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大・離陸期に突入するアフリカ・・・(前編)

2011/05/07 23:30
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プロフィール

村上敬亮

長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 資源エネルギー庁の村上敬亮氏が、ITやエネルギー、様々な角度から、日本の発展のための課題や可能性について語ります。
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アフリカに行ってきた。今年12月に南アで開かれるCOP17に備え、様々な準備を行うのが訪問の直接の目的だった。しかし、このプロセスを通じて、むしろ、アフリカ経済の可能性の大きさを感じるにようになった。


震災後の大切な時期に、若干とまどう面もあるが、海外展開を強化せざるを得ない日本にとって、今まさに、アフリカは再度戦略を検討すべき時期にいるのではないか。自分が感じたところを少し紹介してみたい。


 


1.アフリカ経済の急成長


 


(1) 急速に進む成長


 


アフリカ経済が急成長している。2000年以降の資源価格の急騰を一つの引き金に、それまで2%台だった成長率は約5%を記録。今や地域別で見れば、アジアを越え、世界で最も成長している地域となった。


原油価格の動向とサブサハラ(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)諸国のGDPの動向は、きれいに連動している。その成長の原動力の一つが、資源産業にあるのは間違いない。


特に、この2~3年、中国を中心に、サブサハラ諸国への海外からの直接投資が急増している。アフリカ諸国のGDPの占める直接投資の比率は、高かった時期の中国より更に高い。今、まさに、アフリカ経済は、大きく目覚めようとしている。


 


(2) 成長のドライブ


 


成長の核は、資源産業である。ダイヤモンド、銀、銅などはもとより、電池の生産には欠かせないレアメタルなど、アフリカには豊富な鉱物資源が存在する。その鉱物資源が、アフリカ経済に世界中から資金を呼び込んでいるのは確かだ。そして、資源価格の急騰が、2000年以降のアフリカの成長率をぐっと押し上げている。


 


かつてアフリカ経済といえば、欧州であり、中でもフランスが圧倒的な強さを誇った。しかし、今、アフリカ経済を支えているのは中国だ。


日本を抜き、世界のもの作り工場となった中国は、未だに生産性が日本の4倍悪く、様々な資源を爆食している。それ故に資源価格も急騰を続けているが、皮肉なことに、そのおかげで、アフリカ経済は大きく成長するきっかけをつかんだ。また、それ故に中国は、尋常ならざる資金と人材をアフリカに投下し、もの作り大国化の基礎を支えるアフリカ資源の確保を急いでいる状況にある。両者は、相互に不可欠な依存関係を作り上げつつある。


加えて言えば、中国の貢献は、今や、資源分野や無償援助などの分野にとどまらない。


例えば、エチオピアの通信ネットワークの整備をまるごと請け負っているのは、中国企業だ。アフリカ諸国にとって、国内の通信ネットワークの全国整備は悲願の一つ。しかし、ビジネス環境の難しさ、法整備の遅れ、そして何より資金調達の難しさなどから、困難に遭遇してきた国が多い。


エチオピアで活躍するZTEは、中国ナンバーワンの通信機器メーカだが、その受注には政府の力も大きく影響した。第一に、受注のきっかけは、2006年に行われた第三回中国アフリカ協力フォーラムのトップ外交だった。実際、受注の発表もこの会議の最中に行われている。第二に、総額100億ドルといわれる事業資金を、中国の国歌開発銀行が即決したのが、受注の決め手になっている。彼らは言う。世銀や欧米のお金に必要な手続きは、待っていられない。そればかりでない。ZTEは、これを絶対的に失敗できない国家的プロジェクトと位置づけ、豊富に存在する大学卒のエリートエンジニアを、惜しみなくアフリカの山奥に派遣。カネも人も徹底して投じ、エチオピアの通信のネットワークの整備に打ち込んでいる。


これだけしてもらえば、当然、アフリカの地域・経済社会の中国に対する印象も大きく変わるだろう。


 


(3) 進む消費爆発


 


アフリカ経済の成長を、資源産業だけで説明するわけにはいかない。アフリカ経済では、ことに最近、一般消費者による消費爆発が始まっている。


実際、サブサハラ地域における2008年のGDP成長に占める消費の寄与度は、約6割を占めており、数字の上では資源産業の寄与度、25%より高い貢献を示している。この消費の成長に対する寄与度は、この瞬間、日本はもとより、中産階級の形成が進むアジア諸国よりも高くなっている。


アフリカ諸国の主要都市のどこに行っても、ビル街がたちはじめ、車の渋滞が起き、テレビやパソコンは飛ぶように売れはじめている。例えば、奥地に住むマサイ族は、今や8割方の世帯で携帯電話をもっているという。最貧層といわれる都会のスラム街の中でも、テレビと日本のアニメは着々と浸透をはじめている。


アフリカの人口約9億人。このうちサブサハラの各地には、南アの流通企業、Shopriteの経営するスーパーマーケットモールが浸透し、先進国の中産階級と大きく違わないライフスタイルを過ごす人が、急速に増え始めている。2020年には14億人と見込まれるアフリカ市場が、今、まさに、大きな消費市場として立ち上がろうとしている。


 


2.ビジネスモデルの最先端を行くアフリカ


 


内紛も多いアフリカで、こんなに経済が成長している原動力は、産業界だ。しかも、政府が弱体であるが故に、逆に、究極の「小さな政府」の実験場のようになっている。まさに、これまでにないビジネスモデルが、アフリカ発で、次から次へと試されているようだ。


例えば、世界最先端のモバイルファイナンスがケニアで始まっているのは有名な話だ。今、サブサハラ諸国には、M-PESAと呼ばれる携帯電話による送金インフラが大きく拡がりはじめている。


後述するように、アフリカ経済は、急速に成長する都市部と、人口の急増も相まってますますその生産性の低下に悩む農村部とのギャップの広がりに苦しんでいる。日本にもまして、農村部の空洞化は急速に進行しており、若者は、都市部へと出稼ぎに繰り出している。


このため、アフリカには、膨大な送金需要がある。いわば、マイクロファイナンスの最先端市場だ。その柱を支えるのがM-PESAである。送金のための決済情報を、セキュリティ付きで携帯電話で送付。その決済情報をローカルの支店やATMに持ち込むと換金できる仕組みだ。しかも、その換金のスピードも、以前と比べ格段に早い。


更にビジネスモデルの進歩が進んでいる。開始当初は、無利子の送金サービスだったが、最近は、利子も付く、M-KESHOサービスへと変化を遂げつつある。ユーザにとって好ましいのはもとより、銀行側にもメリットがある。というのも支店・ATMのキャッシュフローの改善に貢献するからだ。


農村部では、どうしても現金化を急ぐ傾向があり、ややもするとプチ取り付け騒ぎのような事態に陥りがちになる。しかし、銀行側としては、ローカルでの現金の確保は時間もコストもかかることから、出来るだけ現金の用意は必要最低限に抑えたい。そこで利子が付くというインセンティブを付けることで、不要な引き出しを抑制する効果を得ているという。


こうしたビジネスの開拓が円滑に進む背景には、国民IDの多様な形での利用や、通信事業や金融事業に対する過剰な規制・審査プロセスが無いことが貢献している。そもそも、国際的な規制の現状や内容について、産業界の方が詳しい。



奥地に住むマサイ族を取材したNHKスペシャルによれば、マサイ族の女性のほとんどが携帯を持っていたという。農業生産性の低下により都会に出稼ぎに行く夫。家族の絆を何より大事にするマサイにとって、携帯でいつでもつながることは、都会と農村で離ればなれの生活をスタートさせる大きな口実になる。


一度に送金される金額は、せいぜい500円程度。だが、多少の手数料込みでも、その現金なしでは成立しないマサイ族にとって、家族の絆と送金を支える携帯電話は、何より大切な「牛」を売り払ってでも必要なツール。そこから広がる新たなIT市場の可能性は、まさに、「ITマサイ族」の出現を予測させる。


 


3.開拓の進むBOPビジネス


 


マサイ族のどこに携帯を買うお金があるのだろうか。テレビや娯楽設備が貧しい農村部にも普及しているというが、そのためのお金はどこから出てくるのだろうか。


実は、日本企業にも大きな成功事例がある。それは、味の素だ。日本のような豊かになってしまった国の食生活では、オリジナルの「味の素」自体は、卒業してしまっていることが多い。日本でも、味の素という商品自体が熱狂的に普及したのは、高度成長期の話である。しかし、貧しい国は違う。中でも、労働と生活の両方を支え、食材にも乏しいアフリカの女性にとって、味の素は、日々の生活の救いの神だ。貧しい国ほど、味の素は受ける。味の素という会社は、自社の製品の特質を知り抜いている。


むろん、値段は、超スモールパックにして、日本円で25銭程度に押さえる。大きな瓶にしたら売れるような値段はつけられない。しかし、今や、アフリカの味の素の工場はフル稼働。作れば作っただけ売れる状態にあり、大変な収益源に育っている。新たな国での工場の建設計画も着々と進んでいるという。


一見、逆説的な表現だが、安くて良いものは先進国にしか作れない。技術もなければ生産性も低い途上国では、高くて悪いものしか作れない。その安くて良いものを、先進国が更に思い切って1/5の値段で出してみる。そうすると5倍以上の市場が帰ってくる。これがBOPビジネスの醍醐味だ。


 


もちろん、流通網の整備から、不安定な政治故の様々なトラブルなど、いわば自身で公共的な部分まで引き受けざるを得ない。そのビジネス投資には、特に当初、大きな困難を伴う。特に雇用環境は厳しい。賃金が飛び抜けて安いわけでもなければ、治安の問題など様々な課題が残る。しかし、それを乗り越えた企業については、例外なく、アフリカは大きな収益源となっている。何より、こうした課題故に、今ならまだ、ライバルも少ない。


この分野でも、中国が大きなライバルだ。例えば、カップ麺はアフリカでも津々浦々まで普及している。現在、アフリカ向けカップ麺の開発を現地と共同で進めるニッシンの最大のライバルは、自分がその製法を伝授した、中国のカップ麺事業者だ。しかし、この分野の識者は言う。味の違いは必ずわかる。ある一定の価格差までおえさ込めば、中国製品に対して、美味しい日本製品は必ず勝てると。


 


BOPビジネスでの成功モデルの開拓が進むのはインドだ。インドでは、例えば、月収3万円(年収30万円)のクラスにもPCの普及が進む。住む家の広さは、60㎡程度。そこに、きれいなキッチン、冷蔵庫にテレビが並ぶ。収入のうち4割が食費を中心とした固定費。2割が居住費。ある家庭の場合、その残り4割のうち8割方は子供の教育費に回し、残る3000円弱を一年程度積み立てて、PCを買うのだという。


確かにその計算で行けば、1万5千円前後で売られるテレビや冷蔵庫も、十分に買える。値段は半分以下、1/3以下だとしても、売れる量のポテンシャルは、日本国内の3倍は優に超える。


実は、年収が1~3万円の最貧層のクラス、すなわち、一日1ドルで生活している層にも、定価1万円前後のテレビとバイクの普及が進んでいるという。アフリカ経済のケースについては、実証データがまだ無いが、インド市場でこうなっているとすれば、アフリカでも、南ア発のスーパーマーケット、Shopriteを通じて、家電製品などが飛ぶように売れているという説明に納得がいく。


国内で縮小の進む数十万円のテレビ市場のパイの奪い合いに血眼になっている横で、未開拓の9億人の市場が、今、大きく目覚めようとしているのだ。


 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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