まで引き出す」力である。2Dを3Dにする、静止画を動画にする、一秒あたりのフレーム数を増やす、ハイリゾにする、などなどである。それの目指すものは、ソフトウェアのアップグレードであり、ハードウェアの買い替えである。
こんな形の「縦の進化」は、パソコン以外の世界にも見られる。高機能化するゲーム端末、ハードディスクまで搭載し始めた携帯電話、どんどん大きくなるテレビ。それぞれのデバイスが、互換性や横のつながりを全く無視して、独自の進化をし続ける。これも消費者が付いてきてくれているうちは良いのだが、ある時点でそれは「進化のための進化」となってしまい、消費者のニーズを超えて進化し続け、ある時点で増大する開発費をささえ切れなくなる。
一方、「横の進化」の目指すところは、「今まで特定のデバイスからしかアクセスできなかったアプリケーションやサービスをどんなデバイスからでもアクセス可能にする」ことである。そこに要求される技術力は、「ウェブ・アプリケーションをあらゆるデバイスに届けるためのプラットフォーム」そのものであり、かつ、そのプラットフォームを「できるだけ低コストであらゆるデバイスに移植して行く」力である。それの目指すところは、売り切り型ビジネスからサービスビジネスへの転換である。
「横の進化」において重視されるべきものは、「それぞれの個々のハードウェアの力を極限までに引き出す」ことではない。重視すべきは、「さまざまなデバイスをネットワークを通じて有機的に結合させ、トータルで見たときのユーザー・エクスペリエンスを向上させる」ことにある。ユーザーが、いつでも、どこでも、どんな環境にいても、そのシーンに最も適したデバイスを通じて、必要とするアプリケーションやサービスにアクセス可能にすること、それが「横の進化」の目指すところである。